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始まりの章
カナリアの躓き
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素材集めが終わったものの、カナリアのLVは全くあがらなかった。
これではまずいと、セバスチャンまでが言い出した。
「ミ・レディの希望を叶えるためには、LVも重要になってきます。いちいち材料を購入していたのでは、市価に変動される形になり、ミ・レディの評判まで下がりますから」
「……そんなものなんですか?」
「はい。ミ・レディは銀の腕輪をいつも同じ値段で卸してますが、正直申し上げますと半分くらいは採算が取れておりません」
そこまできっぱり言われると辛いものがある。
「名指し依頼でプラスになっているだけです。銀粘土をご自身で掘り当てれば、もう少し採算が取れます」
「むぅ」
「それから、編み物の材料もご自身で集められればそれだけで『採取』スキルも上昇します。それから『捕獲』。モンスターを生け捕りにすることもありますから」
「……つまり、最初は失敗することも多いってことですね?」
「はい。出来うることなら生け捕りの方がいいのですが、殺してしまったところで問題はないかと思います。少しばかり鮮度が落ちる程度です」
あっさりと怖いことを言われたような気がしたカナリアは、メモをする手を止めた。
「あとはモンスターによっては『飼育』が出来ます。これができるようになれば、それなりの品質のものを定期的に出すことが可能です」
「……『飼育』もスキルですか?」
「はい。最初はココリスから試すのがいいでしょう。愛玩動物として大変扱いやすく、多少雑に扱っても大丈夫です。『飼育』のスキルや『作成』スキルの上級になりますと、私たちAIがログアウト後も世話などをしますので、ミ・レディと私の相性問題も絡み合ってきます」
聞いただけで面倒だと思ったカナリアは悪くないはずだ。……うん。かなり面倒だ。
「そこまで出来るPCはあまりいないそうですが。『飼育』や『作成』のために、NPCを雇うPCもおりますしね」
「……それって、ジャッジさんたち以外もこの家に入れるってことですよね?」
「左様ですね」
「……もし仮に、『飼育』を始めたら、セバスチャンに世話をお願いします。だって、この家は私だけのものではないですし。ジャッジさんのおかげで私名義になってるだけです。セバスチャンやリースさんもその方を気に入らないことには、入れる気にはなりません」
「そのお言葉だけで十分です。ジャッジ様やミ・レディが我々を気にしてくださるので、AI冥利に尽きるのです。今でも家庭菜園は私とリースで世話をしております」
おかげで野菜を買わずに調理が出来るとセバスチャンは言う。
「ログアウト後も私たちが暮らしやすいように手を加えてくれてありがとうございます」
「いえ。私はミ・レディのAIになれたことを誇りに思います。
そんなことよりも、話を戻しますよ?」
戻して欲しくないところに戻そうとしているように思えた。
「いいですか? 素材になるものは……」
この言葉から始まったセバスチャンの講座は、カナリアを「生かさず殺さず」の状態で知識を詰め込んでいく。しかも唐突に「復習」と言う名の抜き打ちが入るのだ。
ある意味鬼である。
これではまずいと、セバスチャンまでが言い出した。
「ミ・レディの希望を叶えるためには、LVも重要になってきます。いちいち材料を購入していたのでは、市価に変動される形になり、ミ・レディの評判まで下がりますから」
「……そんなものなんですか?」
「はい。ミ・レディは銀の腕輪をいつも同じ値段で卸してますが、正直申し上げますと半分くらいは採算が取れておりません」
そこまできっぱり言われると辛いものがある。
「名指し依頼でプラスになっているだけです。銀粘土をご自身で掘り当てれば、もう少し採算が取れます」
「むぅ」
「それから、編み物の材料もご自身で集められればそれだけで『採取』スキルも上昇します。それから『捕獲』。モンスターを生け捕りにすることもありますから」
「……つまり、最初は失敗することも多いってことですね?」
「はい。出来うることなら生け捕りの方がいいのですが、殺してしまったところで問題はないかと思います。少しばかり鮮度が落ちる程度です」
あっさりと怖いことを言われたような気がしたカナリアは、メモをする手を止めた。
「あとはモンスターによっては『飼育』が出来ます。これができるようになれば、それなりの品質のものを定期的に出すことが可能です」
「……『飼育』もスキルですか?」
「はい。最初はココリスから試すのがいいでしょう。愛玩動物として大変扱いやすく、多少雑に扱っても大丈夫です。『飼育』のスキルや『作成』スキルの上級になりますと、私たちAIがログアウト後も世話などをしますので、ミ・レディと私の相性問題も絡み合ってきます」
聞いただけで面倒だと思ったカナリアは悪くないはずだ。……うん。かなり面倒だ。
「そこまで出来るPCはあまりいないそうですが。『飼育』や『作成』のために、NPCを雇うPCもおりますしね」
「……それって、ジャッジさんたち以外もこの家に入れるってことですよね?」
「左様ですね」
「……もし仮に、『飼育』を始めたら、セバスチャンに世話をお願いします。だって、この家は私だけのものではないですし。ジャッジさんのおかげで私名義になってるだけです。セバスチャンやリースさんもその方を気に入らないことには、入れる気にはなりません」
「そのお言葉だけで十分です。ジャッジ様やミ・レディが我々を気にしてくださるので、AI冥利に尽きるのです。今でも家庭菜園は私とリースで世話をしております」
おかげで野菜を買わずに調理が出来るとセバスチャンは言う。
「ログアウト後も私たちが暮らしやすいように手を加えてくれてありがとうございます」
「いえ。私はミ・レディのAIになれたことを誇りに思います。
そんなことよりも、話を戻しますよ?」
戻して欲しくないところに戻そうとしているように思えた。
「いいですか? 素材になるものは……」
この言葉から始まったセバスチャンの講座は、カナリアを「生かさず殺さず」の状態で知識を詰め込んでいく。しかも唐突に「復習」と言う名の抜き打ちが入るのだ。
ある意味鬼である。
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