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富士樹海迷宮編

マスターとギルドマスター

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 マスター自身が富士樹海迷宮に潜るのは一年ぶりくらいだ。前回水をたっぷりと収集したため、時間が空いた。
 偏に、ギルドマスターがあれに代わったからだが。
「向こうは私の顔も覚えていませんでしたけどねぇ」
「えぇぇぇ! マジで? あれだけ雲仙で騒ぎ起こしたのに?」
「弟子、お前は碌なことを覚えていないようですね」
「だってさぁ、師匠のマジ切れって、そうそうないもん。俺が間違って毒草を採取した水に入れた時だって、拳骨一つで済んだし」
「それで済ませたのが間違いでは?」
「あれは弟子がわざとやったわけではなかったので。そのあと一人で水採取に行かせましたよ」
 クリフが生ぬるいと言外に含んでいたため、マスターは苦笑した。
「仕方ないですよ。弟子は探求者なりたての頃でしたし。薬を軽く見ていた節もありますが、どちらかといえば手伝いをしようとしてやらかしたことですから。
 同じことを再度やらかしたのなら厳罰ものですけど、二度とやりませんでしたね」
 それ以来、滅多なことで薬草を触らなくなったというのもある。

 もう一つ言うなれば、水採取中にポーションの大切さを身に染みて帰って来たというのもあるが。

 パーティ申請をして、迷宮に潜る。目的は低層の初心者向けの場所だ。
「え? ヌシは?」
「だから、ポーション無いから無理だってさっきも言ったよね。あと、肝納入はキャンセルね。さっきキャンセル用料金受け取ったよね」
 慌てふためくギルド職員に、弟子が言い放った。
 無理やり置いた、というのが正しいだろう。そのあたりはマスターの教えだが、領収書を貰っておかないあたり、まだ甘い。
「これから取りに行く水は、ポーション用ですので。中級以上のポーションは源泉水がいいことくらい、ご存じでしょう」
 にこりと微笑んで、マスターが追い打ちをかけた。水はすべて一緒だと思う馬鹿が多いのが困りものだ。
「お……お金はお返しします! キャンセル不可の依頼……」
「そんなわけないでしょう。再度ギルド規約をお読みになられては?」
 対応していた職員の後ろにいた、上長と思われる男が悔しそうにしていた。

「再度指名依頼をされれば、問題なかろう」
 割って入って来たのは、ここのギルドマスター。そして、おそらく肝納入を依頼した富豪と思われる男が、階段を下りてきた。
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