届かぬ温もり

HARUKA

文字の大きさ
3 / 26

3

しおりを挟む

その声は、かつての優しさがどこかに消えてしまったように響いた。

「玲央……どうしてここに?」私は冷たく答えるしかなかった。

彼の姿を目の前にすると、あの日々が鮮明に蘇ってくる。

幸せだったはずのあの頃、彼の笑顔にすべてを捧げた私が、今ではこんなにも遠く感じてしまう。

玲央は少し躊躇いながらも、少しだけその距離を縮めた。目を合わせることなく、言葉を続けた。

「お前がどうしているのか気になって……」

その言葉に、私は心の中で深くため息をついた。彼がどうしてそんな言葉を口にできるのか。

あんなにも一緒に過ごしてきたのに、あの日、あの瞬間に何が変わったのか。それが分からない。

「気にしないで。もう、私はあなたのことを気にしていない。」

私は冷たく言い放った。

玲央はその言葉に痛みを感じたようで、目を閉じた。あの日の記憶がよみがえり、何もかもがまだ終わっていないような錯覚に襲われる。

「凛花……」

その名前を呼ぶ彼の声には、懐かしさと切なさが混じっている。だけど、それはもう私のものではない。

「あなたはもう私の知らない人。」

私の言葉が冷たい刃のように彼を突き刺すのを感じた。

彼は何も言わず、しばらく黙っていた。私の目を見つめながら、まるでこれから何かを言おうとするようだったが、結局、何も口にできなかった。

そのままの静寂が、私たちの間に広がる。

私はその場を立ち去ろうとしたが、玲央が何かを決意したように歩み寄った。

「待って、凛花。俺はまだ、お前を……」

その言葉に、胸の奥が痛くなる。
思い出したくもない過去が蘇ってきた。

もうあの頃になって戻りたくない。
あんなに辛かった日々には二度と戻りたくない。

だけど、心のどこかで玲央の声がまだ引っかかっている。

「今さら会いに来たりするのだろうか?」

その言葉が頭の中をぐるぐる回る。
桜子さんと上手くいっていないのだろうか?

でも、それは関係ない。

私はもう、あんな風に傷つきたくはない。
でも、どうしてこんなに気になるんだろう?

電話を切った後、ふと昔のことを思い出していた。彼と初めて出会った日、彼の笑顔がどれほど温かかったか。

あの頃の私は、まだ若くて、愛されることが当たり前だと思っていた。

でも、気づけばすべてが壊れていた。

過去を思い出したくもない。

でも、あの電話の後、どうしてもあの時の感情が蘇ってくる。

怒りと、悲しみと、そして……未だに消えないわずかな期待感。

もしかしたら、今でも玲央には何かが残っているのかもしれない、そんな気がしてならない。

でも、そんな自分が許せなかった。

これ以上は絶対に踏み込んではいけない。
そう思っても、心のどこかではまだ、彼を求めている自分がいることに気づいてしまう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。

Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。 休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。 てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。 互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。 仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。 しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった─── ※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』 の、主人公達の前世の物語となります。 こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。 ❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

処理中です...