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富士樹海迷宮編

マスターからの依頼

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 事の次第を聞いたサブマスターは、すぐに謝罪した。
「ギルドマスターに非がありすぎです。出来うればこのまま依頼を受けていただきたいところではあるが、……難しいでしょうね」
「信頼回復しない限り難しいでしょうね。あなたともあろう方が、これしきの事で後手に回るなど」
 サブマスター依頼のほうじ茶を淹れつつ、マスターが代表して言う。他の探求者たちも、ほうじ茶を飲みつつ非難しようとしているあたり、よほど腹に据えかねていたようだ。
「申し訳ない。別件で手間取っているところに、この一件だ。俺一人ではさすがに風紀をまとめられない」
 サブマスターの味方はおらず、孤軍奮闘中らしい。
「ご愁傷さまです。で、別件とは?」
「ポーションの転売だ」
 一瞬にして周囲が静まった。
「確かに納品依頼が酷すぎですね。そこまで大暴走が酷いなら、このような馬鹿げた依頼は破棄されるはずですし」
「……いや、実際酷いんだけどさ」

 でかいため息をつくサブマスターに、春麗が月餅を出していた。
「サブマスター、疲れたときは休んで甘いものよ」
「ありがとうございます。……休みたいんですがね、休んだ時を狙って俺の承認印を押した書類が出回るから……」
「文書偽造罪ですよ」
「あの人たち知らないだろうけど、承認したやつは花押書いてるんだけどねぇ」
「……あぁ。ただのサインだと思っていると」
「そういうこと。一応、こっそり調査を依頼したいんだけど……それすると馬鹿ギルドマスターにばれるし」
「確かに、そういうのだけは鋭いですからねぇ」
 全員分の茶を淹れ終わり、マスターも一息入れる。
「あ、この調査が出終わるまで、薬師の半数は依頼休みますので」
「え゛!?」
「大丈夫です。個人に売る分は卸しますから」
 にこりとマスターは微笑む。弟子が後ずさりしていたが、知らぬふりをした。
「この調子だと、日本支部から強制依頼が出るはず。それまで動かないのも一つの手段だ」
 協会を取りまとめる人物らしくないことをサブマスターが口にした。しかし、誰一人咎める者はいない。例外が弟子である。
「つかさ、それやっちゃったらサブマスターの評価も落ちちゃうんだけど」
「構わんよ。あの、、ギルドマスターを抑えられない時点で同じだ。探求者資格はく奪と、ギルド追放で済めば御の字だと思っている」
 相変わらずいさぎよいと言いたいが、これは別だ。

 仕方ない。一肌脱ぐか、とマスターは決心した。
「あなたに罪をなすりつけようとするでしょうから、お勧めは出来ませんね。……あれは罪を他に擦り付けて今の地位にいるわけですので」
「では、どうしろと?」
「一緒に迷宮に潜ってもらいましょう。あ、あなたは一人で潜ってください。あとで私が合流しますので」
「ししょー」
「罠、のようなものですよ。はい、ここで皆さんに私から依頼を出します。
 依頼内容は二つ。一つ目はギルド支部の不正を探る。もう一つは迷宮でサブマスターを守る。彼は元々ランクC⁻でしたので、戦力としても魅力的です。どうなさいます?」
 相応の金額を示せば、皆がくらいついた。

 話合い、、、の末、グループ分けがなされた。

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お茶講座
ほうじ茶……煎茶を作る工程で取り除かれた大型の葉や茎から作られた番茶や、下級の煎茶を高温で煎って作ったもの。煎ることで香ばしさが増し、独特の焙煎香を持ちながら口当たりはあっさりマイルド。飲み口の濃いお茶、苦いお茶が苦手な人にはぴったり。カフェインも少なく、胃に負担を書けないのも嬉しい。また価格も比較的リーズナブル。高温で淹れ、三十秒ほどの抽出でOK。非常に淹れやすいお茶でもある。良し悪しは色むらのなさ、焦げ付いていないかなど。
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