26 / 99
婚約者とマイヤ
公爵との対談2
しおりを挟む事の次第を話す前に、リーディアの侍医として来訪してもらったにもかかわらず、そのまま男爵家のお抱え医師となった老齢の男を紹介することにした。
「ここは人材の宝庫かね」
公爵がぼやいていた。
「私と父で口説き落としました」
ダニエルが恥ずかしそうに言う。
「男爵様たちの薬に対する真摯な姿と雇用条件が来るきっかけでしたな」
楽し気に、お抱え医師のヘイノが答えていた。
「いやはや、帝国からどれくらいの人材がこちらに流れて……」
「ほっほっほっ。なに私と侍女長をやっとりますレカ、あと数人ほどですよ。先代、当代の男爵様にもよくしていただいております」
「して、雇用条件は如何なものかな」
「何、年間帝国金貨で二枚に、後進の育成に力を入れさせてもらうこと、それから新しい医学を他国からも取り入れてもらうことでしたな」
愕然とする公爵親子の話から、帝国でお抱え医師を雇うとなると、最低で月金貨二枚ということだった。
「代わりに衣食住は男爵様に持っていただいておりますしな。医院に来る子供たちを見るのが老いぼれの楽しみですわ」
現在、メインのお抱え医師はヘイノの弟子、マルコだ。こちらもヘイノに指示を仰ぎたく、帝国からわざわざ一年かけてやって来た変わり者だ。そして、ヘイノはマルコの腕を高く評価している。
これからやろうとしていることを、ヘイノとマルコに伝えれば、ものすごく呆れられた。
「お嬢様、発想は大変よろしいのですが、あすこは頭の固い老害どもの巣窟でしてな。簡単に出来ぬのですよ」
「ですが……」
「蔑む馬鹿はどこにでもおりましょう。この領地が例外なのですぞ」
そうすることで、他者より優位に立ちたい。それを変えねば、変わらぬままだと。
爵位があるものは、平民を蔑み、平民は貧しいものを蔑む。その中で最下層にいるのが、帝国と王国双方の血をひいた者なのだ。
みな平等に、というのは難しい。能力で優劣をつければ、それによるヒエラルキーを生むのだ。
だからといって、手をこまねいているという選択肢は、マイヤには存在しない。今まで、どれくらいの他人に助けられてきたか。それをマイヤが返す番なのだ。
「お嬢様がそこまで言うなら、止めませぬぞ。さて、私も遅い里帰りでもいたしますかの」
ついでに、薬売買ガイドラインをあちらにも制定させてみせる、とヘイノは意気込んでいた。
「当家には既に侍医がおるため雇えぬが、町医者として当領地に開業なさるといい。準備資金はこちらで出す。ついでに帝都にいる、マイヤ嬢が目を付けた人材も引き取っていくか」
あっけらかんとして、公爵がのたまった。
「まぁ、素敵ですわね。ぜひ移住する際の金銭も立て替えていただければと思いますわ」
「勿論だ。その分、作った薬から少しずつ差し引くとしよう」
「ありがとう存じます」
「ちょっ……二人で話を決めない! 私も男爵も話について行っていないじゃないか!!」
公爵とマイヤの会話に、ヴァルッテリが割って入った。
「うん、いいんじゃないかな」
ダニエルがぼそりと呟いた。
「ちょっ……ガイドラインなんて外に出していいものなんですか!?」
「ほっほっほっ。常々すべての国にこのガイドラインが渡ればと思っておりましたしの」
「男爵領は別件で優位に立てばいいだけだからね。今からそれを探しても遅くないし、性病予防薬も特効薬も当領地でしか今のところ作れない。」
性病の薬もそのうちいろんなところで作れるように、と笑うヘイノとダニエルに、ヴァルッテリががっくりとうなだれた。
「ねぇ、性病関係の薬って秘匿されているんじゃなかったの」
「秘匿はされておりますわ。初心者が手を出すと爆発しますから」
のほほんと言うマイヤに、公爵親子は「どんだけ危険な薬だ!?」という突っ込みを入れることすらできなかったという。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
突っ込み入れましょうよ(笑)
0
お気に入りに追加
913
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる