初心者がVRMMOをやります(仮)

神無ノア

文字の大きさ
上 下
120 / 147
過去と治療

現実世界にて〈微笑ましい光景〉

しおりを挟む

 少しずつではあるが、美玖はこの家の家主たちに少しずつ慣れてきていた。
 保がいないと部屋から出てこなくなるようなこともなくなり、大半をリビングで過ごすようになっている。

 もっとも、この家の中で誰に一番懐いているかといわれれば、間違いなく昌代だと全員が言うだろう。最近では昌代を「おばばさん」と呼んでいるあたり、親しさが伺える。
 二人で楽しそうに小物を作る様子は、確かに祖母とひ孫……ではなく孫の微笑ましい風景だ。
「保よ。また失礼なことを思うたな?」
 昌代の突っ込みに、千里眼と地獄耳の他に読心術も持ち合わせていたのかと、今更ながら思う。
「きちんと訂正しましたが?」
「ふん。心にもない訂正など要らぬわ」
「? お二人とも、どうしたんですか?」
 どうも美玖は昌代と保のやり取りを「微笑ましい」と見ているらしく、あまり気にしていない。
 他者の悪意には敏感な美玖らしくないと思ったが、狭山に「昌代様があそこまで言い合うのは保様だけですから、嬉しいのですよ」と言われた瞬間、昌代から見れば保も孫的な位置づけをされているのかも知れないと思っている。
「年寄りのツンデレは可愛くないですよ?」
「誰がツンデレか。我がツンデレなら、お主はヤンデレだろうが」
「ヤンデレで結構です。……美玖に嫌われなければ」
「孝道たちはヤンデレなどに自分の可愛い娘を嫁がせんぞ?」
「そういうものは、しっかりと取り繕う術をもっていますから」
 二人の間に火花が散る。美玖はそれを気にすることなく作業する様は、狭山たちすら驚いているのだが。
「保さん。明日って時間ありますか?」
「? どうしたの?」
「実は明日から、『TabTapS!』に少しずつ繋ぐ事が出来るようになるんです。といっても、以前のようなヘッドギアじゃなくって、あのカプセルからなんですけど」
「……あのカプセルってゲームに繋げられるの?」
 一昔前ならそういうことも出来たというが、今では話を聞かない。それくらいゲーム用のヘッドギアも性能がよくなり、現在では医療用とゲーム用で別々に進化をとげている。
「元々理論上は可能じゃ。禰宜田では独自にフィールドを作成して研究をしておる。研究用VRはゲームと医療用をベースにしておる。それを軽く応用すればいいだけじゃ」
 美玖のリハビリにもそのフィールドの一部を使っていたという。

 その凄さが分からない美玖は純粋にはしゃいでいるが、廃人に近いゲーマーだった保からすれば、かなりの驚きだった。

「明日は夕方からなら大丈夫だよ。午前中に仕上げをして、午後一で納品に行くから。
 それにもう『舞踏会クエスト』が始まってるし、丁度いいよ」
 美玖がいなければ参加をしないと表明した保を、良平は呆れながらも了承してくれた。現在は正芳が作ったドレスで、保以外が参加している状態だ。
 美玖が参加するとなったら、あの一連の服で参加することになるだろう。

 そうなると問題は、シュウに会ってしまう可能性があることだ。
 話題にならなければいいが、ワイドショーもニュース番組も、いまだ美玖の事件を取り上げている。シュウに会って責められなければいいのだが。

「舞踏会クエスト、とな?」
「不思議なゲームだからな。十月からがかなりイベントが活発になる」
 そう言ってイベントを挙げていく。
「名月クエストはないのか?」
「……確か、ソフィル大陸じゃなく、マリル諸島限定クエストで十月に一週間と、十一月に二週間あった」
 その間にマリル諸島原産の「ススキッス」という植物モンスターの捕獲と「シラタマル」というモンスターから取れる白玉粉を使って「団子」を作るというものだ。そして夜にその二つを外に置くと十月は「白兎」という角を持った兎モンスターが、十一月には「黒兎」と呼ばれる角を持ったモンスターが現れる。
 十一月に限り、一週目限定で「黒兎」が現れるのだが、この二種類のモンスターをどれだけ狩ったかによって、ポイントが違う。二種類の角が多ければ多いほど、そのあとの週に来る「巨大一角兎を捕まえろ!」ででてくる兎の数が変わるのだ。
 三種とも、ドロップアイテムは角と毛皮と肉。通常の一角兎なら何度か見たことはあるが、そちらのクエストはほとんどやっていなかったため、すっかり忘れていた。
「……聞く限り、日本に留まらず、他国の伝統文化を取り入れたクエストが多いのかも知れぬの。今度色んなところに行ってやってみるがよい」
「はいっ」
 元気に返事をしたのは、美玖だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

素直になる魔法薬を飲まされて

青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。 王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。 「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」 「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」 わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。 婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。 小説家になろうにも投稿しています。

転生リンゴは破滅のフラグを退ける

古森真朝
ファンタジー
 ある日突然事故死してしまった高校生・千夏。しかし、たまたまその場面を見ていた超お人好しの女神・イズーナに『命の林檎』をもらい、半精霊ティナとして異世界で人生を再スタートさせることになった。  今度こそは平和に長生きして、自分の好きなこといっぱいするんだ! ――と、心に誓ってスローライフを満喫していたのだが。ツノの生えたウサギを見つけたのを皮切りに、それを追ってきたエルフ族、そのエルフと張り合うレンジャー、さらに北の王国で囁かれる妙なウワサと、身の回りではトラブルがひっきりなし。  何とか事態を軟着陸させ、平穏な暮らしを取り戻すべく――ティナの『フラグ粉砕作戦』がスタートする! ※ちょっとだけタイトルを変更しました(元:転生リンゴは破滅フラグを遠ざける) ※更新頑張り中ですが展開はゆっくり目です。のんびり見守っていただければ幸いです^^ ※ただいまファンタジー小説大賞エントリー中&だいたい毎日更新中です。ぜひとも応援してやってくださいませ!!

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...