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領地育成計画?
閑話:国王
しおりを挟むローゼンダール帝国王室において、一番の厄介者はオヤヤルヴィ公爵家だ。現公爵は国王の兄であり、その子息だけが白亜色の髪に紫紺の瞳なのだ。
余談だが、国王は紫紺色の瞳ではない。末弟だけが紫紺の瞳を持っていた。それゆえ、リーディアの婚約者となったのだ。
優秀な兄、ローゼンダール帝国王家の瞳を持つ弟。それに囲まれたせいか、王は卑屈になりすぎた。
弟は他国に出した。残るは兄だけ。その兄の子供は紫紺の瞳どころか、白亜色の髪まで持っていた。己の子供に誰一人として紫紺の瞳はいないのに。あれほど魔力の強い子供はいないのに。何故だ。
「陛下、こちらにサインを」
オヤヤルヴィ公爵が、書類を持って己の所を訪れた。いつも無視しているのだが、どうやってか、サインを貰っていつも帰っている。「そのようなものは知らない」と言っても、玉璽に王のサイン。己の取り巻きたちの言い分も通らない。
何故だ。何故だ。
「陛下、王家の財源が底をつきそうですよ。散財はほどほどに」
「喧しい!!」
弟だからと見下して、贈り物の一つも持ってこないくせに。
「それから、我が領地に数多の密偵が入り込んでいるようですね。おいたが……」
「私に王位を奪われたくせに、口出しするな!!」
その瞬間、オヤヤルヴィ公爵の顔に嘲りが浮かんだ。
「陛下。密偵の話を遮ったということは、我が領地に密偵を送り込んだと言っているようなものです。義父が喜んで対応に回るそうです。苦しまない程度の拷問はなさるようですよ」
宰相閣下の所から来た密偵には、マイヤの苦しみ分くらいは。あっさりと言う。
宰相までもが密偵を? 王国から出す故、宰相の所からは出さなくていいと言っておいたはずだ。
「どうやっても知りたいでしょうね、あなたも宰相も、そして王妃陛下も」
「な!?」
「義娘が転生者かどうか、知りたいのでしょう? 秘匿でもございませんのでお伝えしておきます。転生者ではないですよ。以前アベスカ領に転生者がいらしたそうで、その時の手記を利用してやっていらっしゃるそうです。
おかげで、我が公爵領も以前にもまして潤うようになりましたよ」
「異端だ!!」
「ですから、アベスカ家は異端ではありません。神殿の教えにある『移転者・異世界人・転生者』どれにも当てはまりませんから」
「だがっ!」
「これで国家転覆や、聖獣密猟などの疑いがあるのなら、神殿や聖国でも動けるでしょうが、無理でしょうね」
「何故そう言い切れる!?」
「おや、ご存じない? 『グラーマル王国で聖獣を見たくば、アベスカ男爵領へ行け』と言われているのですよ。私も義娘を迎えにアベスカ男爵領へ行ったついでに、視察させていただきましたが、あちらこちらにスレイプホッグ様がくつろいでいらっしゃいましたよ」
「ふざけるなっ!!」
「ふざけておりません。アベスカ男爵家は昔より、聖獣様を大事になさる土地柄だとか。『食べるものに困った時には、スレイブホッグ様が食のありかを教えてくださる』という言い伝えがグラーマル王国建国以前から言われていらっしゃる土地だそうですから」
そんな莫迦なことがあり得るはずがない。聖獣は気まぐれで、すぐに姿を消す。
「現実を見ろ、シャス」
古い愛称で、兄が己を戒めた。
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