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婚約者とマイヤ
披露目夜会は、非常識の塊
しおりを挟む披露目夜会は、かなり憂鬱である。何せ、王国の大使まで来るというのだ。
誰だっけ? というのが本音だ。何せ中央とほとんど接点がない。
「俺が知ってるから大丈夫だよ」
出来れば頼りたくないんです、という言葉は飲み込み、ありがたく頼りにすることにした。
「あとは、お頭が空っぽな国王と王妃が来ますが、挨拶だけしてあとは無視していただいて構わないわ。わたくしがみっちりと躾て差し上げますから」
うふふふと笑うが、マイヤは公爵夫婦の後ろにどんな魔獣よりも怖いものを見た気がした。
どうしてこのようにできた人物である公爵夫妻が、どうして地位を追われたのかが疑問ではあるが。
「数の暴力と、権力の暴力ですわ。だって、負け戦の尻拭いもあって忙しかったですし」
さすが、夫人。マイヤとてポーカーフェイスのつもりではあるが、まだまだのようである。
「あなたが義娘になるのは大歓迎ですわ。こんな馬鹿なことが終わったら、我が領地へ観光へいらっしゃい」
「ありがとう存じます」
観光で済むはずがない。どこに梃入れできるかを、女性目線で一緒に見ようということだと取った。そして。
「時間が空きましたら、我がアベスカ男爵領へもいらしていただきた……」
「ふふふ。言質はいただいたわ。聞いた? わたくし、あなたよりも先に視察が出来そうだわ」
してやられた。そちらが目的だったらしい。
己がまだまだだと思い知らされた、マイヤだった。
夜会は帝都にある公爵邸で行われる。
招待客への挨拶は、滞りなく進んだ。もちろん、国王夫妻やその取り巻きを除いてだが。
招待時間を過ぎても、というか一時間以上過ぎても、子爵位すら来ないとはどういうことなのか。
「呆れてものも言えませんわね。時間すら分からないほど衰えたのかしら?」
わざとらしく聞こえるように言う夫人とそれに同調する公爵。
すぐに空気が凍りついた。
どうせならと、食事が出来るようあっさりと整える、公爵夫妻。さすが手際がいい。
「毎度のことですからね。今日でなくては駄目だと、王家から言われたというのに、どういうことかしらね」
そう言ったのは、とある女伯爵だった。あの断罪を見ていた人物らしく、「結婚は懲り懲り」なのだそうだ。公爵夫人の周りには女傑が集まるようだと、マイヤは思った。
その中に、ヴァルッテリや公爵がマイヤを入れているとはつゆ知らず、のんきに同じ年頃の令嬢と話し込んでいた。
「きちんと社交出来るんだ」
「お前ね。曲がりなりにも男爵令じょ……」
「デビュタントの夜会から、一切社交をしていないと聞いていたからさ」
デビュタントの年齢は十三歳。つまり五年間は一切社交をしていないというのをヴァルッテリがほのめかすと、公爵が驚いていた。
「教育だけはしっかりとなされたということだろう。ああやって、流行りから、時事ネタまで話せる女性というのは珍しい」
「数日しか帝都にいないなんて思えないよな」
「あ、訂正。話しているんじゃない、聞いているだけだ。上手いな」
妻|が喜びそうだという公爵に、ヴァルッテリはため息をついた。
「あれでさ、冒険者ギルドと商業ギルドに加盟してるんだから驚きだ」
「いい伝手が出来そうだ」
にやりと笑う公爵に、もっとマイヤとの話し合いの時間を取ろうと決心するヴァルッテリだった。
開始から三時間後、やっと国王の取り巻きである子爵がやって来た。
それから数時間かけて国王たちも来て、紹介が終わるなり、さっさと国王夫妻とその取り巻きは帰った。
……色々とマナー違反である、というのは社交にとんと疎いマイヤにも分かることだった。
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やっとヴァルッテリのママン、名前出てきました。エヴェリーナさんです。ちなみに、パパンの名前は未定です(ヲイw)
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