初心者がVRMMOをやります(仮)

神無ノア

文字の大きさ
上 下
143 / 147
新しいトモダチ

代用品を求めて

しおりを挟む

「使われなくなった寺を改築なさったとか」
 茶が運ばれてくるなり、アントニーが訊ねた。
「はい。マリル本島はそれなりに賑やかですが、どうしてもこういった小さな島は、過疎化が進んでまして。ただ、この島は恵まれます。私たちが拠点を置いたことで、住民が戻ってきましたし、名月クエストでそれなりに職人が訪れますから」
 ふむ、と周囲を見渡していたクィーンが頷いた。
「して、この畳と火鉢は?」
「元々あったものを改良しました。ここは本堂だったようですので、島の住民が集まるにはもってこいですから。もう少し小さな部屋には囲炉裏も置いてあります」
 その写真を見せていく。
「悪くないですな」
 アントニーが呟いた。
「ふむ。確かにの。して、囲炉裏の薪と火鉢の炭はいかがしておる?」
「マリル諸島の法律で年間に木を伐採できる量というのは限られてます。しかもここは寒暖の差が激しい地域。炭の代わりにススキッスとアサミタイの繊維を特殊錬金であわせ、アサミタイから取れる油で固めます。現物をご覧になりますか」
「そうさせていただくか。……お主ら! 正座を既に崩すとは、たるんでおるぞ!!」
 クィーンが「カエルム」のメンバーに喝を入れていた。
「まぁまぁ。落ち着いてください。カナリアさん、そういえばお土産を渡していないのでは?」
「そうでした! おばばさんにも好評だったお団子です。先日のクエストであまった『白玉の元』でセバスチャンが作ってみました」
 そう言ってカナリアが鞄から団子を出してきた。
「クエストとは違う作り方をしてみました。……石臼の実験もかねていたんですけど」
「……こ、これは!!」
「神社仏閣を愛する会」メンバー全員がその団子に釘付けになった。

 カナリアが出した団子は、草団子、餡団子、みたらし団子、そして胡桃団子だった。
「ギルマス! やはり団子とお茶は鉄板の組み合わせです!」
 シンが嬉しそうに食べていた。
「しかもクエストで作るものと違って、団子の舌触りが」
 タクも涙を流しそうな勢いで食べている。
 そのまま使うと、ざらりとした舌触りが気になる団子だったが、これは違う。カーティスも黙々と食べる方に集中してしまった。

 その間に、クィーンとアントニーは炭の代用品を触れたり、エリに頼んで囲炉裏を見せてもらったりしていた。
「……ふむ。この造りでしたら、問題ないのでは?」
「確かにの。ただ畳の目が粗いの」
「それに関してはー、マリル諸島で使っている畳を参考にしたからですー。縁をつけただけで長持ちするようになったって、島では感謝されてますー」
「左様か。して、材料は?」
「ススキッスですー。ここはともかく、他の島では頻繁に刈り取ってくれというクエストが入りますからー」
 ここに来て再度、エリは二人に茶を振舞った。先程は飲む暇もなかったはずだ。
「……先程も思いましたが、これは?」
「マリル諸島のとある島でしか取れない植物ですー。皆『緑茶っぽい』ということで好んで飲んでますー」
 アントニーの言葉に、エリは当たり前のように返す。その島に買い付けに行くのはいつもマモルだ。
「ちょっと失礼。少しばかり私に淹れさせてもらっていいかな?」
「どうぞー」
 この周辺の島々に頼んで作ってもらった茶器を利用して、アントニーが丁寧に淹れていく。
「エリさんだったかな? どうぞ」
 クィーンとエリにアントニーは淹れたての茶を渡してきた。
「!! 美味しー。今までのお茶と違いますー」
「うん。おそらく紅茶と同じように淹れているのかなと思ってね。これは玉露を淹れる時のやり方でね」
 そこまで言うと、アントニーはクィーンに向き直った。
「これならば石臼次第では何とかお薄くらいならいけると思いますが」
「……そうじゃの。しかし今ある石臼ではなんともならんの」
 一体この人たちは何がしたくて、ここまで来たのか分からない。
「私たちも戻りますから、あちらでお茶の淹れなおしをしましょうか」
「いいんですかー?」
「構いませんよ。美味しいもので幸せになれるのでしたら、お安いものです」
 その言葉に、エリは少しだけ引っかかりを覚えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

緑茶用の葉を石臼等で細かくすると、自宅でも即席抹茶が楽しめるそうです。
色々調べましたが、色々ありました。
セラミック製のものもでてましたので、お手入れも楽かと思います。
煎茶などで飲むよりも、お茶の栄養分が取れるそうですよ。

ちなみに、玉露は鉄瓶で淹れないほうがいいそうです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

素直になる魔法薬を飲まされて

青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。 王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。 「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」 「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」 わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。 婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。 小説家になろうにも投稿しています。

転生リンゴは破滅のフラグを退ける

古森真朝
ファンタジー
 ある日突然事故死してしまった高校生・千夏。しかし、たまたまその場面を見ていた超お人好しの女神・イズーナに『命の林檎』をもらい、半精霊ティナとして異世界で人生を再スタートさせることになった。  今度こそは平和に長生きして、自分の好きなこといっぱいするんだ! ――と、心に誓ってスローライフを満喫していたのだが。ツノの生えたウサギを見つけたのを皮切りに、それを追ってきたエルフ族、そのエルフと張り合うレンジャー、さらに北の王国で囁かれる妙なウワサと、身の回りではトラブルがひっきりなし。  何とか事態を軟着陸させ、平穏な暮らしを取り戻すべく――ティナの『フラグ粉砕作戦』がスタートする! ※ちょっとだけタイトルを変更しました(元:転生リンゴは破滅フラグを遠ざける) ※更新頑張り中ですが展開はゆっくり目です。のんびり見守っていただければ幸いです^^ ※ただいまファンタジー小説大賞エントリー中&だいたい毎日更新中です。ぜひとも応援してやってくださいませ!!

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...