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悪意のレイド
唐突な涙
しおりを挟む「ふぅ。できたっ!!」
その声と共に、カナリアの頭にあるウサミミがぴょこんと元気になる。
「どこまで出来たの?」
その時を見計らいスカーレットが声をかける。そういう時でないと、このウサミミをもつカナリアは返事をしないのだ。
「えっと、五人分のクエスト用アクセサリーできました!」
「で、カナリアちゃん? あなたのは?」
「えっと、もう作ってあります!」
「ならよし!」
作っていなかったら、着飾らせるつもりの女性陣が発狂してストライキを起こすのは目に見えている。そうなれば、どうして作らせなかったのかとディッチとジャッジに詰め寄るはずだ。
スカーレットがまだ学生時代、ディッチがユーリを連れて来た日のことは絶対に忘れない。「娘が二人になる」という母の言葉まではよかった。「一人は元気な娘だから、あなたのような娘が丁度欲しかったの」と言ったのだ。そのあと、ユーリが当時高校生であったことで、「手を出したら勘当」と言ってのけた。ディッチはそれを忠実に守り、ユーリが高校在学中は一切手を出さないどころか、手を繋いだデートすらほとんどしていないのだとか。大半が図書館デートだったというから、驚きである。
その忍耐が功を奏したのか、おつき合いも認められ、高校を卒業して間もなく結婚している。
そのせいもあり、「結婚まぁだ?」という母のプレッシャーはただならぬものがある。
欲望の中に、「結婚式のときに着飾らせたい!」というものが透けて見える分、スカーレットから見れば悪質なのだ。
その欲望の大半がカナリアに向いてくれるのは、大変にありがたいことでもある。
そんなことを考えていたスカーレットは失念していた。集中した分その反動が酷いということを。
作り終わってほっとすると、おなかがすいた感じがした。あぁ、LPが減ったんだぁ。とどこかでカナリアは思った。
そういえば、パパンさんの手、お祖父ちゃんの手みたいに優しかったなぁ。悪いことをすれば怒ったけど、泣きじゃくる私をお祖母ちゃんと一緒にいつもあやしてくれたっけ。
そんなことを思っていたら、涙がこぼれてきた。
「カ……カナリアちゃん!?」
「へ?」
唐突にスカーレットに抱きしめられ、カナリアは驚いた。
「どっか痛いの!?」
「いえ……」
「まあまあ、カナリア。スカーレットに虐められたの?」
入ってくるなり言ったのは、カカだった。
「いえ。違います。さっき皆さんに囲まれて撫でられた時のことを思い出したんです」
優しい祖父を思い出したといえば、四人揃ってほっとしていた。
「驚かせてすみません」
「そういう涙なら、いくらでもいいのよっ。何せここにはお父さんとお母さんが二人ずついるんだから」
カカの言葉に三人が頷いていた。
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