のんきな男爵令嬢

神無ノア

文字の大きさ
上 下
32 / 99
婚約者とマイヤ

披露目夜会は、非常識の塊

しおりを挟む

 披露目夜会は、かなり憂鬱である。何せ、王国の大使まで来るというのだ。

 誰だっけ? というのが本音だ。何せ中央とほとんど接点がない。
「俺が知ってるから大丈夫だよ」
 出来れば頼りたくないんです、という言葉は飲み込み、ありがたく頼りにすることにした。
「あとは、お頭が空っぽな国王と王妃が来ますが、挨拶だけしてあとは無視していただいて構わないわ。わたくしがみっちりと躾て差し上げますから」
 うふふふと笑うが、マイヤは公爵夫婦の後ろにどんな魔獣よりも怖いものを見た気がした。

 どうしてこのようにできた人物である公爵夫妻が、どうして地位を追われたのかが疑問ではあるが。
「数の暴力と、権力の暴力ですわ。だって、負け戦の尻拭いもあって忙しかったですし」
 さすが、夫人。マイヤとてポーカーフェイスのつもりではあるが、まだまだのようである。
「あなたが義娘になるのは大歓迎ですわ。こんな馬鹿なことが終わったら、我が領地へ観光、、へいらっしゃい」
「ありがとう存じます」
 観光、、で済むはずがない。どこに梃入れできるかを、女性目線で一緒に見ようということだと取った。そして。
「時間が空きましたら、我がアベスカ男爵領へもいらしていただきた……」
「ふふふ。言質はいただいたわ。聞いた? わたくし、あなたよりも先に視察が出来そうだわ」
 してやられた。そちらが目的だったらしい。

 己がまだまだだと思い知らされた、マイヤだった。


 夜会は帝都にある公爵邸で行われる。

 招待客への挨拶は、滞りなく進んだ。もちろん、国王夫妻やその取り巻きを除いてだが。
 招待時間を過ぎても、というか一時間以上過ぎても、子爵位すら来ないとはどういうことなのか。
「呆れてものも言えませんわね。時間すら分からないほど衰えたのかしら?」
 わざとらしく聞こえるように言う夫人とそれに同調する公爵。
 すぐに空気が凍りついた。

 どうせならと、食事が出来るようあっさりと整える、公爵夫妻。さすが手際がいい。
「毎度のことですからね。今日でなくては駄目だと、王家から言われたというのに、どういうことかしらね」
 そう言ったのは、とある女伯爵だった。あの断罪を見ていた人物らしく、「結婚は懲り懲り」なのだそうだ。公爵夫人の周りには女傑が集まるようだと、マイヤは思った。

 その中に、ヴァルッテリや公爵がマイヤを入れているとはつゆ知らず、のんきに同じ年頃の令嬢と話し込んでいた。


「きちんと社交出来るんだ」
「お前ね。曲がりなりにも男爵令じょ……」
「デビュタントの夜会から、一切社交をしていないと聞いていたからさ」
 デビュタントの年齢は十三歳。つまり五年間は一切社交をしていないというのをヴァルッテリがほのめかすと、公爵が驚いていた。
「教育だけはしっかりとなされたということだろう。ああやって、流行りから、時事ネタまで話せる女性というのは珍しい」
「数日しか帝都にいないなんて思えないよな」
「あ、訂正。話しているんじゃない、聞いているだけだ。上手いな」
 エヴェリーナ|が喜びそうだという公爵に、ヴァルッテリはため息をついた。
「あれでさ、冒険者ギルドと商業ギルドに加盟してるんだから驚きだ」
「いい伝手が出来そうだ」
 にやりと笑う公爵ちちに、もっとマイヤとの話し合いの時間を取ろうと決心するヴァルッテリだった。

 開始から三時間後、やっと国王の取り巻きである子爵がやって来た。

 それから数時間かけて国王たちも来て、紹介が終わるなり、さっさと国王夫妻とその取り巻きは帰った。
 ……色々とマナー違反である、というのは社交にとんと疎いマイヤにも分かることだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
やっとヴァルッテリのママン、名前出てきました。エヴェリーナさんです。ちなみに、パパンの名前は未定です(ヲイw)
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】新人機動隊員と弁当屋のお姉さん。あるいは失われた五年間の話

古都まとい
ライト文芸
【第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作】  食べることは生きること。食べるために生きているといっても過言ではない新人機動隊員、加藤将太巡査は寮の共用キッチンを使えないことから夕食難民となる。  コンビニ弁当やスーパーの惣菜で飢えをしのいでいたある日、空きビルの一階に弁当屋がオープンしているのを発見する。そこは若い女店主が一人で切り盛りする、こぢんまりとした温かな店だった。  将太は弁当屋へ通いつめるうちに女店主へ惹かれはじめ、女店主も将太を常連以上の存在として意識しはじめる。  しかし暑い夏の盛り、警察本部長の妻子が殺害されたことから日常は一変する。彼女にはなにか、秘密があるようで――。 ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...