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新しいトモダチ
代用品を求めて
しおりを挟む「使われなくなった寺を改築なさったとか」
茶が運ばれてくるなり、アントニーが訊ねた。
「はい。マリル本島はそれなりに賑やかですが、どうしてもこういった小さな島は、過疎化が進んでまして。ただ、この島は恵まれます。私たちが拠点を置いたことで、住民が戻ってきましたし、名月クエストでそれなりに職人が訪れますから」
ふむ、と周囲を見渡していたクィーンが頷いた。
「して、この畳と火鉢は?」
「元々あったものを改良しました。ここは本堂だったようですので、島の住民が集まるにはもってこいですから。もう少し小さな部屋には囲炉裏も置いてあります」
その写真を見せていく。
「悪くないですな」
アントニーが呟いた。
「ふむ。確かにの。して、囲炉裏の薪と火鉢の炭はいかがしておる?」
「マリル諸島の法律で年間に木を伐採できる量というのは限られてます。しかもここは寒暖の差が激しい地域。炭の代わりにススキッスとアサミタイの繊維を特殊錬金であわせ、アサミタイから取れる油で固めます。現物をご覧になりますか」
「そうさせていただくか。……お主ら! 正座を既に崩すとは、たるんでおるぞ!!」
クィーンが「カエルム」のメンバーに喝を入れていた。
「まぁまぁ。落ち着いてください。カナリアさん、そういえばお土産を渡していないのでは?」
「そうでした! おばばさんにも好評だったお団子です。先日のクエストであまった『白玉の元』でセバスチャンが作ってみました」
そう言ってカナリアが鞄から団子を出してきた。
「クエストとは違う作り方をしてみました。……石臼の実験もかねていたんですけど」
「……こ、これは!!」
「神社仏閣を愛する会」メンバー全員がその団子に釘付けになった。
カナリアが出した団子は、草団子、餡団子、みたらし団子、そして胡桃団子だった。
「ギルマス! やはり団子とお茶は鉄板の組み合わせです!」
シンが嬉しそうに食べていた。
「しかもクエストで作るものと違って、団子の舌触りが」
タクも涙を流しそうな勢いで食べている。
そのまま使うと、ざらりとした舌触りが気になる団子だったが、これは違う。カーティスも黙々と食べる方に集中してしまった。
その間に、クィーンとアントニーは炭の代用品を触れたり、エリに頼んで囲炉裏を見せてもらったりしていた。
「……ふむ。この造りでしたら、問題ないのでは?」
「確かにの。ただ畳の目が粗いの」
「それに関してはー、マリル諸島で使っている畳を参考にしたからですー。縁をつけただけで長持ちするようになったって、島では感謝されてますー」
「左様か。して、材料は?」
「ススキッスですー。ここはともかく、他の島では頻繁に刈り取ってくれというクエストが入りますからー」
ここに来て再度、エリは二人に茶を振舞った。先程は飲む暇もなかったはずだ。
「……先程も思いましたが、これは?」
「マリル諸島のとある島でしか取れない植物ですー。皆『緑茶っぽい』ということで好んで飲んでますー」
アントニーの言葉に、エリは当たり前のように返す。その島に買い付けに行くのはいつもマモルだ。
「ちょっと失礼。少しばかり私に淹れさせてもらっていいかな?」
「どうぞー」
この周辺の島々に頼んで作ってもらった茶器を利用して、アントニーが丁寧に淹れていく。
「エリさんだったかな? どうぞ」
クィーンとエリにアントニーは淹れたての茶を渡してきた。
「!! 美味しー。今までのお茶と違いますー」
「うん。おそらく紅茶と同じように淹れているのかなと思ってね。これは玉露を淹れる時のやり方でね」
そこまで言うと、アントニーはクィーンに向き直った。
「これならば石臼次第では何とかお薄くらいならいけると思いますが」
「……そうじゃの。しかし今ある石臼ではなんともならんの」
一体この人たちは何がしたくて、ここまで来たのか分からない。
「私たちも戻りますから、あちらでお茶の淹れなおしをしましょうか」
「いいんですかー?」
「構いませんよ。美味しいもので幸せになれるのでしたら、お安いものです」
その言葉に、エリは少しだけ引っかかりを覚えた。
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緑茶用の葉を石臼等で細かくすると、自宅でも即席抹茶が楽しめるそうです。
色々調べましたが、色々ありました。
セラミック製のものもでてましたので、お手入れも楽かと思います。
煎茶などで飲むよりも、お茶の栄養分が取れるそうですよ。
ちなみに、玉露は鉄瓶で淹れないほうがいいそうです。
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