のんきな男爵令嬢

神無ノア

文字の大きさ
上 下
12 / 99
婚約者とマイヤ

店にいる人間にしてもらうこと

しおりを挟む

「グラーマルにいた頃からアベスカ男爵領の話は聞いてたんだけどよ」
 ここの店主らしき男が頭を下げながら言う。
 それもそのはず。花を売る人ほど、アベスカ男爵領の世話になる。性病に関する薬はアベスカ男爵領でしか売っていないからだ。このあたりも祖父の政策が生きている。
「ここにいる奴らは、アベスカ男爵領に行く金がなくて、ローゼンダール帝国なら何とかなると思ってきた奴らだ。……結局は何も変わらなかったけどな」
 店主が店を開けたのは、母親が大店の娘だったからだという。手切れ金代わりだ。だったら、もの持ち込みで料理を作ればいい。そこから出来上がった店だという。

 グラーマル王国伝統の煮込み料理を、キッチンにいた男が持って来た。
「初めて食べますわ」
「やっぱり庶民の料理か」
 料理人が軽蔑したような声色で言った。
「いいえ。アベスカ男爵領ではこれを食しませんの。二代前に持ち直すまで、国一貧しい領地でしたもの。食べて薬草と年老いて死んだ家畜をじっくり煮込んだものでしたし」
 今でもよく食される。理由は、国一税収が高いからだ。アベスカ男爵領に限り、収入の約八割が国へ税収として持っていかれる。薬草や、領地特産の薬を売った金、ダニエルの収入で何とか持っているようなものである。
「うっわぁ」
 さすがにその倍にいた客たちがドン引きしていた。
「ですから、使用人は必要最低限しかおりませんわ。お給金も払わずに雇うなんて出来ないでしょう?」
「……グラーマル王国の貴族で初めてまともな人見た!!」
 失礼な。雇用を生み出すというのも大変なのだ。色々と対策を練り、雇用を生み出しているのが実情だったりする。

「あ、そうそう。この中に調合スキルを持った方はいらして?」
 誰一人手をあげない。
「まずもって、誰一人鑑定スキル持ってねぇんだわ。で、だいぶ前に有用なスキル持ってるやつらは徴集されちまったよ。そいつらは俺らを見下して近寄ろうとしねぇ」
「あらまぁ」
 この中でまとめ役となっている店主の言葉に、マイヤは呆れた。
「わたくしは採取スキルがあるので、採取してきた薬草を使って薬を作っていただこうかと思っていただけですわ。なければないで、数名に覚えていただきます」
「なっ!?」
「スキル保持者よりも、レベルの上りは遅いですが、使えます。出来れば料理人の方と、手先が器用な方で。教師はベレッカがいたします」
 ベレッカは恐ろしいほどに他者の得意分野を見つける。だからといって鑑定スキルがあるわけでもなく、本当に「勘」なのだそうだ。
そんなベレッカが選んだのは、店主と料理人の二人だった。
「ちょとまて! 俺らはスキル……」
「スキルなどあればいい、それくらいですわよ」
 スキルは産まれながらに持っている場合と、付与されることで持つ場合の二種類でしか保持できないとされている。
それを覆したのはアベスカ男爵領のとある男だ。

 もう一つの方法、特に門外不出というわけでもないが、好んでやりたいと思う輩は少ないだろう。
「スキル保持者の倍以上頑張れば、疑似スキルを取得できますわ。それを覚えていただきます」
「ば……倍以上」
 店主の顔から血の気が引いていた。
 疑似スキルをきちんとしたスキルにすることも可能だが、そちらはもっと面倒くさい。だから、今はあえて言わない。
「やっていただくしかないんですの。出来た薬はわたくしが責任もって買い取りますわ」
 作ってもらうのは、性病に効く薬だ。いくらマイヤの命令で作らせたとしても「粗悪品」を市場に流通させるわけにはいかない。

 低レベルではあったが、採取スキルを持った客人に取って来る薬草を指示する。中には毒草もあるので要注意だ。
「お嬢様」
 ガイアが耳打ちする。

 どうやら、ヴァルッテリがマイヤを探しているらしい。
「どうせですから、さり気なく、、、、、ここへ誘導してちょうだい。ここを侮蔑するようであれば、どんな手段を用いてでも婚約は破棄しますから」
「お嬢様、あまり男前なことをおっしゃらないでくださいな。分かりました」
 さて、ヴァルッテリが来るまでに色々済ませておかなくては。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...