届かぬ温もり

HARUKA

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あの日、彼女の横で夫が笑った瞬間、私はすべてを失う覚悟を決めたんだと思う。

でも、その笑顔が誰のためのものかなんて、知りたくなかった。

波の音が、ここでの毎朝の癒やし。
今年で28歳になる葉月凛花。

離婚した夫を忘れられると思っていたけど、簡単にはいかない。だからこそ、私はこの地方の海辺のカフェを選んだ。

「生まれ育った場所から離れたい」それが理由だった。

離れるのは辛かった。妹の夕梨とは、特に。
それでも、私は元夫の月島 玲央からも遠ざかりたかった。

「二度と会うことはない」

そう誓ったあの日、私は辛い恋愛はもうしないと決めた。

夕梨は何度も言った。

「玲央より良い男なんてたくさんいるよ」

「お姉ちゃんはいい女なんだから、自信持ちなさい」

でも、夕梨の言葉が嬉しい反面、私はどこか自分に自信を持てなかった。

湊君とはサーフィンを通じて仲良くなった。彼はいつも私を褒めてくれる

彼はまだ若い23歳なのに大人の貫禄がある。

「凛花さん、今日もカフェにいます?」

「いるよ。今日は裏で事務仕事してるけど、可愛い美結ちゃんもいるよ。」

「いや、俺は美結さんは興味ないっす。」

「またまた~、お似合いだよ。」

「何度も言ってるじゃないですか。俺は凛花さんがドストライクだって。」

「お世辞はいいよ、湊君。私、7つも年上だし、そんなに可愛くないよ。」

「俺、お世辞言うの苦手なんですよ。本気っす。」

笑いながら聞き流そうとするけど、湊君の言葉には不思議な力がある。

湊君やスタッフと楽しく仕事をする日々は、私にとって救いだった。

過去の苦しい結婚生活から少しずつ解放されている気がしていたから。

今日もカフェの鍵を開け、シャッターを上げる。海風が気持ちいい。

「葉月さん、おはようございます!」

「おはよう、今日もよろしくね。」

いつものように裏で作業を始め、オーダーを通した。

今はこの場所で新たな一歩を進み出している。

カフェの窓際に座り、湊君が手を振る。
最近は彼が来るのが日課になっている。

彼の笑顔を見るたびに、心の奥が少しずつ軽くなっていくのを感じる。

「湊君、いつもありがとうね。忙しいのにここに来てくれるなんて。」

「凛花さんがいるからですよ。」

湊君はおどけて笑うが、その目には嘘がない。
けれど、その安らぎの時間は長くは続かなかった。

ある日、カフェのドアが開き、見覚えのあるスーツ姿の男が入ってきた。

「玲央」

心臓が跳ね上がる音が聞こえた気がした。ここで彼に会うなんて、想像すらしていなかった。

「久しぶりだな、凛花。」

玲央は微かに笑みを浮かべ、彼女に歩み寄った。その瞬間、過去の苦い記憶が次々と頭をよぎる。

「あの時、何も言わずに去ったあなたが、どうして今さらここに?」

凛花の声は冷たく、感情を押し殺していた。

「話がしたいんだ。どうしても伝えたいことがある。」

玲央の声には真剣さが滲んでいたが、彼の目の奥には何か隠された感情があるようにも見えた。

「話なんてない。帰って。」

凛花は視線を逸らし、忙しそうに手元の仕事に戻ろうとする。

「俺も、ここでやり直したいんだ。」

玲央の言葉に、凛花の手が止まった。

「やり直す? 今さら何を……。」

冷静さを装おうとするも、心の中は嵐のように揺れ動いていた。

その時、湊君が奥から現れた。

「凛花さん、大丈夫ですか?」

彼は玲央をじっと睨む。

「お前は?」

玲央が湊を見つめる。

「彼女の友人です。」

湊は毅然とした口調で答えた。
二人の間に緊張が走る。

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