のんきな男爵令嬢

神無ノア

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調合師教育計画

鬼と名言

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 集落では皆が慌てふためいた。
「お嬢が倒れた!!」
「病気か!? 暗殺か!?」
 何故暗殺がくる、という突っ込みは誰もしない。それどころかあり得るとまで言い出す始末。

 診断された内容が過労を伴った風邪とくれば、全員がまずは一安心した。
……のだが。
「お嬢ってそこまで働いてたっけ?」
 皆に采配を振るうことの多いマイヤ。動いているのをそこまで見かけていない。
「動いていなくとも過労にはなりますぞい。しかもお嬢様は研究書を仕上げるのに寝食を惜しんでいらっしゃった模様。
 まったく、昔から変わりませんな」
 ヘイノが呆れていた。

 それを聞いた住民たちの大半は。
 己たちの文盲がマイヤを倒れさせたことに罪悪感を持ち、学問所へ通う頻度を高めるのだが。

 それはそれでマイヤの仕事が増えるだなど知るはずもなく。
「平和ですわねぇ」
 一人マイヤがのんきに呟いていた。


「お嬢様、いったいどこが平和なのか教えていただきたい所存です」
 その呟きを拾ったベレッカが食らいつくというところまで様式美なようで、マイヤはしれっと顔をそむけた。
「だって、こうやってゆっくり横になって療養できるんですもの、平和でしょう」
「過労で倒れるところに、平和を感じろと?」
 ぐごごご、とベレッカの顔が近づいてくる。やだ、怖い。

「お嬢様は、私どもに休みを取らせてご自身がお仕事なさっているから問題なんです! お嬢様の代わりは誰も出来ないんですよ! もう少しご自愛下さませ!」
「代わりはいると思う……ごめんなさい、気をつけます」
 マイヤの中では住民たちの代わりはいない。マイヤの代わりなぞいくらでもいるという感覚だ。

 当然、住民たちから見ればその感覚は逆である。マイヤの代わりは誰も出来ない。

「強いて申し上げるなら、双方とも代わりはいない。そうセヴァトスラフ様がおっしゃっておりました。皆様もお忘れなく」
 にこりと笑うものの有無を言わさぬベレッカに、マイヤも住民もこくこくと頷いた。


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多分怒らせると怖いのは、王太后陛下と公爵夫人、それからベレッカ
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