のんきな男爵令嬢

神無ノア

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婚約者とマイヤ

マイヤVSヴァルッテリ

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 ヴァルッテリの顔から表情が抜けた。従者として十年以上。初めて見る顔だった。
「ウルヤナ。私は言ったはずだね。今回のことに私情を挟むなと」
「挟んでなどっ!」
「……そうかい。なら二度と同じことを口にするな」
「しかしっ!」
「態度に現れれば同じだ。お前の置かれた境遇もある、すぐに変えれるとは思えない。マイヤが絡む場合はいかなる時もお前を従者から廃する」
「ヴァルッテリ様!!」
 怒れるヴァルッテリを前に、ウルヤナはただマイヤを恨んだ。

 ぱん、手を叩く音が聞こえた。
「どうして悪手ばかり取られるのでしょう? わたくしよりもお年を召した方だと伺っていましたのに」
「……マイヤ、私がものすごく年を食ってると?」
「あら、違いまして? 昨夜聞いた話だと三十過ぎとのこと。わたくしは十八。つまりは十二ほど、最低でも離れておりますのよ」
 わざと相手の痛いところを突く。さっさと出てって欲しいというのがマイヤの意見だ。
「じゃあ、その年上のいうことを聞いて一度屋敷に戻ろうか。マイヤの持ち物の件も……」
「あるとお思いで?」
「……」
 マイヤの言葉にウルヤナもキョトンとした後に、慌てふためいていた。
「ウルヤナさんの方が気づくのが早かったようですわね。女性に恥をかかせる殿方は嫌われましてよ」
 そう、急に連れてこられたため、準備などなっていない。たとえ半年前から王命が下っていたとしても、荷物を持ってくるのは無理だったのだ。
「……ごめん?」
「どうして疑問形なのです? どちらにしても昨日今日で用意できるものではありませんし」
「それはマイヤのせい?」
「さぁ、どうでしょう。わたくしは基本動きやすい服装しかしませんので」
 マイヤ自身は庶民の服大歓迎! である。それどころかマイヤの愛洋服は、冒険者が着る、いわゆる「パンツルック」である。
「お嬢さん、いったい何者よ」
「あら、店主。先ほどから何度も申し上げておりましてよ。グラーマル王国アベスカ男爵の一人娘、マイヤ・アベスカですわ」
 ここぞとばかりに、マイヤは優雅に立って、令嬢用挨拶をして見せる。
「お嬢さんが着るもんじゃねぇだろうが!! 冒険者用服はっ!」
 店主がヴァルッテリたちの言葉も代弁していた。

 ……が。
「だって、薬草取りに行くのにドレスは無理でしょう? アベスカ男爵領の質のいい薬草はかなり険しいところにあるのですもの」
「そういう問題じゃないっ!!」
 規格外すぎる言葉にヴァルッテリまでもが大声をあげた。

「それよりもっ! 当家でマイヤを侮辱したのは誰!?」
 ヴァルッテリの言葉に、マイヤは指をさす。

 その先にいたのは……。
 ウルヤナではなく、ヴァルッテリだった。

 マイヤの笑みはものすごく怖かったと、店主はのちに述懐している。
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