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しおりを挟む〈憲司 side〉
奈央は目を覚まさない。新は甥の裕翔と一緒に実家で両親がたまに見ている。
その時は俺も実家に行くが佳奈美の嫌味が止まらない。
「またお兄ちゃんが来たの?」
「俺の子供だよ」
ギロッと睨みつけてくる。
あなたきちんと食べてるの?とお袋が訊いているのに佳奈美が答える。
「食べなくても死にやしないわ。お母さん心配なんて必要ない」
「佳奈美、そこまで言わないでも」
「このバカ兄のせいで奈央ちゃんは·······」
また泣き出した。
「奈央ちゃんを心配してるのね」
「お母さん~」
子供のように泣きじゃくる佳奈美。
俺は溜息しか出ない。
親父の会社でも同僚に食事や飲み会に誘われるがそんな気分ではない。
何度も結婚してると話しても女が寄ってきてうんざりしている。
花のような女に付きまとわれるのは精神的にキツい。引っ越しても現れる。上手くかわして会わないように家に帰るが、そろそろ精神的にも肉体的にも限界がきている。
実家に引っ越して来たいが佳奈美が実家にいる。佳奈美の嫌味もキツいが花よりもましだ。
花と関係なんて持たなければ今頃は新と奈央と暮らせていたのにな。
後悔だけが残る。
こんな父親に新は笑顔を向けてくれる。新は世界で一番可愛い。
「お袋、ここに住んではダメか?」
また佳奈美の地獄耳が······
「ダメに決まってるでしょう! あんな女がこの辺をウロウロするなんて怖いわ。ここには新も祐翔もいるのよ。勘弁してよ」
「今の家も知られて精神的に参ってるんだ」
「知らないわよ。自業自得よ」
「パパに訊いてみたらどう?」
「ダメに決まってるでしょう。この家は私と祐介の物よ。浮気したお兄ちゃんが悪いの」
「家に帰れないと仕事に支障が出るんだよ」
「知らないって言ってるでしょう。うちは無理よ」
「佳奈美、憲司さんが困ってるんだからいいじゃないか」
「また祐介は味方する。うちは無理よ。部屋も余ってないわ」
「俺の部屋があるだろ」
「お兄ちゃんの部屋なんてないの。余ってないの」
「今日は泊まるからな」
また俺を睨みつけながら、リビングのドアをバタンと閉めて大きな音をさせて出ていった。
「憲司さん、すいません」
「大丈夫だから。アイツはいつもそうさから」
祐介君は優しい。佳奈美の我儘にも付き合ってくれる。何より親父の会社を継いでくれる。
良い男と結婚したと思う。
俺は新と一緒にお風呂に入り、新の隣で横になった。奈央の母乳をゴクゴクと飲む姿に泣けてくる。
新はすくすくと成長している。
「新、ごめんな」
俺の言葉に反応するようにバシッと泌乳瓶を叩いた。
「怒ったのか?」
ぷいっと横を向いた。
「お腹一杯になったのか?」
「うーうー」
「話してるのか。可愛いな」
ゲップをさせてから布団に寝かせた。手足をバタバタさせてご機嫌だ。
「新、パパとママが別れてもパパは見守っていくからな」
トントンと背中を擦るとあくびをした。
この時間が俺の最高の癒やしだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今度は王のおっさんが来るのか。
次から次へと変なおっさんばかり連れてくる叔母たち。
今日は新と俺で出勤した。
今日に限って誰も新を見てくれる人がいなかった。
職場が同じ瞳叔母さんに連絡したら病院に連れて来なさいと言われて連れてきたが、、、
新が大変な事になっている。
瞳叔母さんに抱かれて、新もERにいる。
破天荒ぶりはERの看護師も岡本先生を筆頭に医師は知っているので驚かないが、医療現場に新生児がいていいのだろか?
雑菌や血痕で感染症にならないだろうか?
「叔母さん、ERに新を連れてくるのはまずいよ」
「大丈夫よ。休憩室なら」
「そういう問題じゃなくて、、、」
「患者には近づけないから。樹が診るのよ。わかってんの!」
「叔父さんはいないの?」
「あいにく今日は誰もいないのよ。康史かキヨちゃんが来たら預けるから」
「キヨちゃんとこうじ? 誰?」
「私が信頼してる人たちよ。婦長のキヨちゃんとこうじは外科の伊藤康史よ」
「え! 伊藤先生? 知り合いなの?」
「知り合いね~ そうかしらね」
「付き合ってる?」
「お子様に話してもわからないでしょう」
「俺、成人男子」
「30にもならない男はガキよ」
「伊藤先生とは大人の関係ってこと?」
「さ~ね~」
瞳叔母さんはいわゆるスタイル抜群の美魔女だ。お袋とも年齢が離れているが40代だ。
伊藤先生と付き合ってるのか。院内のイケメンで確かまだ30代の独身だ。
そこに手をつけてる叔母はすごい。お袋も言っていたな。瞳はあんな感じだけどモテるのよと。
伊藤先生を手懐けるなんてな。看護師たちから悲鳴が聞こえてきそうだ。
「伊藤先生と付き合ってるなら海外に行けないんじゃない?」
「そうね。日本を拠点とする事にしたの。お義兄さんもここで働いていいって言うしね。下のオーガニックカフェも好調だからね」
「え? あそこのカフェを経営してるの叔母さんなの?」
「そうよ。久子ちゃんと始めたの」
「えーーーー」
「声が大きいわよ」
「声も大きくなるよ。いつの間に?」
「奈央が倒れてからね」
「早すぎるだろ」
「樹、行動はすぐ起こさないとよ」
「わかっているけどさ、」
「わかってないじゃない」
「伊藤先生と結婚するの?」
「まだわからないわ。康史次第ね」
「え? するの?」
俺の頭は情報がありすぎて処理しきれなくなった。いつの間に伊藤先生と付き合って結婚まで行くんだ?
ありえないだろ。
叔母さんは新をベビーカーに入れて足で揺らしながら大きなピザを食べている。
そして、俺にあ~んと口開けてと子供のような扱いで休憩室は笑いに変わった。
新も楽しいのかキャッキャッしている。
叔母さんがいると場が明るくなるんだよな。
ERの医師も看護師も瞳叔母さんの周りで楽しそうにしてる。叔母さんと俺が忙しい時は子持ちの看護師がオムツを変えたり、ミルクを飲ませてくれている。
そこにキヨちゃんと伊藤先生が来た。
瞳~と呼びつけにした。
俺は驚いて伊藤先生の顔をじっと見た。
伊藤先生は叔母さんのケツに手をおいてラブラブ光線を送っている。
ERの看護師たちは知っているようでお似合いと話している。
俺は内心穏やかじゃない。叔母をいやらしい目で見る男、、、、複雑すぎる。
叔母さんは海外生活も長いせいか、伊藤先生にハグをしてキスをした。
え! マジか、、、
お袋も親父も知ってんだろうか?
今にも始めそうな叔母さんの色気に俺はドキッとした。ERの姿や普段の叔母さんを知ってるだけにギャップ萌ってやつかもしれないな。
あんなイケメンをゲットするってすごいな。
叔母さんはキヨちゃんと言われる婦長に新を渡していた。
俺も一応挨拶をしておく。
「どうも、甥の桜井 樹です」
「どうも、お話しは伺ってます」
キヨちゃんこと池上婦長は俺もよく知ってるので挨拶だけした。
「伊藤先生は叔母と付き合ってるんですか?」
「付き合ってるよ」
「本気なんですか?」
「本気も何も俺が猛アタックしたんだよ」
「年上ですよ」
「知ってるよ」
「気にならないんですか?」
「ならないよ。あんな良い女はいないよ。甥っ子に言うのも何なんだけどな。結婚が出来たらいいな」
「え!!! 結婚?」
結婚、、、、俺は驚きのあまり言葉が出なくなった。
そこに叔母さんが来た。
「樹、ちょっと私達は部屋に戻るわね」
「何で?」
「休憩よ」
伊藤先生の顔を見るとまたエロい顔して叔母を見てる。
「わかった」
じゃあね~と手を振りながらトップフロアー専用エレベーターに二人で消えていった。
叔母の恋愛観もついていけないな。
俺は新に会いに小児科のプレイルームに向かった。
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