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しおりを挟む憲司さんと会った後に親父に電話をして、子供の名前を新(あらた)にした。
出生届は親父が出した。
家族はやっとホッとしたが、姉貴はまだ目を覚まさない。
その間も憲司さんは病院に来ているそうだ。
お袋は子供に会わせてもいいじゃないかと言ってくるが、俺と親父は奈央の伝言を尊重したい。
目覚めてから姉貴が決めればいいと思っている。
親父も同じだ。
新の面倒を見るのは大変だ。お袋、俺、亜由美姉と叔父さんの奥さんの陽子叔母さんも手伝ってくれている。
母乳は亜由美姉が姉貴の乳から飲ませたり、吸引した母乳を俺たちで飲ませている。
甥っ子は可愛くて、俺も笑顔になる。
新米の医者でERにいる俺は心が折れそうになっているが、新を抱くと頑張ろうと言う気持ちなる。
「新、樹叔父さんだよ。姉貴は大丈夫だからな。姉貴に何かあったら俺が守るな」
新はまだ目が見えてないのに俺の顔をじっと見てニコっと笑ってくれた。
亜由美姉にも子供がいるのに姉貴を愚痴も言わずに面倒を見てくれている。
亜由美姉の旦那さんは製薬会社の御曹司だ。
子供たちもう中学生だしね。大丈夫よなんて言ってくれる。
蒼汰兄もたまに顔を見せてくてる。
蒼汰兄はこの病院を引き継ぐのが決まってるので多忙な生活を送っている。
蒼汰兄の所はまだ子供がいないせいか、新を可愛がってくれる。
何かあったら俺が面倒見るなんて言ってくるが、俺が見ると言い張っている。
新は姉貴に似て可愛いんだ。俺の小さい頃にも似ている。
亜由美姉はいつも姉貴の胸に新をおいて話し掛けている。俺も真似をしてやっている。
「姉貴、そろそろ目を覚ませ。新が待ってるぞ」
新は手をグーにしてニコっと笑う。
可愛い、可愛い、親バカになるのがわかる。お袋と親父の可愛がりは異常だけどな。
新ちゃーんと入ってくるお袋。
俺もこんな風に育てられたんだろうか?
「お袋、キスするなよ」
「しませんよ。私を誰だと思ってるのよ」
「あなたのオムツを替えてたのよ」
「今日も新ちゃんは可愛いわね」
「お母さん、次は僕でしょう」
「お父さん、手を洗ったの?」
「僕を誰だと思ってるんだよ」
「新、おじいちゃんだよ」
そこに叔父さんが入ってきた。
「博之、来てたのか?」
「兄さんも来たのか?」
「新、義之叔父さんだよ。可愛いな。孫を思い出すな」
叔父さんが新に触ろうした瞬間に親父が、
「兄さん、手を洗ってよ」
「おい、俺を誰だと思ってたんだよ」
医者たちが同じ事を言い合っている。
新の取り合いを見ながら亜由美姉と俺は苦笑いをしている。
姉貴の部屋は毎日賑やかだが、姉貴は眠ったままだ。
可愛い新はすくすく育っているが、
姉貴はまだ目を覚まさない。
あれから2ヶ月もの月日が経った。
新はより一層可愛くなる。
俺は少しの休憩でも新を抱きにくる。
俺にも子供が出来たら、こんな感じなのかな。
姉貴と俺の小さい頃に似てるから、自分の子供みたいな感覚になる。
姉貴の世話は身内しかさせていない。
亜由美姉が希望した。
ミルクの時間も事細かに買いてあるから助かる。表を見ながら新のミルクとオムツの確認をする。
2ヶ月目になるとオムツ替えも上達した。
抱っこ紐デビューもしてゲップをさせて寝かせるのも慣れた。
憲司さんがやるんだっただろうと思うと心は痛むが浮気はありえない。
新に何て説明するんだよ。
お袋は病院に来ている憲司さんに新の事は説明しているらしい。医師だから相手に寄り添う感情もあるのかもしれないな。
親父と俺は許せないと言っている。男と女の感情は違うのだろう。
俺は新の面倒を見るのが楽しい。たまに実家に新がいる時は公園に行く。
日向ぼっこをしながら新と過ごすのが日課になっている。
本当は姉貴とこうやって過ごしていただろうにな。
俺は新をギュッと抱きしめた。
俺達家族はやっと赤ちゃんのいる生活に慣れていった。
亜由美姉も多忙なのに笑顔で姉貴の世話をずっとしてくれている。
俺も姉貴も小さい頃もこうやって亜由美姉にくっついてはよく遊んでくれていたな。
そこに珍しく亜由美姉の旦那さんの柊生(しゅうせい)さんが現れた。
「亜由美、奈央ちゃんは?」
「まだ目を覚まさないわ」
「亜由美は大丈夫か?」
「私は大丈夫よ。奈央は妹だからね」
この2人も周りが見るくらいの美男美女だ。
「樹君、君も身体は大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。柊生さんも新を抱いて下さい」
「いいのか? 赤ちゃんなんて久しぶりだな」
「子供たちを思い出すな」
「そうよね。もう中学校だからね。新は可愛いわよ」
「可愛いな。奈央ちゃんに似てるな」
「俺の小さい頃に似てるんですよ」
「奈央ちゃんも樹君も似てるからね」
「亜由美、赤ちゃんいいな」
「何よ」
「何も言ってないだろ」
「また欲しいな」
「もう無理よ」
「無理じゃないだろ」
亜由美姉と柊生さんの甘いトークが始まった。いつもの事だから気にしていない。
亜由美姉の所も終生さんの一目惚れで結婚したカップル。姉貴と同じなんだけどな。柊生さんは浮気は絶対にしない。
亜由美姉の美貌に勝てる女はいないだろな。主婦業も完璧で姉貴の面倒まで見てくれる。
こんな出来た嫁はないと思う。
新を挟みながら終生さんは子供を作りたいと亜由美姉に迫ってる。
姉貴の部屋は面白い。
「亜由美姉、今日は帰って子作りしたら?」
「樹! 子供はうるさいわよ。だから柊生にはここに来てほしくなかったのよ」
柊生さんは新を可愛いと言いながら抱きしめていた。
そして、終生さんが口を開いた。
「この前、出張でアメリカに行ったんだ。
そこで脳外科医で片桐 恭弥という医師がいてね。片桐君に奈央ちゃんを見てもらえるように頼んだ。日本での手術が入っているからその時に診てくれる。脳外科では若手のホープで手術は1年待ちなんだ」
俺と亜由美姉は目を合わせた。
「柊生、奈央の名前を言ったの?」
「イヤ、言ってないが、経緯は話したよ」
「そう。柊生には話すけど、奈央の元カレよ」
「えーーーー! そうなのか!」
「すごい偶然だな。確かに病院名を出した時は顔が険しくなった気がしたな」
「それはそうでしょう。向こうが振ったんだから」
「俺、余計な事をしたな。奈央ちゃんが心配でついな」
「終生ありがとう。わかってるから」
「終生さんありがとう。俺も恭弥さんの事は頭にあったんです。蒼汰兄も同じです。
診てくれるなら俺は診てもらいたい。姉貴には早く新と会ってほしいから」
「わかった。俺の方でスケジュールを決めるから」
「ありがとうございます」
ここで恭弥さんが出てくると思わなかったな。原因がわかるといいんだけどな。
アメリカの技術で何とかならないだろうか。
終生さんは子供達を実家に迎えに行くからと帰っていった。
「亜由美姉、母乳のストックはあるんだろ?」
「あるわよ」
「それならもう帰って。家族でたまには過ごして。俺が姉貴を見るから」
「大丈夫なの? 」
「大丈夫だよ。ここには蒼汰兄も叔父さんもいるから」
「わかった。樹、ありがとう」
「子作りしてあげてね」
バカ!と言われながら、頭を叩かれた。
俺はミルクを新に飲ませて、ゲップさせて新生児用の抱っこ紐の入れて、院内をウロウロしていた。
そこに俺に色目を使ってくる看護師が来た。
「桜井先生、どうも、ご苦労様です」
「桜井先生のお子さんですか?」
「そうだよ。2ヶ月前に生まれたんだ」
「ご結婚はされてないですよね?」
「してないけど、子供が居たらダメ?」
「ダメではないですけど、、、、」
「俺はこれで」
諦めてくれるといいんだけどな。上目遣いの男を狙ってる女は嫌いだ。姉貴の事は俺達の身内と長年働いている看護師主任とERの岡本先生しかしらない。
俺にとっては新は女避けになって都合がいい。わざとベビーカーや抱っこ紐でうろつく。
今は女はいならい。面倒くさいからだ。姉貴と同じでストーカーにも悩まさてた事があって遊びで抱くのはやめている。
セフレというか付き合ったり戻ったりしている幼馴染の穂乃花(ほのか)がいるから、それでいい。
お互いに時間がある時にやるの都合がいい。
穂乃花も姉貴の事は心配している。
穂乃花はフォトグラファーで世界を旅行しながら、日本やニューヨークで展示会をするくらい有名だ。
穂乃花の写真は惹かれる物がある。
今はほとんど会えないが、それが俺達にはちょうど良い。
俺はもっと医者の技術を磨かないといけない。
新が手をグーにして眠りついた。
可愛いな。
俺は笑顔になる。
姉貴の病室はいつも騒がしい。
医大時代の友人たちが来ている。
姉貴の友人たちも美男美女が多い。
医師が集まると医療について話し合っている。
御曹司や令嬢が集まれば訊いた事もない治療法が出てくる。
姉貴の人柄だろうな。良い友人が集まってる。
俺は1番仲が良かった麗子さんに恭弥さんの事を話した。
麗子さんは顔を曇らせたが、あの人だったら出来るかもと言ってくれた。
麗子さんは恭弥さんに対しては良く思っていない。アメリカに連れていけばよかったのだと怒っている。
姉貴を誰よりも知ってるからこその意見なんだろうな。
俺もそう思っている。姉貴なら恭弥さんを支える事が出来ただろう。
姉貴に片思いをしている蓮さん。漣さんは今も好きなんだろうな。姉貴の髪をとかしながら涙ぐんていた。
浮気現場を見た事はみんな知っている。
蓮さんは誰よりも怒っている。
俺はその気持ちだけで嬉しい。
新はここでも人気だ。
麗子さんも子供がいるから赤ちゃんの扱いが上手い。俺へのダメだしもキツい。
蓮さんも嬉しそうに抱いているが、麗子さんのダメだしにみんなで笑っている。
姉貴には聞こえてるんだろうか?
楽しいぞ、早く目を覚ませ。
麗子さんも時間がある時は新の子育てに参加してくれるとお袋に話していた。
姉貴の友人たちは楽しい人ばかりだ。
亜由美姉も来てくれた。
来週、恭弥さんが姉貴を診てくれる。
終生さんは姉貴の名前を伝えたそうだ。
憲司さんにはに申し訳ない気持ちもあるが、姉貴が目を覚ましてくれるならという気持ちが強い。
もしかしたら、恭弥さんの声聞けば·····
良からぬ思いもある。
そして、恭弥さんと対面の日が来た。
俺はソワソワしている。
恭弥さんが結婚しているのかも気になる所だ。
両親は姉貴と恭弥さんと付き合っていた事は知らない。
そこにドアを叩く音が聞こえる。
トントン
「どうぞ」
終生さんと恭弥さんが入ってきた。
恭弥さんは相変わらずのイケメンで大人の魅力が更に増していた。
スリーピースのスーツがカッコいい。
男の俺が見惚れてしまった。
薬指に指輪はなかった。
恭弥さんは一瞬なっと呼ぼうとしていたが、西村さんと言い直した。
お袋が新をだっこして恭弥さんの側に行くと、恭弥さんは笑顔で新に挨拶していた。
「片桐先生、はじめまして西村奈央の母です。私も医師ですが、脳外科ではありません」
「そうでしたか。うちの片桐総合病院には最先端の医療機材が揃っているので、検査の間はうちの病院に移ってもいいでしょうか?」
「検査はしていますが、どこにも異常はないんです」
「もっと詳しく見たいと思います」
「わかりました」
恭弥さんは姉貴をじっと見つめていた。
「それではこちらですべて手配します」
「ありがとうございます」
両親も俺も深くお辞儀をした。
恭弥さんは姉貴と何か話したいようだったが、その場を去っていった。
こんな形で元カレと再開か。
その日、俺は夜勤の日だった。
夜中に患者が途切れたから少しだけ新を見に行った。
ドアを開けようとしたら、誰かがいる。
姉貴に何か話しをしている。
「奈央、どうしたんだよ。幸せだったんじゃないのか? 新君は可愛いぞ。お前の姿を見たら後悔した。あの時アメリカに連れて行っていたら、こんな事にならなかったもかもな。旦那の浮気を目撃するなんてな。俺ならしないよ。奈央、目を覚ませ。現実を見るのが怖いか? 俺がいるよ」
恭弥さんが姉貴に話しかけていた。
きっと誰もいない時を狙って会いに来たのだろう。
「奈央、俺はずっと忘れられなかった。
結婚したと訊いて荒れたよ。仕事ではミスするしな。俺らしくないなんて言われたよ。俺らしくないって何だよな。奈央なら笑って恭弥は恭弥よって言ってくれるよな。奈央だけだったな。俺を見てくれてたのは。実はな、見合いの話しがあるんだ。奈央がこんな状態でなければ受けてたな。お相手は医療機器を扱う会社のお嬢さんだ。一度見た事があるがメイクは濃い、服装も派手で俺のタイプじゃないよ。顔も微妙だしな。奈央に敵う女なんていないよな。久しぶりなのに俺ばかり話してる。奈央、起きてくれ。話しがしたい。奈央.......今も愛してる......」
恭弥さんは姉貴をしばらくの間、抱きしめていた。それから、涙を拭いて病室を去っていった。
俺は自動販売機の裏に隠れて恭弥さんの後ろ姿を眺めていた。
翌日、恭弥さんは姉貴を迎えにきた。
救急車で片桐総合病院に運ばれた。
奈央と新の面倒は引き続き家族でやると決めている。恭弥さんにも亜由美姉から伝えている。
恭弥さんの妹さんは産婦人科医なので、奈央と新の健康診断はやってくれるとのことだ。
恭弥さんは何から何まで完璧だな。
これでは憲司さんは勝てないだろ。
憲司さんは会えないのに病院に来てはお袋から姉貴と新の事を訊いて行くのが日課になっているそうだ。
お袋も相手の女性の事は訊いていない。
家族の話し合いで離婚は奈央が目覚めてから判断を委ねる事にした。
弁護士には既に話はしてある。
憲司さんのご家族には親父が話をしている。
憲司さんの両親には罪はないということで新に会わせている。ご両親は涙ながらに姉貴に謝っていた。
憲司さんのご両親も新を可愛がってくれている。新もいつものニッコリスマイルで愛嬌を振りまいている。
どこの親も同じだが、イケオジと言われてそうな感じの憲司さんのお義父さんはずっと抱っこしている。憲司さんのお義母さんと取り合っている。
「パパ、抱きすぎよ」
「ママはさっきずっと抱いてただろ」
「パパはずるいわね」
俺も亜由美姉も苦笑いするしかなかった。
赤ちゃんは人を笑顔にさせるな。
姉貴はいつも通りで機械の音と共に眠っている。
それから、片桐病院の特別室に移された。
恭弥さんの妹さんと亜由美姉は話し合いしている。
恭弥さんの妹さんは同じ医師の男性と結婚してるそうだ。旦那さんは外科だからあまり関係ないが、挨拶に来てくれていた。
これから姉貴の検査が始まる。
原因がわかるといいのだが、このままでは新が可哀想だ。
母親に抱かれて笑顔が見たい。
俺もお袋も母親の代わりにはなれない。
恭弥さんはお袋がいなくなると姉貴を愛おしそうに見ている。
時折、姉貴の顔を触って妹さんに肘で突かれいる。
妹さんも知ってるのだろうか?
このまま寝たきりだと脚も弱ってしまうからと妹の紗子(さえこ)さんが足のストレッチ始めてくれるそうだ。
きっと恭弥さんが頼んだのだろう。
俺もERに戻らないといけない。
恭弥さんと紗子さんにお礼を言って仕事に戻った。
次の日から姉貴はあらゆる最先端の検査を受けたが、異常がなかった。
親父が恭弥さんから説明を受けた。
家族は溜息をつく·····
このまま目を覚まさなかった場合も考えないといけない。
新は誰が見るのか?
俺が引き取って世話をしたいが、現実は見習いの医者が子育で出来る時間はない。
かと言って、憲司さんが引き取れば不倫女が新の世話をするかもしれない。
不安は募るばかりだ。
俺は久しぶりの休みだったから、夕方から新に会いに行った。
ドアを開けると恭弥さんと紗子さんがいた。
「樹君、新君に会いに来たのか?」
紗子さんに抱っこされていた。
「新君は可愛いよね。私もそろそろ子供作ろうかなって」
「紗子さんは新婚さんなんですか?」
「そう。結婚して1年かな」
「そうなんですね。紗子さんは姉貴と恭弥さんの事は知ってるんですか?」
「えぇ、知ってるわ。何度か会った事もあるのよ。お兄ちゃんがヘタレだったのよ」
「ヘタレですか」
「アメリカで苦労させると思う気持ちもわかるけど、奈央ちゃんが行きたいと言ってたなら連れていけばこんな事にはならなかったかも。そうなると可愛い新君は生まれなかったわね。複雑よね。それで奈央ちゃんの旦那さんは?」
「浮気相手とどうなってるのは知らないですが、姉貴と新の事はお袋に訊いてるみたいです」
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恭弥さんが振り向いてきた。
「お兄ちゃんはあの派手女と結婚すればいいわよ。天罰よ」
「俺はしないよ。タイプじゃないよ。お袋も嫌がってたじゃないか」
「ママは嫌いと言ってたけど、病院に来るじゃない」
「やめてくれと言ってるだけどな」
「恭弥さんはお見合いしたんですか?」
「見合いはしてないよ。向こうが一方的にだな。俺は奈央しか愛せないよ。俺が新君も奈央も面倒を見るよ」
「あの女はどうするのよ」
「どうするも話してもないぞ」
「パパにハッキリ言わないと。好きな人がいるって」
「親父には言ってるよ」
「そう。私はあの人と結婚するなら式は出ないから」
「しないって言ってるだろ」
「あとね、奈央ちゃんの脚をいやらしく触らないでよ」
「いやらしくじゃなくてリハビリしてんだろ。弟の前で変な事を言うなよ」
「どうだか」
「どうだかじゃなくて、やらしい事をするはずないだろ。奈央は患者だよ」
「ふ~ん、変な噂が立たないようにしてね」
「紗子、いいに加減にしろよ」
「あっ、翼からだ。お兄ちゃん、樹君、またね。旦那とラブラブしてくるね」
「早く行けよ」
「お兄ちゃん、キスなんてしないでよ」
「するかよ。行けよ!」
「紗子さんって面白いですね」
「面白いか? 普通だろ」
「俺は2人は感謝してます。こうやって個室に入れてもらってリハビリも新のオモチャも用意してもらって、ありがとうございます」
「いいんだよ。俺がしたいだけだから。新君も奈央に似て可愛いしな。このまま目を覚まさないとしても俺が面倒を見るから。一度、奈央の両親と話そうと思ってる」
「恭弥さんがそこまでする必要はないですよ。姉貴と新の面倒は俺も出来ます」
「樹君はまだ若いだろ。結婚だってするだろう」
「結婚はわかりません」
「そう言ってるのは今だけだよ。一度ご両親とは話すから」
「わかりました。両親に伝えておきます」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
〈片桐 恭弥 side〉
奈央だったなんてな。
アメリカでたまに会っていた高瀬製薬社長の柊生さん。
柊生さんと飲んでいる時に柊生さんの奥さんの親戚でどこにも異常がないのに意識不明で寝たきりになってる女性の話しを聞いた。
その女性は臨月の身重の身体で旦那さんと浮気相手の行為を見てしまったそうだ。
子供は無事に生まれたが、その女性が目を覚まさない。脳に異常があるかもしてないから診てほしいと頼まれた。
目覚めないと言う話しは訊いた事はあったが、実際には会った事がなかったから興味が湧いた。
日本で手術の予約も入っていたし、これはチャンスだと引き受けた。
実家の病院なら完璧な検査が受けられる。
柊生さんには女性の名前だけ訊いて日本に行く事になる。
メールや電話でやり取りを頻繁にしていた。そして、メールに西村 奈央と書かれていた。
奈央? 名字が違うしな。でも、結婚してたはずだ。
まさか、奈央な訳ないだろ。
柊生さんの事も奈央と付き合っていた頃には訊いた事がない。
実家は美容整形のクリニックだったずだ。
きっと違う。
俺は日本に向かった。
実家に着いて一息ついているとふっと奈央との写真を見たくなった。
俺も若いが奈央は輝いていた。
性格もよくて友達に囲まれていた奈央。
元気にしてるかな?
幸せでいてくれるならそれでいい。
俺が手を離してしまったのだから。
奈央が結婚した時は荒れたな。
寄ってくる女は抱いていた。
女医のジェニファーとは身体の相性もあって抱きたい時に抱いていた。
ジェニファーとは長くセフレの状態だったが、俺に忘れられない女がいるのを知た後すぐに結婚した。
旦那も医師だと教えてくれた。
その話しを訊いても俺は悲しくもなかった。
それくらい奈央の結婚はショックだった。
奈央をアメリカに連れてくればよかったと悔やんだが、医大を卒業してすぐにアメリカで俺の世話をさせるのは気が引けた。
家には寝に帰るだけだ。
こんな生活で奈央を連れて来ていたら、奈央に苦労をかけただろう。
頭でわかっているが、奈央を忘れられない。
ジェニファーと別れてすぐに出会ったアメリカの会社で働いている日本人の理沙を抱いていた。
理沙とも身体だけだ。
奈央の結婚を頭から追い出す為に腰を振る。
理沙の顔なんて見ていない。
「奈央·····奈央·····愛してる」
理沙も寝言で奈央と呼んでる事に嫌気が差して去っていった。
好きになろうと努力はしたんだけどな。
やっぱり·····奈央じゃないと満たされない。
身体の相性もよかった奈央。
アルバムを見ながら俺のモノが勃つのを見て、奈央しかいないと改めて思うのだった。
俺は奈央とのセックスを思い出しながら、手をモノに当て動かして欲望を吐き捨てた。
ハァー 30も超えた男が1人でやるってるなんて高校生かよ。滑稽だな。
俺は患者との対面に備えてベッドに入った。
翌日、柊生さんと待ち合わせをして病室に向かった。
病室は特別室で看護師も入れないようにしてある。
部屋の中に入り、患者を見た瞬間に鼓動が激しくなった。
奈央·······
俺は叫びそうになったが、家族の手前、堪えた。
奈央、どうした?
何でこんな事に·····
柊生さんの奥さんの亜由美さんが説明をしてくれたが、何も頭に入ってこなかった。
弟の樹君とは面識があった。一応、挨拶はした。
樹君が抱っこ紐で奈央の子供を抱っこしている。
子供は無事だと聞いていたが、念の為に診察した。問題なくてほっとした。
俺は樹君と話しがしたくて、樹君に時間を取ってもらった。
俺と別れてからと結婚相手の事を教えてくれた。何と言っていいのかわからなくなった。
樹君は奈央をアメリカに連れていって欲しかったと言ってきた。俺と付き合っていた頃の奈央は輝いていたと話してくれた。
今思えば研修医で休みがない時でも家にご飯を作りに来てくれていた。冷蔵庫にも沢山の作り置きがしてあったな。
俺はまた後悔した。
樹君は旦那とは離婚をして欲しいが、奈央はどうするのかはわらないと話していた。
そうだよな。子供いるしな。
簡単な話しではない。
樹君は俺と会っていた頃は高校生だったはずだ。こんなに大人なったんだな。
樹君と病院を移った後の検査の話しと奈央の子供の新君についても話し合った。
俺は奈央の世話は出来る限りしようと思っていた。
奈央はうちの片桐病院に移った。
奈央の家族は大変そうだったが、俺の親父もお袋も紗子も協力してくれた。
特に新君は太陽のようで、何の関係もない両親も可愛がった。
親父が赤ちゃんをあやしている顔が笑いを誘う。紗子もキモっと言いながら苦笑い。
紗子も早く子供を作れとセクハラ発言も多い親父。
奈央は眠ったままだが、病室は明るい。
新君のおかげだな。
子供ってこんなに可愛かったんだな。
奈央の子供だからだな。
検査もすべて終えた俺は時間があれば奈央に話し掛けに病室に行った。
脚のストレッチをしたり、目の動きを確かめたりとあらゆる事をしてた。
奈央の脚は相変わらず細くて綺麗だ。
やらしい気持ちは起きないが、昔を思い出してしまう。
新君は奈央の実家に行ったり、ここで誰かが面倒を見ている。
俺も樹君からミルクの後のゲップのさせ方、オムツの替え方、泣き方の説明と教わった。
樹君は完璧にこなしている。
アイドルのような顔をして子供をあやす姿はCMに出れるんじゃないと思う。
そして、紗子の監視はウザい。
奈央にストレッチをさせているだけなのに、グチグチと言ってくる。
ハァー この妹を何とかしれくれと翼君に言うが、新君と遊んで訊いていない。
これくらいじゃないと紗子とは付き合えないだろ。
奈央はいつになったら目を覚ますのだろう?
新君の声は聞こえてるか?
目を覚ました奈央に会いたい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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