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始まりの章
拠点購入!
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「えええええ!! そ……そんな大金頂いて、拠点作るだなんてとんでもないです!」
細工職人となめし職人のところに弟子入りが終わり、集合場所と決めていた宿屋にカナリアが戻ると、ジャッジが爆弾発言をかましたのだ。
「俺の名義でこの町に買うと、要らん連中までたまり場にしちまうからな。……ずっと宿屋を拠点にするよりも長い目で見れば、安い」
「うううう~~~」
実際、宿屋のお金もジャッジが出しているのだ。カナリアとしてはそれですら心苦しいのに、「VRの世界でとはいえ、セバスにいい飯食わせてもらってる礼だ」と言われてしまった。
それですら、問題である。ジャッジとリースのサポートもあってこそ、カナリアは何とか仕事が出来ている状態だ。
細工職人が使う彫刻刀だっていいものをいただいたし、外でお茶をするときのティーセットも、シートも、調理器具も全てジャッジに頼っている。お礼をするのは、カナリアのほうである。
「じゃあ、俺の我侭を聞くのが礼だと思え」
なんとも無茶苦茶な言い分をジャッジがしてきた。
「カナリア嬢。マスターの知人というのは、マスター以上に偏屈者な上に自己中で、とてもではありませんが、カナリア嬢に会わせるわけにはいかないのです」
「おい!」
「マスターが拠点を作ってしまえば、こぞってその連中が『祝い』と称して集まってきてたまり場にします。そんな場所にカナリア嬢を呼べるわけがありません。お二人でギルドを作って拠点にするのも一つの手段ですが、それでも連中はこぞって集まってきますし、ギルドに入会させろと無理難題を吹っかけてくるでしょう。
……そうなってしまうと、カナリア嬢が楽しめなくなるのです。カナリア嬢をお会いしてから、マスターは久しぶりに楽しそうにしております。カナリア嬢が楽しむ空間を作ると、マスターの機嫌もよくなります。
マスターのために、カナリア嬢が拠点を購入していただけませんか?」
なんだか、ジャッジとその知り合いをかなり貶めた発言のような気がしたのは、カナリアの気のせいではないはずだ。
「……面倒なやつらなのは事実だ」
答えを出せずにいるカナリアに、セバスチャンまでもが説得にまわってきた。
「……分かりました。維持費は私のほうで出来る限りだします。そして、お金が貯まったら、ジャッジさんに拠点購入分のお金はお返しします」
カナリアから見れば、これが最大の譲歩だ。
ジャッジからお金を借りてカナリアが拠点を購入する。
全てをおんぶに抱っこでいるわけにはいかない。
このゲームを楽しむと決めたのだ。だったら尚更、他者に頼ってばかりではいけない。一緒にやる人と楽しむためには、少しでも同等の立場になる。それがカナリアなりの決意だった。
ジャッジが見繕っていたという一軒家を拠点と決めて、ジャッジに言われたとおり「フレンドのみ入室可」としておく。カナリアがフレンド登録しているのはジャッジだけだ。
つまり、ここに入れるのはジャッジと二人のAIのみということになる。
一階のキッチン部分はセバスチャンが色々と配置を決めると言い出し、リースが家の中のインテリアを決めていく。
カナリアがするのは自分の部屋に机とライト、それから椅子を置くだけだと思っていた。
「一応、ベッドも置いとけ。俺は庭にバイクのメンテ用ガレージを置くから、お前も作業部屋を作れ」
部屋は休むためのものだと、ジャッジは言う。VRの中で少しだけでもベッドで休むと、戦闘やクエストで疲れた「疲労」も回復するらしい。
ここでカナリアは初めて知ったのだが、連続ログイン時間は八時間までらしい。それを過ぎるか、もしくは「寝落ち」とされるものがあった場合など、「強制ログアウト」を食らうらしい。
強制ログアウトを食らえば、その日は二度とログインすることは出来ず、翌日までVRで遊べなくなるのだそうだ。そのためにも、八時間過ぎる前に一度ログアウトして、最低でも一時間は休まなくてはいけないそうだ。
「初めて間もなく、時間を忘れて大事なクエスト、……しかもレイドボスのまん前でログアウトされられた日には、泣けてきた。その日しかそのクエストが出来なくてな。それからはタイマーをつけてる」
ジャッジが苦い思い出と言わんばかりに言ってきた。
「タイマーってどうやって設定するんですか?」
「一つは、ヘッドギアでやる方法。アラームが教えてくれる。もう一つはログインする時に設定する方法。どのヘッドギアを使っているか分からないから、後者を教えておく」
そして、設定方法を聞き、カナリアはほっとした。
細工職人となめし職人のところに弟子入りが終わり、集合場所と決めていた宿屋にカナリアが戻ると、ジャッジが爆弾発言をかましたのだ。
「俺の名義でこの町に買うと、要らん連中までたまり場にしちまうからな。……ずっと宿屋を拠点にするよりも長い目で見れば、安い」
「うううう~~~」
実際、宿屋のお金もジャッジが出しているのだ。カナリアとしてはそれですら心苦しいのに、「VRの世界でとはいえ、セバスにいい飯食わせてもらってる礼だ」と言われてしまった。
それですら、問題である。ジャッジとリースのサポートもあってこそ、カナリアは何とか仕事が出来ている状態だ。
細工職人が使う彫刻刀だっていいものをいただいたし、外でお茶をするときのティーセットも、シートも、調理器具も全てジャッジに頼っている。お礼をするのは、カナリアのほうである。
「じゃあ、俺の我侭を聞くのが礼だと思え」
なんとも無茶苦茶な言い分をジャッジがしてきた。
「カナリア嬢。マスターの知人というのは、マスター以上に偏屈者な上に自己中で、とてもではありませんが、カナリア嬢に会わせるわけにはいかないのです」
「おい!」
「マスターが拠点を作ってしまえば、こぞってその連中が『祝い』と称して集まってきてたまり場にします。そんな場所にカナリア嬢を呼べるわけがありません。お二人でギルドを作って拠点にするのも一つの手段ですが、それでも連中はこぞって集まってきますし、ギルドに入会させろと無理難題を吹っかけてくるでしょう。
……そうなってしまうと、カナリア嬢が楽しめなくなるのです。カナリア嬢をお会いしてから、マスターは久しぶりに楽しそうにしております。カナリア嬢が楽しむ空間を作ると、マスターの機嫌もよくなります。
マスターのために、カナリア嬢が拠点を購入していただけませんか?」
なんだか、ジャッジとその知り合いをかなり貶めた発言のような気がしたのは、カナリアの気のせいではないはずだ。
「……面倒なやつらなのは事実だ」
答えを出せずにいるカナリアに、セバスチャンまでもが説得にまわってきた。
「……分かりました。維持費は私のほうで出来る限りだします。そして、お金が貯まったら、ジャッジさんに拠点購入分のお金はお返しします」
カナリアから見れば、これが最大の譲歩だ。
ジャッジからお金を借りてカナリアが拠点を購入する。
全てをおんぶに抱っこでいるわけにはいかない。
このゲームを楽しむと決めたのだ。だったら尚更、他者に頼ってばかりではいけない。一緒にやる人と楽しむためには、少しでも同等の立場になる。それがカナリアなりの決意だった。
ジャッジが見繕っていたという一軒家を拠点と決めて、ジャッジに言われたとおり「フレンドのみ入室可」としておく。カナリアがフレンド登録しているのはジャッジだけだ。
つまり、ここに入れるのはジャッジと二人のAIのみということになる。
一階のキッチン部分はセバスチャンが色々と配置を決めると言い出し、リースが家の中のインテリアを決めていく。
カナリアがするのは自分の部屋に机とライト、それから椅子を置くだけだと思っていた。
「一応、ベッドも置いとけ。俺は庭にバイクのメンテ用ガレージを置くから、お前も作業部屋を作れ」
部屋は休むためのものだと、ジャッジは言う。VRの中で少しだけでもベッドで休むと、戦闘やクエストで疲れた「疲労」も回復するらしい。
ここでカナリアは初めて知ったのだが、連続ログイン時間は八時間までらしい。それを過ぎるか、もしくは「寝落ち」とされるものがあった場合など、「強制ログアウト」を食らうらしい。
強制ログアウトを食らえば、その日は二度とログインすることは出来ず、翌日までVRで遊べなくなるのだそうだ。そのためにも、八時間過ぎる前に一度ログアウトして、最低でも一時間は休まなくてはいけないそうだ。
「初めて間もなく、時間を忘れて大事なクエスト、……しかもレイドボスのまん前でログアウトされられた日には、泣けてきた。その日しかそのクエストが出来なくてな。それからはタイマーをつけてる」
ジャッジが苦い思い出と言わんばかりに言ってきた。
「タイマーってどうやって設定するんですか?」
「一つは、ヘッドギアでやる方法。アラームが教えてくれる。もう一つはログインする時に設定する方法。どのヘッドギアを使っているか分からないから、後者を教えておく」
そして、設定方法を聞き、カナリアはほっとした。
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