のんきな男爵令嬢

神無ノア

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婚約者とマイヤ

公爵との対談2

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 事の次第を話す前に、リーディアの侍医として来訪してもらったにもかかわらず、そのまま男爵家のお抱え医師となった老齢の男を紹介することにした。
「ここは人材の宝庫かね」
 公爵がぼやいていた。
「私と父で口説き落としました」
 ダニエルが恥ずかしそうに言う。
「男爵様たちの薬に対する真摯な姿と雇用条件が来るきっかけでしたな」
 楽し気に、お抱え医師のヘイノが答えていた。
「いやはや、帝国からどれくらいの人材がこちらに流れて……」
「ほっほっほっ。なに私と侍女長をやっとりますレカ、あと数人ほどですよ。先代、当代の男爵様にもよくしていただいております」
「して、雇用条件は如何なものかな」
「何、年間帝国金貨で二枚に、後進の育成に力を入れさせてもらうこと、それから新しい医学を他国からも取り入れてもらうことでしたな」
 愕然とする公爵親子の話から、帝国でお抱え医師を雇うとなると、最低で月金貨二枚ということだった。
「代わりに衣食住は男爵様に持っていただいておりますしな。医院に来る子供たちを見るのが老いぼれの楽しみですわ」
 現在、メインのお抱え医師はヘイノの弟子、マルコだ。こちらもヘイノに指示を仰ぎたく、帝国からわざわざ一年かけてやって来た変わり者だ。そして、ヘイノはマルコの腕を高く評価している。

 これからやろうとしていることを、ヘイノとマルコに伝えれば、ものすごく呆れられた。
「お嬢様、発想は大変よろしいのですが、あすこは頭の固い老害どもの巣窟でしてな。簡単に出来ぬのですよ」
「ですが……」
「蔑む馬鹿はどこにでもおりましょう。この領地が例外なのですぞ」
 そうすることで、他者より優位に立ちたい。それを変えねば、変わらぬままだと。
 爵位があるものは、平民を蔑み、平民は貧しいものを蔑む。その中で最下層にいるのが、帝国と王国双方の血をひいた者なのだ。

 みな平等に、というのは難しい。能力で優劣をつければ、それによるヒエラルキーを生むのだ。
 だからといって、手をこまねいているという選択肢は、マイヤには存在しない。今まで、どれくらいの他人ひとに助けられてきたか。それをマイヤが返す番なのだ。
「お嬢様がそこまで言うなら、止めませぬぞ。さて、私も遅い里帰りでもいたしますかの」
 ついでに、薬売買ガイドラインをあちらにも制定させてみせる、とヘイノは意気込んでいた。
「当家には既に侍医がおるため雇えぬが、町医者として当領地に開業なさるといい。準備資金はこちらで出す。ついでに帝都にいる、マイヤ嬢が目を付けた人材も引き取っていくか」
 あっけらかんとして、公爵がのたまった。
「まぁ、素敵ですわね。ぜひ移住する際の金銭も立て替えていただければと思いますわ」
「勿論だ。その分、作った薬から少しずつ差し引くとしよう」
「ありがとう存じます」
「ちょっ……二人で話を決めない! 私も男爵も話について行っていないじゃないか!!」
 公爵とマイヤの会話に、ヴァルッテリが割って入った。
「うん、いいんじゃないかな」
 ダニエルがぼそりと呟いた。
「ちょっ……ガイドラインなんて外に出していいものなんですか!?」
「ほっほっほっ。常々すべての国にこのガイドラインが渡ればと思っておりましたしの」
「男爵領は別件で優位に立てばいいだけだからね。今からそれを探しても遅くないし、性病予防薬も特効薬も当領地でしか今のところ作れない。」
 性病の薬もそのうちいろんなところで作れるように、と笑うヘイノとダニエルに、ヴァルッテリががっくりとうなだれた。
「ねぇ、性病関係の薬って秘匿されているんじゃなかったの」
「秘匿はされておりますわ。初心者が手を出すと爆発しますから」
 のほほんと言うマイヤに、公爵親子は「どんだけ危険な薬だ!?」という突っ込みを入れることすらできなかったという。


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突っ込み入れましょうよ(笑)
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