初心者がVRMMOをやります(仮)

神無ノア

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始まりの章

助けとAIの言い分

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「危ないところを助けていただいてありがとうございます。私の名前は……」
「カナリア……か。お前さ、タブレット出しっぱなしにするんだったら最低でも指紋ロックぐらいかけろ」
 男性がカナリアのタブレットを見ながら言う。
「俺の名前はジャッジ。『TabTapS!』を始めたばかりか?」
「はい。VRMMO自体も初めてなんです」
「MMOは?」
「ないです」
「ソシャゲは?」
「ソシャゲ?」
「ソーシャルゲームの略だ」
「……なんですか? それ」
「現実世界の携帯電話やスマホで出来る簡単なゲームだ」
「携帯すらほとんど持ったことないので、やったことないです」
「……お前阿呆だろ」
 ジャッジと名乗った男は呆れながら呟いた。
「だって……やっとVRMMOが解禁の歳になったばかりですし、親はそういったものを嫌ってますし、ゲーム内でまで学校の人達と会いたくなかったし……」
「で、消去法で選んだのがこれか? もっと簡単なやつもあっただろうに」
「月額料金がかからないものって選んだんです。お小遣いもそんなにあるわけでないので」
「……なるほどな。だったら尚更、AIは補助型でなく自立攻撃型を選ぶべきだったな」
「自立攻撃型??」
「そっからか! お前情報見たか?」
「一応……」
 祖母に言われたとおり見たと思っていた。
「その口ぶりだと楽しみが先に来てほとんど見てないな。服装からしてそうだ。初心者が選ぶなら、女性であればコットンワンピースに胸当て、それからガントレット。この三種が一番いいんだ。それであれば補助型のAIでも問題はなかったんだが……」
「でも、親切に教えてくれるので私にはあっていると思います」
「そうかい。そりゃAI冥利に尽きるだろうな。これやってる人間はソロでやるときに使うためにAIを作るのが多いからな」
 そう言ってカナリアの頭を撫でてきた。
「丁度いい。このゲームにも飽きてきていたんだ。AIで無理なところを俺が教える。それでいいか?」
「助かります。私も回避の指示を出しながら操作方法を教えるのは難しいので」
「ってか、魔法を使いたいならこのクエストは間違いだろ? ここまでの初心者なんだ、AIがしっかりしろや」
 色々と話を聞いたジャッジがセバスチャンに向かって言った。
「私が言う前に勝手にクエストを受注しておりました。他のも一緒にやろうとすると尚更パニックになるかと思い、あえてそれだけにしておきました」
「……適切な判断だ」
 感心したようにジャッジが呟いていた。

 ジャッジが自分のタブレットを使い、何か作業をし始めた。
「スマホを使う大剣なら、これがあれば十分だ。使え」
 ジャッジが言うなり、何もない空間からリストバンドが出てきた。
「昔使ったお古で悪いが、多少能力があがる。しばらく使ってろ」
「ありがとうございます」
 手渡しで受け取って、カナリアはリストバンドをはめた。
「軽い!!」
 再度スマホを大剣にして持ってみると、大地にのめり込みそうな位重かった大剣が軽く感じた。
「このあたりは、ゲームならではだけどな。剣をスマホに戻せ」
 さっきは気がついたら戻っていた。それをジャッジに伝えると、すぐさまでかいため息をついた。
「……そっか。クエスト終わってないんだよな。大剣の柄頭のところにボタンがある。そこを押せ」
 カナリアが言われたとおりにすると、あっという間にスマホに戻った。
「LPもだいぶ減ってるな。携帯食料だ」
 渡されたものは、どう見てもカ○リーメ○トだ。
「突っ込みは入れるなよ? それが一番安くてLPの回復量が多いんだ。長丁場のクエストには重宝するんだぞ」
「味って……」
「現実と同じ、チーズ、カカオ、プレーン。しっかり味もあるから大丈夫だ」
 その言葉にカナリアの顔が明るくなっていく。
「私っ。現実世界でも食べたことないので嬉しいです!!」
「どこのお嬢様だよ……」
「え? 両親が『こういった食べ物は二十歳から食べるものだ』って……」
「んなわきゃあるか」
「分かってたんですけど、逆らう勇気がなかったんです。だから、このゲーム始めたのが、初の反抗期みたいな感じです」
「じゃあ、ここで色んな体験をするといい」
「はいっ!」
 ジャッジの言葉にカナリアは元気よく返事をし、携帯食料を食べ始めた。
「美味しい!!」
「そりゃよかった」
 二人の微笑ましい姿を、セバスチャンともう一人のAIが少し離れたところで同じように食べながら見ていた。

 LPがそれなりに回復してきたところで、再度動くことにした。
「とりあえず、最初にタブレットとスマホにロックをかけろ。今回のように誰かに見られる可能性があるからな」
 ジャッジがすぐに説明を始めた。言われたとおりにカナリアが設定をしていく。スマホはPINコードと指紋認証、それから声紋認証。タブレットは指紋認証と声紋認証、それから虹彩認証を設定していく。
「ここまでしなきゃいけないんですね」
「まぁな。現実世界だと指紋認証かPINコードが主流だけどな。元々ログインする時に脳波を測っているから、大雑把で大丈夫なんだ」
 そういうものだとジャッジが言う。
「初期設定も終了しましたので、ミ・レディ。『索敵』を」
「ほぇ?」
 一息つきたいと思っていたカナリアに、セバスチャンが唐突に言い出した。
「ん。それも一つの手段だな。その前に俺の相棒を紹介しておく。リース。『索敵』と攻撃力に重点を置いてはいるが、回復や補助魔法もそれなりに使える。カナリア、お前もAIをマメにメンテナンスすることだな」
「えっと、私のパートナーはセバスチャンです」
「執事姿だからまさかと思ったがまんまかよ!」
「いいじゃないですか。楽しみたかったんですから」
「おい、セバス。どうせだ。カナリアのことを『お嬢様』と呼んだらどうだ?」
 むくれるカナリアを無視してジャッジが言う。
「では、わたくしはご主人様マスターを旦那様とでもお呼びしますか? 今でこそアーマー風の服ですが、以前はメイド服でしたし」
「ちょっ! それは関係ないだろ!?」
「関係大有りです。マスター。呼び方はわたくし達が決めるものですから」
 即座にリーナがジャッジを止めていた。
「リース嬢、助かりました」
「いえいえ。主を止めるのはAIの役目ですから」
 存外言うAIたちである。
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