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婚約者とマイヤ
ミスリルの腕輪1
しおりを挟むとりあえずは髪を隠してもらい、町を案内していく。
「活気があるね」
「ないと困りますわね。活気がないと消費に繋がりませんし」
金が回らなければ、町は潤わない。町を潤すため、領地を潤すためにマイヤ達は必死なのだ。
「それは……分かるけど、なんというか、やけくそ?」
ヴァルッテリの言葉に、マイヤも、近くにいた領民も笑い出した。
「お偉いさんは言うことが違うなぁ。税金で持っていかれるくらいなら、使っちまったほうがましさ。お嬢たちが貯蓄面では色々頑張ってくれてるからさ」
貯蓄関連も祖父の代から続けている政策だ。作物の備蓄も忘れてはならない。だからといってため込みすぎるのも悪循環に陥る。この匙加減が難しい。
そこまで思い出して、ふと疑問になった。
「……そういえば、わたくしやお父様が始めた政策ってありませんのね」
「え!?」
「大旦那様が規格外だっただけでさぁ。でなきゃ、十年でそれまであった借金返済して、この領地を豊かになって出来やしねぇ」
「そうそう。識字率? だっけ、あれを一躍王国内で有数にしたりねぇ」
「薬を売り出すだけで儲けを出すとか」
「岩塩を地産地消? で外に出さないとか」
驚くヴァルッテリを尻目に、町の住民たちが楽しそうに言い出した。
「ひょっとして、先代領主は……」
「祖父は転生者ではありませんわよ。領内の住民も今の半分以下でしたので、他で爪はじきにされていた転生者やら、異端児と呼ばれる方々を領地に呼びはしましたけど」
グラーマル王国やローゼンダール帝国があるこの大陸において、「転生者、異世界転移者」とは「すべてを混乱に導く者」と同義語なのだ。
「大旦那様の座右の銘は『金がないなら頭と体を使え。悩むのはそれから』でしたっけ?」
レカが楽しそうに話に入って来た。
「あとは、セヴァト様の言葉『立ってるものは領主だろうが、魔獣だろうがこき使え』でしたっけ」
ぼそりと呟くガイア。
その言葉通り、一部魔獣は領地の守護についている。報酬は間引きした魔獣の肉だ。
「……えっと」
「要は逆転の発想だそうですの。人手が足りないのなら、他で補えばいいと」
「普通、魔獣を手懐けるなんてしないからね!!」
ヴァルッテリの言葉に、町の住民が大爆笑した。それが「当り前」な男爵家にとって、ヴァルッテリの言葉のほうが「摩訶不思議」なのだ。
町を軽く案内したところで、マイヤはわざと人気のないところにヴァルッテリを連れてきた。
「……いかがでしたか? 領都とはいえ、見た感想は」
「帝都以上の活気で驚いたよ」
「ヴァルッテリ様のおっしゃる通り、皆やけくそですから」
マイヤはにこりと微笑んだ。
そして
「ヴァルッテリ様、いきなりこちらに来ましたけれど、誰にも申し送りをしなくて大丈夫でしたの?」
そう、ヴァルッテリは従者二人を連れて男爵領へ再度来た。そして、その従者たちは一向に帝国に戻らない。
「……大丈夫だよ。この腕輪が俺の居場所を両親と陛下に伝えているから」
見事なミスリル細工の腕輪を見せて、ヴァルッテリが呟いた。
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