壊された結婚 〜幸せの道はどこにある〜

HARUKA

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姉貴は目を覚まさない。
4ヶ月間も眠ったままだ。

だが、姉貴の病室にはいつも誰かがいる。今日は憲司さん家族が来ている。

憲司さんの妹の佳奈美さんは泣きながら謝っている。

この2人は年齢が同じで話しが合うようで、よくお茶や買い物に行っていた。


「奈央ちゃん、お見舞いが遅れてごめんね。あ合わせる顔がなくて······グスッン···グスッン····· こんな事になるなんてね。お兄ちゃんから話しは訊いたよ。目覚めたら話そうね。私は奈央ちゃんの味方よ。両親もね。新君、抱っこさせてね」

「佳奈美さん、姉貴はわかってますよ。佳奈美さんとは気が合うと言ってましたから」

「ありがとう。樹君。大人になったね」

「イヤイヤ、前から大人ですよ」
「姉貴と3つしか変わらないですよ」

「そうだったね。顔が若いから」

「そうですかね。ハハハハ」

「新です。抱っこしてください」

「可愛いね。奈央ちゃんに似てる」

「佳奈美、パパも抱っこさせてよ」

「お父さんさ、パパって外で言うのやめなよ」

「いいだろ。パパとママで家では呼び合ってんだるだから」

「それは私達が小さい頃の時でしょう。今はお父さんと呼んでるわ」

「いいんだよ。新~ じいじい来たよ。可愛いな」


賢司さんのお父さんは相変わらずで場が和む。こんな温厚な人が憲司さん殴ったとは思えない。


「裕翔(ゆうと)と遊べるな」

「そうね。裕翔と遊べるね。今度連れてくるからね。裕翔は3歳だからお兄ちゃんだね。樹君、今度連れてきていいかな?」

「いいですよ。実家の方でも構いませんよ」

「ありがとう」


色々あったが、憲司さんの家族とうちの家族は仲が良い。

憲司さんがな·····

その憲司さんが浮気相手の女にストーカー行為にあってるらしいと佳奈美さんが教えてくれた。

佳奈美さん自業自得よと言っていた。憲司さんがどうして浮気したのかも訊いた。憲司さんがいけないが、女が普通でない事はわかる。

佳奈美さんは罠に引っかかったのね。バカな兄と他人事のように文句を言っているのがおかしくて笑ってしまった。

憲司さんも厄介な女に手を出したな。
浮気は許せないが、罠にハメられたんだろ。

女は怖いねと佳奈美さんと話していた。

憲司さんのお父さんが仕方なく弁護士に頼んだそうだが、どうなるんだろうな。

何か展開があったら連絡をしてくれると言ってくれた。また心強い味方が増えたな。

佳奈美さんの話しからすると姉貴だと思って抱いたなのなら、お酒に睡眠薬?とかあるかもしれないな。

恭弥さんに話すべきか悩むな。
とりあえず、お袋には話しておくか。

事実を伝えて離婚するかしないかは姉貴次第だからな。

俺は新が可愛くてたまらない。
憲司さんの浮気なんてどうでもよくなってるのが本音。

この世に新が生まれてくれた事が嬉しい。

実家では和室でたまに一緒に寝る。夜泣きもするが、俺が抱いてミルクをやると泣き止む。

あー可愛い、可愛い。
それしか言う事がない。

お袋も年だから、夜泣きはキツいそうだ。

そうだろうな。2人も育てまた孫を育てなければいけない。相当キツい生活だ。

お袋の手助けはしていきたい。

翌日、恭弥さんが連絡があった。


「どうしたんですか?」

「奈央の病室にリュック姿のおばさんとスーツ姿のおじさんたちが来てるんだけど、リュックのおばさんは奈央の叔母と言ってる」

「え! もしかして日焼けしてる?」

「あぁ、サングラスしてる」

「それ、久子叔母さんだ。親父の妹。たまに海外を放浪しに行っちゃうだ。叔父さんたちは多分、親父の従弟たちだな。久子叔母さんは祖母の会社を継いでるんだ」

「そうなのか。わかった。いきなり来たから確認の為に電話した」

「親父か叔父さんに行くように伝えておくから」

「わかった」

「久子叔母さんか、大丈夫かな? 叔母さんは独身で俺達を溺愛している。俺達も叔母さんが好きだ」

「親父ーーーー!!! 」

「何だ!」

「久子叔母さんが姉貴の見舞いに来てるって」

「何だと! それはマズいな」

「何がマズいの」

「いや、、浮気と知ったらな」

「それは俺が昨日話した事を言えばいいだろ」

「恭弥君もいるのか?」

「いる」

「じゃあ、余計な事を言うなと伝えて。今から兄貴と行ってくるから。お母さん、大変だよ。久子が日本に帰ってきてる」

「そうなの! あなたは今から行くの? 私も一緒の方がいいわよね?」

「その方がいいが、クリニックを休むのは無理だろ」

「午後からにしてもらうわ。樹は夜勤?」

「そうだけど、何で?」

「あなたも新も行くわよ。いい? 余計な事は言わない」

「わかったよ。叔母さんに何か問題あるの?」

「少しね、荒っぽい所があるから。お父さんも手に負えない時があってね」

「へえーそんな感じには見えないよ」

「あなた達は可愛がってもらってるからね。うちの瞳とは気が合うんだけどね」

「瞳叔母さんはぶっ飛んでるだろ。よく紛争地域に行くよな。医師としては尊敬するけどな」

「瞳と似てるわね。久子さんは医師じゃないけどね。ビジネスの天才ね」

お袋と親父はソワソワしながら用意をして、みんなで出掛けた。

新はベイビーシートに乗ってご機嫌だ。

俺達は片桐病院に着いた。
急いで病室に行くと叔母さんがいた。

黒く日焼けしてる場違いな叔母さん。


「久子! 急にどうしたんだよ」

「兄さん達が教えてくれないからでしょう」

「お前が騒ぐからだろ」

「騒ぐに決まってるわ。奈央がどうしてこんな事になるのよ」

「落ち着けって!」

「お前たちも来たのか?」


親父の従弟たちが座っていた。ビシッとした高そうなスーツ身を包んだ叔父さんたちが2人いた。

祖母の妹たちの子供だ。

祖母の実家は不動産会社だ。名前も知れている光谷不動産だ。

そこのトップに久子叔母さんと従弟たちで動かしている。

叔母さんは若い頃からITにハマっていて、今は自作のプログラミングやセキュリティにハッキングもこなす天才だ。

ビジネスの才能もある。
すごい叔母なのだ。

騒いでいたが、新を見たら泣きながら抱きしめてきた。


「叔母さん、俺も抱きしめてるって」

「いいのよ。樹もまだ子供なんだから。オムツ替えたのよ」

「イヤイヤ、いつの話しよ。新を抱っこしてやって」


抱っこ紐から新を出した。
新のお決まりスマイルで叔母さんは笑顔になった。

親父はほっとしていた。
そこに義之叔父さんが入ってきた。


「久子! 連絡しろと言ったよな?」

「義之兄さんの連絡が遅いから来たの」

「あのな、俺はたまに手術もしてるんだよ。すぐに返せないよ」

「私はもっと仕事してるわよ」

「わかったから。急に来るのはやめろよ」

「和夫も慎之介も来てたのか!」

「来てるも何も教えろ。俺達にも何か出来るだろ」

「悪い。奈央の事で忘れてたよ」


また騒がしい病室になった。

親父と叔父さんは目配せをして、詳しくは叔母さんに言うなと合図をしていた。

知ったらすぐに相手の女を追い込むのがわかっていたからだ。

桜井家と光谷家の会議になった。

こんな時にビールを飲んでる久子叔母さん。相変わらず、何を考えてるのかわらない。

端の方で恭弥さんがあっけに取られてる。恭弥さんに説明をした。


「1人目のぶっ飛んる叔母です。もう1人います」


笑いを堪えてる恭弥さんに俺は笑ってしまった。


「問題は2人揃ったら危険なんです」

「それはすごいな。会いたいな」

「久子叔母さんと瞳叔母さんは仲が良いから多分ここに来ますよ」

「姉貴は喜んでそうですけどね」


亜佑美姉も蒼汰兄も苦笑いで入ってきますよ。見てて下さい。


「久子叔母さんは何が問題なんだ」

「少し荒っぽいんですよ。蒼汰兄がイジメではないですが、子供あるあるで仲間外れされたと言ったら殴り込みに行ったり、亜由美姉と姉貴の時はしつこい男を撃退したりと昔からすごいんです。親父たちは小さい頃から迷惑掛けられてると言っていますね。でも、光谷不動産のトップなんですよ。あんな格好でもね」

ブッハハハハッ

「あんな格好は余計だろ。カッコいい叔母さんじゃないか。奈央のお父さんたちは旦那とは穏便に別れさせたいんだろ。浮気相手の女の情報だけ叔母さんに言えばいい」

「イヤイヤ、そんな事したら怖いですよ。あの叔母さん、ハッキングもするんですよ。犯罪だから警察や国家関係に頼まれた時だけですけどね」

「怖いな。奈央は守られるな」

「恭弥さんも気をつけて下さいね」

「気をつけるよ」


叔母さんには詳しい事は告げずに帰って行った。親父たちは一息ついていた。


「兄さん、久子に知らせたら早く言ってくれよ」

「悪い。俺もバタバタしていて」

「奈央の問題は奈央に決めさせたい」

「俺も同じ考えだ。だが、浮気相手の女は訴えないとだろ」

「それはそうするつもりで探偵に頼んで調べた。でも、浮気の証拠がない」

「そうか、そこだよな。証拠がないと困るよな」

「そこは久子叔母さんの出番じゃないの? 監視カメラとか見てもらえば? 警察関係に知り合いいるでしょう?」

「樹、久子が入ると面倒なる。蒼汰の時も大変だったんだ。それが一度や二度じゃないんだよ。姪と甥を可愛がってくれるのは嬉しいがな」

「兄さん、どうする? 日本にいるなら調べると思うぞ。何となく察してるよな」

「俺もそう感じた」

「お袋の会社を継いでるだけあるよな。不動産会社なんて俺には継げないよ」

「俺も無理だな。研究職が合ってる」

「まずは浮気相手の女の方は俺達で訴えてもいいだろ」

「証拠があれば俺はそうしたい」

「だな。まずは証拠集めしよう。それから憲司君の事は考えよう」

「兄さん、憲司君は時間があれば新に会いに来てるんだよ。反省はしてるよ」

「その話しは訊いたよ。奈央がこんな事になってるんだ。反省してくてれないと困る。恵美子さんは何て言ってる?」

「同じ考えだ。奈央に決めさせる。新の父は憲司君だから責任はある。だから、面倒は少しは見てもらないと話してるよ。みんなが子育てを手伝ってくれてるから、俺達家族も何とか出来てる。さすがにこの年で夜鳴きのミルクはキツいな。孫は可愛いけどな」

「そうだな。孫の面倒を夜中まで見るのはキツいな。博之はよくやってる。奈央がこのままでも俺達も新の手伝いはするからな」

「ありがとう。兄さん」


姉貴のストレッチや寝ながらリハビリ運動は恭弥さんがやってくれている。

うちの家族がみんな仕事の時は新は病室で恭弥さん家族が見てくれている。

仕事が終わり次第、家族の誰かが新を迎えに行く。

最初は大変だったが慣れてきた。
もう4ヶ月も経つな。

新も4ヶ月だな。
こんなに重くなって笑顔もカワイイな。

ほっぺをツンツンとする。

いつもの新の笑顔。ニッコリスマイル。
癒やしだな。

新? 姉貴はいつになったら目を覚ますのだろな。

早く会いたいな。
ママと公園にも行きたいだろ。

樹おじさんだよ。
た、た、た、

ぎゃっぎゃっ、

そうだ上手だよ。
さすが俺の甥だな。

実家に着くと憲司さんが居た。


「樹、憲司君がお待ちよ」

「どうも。」

「どうも。久しぶりだね」

「そうですね」


ハッキリ言って話す事がない。


「新は元気に育ってますよ。検診でも異常はないです」

「そうですか。よかったです」


憲司さんはまた痩せたな。ストーカーがつきまとってのかな?


「痩せました?」

「少し痩せたかな。お義母さんにビタミンの点滴をたまにしてもらってるよ」

「そうですか」


新はパパとわかるのかニコニコして手足を動かしている。


「新、どうした? 嬉しいのか? ここの所、引っ越しで忙しかったんだ。来れなくてごめんな。今日は本を読むか」

「あーーうーーー」

「そうか、読んでほしいのか」

「憲司さん、引っ越したんですか?」

「つい最近ね。前の会社も辞めて親父会社に移ったんだ。ここにも近いから、新にすぐに会いに来れる。奈央の荷物も運んだんだ。俺と居たくないと言われたら、こちらに送る」

「そうですか。色々と大変ですね」

「この前、佳奈美が行ったんだろ?」

「はい、来ました。憲司さんの事を話して行きましたよ」

「そうか。もしかして、全部訊いたの?」

「はい、訊きましたよ。思ったんですけど、薬を盛られたってことないですか?」

「わからないんだ。俺も飲みすぎていたのは事実だから。俺が誘った訳ではないんだよ。家に上げたのは俺だからな」

「そうですか。とんでもない女だと佳奈美さんは言ってましたよ。気をつけたほうがいいですよ」

「家の前にも何度か来てな。困ってたんだよ。動画も撮ったから、また会社や家に来たら訴える予定だよ」

「その動画を見せてもらえます?」


憲司さんから見せてもらった動画は想像を超えた。ドアをバンバン叩いて叫んでる。憲司さんは帰ってくれと何度も言ってるが、帰らないと叫んでいる。

別の日にも家の前にいる。

また別の日もあの女が居たから、憲司さんは家に帰らなかったんだろう。

廊下からスマホだけ出して動画を撮っている。


「これはマジで怖い。え! これはストーカーですよ」

「そうだよな。俺も怖くて実家にしばらく居たんだよ」

「どうしたの?」


そこにお袋が来た。


「憲司さんと浮気した女性がストーカーになってる。憲司さんに薬を盛ったんじゃないかってな」

「ちょっと見せて」


お袋も見だした。


「うぁ、怖い! ホラーじゃない。危ない女よ。何でこんな女に手を出したの」

「奈央と勘違いしたんです。家に上げたのも出張先で部屋に入れたのも俺です。俺が悪いです。ですが、彼女を誘ってはないです」

「そうね。部屋に入れるのは良くない。でも、薬を盛った可能性はあるわね。過去にもしてるんじゃない?」

「わかりません。昔の彼女はこんなんではないです」

「そうなの。あなたと結婚したいんじゃないの? だから執着するね。子供も欲しかったのかもしれない。気をつけなさい。しばらくは実家に居たほうが安全よ」

「引っ越しはしました。奈央の荷物も運びました」

「そうだったのね。目が覚めたら荷物はどうするのか奈央に訊くわ」

「はい、お願いします。僕はもう一度だけチャンスがほしいです。会わせて頂けませんか?

「目が覚めてから奈央に訊くわね」

「わかりました」

「それまでは新と会ってあげて。あなたがパパなんだから」

「はい、沢山愛情を注ぎます」


恭弥さん推しの俺だけど、憲司さんも良い奴なんじゃないかと思い始めてる。

決めるのは姉貴だ。俺ではない。

姉貴は相当ショックだったんだろうか。
4ヶ月だぞ。全く目覚める気配がない。

たまに目や足が動くが、それだけだ。
恭弥さんはいつも姉貴の側に寄り添っている。

声は届いてるといいんだけどな。

恭弥さんは来週からアメリカに帰るそうだ。2週間くらいで帰ってくると言ってるが、俺は心細い。

俺の中では兄貴の位置だったからな。
新も懐いて恭弥さんを見ると喜んでいる。

恭弥さんも可愛がっている。


「寂しいな新。恭弥さんがアメリカに行くんだって。俺達も行くか?」

「おいおい、樹君! 一生の別れじゃないんだから。すぐ帰ってくるよ。新君は待っててくれるよな?」

ニッコリ笑う新。

「よし、みんなを宜しくな。奈央に変化があったらいつでもいいから電話をくれ」

「はい、連絡します」


それから恭弥さんはアメリカに旅立った。

いつも居た人がいないと寂しい。
姉貴もそう言ってる気がした。

恭弥さんがいなくても誰かいる病室だ。
今日は久子叔母さんが来ていた。


「樹! あんたは何で言わない!」

「何を?」

「奈央がこうなった事を!」

「言えば騒ぐだろ」

「騒いで何が悪いの?」

「姉貴の意見を訊いてからとなってるんだ。旦那さんも反省してるし、多分女にハメられた」

「浮気は浮気でしょう! 女の方は調べはついてるから。奈央の家の辺りをウロウロしてる。
ストーカーね。監視カメラからの写真はあるわ。奈央の旦那は引っ越したみたいだけど、女はまだ知らないからね」

「は? 監視カメラ?」

「警察関係を使ったから大丈夫よ」

「大丈夫じゃないだろ」

「大丈夫よ。違法じゃないわ」

「とりあえず女の家は歴史だか何だか知らないけど、花を切ってさすだけでしょう。私には縁ない世界。花は山の中に咲いてる自然がいいわ。向こうは高坂流華道の家元さんみたいだから慰謝料と奈央の状況では多額を貰う予定。優秀な弁護士に頼んだから。後は私がやるわ」

「ちょっと待ってよ。親父に言ったのか?」

「博之兄さんに言うわけないわよ。あの2人のボンボンに何か出来るのよ」

「叔母さんもお嬢様でしょう」

「ハハハハハハッ 私がお嬢様はないわ。あの2人には無理よ」

「叔母さん穏便にな。俺達は心配だよ」

「旦那の方は一度会ってみるから」

「イヤ、それは親父いる時にして。叔母さんが入ると面倒な事になりそうだよ」

「何を言ってるのよ! 4ヶ月も経ってるの! 奈央の仇よ」

「仇って、そんなの姉貴は望んないよ」

「いいのよ。任せておきなさい」


面倒くさい事になった。
とりあえず蒼汰兄にメールしておこう。

久子叔母さんは何する気だ。
もしかして、、、家に行く気か? 

嫌な予感しかしない····

翌日、久子叔母さんにみんな呼ばれた。

病室に行くと知らないおじさんがいた。

そこにまたリュックを背負ってバンダナを巻いた瞳叔母さんが登場した。

冬に入ろうかという季節にタンクトップで現れる。

お袋は頭を抑えている。


「瞳! 帰ってるなら言いなさいよ」

「お姉ちゃん、久子ちゃんから聞いてね。今日は透視が出来る方が来るって言うから会いたくてね。奈央も心配だから」

「透視!!!!」


家族全員が声を合わせた。


「久子! 訊いてないぞ」

「兄さん達に言うわけないでしょう。この方は未解決事件も解決してる人なのよ。個人では受けないけど、今日は特別に頼んだのよ」

「久子ちゃん! やるわね! 」

「瞳ちゃんならわかってくれると思ったわ」


親父たちは諦めてソファに座った。

俺も蒼汰兄、亜由美姉も慣れているから、黙って見ている。

久子叔母さんの交流関係は広い。

そして、久子叔母さんと瞳叔母さんは独身で気が合うのだろう。2人は常に連絡取り合っては海外でも会っている。

2人は透視の方と話し始めている。

興味はあるが、どうも怪しい。
本当に見えるのか?

親父達もコソコソとまたかと愚痴っている。
恭弥さんがいなくてよかった。

病院で透視するなんて訊いた事が無いよ。

おじさんは50代くらいでラフな格好だ。
そして、姉貴の手を握り始めた。

おじさんの名前は宗像さんと言い、残留物や人を触ると犯人の顔や犯行行為やどうやってこの場所に来たのかが事細かく見えるんだそう。姉貴が今どうのように考えているのかもわかると話している。

親父たちは呆れて何も言わない。
蒼汰兄と俺は興味が出てきて、側で見る事にした。

「蒼汰兄、マジだと思うか?」

「結果を見てからだな」


宗像さんは始めますと声を掛けてから、透視を始めた。

宗像さんの顔が歪んでいる。
可哀想に·····とポツリと言う。

それから30分は続いた。


宗像さんは証拠は奈央さんが動画で撮ってます。奈央さんの暗証番号はと話し出した。


「奈央さんはこの女性については知っていたようです。家にも会いに来ています。旦那さんは興味はないようです。ですが、この女性は大学時代からお付き合いがあり、同じ職場の同じ課で働いています。一緒に働き出してから別れてます。女性の実家は華道の家元で婿養子を探していた事、性格の不一致。これが原因で別れています。この女性は旦那さんと別れてからも旦那さんを忘れられなくて、旦那さんと復縁を狙っていました。奈央さんに旦那さんには女がいるようにわざと呼び出したり、家に行ったりしてますね。香水を何度も身体に吹きかけてるのが見えます。奈央さんは気づいていて、部屋で悲しんでいます。女性は奈央さんに元カノの同僚で出張で何かあった事を匂わせますね。腕時計を渡しました」


俺も蒼汰兄も驚いている。
知らない事実をスラスラと話し出す。


「奈央さんは街で2人が歩いてる所も見かけています。この時に浮気を確信していますが、奈央さんは旦那さんを愛していました。とても傷ついて道で座り込んでるのが見えます。可哀想です。1人で調べてますね。すべて知っていたようです。実家に帰った日もその女性と会うと旦那さんのメールでわかっていたようです。もしかしてと急いで家に向かいました。それからはスマホで動画を回してます。2人を殴りつけて出ています。エレベーターの中で703室に住んでいる女性に助けを求めて、旦那さんには救急車に乗せないでと伝えています。その時に離婚をすると決めたそうです。今も彼女は目を覚ましたくないと強く思ってます。旦那さんと浮気相手がまだ続いてると思うと辛いそうです」


お袋、久子叔母、瞳叔母、亜由美姉が泣き出した。


「奈央さんはあと2ヶ月は眠り続けます。私も子供が無事だと伝えました。あとですね、旦那さんはこの女性に気をつけないといけません。彼女は彼の子供を欲しがっています。睡眠薬を常に持ち歩いています。浮気行為があった時は睡眠薬は使いませんでしたが、旦那さんはお酒に酔い奈央さんと言われて気づかなったのでしょう。奈央さんの家に入れたのは相手の女性が泥酔していて仕方なかったようですが、これも演技です。僕は見えたものを伝えてるだけです。あとはみなさんでお考えください」

「兄さん、奈央のスマホはどこ?」

「家にある」

「それを私に貸して。訴えるから」

「久子さん、この家を訴えるのは慎重にして下さい」

「何故です?」

「色んな力を使おうとする方と見えます。歴史のある家だけに裏の方々との繋がりもありそうです。よく姿が見えないですが、表に出てこない人々ですね。久子さんのご先祖と近い仕事ですが、もっと悪よりな方々です。僕が弁護士は紹介します。彼は裏も表も知りつく特殊な人間なので、そういった人間でないと面倒な事になります。そして、この女性は新しい新居も知っています。旦那さんはどこに引っ越しても同じです」

「わかったわ。その辺りの事なら和夫に任せたらいいわ」

「奈央さんは深く傷つきまだ涙を流しています。時折、片桐さん声を訊いて昔の事を思い出していますね。その時はとてもよい笑顔をしています。大学時代にお付き合いしていようです。彼がアメリカに行かれて別れたと見えます」


このおっさん本当に見えんてのかよ!

お袋はやっぱりと言う顔をしてるが、親父は鈍いのかわかってない。


「奈央さんはあと少しでいいから考えたいと思ってます。まだ悲しみが残ってます。旦那とは別れたいと決めているが、気持ちの整理がつかず別れたくない気持もあり、わからなくなってる。まだ眠っていたいと伝わってきます」

「そうですか。宗像さんありがとうございます。まずは女性の方から訴えます」

「いえ、私は見えた事だけを伝えています。死には向かわないようと言いましたので、目が覚めないと言う事はありません。少しお待ち下さい」


宗像さんが帰ってから、お袋と叔母さんたちは姉貴のスマホを取りに行った。


「証拠があるんなて憲司さんも話していなかった事があのおっさんに解るなんてな」


蒼汰兄がボソッと言う。


「久子叔母さんの交流関係に驚かされるわよね。破天荒だよな」


ハハハハハと笑い出す蒼汰兄。


「瞳叔母さんも破天荒だよ。この時期にタンクトップだよ」

「瞳さんらしいじゃない」

「らしいけど、いつも場違いなんだよ」

「桜井家が普通じゃないだろ。親父も叔父さんも」

「そうだな。まともだと本人達は思ってるけどな」

「だな」


数時間、瞳叔母さんと久子叔母さんたちの集合がかかった。

また家族で集まっている。

さっきも集まってただろうと言いたいが、この2人はせっかちで行動力もある。

そして、多分だが、蒼汰兄も亜由美姉も気づいてる。叔母たちが着てるTシャツに。

新の写真を加工したTシャツだ。

俺は目が点になっているが、親父たちは気づいていない。

蒼汰兄を見ると笑いを堪えている。
だよな。俺の見間違いじゃない。

そこに久子叔母さんがTシャツをドンっとテーブルに出す。

親父が


「久子、何だこれ!」


叔父さんも


「また変なの作ったのか」

「またって、誰かのも作ってるのか?」


叔父さんは


「亜由美の時も作ってただろ」


亜由美姉を見ると苦笑いしてる。


「マジか! 」


蒼汰兄は


「叔母さん、また作ってるの」

「カワイイでしょう。デザイン頑張っちゃったわ。うちの会社のロゴにしようかしら」


瞳叔母さんとキャッキャ言いながら話してるが、他の家族は呆れている。


「久子、スマホはどうした?」

「あったわよ」

「本当に見えてたんだな」

「見えてるに決まってるでしょう」


親父は面倒くさそうにしている。


「暗証番号も言われたとおりだった」


それからみんなで動画を見た。

おっさんの言うとおりのままで、二人が裸でベッドにいる所から、奈央の怒る声、殴る、救急車に乗せられるそままの声が撮れていた。映像は乱れていたが憲司さんが呼ぶ声も聞こえていた。女性は旦那は救急車に乗せないでと言っていた。

お袋が泣き出した。
俺も悲しくて新を抱きしめた。

久子叔母さんはだから目を覚まさないのねと言う。

さっきの新のTシャツの時とは打って変わって、シーンとお通夜のようになった。

何てこった。康太兄はボソっと言う。

亜由美姉も泣き出す。

久子叔母さんと瞳叔母さんたちはやるしかないと気合いを入れてる。

あのおっさんが紹介してくれた弁護士に電話を掛けに行った。

久子叔母さんはすぐに戻ってきて、自分のタブレットに奈央の動画を送った。そして、女の顔を怖い顔で見ている。

そこに恭弥さん家族が新のTシャツを着て入ってきた。

後ろから紗子さんが笑っている。
すぐに場違いとわかって笑顔が消えたが、


「あれ? 片桐さんそれ着ちゃったの?」


親父が間抜けな質問をして、一斉に家族が恭弥さんのお父さんを見て、蒼汰兄が吹き出した。

ブッハハハハハ

俺も亜由美姉、紗子さんも爆笑した。

久子叔母さんはさっきの怖い顔から、
笑顔で似合ってるわと嬉しそうだ。

瞳叔母さんも一緒にキャッキャしてる姿を見て紗子さんも輪に入っていく。

気が合いそうだと思ったが、そのとおりだった。

それから恭弥さんのお父さんと紗子さんも動画を見て、紗子さんも泣き出した。

恭弥さんのお父さんも協力すると医師の結束が固まった。

そこに場違いな紗子さんの旦那の翼さんが、

紗子、これさと言いながら入ってきたが、
場の異常な雰囲気を察知してお辞儀した。

手には新Tシャツを持っていた。

久子叔母さんをチラッと見ると、また恐ろしい顔で動画を見ている。

蒼汰兄は小さな声で、


「多分、久子叔母さんは始めてるぞ」

「始めてる?」

「相手の実家を叩いてんだよ。不動産屋のプロだぞ」

「え! 女じゃなくて、家も奪うのか?」

「全部だろ。調べてるよ。きっと」

「あんなTシャツ作ってるのに?」

「オーガニックコットンらしいぞ」

「何だよ、その情報」


その横では久子叔母さん、瞳叔母さん、紗子さんで盛り上がっている。

親父たちに翼さんはTシャツを着ろと言われて、親父たちの手前、仕方なくTシャツを着ている。

恭弥さんのお父さんも変わり者で新Tシャツを孫でもない関係ない子供のを着ている。恭弥さんが帰ってきたら、驚くだろうな。

いつものように姉貴の部屋は騒がしい。
笑いもたえない。

姉貴さえ目を覚ましてくれたらな。
俺は新にキスをした。

いつもの新スマイルに俺は胸がキュンキュンする。俺のカワイイ息子。

カワイイ、カワイイとハグする。

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