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悪意のレイド
緊急クエストからレイド戦へ
しおりを挟む「TabTapS!」の緊急クエストで何が恐ろしいかというと、時間内に撃退もしくは討伐できない場合、そのままレイドクエストになってしまうことだ。
もっとも、ドロップ率の悪さからあまりするPCはいない。
少し大きな町ならば――「初心者の町」もそうだが――、東西南北に門が設置されている。カナリアたちはクエストを選んだ時点で北門を守ることになった。
他の門をどこが守るのかは分からない。
「とりあえず、町を守ること。そして門を守ること。『死に戻り』をしないこと」
「はいっ」
ディッチの言葉にカナリアは頷く。
北門近くに薬屋が露店を開いていた。町を守ってくれる人の助けになれば、ということらしい。
「カナリア君が今回はクエスト主だ。だから俺たちのHP、MP、LPが全部分かる。やるべきことは分かってるね?」
「はい。先生と一緒に回復を。無理のない程度で補助魔法をします」
「それでいい。無理をしても意味がない」
真っ直ぐとディッチを見つめる。
「……さて、討伐するぞ。そしてセバス君の美味しいご飯をいただこうじゃないか!」
「はいっ!」
元気よく頷いたカナリアを見た五人は、大事なことを見落としていた。
ジャッジが銃を使いながら時々、剣で応戦していく。ディスカスは魔法での応戦をメインに。スカーレットは日本刀を持っていた。
「……あいつ剣道と柔道の有段者だから、持たせると怖いんだよ本当は」
ぼそりとディッチが言う。
元からパーティを組む際は五人で纏まっていた。だからそれぞれが動きを分かっている。そして、今回はもう一人回復役がいるのだ。背後を取られないように思う存分に暴れていた。
「ジャッジ! レット!」
ジャスティスがジャッジとスカーレットに合図を送る。ジャスティスは基本武器を持たない。魔法を使うこともあるが、基本は拳だ。モンスターを上に叩き上げ、そこにジャッジとスカーレットが攻撃を加えていく。
そして、ディスカスはひたすら魔法を唱えている。
「ディス! Mポーションそろそろ飲め!」
「おうよ!」
「カナリア君! 四人分のスコーン出して!」
「は、はいっ!」
時折カナリアの感覚が、ディッチには分からなくなることがある。
前線で戦っている四人のLPが減ってきたので、少しでも回復をと思ったのはディッチだ。だから、いつも食料を持ち歩かされているカナリアに渡すように指示した。……が、何も飲み物も一緒に出すことはないだろうと言いたい。しかも、「今日はスコーンだけでなく、マカロンとミートパイもありますけど」とさらりとのたまったのだ。
ミートパイは小休憩の時、そしてマカロンは指示した時と伝え終わった。まさか、その他に飲み物も出てくるとは思いもしなかった。
この他にないのか、少しばかり問いただしたくなったが今はクエスト中。終わってからにしようと思った。
「ライトヒール!」
戦いがひと段落つくたびに、カナリアはタブレットで魔法を確認するようにしているらしい。
気がついたら、カナリアの魔法の幅は広がりを見せていた。
ゲーム内の「常識」が全くないカナリアは、時々思いもつかないことをやってくれる。
ずっと、ゲームをやっていて忘れかけていた「楽しみ」がディッチの中で蘇ってきていた。
――緊急クエスト未達成につき、レイド戦へと突入します――
「!!」
やっと北門が片付いたと思い、少しばかり休憩をしていたところで嫌なアナウンスがタブレットから流れた。
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