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パーラー
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「代打ち・・ですか・・・・」
奈々が表情を曇らせた。
「すまん、というか募集要項には書いていたはずなんだが・・・・いやなら無理にここで働くことはないぞ
ーー」
響の言葉をらしくない弱弱しい声が遮る。
「あの・・・・代打ちって、できるでしょうか・・・・」
深刻そうに上目遣いで、ポロリと。
「はは・・そんなことか、それは大丈夫だよ。俺が基本のところは教えるし」
「あの、この辺でーー」勇気づける雇い主に、なお自信なさげな声色だ。
「この辺で代打ち禁止してない店って、ほとんどないと思うんです・・・・!」
======
「てなわけで、この人が店長の横山さん。この店ガラガラだから、代打ちくらい大丈夫! ・・・一応禁止にはなってるんだけどね・・・・」
響とは対極的な髭おじだ。丸眼鏡をかけてて、細くてまっすぐで、執事みたいな。
上品な店長が頭をすっと下げた。
「どうぞよろしく」
品のある礼を目の当たりにして、奈々もスカートの両脇をつまんだ。
「ど、どうぞよろしく?」
ボウリング選手みたいに足を交差させて気品を、見栄を張る。
「なんていうか、面白い子なんだ」
『女子高生がパチンコ屋に入店する』というタブーはさておき、響は次に考慮すべき点に移行した。
大人に突然こんなお店に、アダルティーなお店に連れてこられたにしては地に根が張っている。
「ほほう、これはやっぱり・・・・なあ横山さん、こんな話があるんだ」
期待を笑みに乗せて、短髪を掻き上げた。そして耳打つ。
「なんです・・?」
「『パーラー』って聞いて何を思い浮かべるかで、その人が本質的にどちらの世界の住人かが分かるのさ」
「はあ」と横山は理解が追い付かない様子で相槌を打つが、あながち都市伝説は都市伝説ではなかったようだ。伝説は、店内で現実となったのだ。
「ところで水樹さん、『パーラー』ってなんだか知ってる?」
「パチンコですよね?」
「即答だな。やっぱり君は、『こっち側』が向いているんだな」
「・・・・なんです?」
うるっとした綺麗な瞳は若くて光り輝き、いぶかしげな半眼の表情はかわいらしいものだけれど、彼女は確かに『こっち側』の人間であった。
この世のものに、なんでもかんでも良し悪しを付けてしまっては『悪し』であろうが、世間的に見れば『こっち側』がイコール『悪し』であるだろう。
ただ少なくとも・・・・
「職業柄、君は見どころがあるってことだよ」
「・・そ・・そうですか! ありがとうございます・・・・で、パーラーってパチンコじゃないんですか?」
「・・・・・・ーー・・・・ああ・・いや、正解だよ。大正解だ、今は灰色をしてる君の内面も、いつか必ず真っ黒になれるさ」
頭からポコリポコリとクエスチョンマークが飛び出す奈々を見て響はクスリと笑った。
「響さん、これはまずいことになるかもですよ・・・・」
======
おまけ【パーラーって何?】
「ねえ鈴? ちなみになんだけど・・・・『パーラー』ってなに?」
「パチンコだろ?」
ふう、と息を吐きだし、「そうだよね」「間違ったこと言ってないよね」と頭の中で独り言を繰り返し、この夜奈々は自己解決に至った。
母は朝から家を出た。平日だが、珍しく仕事は休みであるらしい。
《どこに出かけてるの?》
奈々は国語教師の無害さに付け込んで、教卓の前の席でラインを送った。
移動中ではないのか、すぐに返信が届く。『ラインッ』と受信音が耳を貫く。
《パーラーに来てます!》
この一文は、奈々の脳みそを撃ち抜いた。育ちが良くて、上品でそれ以上に品のないものが大嫌いな母がパチンコに行っているのだ。
《ブドウがすごくってびっくりしちゃった》
《え、私見たことない!》
「この、『注文の多い料理店』は、タイトルを見たときに読者が思う『注文』と、物語の中での『注文』の意味が異なっている。これがひとつのギミックになっています」
教師は相変わらず淡々と授業を続けた。
奈々が表情を曇らせた。
「すまん、というか募集要項には書いていたはずなんだが・・・・いやなら無理にここで働くことはないぞ
ーー」
響の言葉をらしくない弱弱しい声が遮る。
「あの・・・・代打ちって、できるでしょうか・・・・」
深刻そうに上目遣いで、ポロリと。
「はは・・そんなことか、それは大丈夫だよ。俺が基本のところは教えるし」
「あの、この辺でーー」勇気づける雇い主に、なお自信なさげな声色だ。
「この辺で代打ち禁止してない店って、ほとんどないと思うんです・・・・!」
======
「てなわけで、この人が店長の横山さん。この店ガラガラだから、代打ちくらい大丈夫! ・・・一応禁止にはなってるんだけどね・・・・」
響とは対極的な髭おじだ。丸眼鏡をかけてて、細くてまっすぐで、執事みたいな。
上品な店長が頭をすっと下げた。
「どうぞよろしく」
品のある礼を目の当たりにして、奈々もスカートの両脇をつまんだ。
「ど、どうぞよろしく?」
ボウリング選手みたいに足を交差させて気品を、見栄を張る。
「なんていうか、面白い子なんだ」
『女子高生がパチンコ屋に入店する』というタブーはさておき、響は次に考慮すべき点に移行した。
大人に突然こんなお店に、アダルティーなお店に連れてこられたにしては地に根が張っている。
「ほほう、これはやっぱり・・・・なあ横山さん、こんな話があるんだ」
期待を笑みに乗せて、短髪を掻き上げた。そして耳打つ。
「なんです・・?」
「『パーラー』って聞いて何を思い浮かべるかで、その人が本質的にどちらの世界の住人かが分かるのさ」
「はあ」と横山は理解が追い付かない様子で相槌を打つが、あながち都市伝説は都市伝説ではなかったようだ。伝説は、店内で現実となったのだ。
「ところで水樹さん、『パーラー』ってなんだか知ってる?」
「パチンコですよね?」
「即答だな。やっぱり君は、『こっち側』が向いているんだな」
「・・・・なんです?」
うるっとした綺麗な瞳は若くて光り輝き、いぶかしげな半眼の表情はかわいらしいものだけれど、彼女は確かに『こっち側』の人間であった。
この世のものに、なんでもかんでも良し悪しを付けてしまっては『悪し』であろうが、世間的に見れば『こっち側』がイコール『悪し』であるだろう。
ただ少なくとも・・・・
「職業柄、君は見どころがあるってことだよ」
「・・そ・・そうですか! ありがとうございます・・・・で、パーラーってパチンコじゃないんですか?」
「・・・・・・ーー・・・・ああ・・いや、正解だよ。大正解だ、今は灰色をしてる君の内面も、いつか必ず真っ黒になれるさ」
頭からポコリポコリとクエスチョンマークが飛び出す奈々を見て響はクスリと笑った。
「響さん、これはまずいことになるかもですよ・・・・」
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おまけ【パーラーって何?】
「ねえ鈴? ちなみになんだけど・・・・『パーラー』ってなに?」
「パチンコだろ?」
ふう、と息を吐きだし、「そうだよね」「間違ったこと言ってないよね」と頭の中で独り言を繰り返し、この夜奈々は自己解決に至った。
母は朝から家を出た。平日だが、珍しく仕事は休みであるらしい。
《どこに出かけてるの?》
奈々は国語教師の無害さに付け込んで、教卓の前の席でラインを送った。
移動中ではないのか、すぐに返信が届く。『ラインッ』と受信音が耳を貫く。
《パーラーに来てます!》
この一文は、奈々の脳みそを撃ち抜いた。育ちが良くて、上品でそれ以上に品のないものが大嫌いな母がパチンコに行っているのだ。
《ブドウがすごくってびっくりしちゃった》
《え、私見たことない!》
「この、『注文の多い料理店』は、タイトルを見たときに読者が思う『注文』と、物語の中での『注文』の意味が異なっている。これがひとつのギミックになっています」
教師は相変わらず淡々と授業を続けた。
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