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婚約者とマイヤ
公爵との対談1
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父親同士話がしたいという、公爵をダニエルに任せてマイヤたちは再度街に降り立っていた。
もちろん、薬草の納品は忘れない。
「マタタビ草の群生って近くにありましたっけ」
そうギルド支部で言う受付嬢にマイヤは微笑む。
「たまたま見つけましたの。すべて採取しましたので問題はないかと」
「ならいいんですが」
受付嬢は不服そうに言う。周囲を見れば、マタタビ草のことはこの受付嬢しか知らなかったらしい。つまりは、間者の可能性が高いということだ。
楽しくなる、思わずマイヤはほくそ笑んだ。
その流れのまま、マイヤの専属お針子がいる仕立て屋へと向かった。
にこりと微笑んで店主がお辞儀した。
「専属たちへ話はついております」
マイヤ専属の二人が「帝都へ連れて行ってください」と懇願してきた。
「だって、流行の発信地ですよ! ここに流れてくるまでどれくらい時間がかかると」
「お嬢様が王都に行かないからなおさら、男爵領は流行に疎いですから!」
熱心なようで何より。他の帝都へ向かえない者の理由が「家庭」だった。母子家庭であったり、夫がこの地で兵士をやっていたり。そちらは悔しそうにしていた。
「様々な体制を整えなくてはいけませんから、毎月どうにかして連絡を取れるようにする予定ですの。その時にあちらの流行の品を持ってくるとしましょう」
わっとお針子たちが喜んでいた。
他の場所へもその情報が流れることで、街はなおのこと賑やかになるはずだ。
「検閲いれるよ」
ヴァルッテリの言葉に何を当たり前のことを、と呆れてしまったのは許してほしいところである。
その後も孤児院やら、露店を含めた店を見せて回り、帰路についた。
まさか、まだ公爵がいるとは思いもしなかったが。
「うむ。色々聞いたが、まず驚いたのは、リーディア嬢が離縁していたということだな」
あっさりと公爵が言う。王家まで「リーディアは離縁している証拠がない」とされていた。
「……それ以上に驚いたのが、離縁していなかったというのを喜ぶ使用人だが」
「父が唯一望んだ婚姻だったそうですから」
性格は難がありすぎた女性だったが。
「それも聞いておる。……私が知っているかの女性は大変に我侭でな」
公爵が遠い目をしていた。おそらくダニエルの惚気に呆れたのだろうが。
「あとは薬の件だな。質の良い薬を作るための指針が色々と決まっていると」
「えぇ。帝国でもわたくしと同じ『混血児』に同じ指針で作らせようと思っておりますの」
「あなたのしてきたことは誇るべきことなのだが。それにそうやって忌み嫌う輩に無能が多すぎだ」
なんとも、物騒な言葉をいただいてしまったと思うマイヤだった。
「当家の使用人にもそのようなことを言う愚か者がいるとヴァルッテリから聞いたが、そちらは現在調べている最中だ」
「……はぁ」
マイヤとしては、それを理由に破棄したかったのだが。
「お嬢さん、あなたの母上のような人物でない限り破棄はしない。安心してくれ」
安心できんわ! という言葉は何とか飲み込んだ。
「こちらとしては、お嬢さんとの婚約は願ったりかなったりだよ。今時、父親の執務を手伝い、質素倹約に務めながらも領民に仕事を割り振る令嬢などどこを探してもいないからね。化粧と流行ばかりを追い求めて、玉の輿を狙うお頭の空っぽな令嬢ばかりだからね」
帝国だろうが王国だろうが、そのあたりは変わらないといったところか。
「ですがわたくしは一人娘です。この領地を守る義務がありますわ」
「そのあたりは父上からも許可を貰っているよ。ヴァルッテリに頼んでこちらにしょっちゅう移転してくるといい。マイヤ嬢とヴァルッテリの間に第二子が産まれたら、そちらがアベスカ男爵領の跡取りにする」
公爵の言葉を聞いたマイヤが、ダニエルを睨んでしまっても仕方がない。破棄させるために話し合ったんじゃなかったのかと。
「産まれるまでは、ヴァルッテリとマイヤ嬢が執務代行をするといい。その代りに、我が公爵領へ直接薬を納入してくれれば問題ない」
さすが帝国の公爵。己の利益もしっかり分捕っている。
「なんだったら、マイヤ嬢が現在帝国で梃入れしている調合師の育成を公爵領でやろう。あ、帝都にいる人たちにもしっかりとその仕事を割り振ってくれ。ただ、王族や馬鹿な貴族どもの横やりがはいりやすいが」
「そのあたりは、頼んだ者たちに聞いてみますわ。どちらにしても使い捨てではありませんので、通常の勤務体系でお願いいたしますわ」
「調合師は個人でやるものだろう?」
一部雇用して薬を作らせているのは男爵領だけだという事実を、忘れていたマイヤだった。
もちろん、薬草の納品は忘れない。
「マタタビ草の群生って近くにありましたっけ」
そうギルド支部で言う受付嬢にマイヤは微笑む。
「たまたま見つけましたの。すべて採取しましたので問題はないかと」
「ならいいんですが」
受付嬢は不服そうに言う。周囲を見れば、マタタビ草のことはこの受付嬢しか知らなかったらしい。つまりは、間者の可能性が高いということだ。
楽しくなる、思わずマイヤはほくそ笑んだ。
その流れのまま、マイヤの専属お針子がいる仕立て屋へと向かった。
にこりと微笑んで店主がお辞儀した。
「専属たちへ話はついております」
マイヤ専属の二人が「帝都へ連れて行ってください」と懇願してきた。
「だって、流行の発信地ですよ! ここに流れてくるまでどれくらい時間がかかると」
「お嬢様が王都に行かないからなおさら、男爵領は流行に疎いですから!」
熱心なようで何より。他の帝都へ向かえない者の理由が「家庭」だった。母子家庭であったり、夫がこの地で兵士をやっていたり。そちらは悔しそうにしていた。
「様々な体制を整えなくてはいけませんから、毎月どうにかして連絡を取れるようにする予定ですの。その時にあちらの流行の品を持ってくるとしましょう」
わっとお針子たちが喜んでいた。
他の場所へもその情報が流れることで、街はなおのこと賑やかになるはずだ。
「検閲いれるよ」
ヴァルッテリの言葉に何を当たり前のことを、と呆れてしまったのは許してほしいところである。
その後も孤児院やら、露店を含めた店を見せて回り、帰路についた。
まさか、まだ公爵がいるとは思いもしなかったが。
「うむ。色々聞いたが、まず驚いたのは、リーディア嬢が離縁していたということだな」
あっさりと公爵が言う。王家まで「リーディアは離縁している証拠がない」とされていた。
「……それ以上に驚いたのが、離縁していなかったというのを喜ぶ使用人だが」
「父が唯一望んだ婚姻だったそうですから」
性格は難がありすぎた女性だったが。
「それも聞いておる。……私が知っているかの女性は大変に我侭でな」
公爵が遠い目をしていた。おそらくダニエルの惚気に呆れたのだろうが。
「あとは薬の件だな。質の良い薬を作るための指針が色々と決まっていると」
「えぇ。帝国でもわたくしと同じ『混血児』に同じ指針で作らせようと思っておりますの」
「あなたのしてきたことは誇るべきことなのだが。それにそうやって忌み嫌う輩に無能が多すぎだ」
なんとも、物騒な言葉をいただいてしまったと思うマイヤだった。
「当家の使用人にもそのようなことを言う愚か者がいるとヴァルッテリから聞いたが、そちらは現在調べている最中だ」
「……はぁ」
マイヤとしては、それを理由に破棄したかったのだが。
「お嬢さん、あなたの母上のような人物でない限り破棄はしない。安心してくれ」
安心できんわ! という言葉は何とか飲み込んだ。
「こちらとしては、お嬢さんとの婚約は願ったりかなったりだよ。今時、父親の執務を手伝い、質素倹約に務めながらも領民に仕事を割り振る令嬢などどこを探してもいないからね。化粧と流行ばかりを追い求めて、玉の輿を狙うお頭の空っぽな令嬢ばかりだからね」
帝国だろうが王国だろうが、そのあたりは変わらないといったところか。
「ですがわたくしは一人娘です。この領地を守る義務がありますわ」
「そのあたりは父上からも許可を貰っているよ。ヴァルッテリに頼んでこちらにしょっちゅう移転してくるといい。マイヤ嬢とヴァルッテリの間に第二子が産まれたら、そちらがアベスカ男爵領の跡取りにする」
公爵の言葉を聞いたマイヤが、ダニエルを睨んでしまっても仕方がない。破棄させるために話し合ったんじゃなかったのかと。
「産まれるまでは、ヴァルッテリとマイヤ嬢が執務代行をするといい。その代りに、我が公爵領へ直接薬を納入してくれれば問題ない」
さすが帝国の公爵。己の利益もしっかり分捕っている。
「なんだったら、マイヤ嬢が現在帝国で梃入れしている調合師の育成を公爵領でやろう。あ、帝都にいる人たちにもしっかりとその仕事を割り振ってくれ。ただ、王族や馬鹿な貴族どもの横やりがはいりやすいが」
「そのあたりは、頼んだ者たちに聞いてみますわ。どちらにしても使い捨てではありませんので、通常の勤務体系でお願いいたしますわ」
「調合師は個人でやるものだろう?」
一部雇用して薬を作らせているのは男爵領だけだという事実を、忘れていたマイヤだった。
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