女30歳、脳梗塞、左半身不自由になりまして

ゆるり

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3章

3-1 急性期病院入院生活前半~トイレは毎回覚悟~

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 ある日、私のベッドに療法士の男性が私の手の動きを診に来たことがあった。
 ベッドに仰向け状態でぼーっとした視界で私はその療法士の男性に言われた通りに手を動かした。手の平を広げたり握ったり、そんなことをした。 

 「動かせているけど普通に動かせない状態」だったのだが、身体を動かせていると思っていた私は何をやっているのかよくわからなかった。 

 そして、明らかに喋るスピードは遅かった。
 舌はまわっていなかった。
 喋るのが遅いのは明らかで自分でも驚くほどだった。「普通に喋る」ことが出来なかったのだ。 

 そんな状況でも私は「今だけだろう。いっときしたら良くなるのだろう」と思っていた。軽く考えていた。 

 少し身体を動かせるようになってもベッドから起き上がれない状況はいっとき続いた。
 ベッドから起き上がれない状態で何より不自由だったのはトイレだった。 
 ベッドから起き上がれないから、トイレに行きたくなったらどうするのだろうと思っていたのだが、どうするのかわかった時はかなりびっくりした。
 トイレに行きたくなりブザーで看護師さんを呼ぶと、看護師さんが洗面器のようなものを持ってきて私のベッドの布団をめくり、ベッドに仰向け状態の私の股下あたりにそれを置いて「ここでしてください」と言った。
 私はびっくりした。 

 ベッドに仰向け状態で私は天井を見上げ、 

 「ここでするの?!」 

 「でも嫌とか言ってる場合じゃない」 

 「我慢し続けることなんて出来ない」 

 「でも・・・ここでするの・・・?・・・・・・本当に?」 

 そんなことが頭の中を巡った。 

 そして、「恥は捨てないといけない」と覚悟した。 

 ベッドから身体を起こせない間、トイレに行きたくなる時は「覚悟の時」だった。
 1度でも3度でも何度でも恥ずかしいのは恥ずかしい。毎回覚悟を決めるのだった。 

 親切な看護師さんの場合は、トイレットペーパーを何重かに巻いたものを股にはさんでくれたが、そうじゃない人は洗面器を股下に置くだけだった。
 「同じ女性なら、ベッドに仰向けの状態でおしっこをすればどうなるかは予想出来るだろうに・・・」と思っていたが、あまり喋られない私は喋る気力体力なんてないので私は黙っておしっこをした。

 当然その後ベッドのシーツを替えるハメになっていた。
 起き上がれない私の身体でベッドのシーツを替えるのは容易ではなかった。
 看護師さんの指示のもと、ベッドの片側へ身を寄せ、身体の空いた側のシーツをまずは替え、そして替えた側に今度は身を寄せ、やはり身体の空いた側のシーツを替えるという器用なことをしていた。
 トイレ問題の唯一の救いは、「大」を催すことがなかったことだ。吐いていたからだろうか・・・ 

 

 当然お風呂も入れないので、毎朝身体を拭くタオルを看護師さんが持ってきてくれていたので、それで身体を拭いていた。
 夏じゃなくてよかったと思った。
 病院だから室温は保たれているが、夏じゃないからそんなに汗をかいたりもしないし身体がベタベタしたりすることもなかった。 

 入院中は水色と白と黒のストライプの病衣を着て過ごした。
 上着は前開きで腰より上あたりのところの左右に紐がついていて、それぞれ紐で結んで前を閉じるようになっていた。
 半身が不自由なので、「紐で結ぶ」という動作がなかなか出来ず「合わせてパチンと留める金具のボタンのようなもので留めるだけならいいのに」と何度も思った。
 この動作だけで「ふぅ・・・」という感じだった。
 下は一般的なゴムのズボンだったのでこれを履くのはあまり問題なかった。
 身体を拭く時はこの病衣を着替える時で、私にとっては大変な作業の時だった。 

 病衣はそのような感じで毎日替えてもらえるので、毎日お風呂に入れない身体としては清潔な気がしたし、洗濯もしなくていいのでよかった。 

 お風呂に入れない期間は実際は長くはなかったのだが、実感としてはものすごく長く感じた。
 顔も身体もタオルで拭いていたし、気になった時は顔を拭くシートのようなもので拭いていた(顔用のウェットティッシュのようなものを母に頼み買ってきてもらっていたが、アルコールなので肌には良くなかっただろうが、この時はそこまでのことは考えてはいなかった)が、髪を洗うことは出来なかったので頭がかゆかった。 

 

 徐々にではあるが、モノを食べられるようにもなってきて、私はリハビリをするようにもなった。 
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