のんきな男爵令嬢

神無ノア

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婚約者とマイヤ

アベスカ男爵領名物……?

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 マイヤの故郷、アベスカ男爵領では「転生者、異世界転移者大歓迎」という制度をとっている、と一部では思われがちだが、実際は違う。
 転生者も異世界転移者も「現在の制度に対して攻撃的すぎない、身分制度をしっかりと理解させる。この世界にとって不利益を被るものは却下」という政策を打ち出している。もちろん、その人物が変な思想に染まっていないことが最重要だ。そういった人物はお断り願っている。
「なるほどね。下手に隠すよりも給金がいい。そうなればしっかりと話すと」
「そうですわね。その中に『おとめげーむ』だったか『うえぶしょうせつ』とかに詳しい方が時折おりますの。きちんと説明すれば害意のない方は理解してくださいます。理解しないのは、お断りしておりますわ」
 そうなれば、どこにも行けなくなる場合もあるというのを、知っている者もいるが。

 大半がありがたいことに、様々なことを教えてくれる。それが無ければアベスカ男爵領はやっと借金を返し終わったばかりくらいだったはずだ。それは、祖父も父も認めている。
「ちなみに、一番身近な転生者は?」
「セヴァトでしたわ。セヴァトスラフという名前で、先代の執事、晩年は男爵家の家令を務め上げた人物でした」
 そして、ダニエルとマイヤという父娘の教師でもあった。

 前世では教員という職種に就いていた、セヴァトスラフは、教え方が大変にうまかった。頑張りすぎて「かろうし」とやらで死んでしまったそうだが、知らない知識を貪欲に覚える男でもあった。
 そんなセヴァトスラフが「岩塩は出来るだけ領内で使います。他領から仕入れるなどもってのほか。薬草で卸すよりも薬で卸しましょう。その方が高く売れるはずです。調合師がいない? だったら育てればいいでしょう」と様々な政策を打ち出してくれたが、実際は約五十年かけてゆっくりと浸透させたものが多い。性急に打ち出した政策は作物を効率よく作る方法と、領内の衛生面だけだった。
 それが実を結び、セヴァトスラフの偉業が知らされ、政策に「こういう利益がある」と周囲に分かってもらったうえで、ゆっくりと推し進めている。
 現在も進行中であり、セヴァトスラフが導こうとした領地までは程遠い。

 それでもいい、それがいいのだとセヴァトスラフは言った。「急に変化をしてしまえば、民衆に不安をもたらす。のんびりと進めていけばいいのですよ」と。
 それをダニエルもマイヤも忠実に守っている。

「マイヤ?」
「失礼いたしました。セヴァトの言葉を思い出しておりましたの」
「羨ましいね」
「祖父にほだされたと、セヴァトは言っておりましたわ」
 少しでも民の生活をよくしたいと、動いていた祖父を殴ってでも止めていた。「動きすぎて身体壊してからでは遅すぎます」と、実感が籠っていた。
「殴って……って。えっと、アベスカ男爵領の名物なのかな? 執事が男爵を殴るのって」
「あれは父が失言をしたからですわ。祖父の場合とは違いますわ」
「どっちでも一緒だよ」
 失言と執務のし過ぎは大きな違いがある、とマイヤは食って掛かった。
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