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6章

6-12 外泊でフレンチトーストを食べる

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 ある日、Bさんはリハビリで外歩きをしている時に綺麗な紫陽花が咲いているのを見つけたらしく、「(一緒にいた療法士の女性に)とってきてもらったの!」と笑って話していた。 
 どこなのかはわからなかったが病院の敷地内の急勾配の崖のようなところにその紫陽花は咲いていたらしく、療法士の女性に危険を冒して取ってもらったらしかった。
 Bさんは満足そうににこにこしていた。そのくらいその紫陽花は本当に綺麗だった。
 全体的には白い色なのだが、ところどころグリーンや紫色がまじっていて美しかった。Bさんにとても似合っていた。 

 Bさんはその紫陽花を最初は花瓶に入れていたが、気が付くと小さなプラスチックの鉢に土を敷き詰めた中に刺していた。
 なのでその紫陽花はしおれることもなくずっと綺麗なままBさんのベッドテーブルにあった。 
 Bさんは退院する時その紫陽花の鉢を手に抱えて退院した。Bさんは退院する時、カエルのタオルハンカチをくれた。 
 
 AさんのカエルとBさんのカエルでゲンを担ぎ、七夕の時は、病院内の七夕飾りの笹の葉に「早く良くなって退院する」と短冊に書いた。 

 BさんCさんDさんは私が退院するより前に退院していった。 
 空いたベッドに来た人たちとの入院生活は勿論短かったが、あまりいいものではなかった。 
 ひとりはいびきがひどく私は寝不足だった。 
 ひとりは、理由は不明だが私を明らかに無視していた。 
 もうひとりの方は上品な方だったが特に仲良くしたりすることはなかった。 
 以前は年齢層の若い部屋だったが、一気に年配の方の部屋に変わり、雰囲気も変わってしまった。
 明るく楽しい雰囲気はなくなってしまった。
 それでも私はその頃は退院が近かったのでそんな雰囲気になった病室で過ごす期間が短かったことが救いだった。 

 

 退院よりも前に、療法士さんから外泊をするように言われた。
 Dさんは入院中よく外泊をしていたが、私は外泊はしたくなかった。
 「病院に戻りたくない」と思うんじゃないかと思っていたからだ。「病院に戻りたくない」と思っても戻らないといけないのは精神的にきついんじゃないかと思っていた。
 でも、「外泊をして家での動きでどんなことが困るか確認してきてほしい」と言われ、渋々外泊することになった。 

 外泊をした時、自分が療法士さんたちにものすごく甘えていることに気が付いて、驚いた。
 こんなに色々自分でしないといけないのか・・と思った。
 大したことではないのだけれど、ベッド周辺で全てが賄えるような環境にいたからか、そんなことを思った。 

 そして、3ヶ月以上使われていない自分の部屋を見てなんだか不思議な感じがした。
 自分の部屋なのに「人がいない」感じはとても不思議だった。
 入院中、精神的に辛い状況で、母と喧嘩もしたのだけれど、この寂しい部屋を見た時、母も大変だっただろうと母の気持ちを考えると申し訳ない気持ちになった。
 切ない気持ちになり、なんだか涙が出そうになってしまった。 

 久しぶりの自宅で、久しぶりの家での食事は嬉しかった。
 母は私の好きなものを用意してくれていた。フレンチトーストだ。
 そしてこのフレンチトーストで、ナイフとフォークが使えないことを私は知った。 
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