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勘違い令息からの婚約破棄
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その日は突然やってきた。
「メイユイ・エジップシャン、私と君との婚約を破棄したい」
「……え?」
本当に、それは突然だった。
賑わう学園主催のパーティー会場で、その言葉を発したのは間違いなく、自分の婚約者であるルーカス・シャルトルーズ侯爵令息。
そして婚約破棄を言い渡されたわたくしは、メイユイ・エジップシャン。伯爵家の長子である。
婚約者の傍らには何故か、わたくしの義妹のメイレッタが居ります。
その表情は何かに怯えるように強張っていて、わたくしと同じチョークブルーの瞳に水膜を張らせています。
んー…。この状況、予想が付いた気がしますわ。
「ルーカス様。婚約破棄の理由をお伺いしてもよろしくて?」
「勿論だ。メイユイ、君は義妹であるメイレッタに毎日のように虐めをしていたと聞いた。聞くに耐えない醜聞なものばかり。そんな女性と誰が結婚したいと思うんだ」
「まあ。……因みに、そのお噂は何方からお聞きしたのでしょうか。メイレッタがその話をしたのですか?」
「彼女は何も言っていない!だが分かるだろう、君は周りは義妹を貶めようとする女だと知れ渡っているぞ」
全っ然知らないお話、ありがとうございます。
どうやらどこかで噂を流している者が居るらしいですね。
本来ならこんな状況を作った義妹を疑うべきですが…。
「お、おねえさ…っ」
「見ろ!君を目の前にしてこんなに怯えているではないか!可哀想なメイレッタ…、これからは私が支えてあげるからもう恐ろしい目には合わせないよ」
いや話最後まで聞けよ。
震えるメイレッタの瞳がじっとわたくしを見る。
そこには憎しみやそれらの負の感情はありません。
いえ、ある筈が無いのです。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」
会場全体に響いたと言っても過言ではない程、声を張り上げた令嬢が一人。周りは巻き込まれたくないのか、引き潮のように彼女とわたくし達への道を切り開いている。
「どうしてメイレッタなのよ!!ルーカス様の恋人になるのはわたしでしょう!!?」
此処でまた新たな頭痛の種がやってきました。
わたくしは扇で口元を隠し、はぁ、と長めの溜息を吐いた。
肩程の長さのあるコスモス色の髪を緩く巻いて、片方だけリボン型のバレッタを付けている令嬢。
ルーカス様と同じ金色…黄色と表現した方が正しいそれを身に着けているのは、リーファ・クラレット男爵令嬢。それこそ最近巷で噂の絶えないご令嬢です。
寧ろ賑わせてくれているレベルです。
彼女の噂ですが、なんでも高爵位の殿方ばかりに擦り寄り、ことごとく撃沈している鋼の精神の持ち主だとか。
噂は噂ですが、実際学園内で婚約者を探す方は少なくありません。
それに漏れず、リーファ嬢も絶賛婚約者探し中のようです。
しかし何故、ルーカス様のお相手がご自分だと思われたのでしょうか?あの二人に接点はなかった筈ですが…。
「…また君か。私を軽々しく呼ばないでくれと言っただろう」
「でもでも!学園内では、身分は関係ないって…」
「君の解釈などどうでもいいが、仮にその解釈でも何度もやめてくれと言ってる事をしてくる女を好きになると思うかい?」
「う…、でも…」
「はぁ…、話にならない。それに私は今取り込み中なんだ。君の出る幕じゃない」
例の令嬢は唇を強く噛み締め、ルーカス様の隣にいるメイレッタに向けられるのを見ました。
これでは妹に危害が及ぶかもしれない。
……いや、逆かも?
「なんでよ、なんで…っ。あんな女ゲームには出なかった…。わたしはヒロインなのよ…っ」
鬼の形相とはよく言ったものです。
爪を噛むガリ、という音が響いた気がしました。
この状況は芳しくない。
「ルーカス様、一度妹をお返し頂けませんか。このままでは…!」
「何を焦っている?嗚呼、早々に婚約を破棄できない状況を作るつもりだな。そしてまた毎日メイレッタを虐げるのだろう!この悪女……」
パァンッ!!
止める間もなかった。気付いたらそうなっていた。
歯を食い縛り、ルーカスを睨み付けるメイレッタ。そしてその頬を叩いたであろう右手。
ああ…もう。…仮にもわたくし達より上の爵位の方の頬を叩くとは…。
仕方ありませんけどね。
だって。
「おねえさまを悪女呼ばわりするなカスが!!変な噂まで勝手に信じて、私を被害者だって決め付けて私の話を聞かない男なんて嫌いよ!!おねえさまに謝って!」
「え…?か、カス……?メイレ…」
「謝れ!!」
「ぁ、え、…。…す、すまなかった…メイユイ…」
この子、わたくしの事大好きですもの。
怒りで我を忘れてますわね、言葉遣いが普段と違うせいで…ルーカス様のお顔がぽかんとしております。
「レッタ、手を上げては駄目よ。ほら、おいで」
「…!……はい。ルーカス様ごめんなさい。でも二度とおねえさまに近付かないで。言う通り婚約は破棄させるから」
呆然とするルーカス様。
ドレスの裾を踏まないように持ち上げ、わたくしの元に駆け寄って来るメイレッタが、…可愛い!!
「おねーさま!おねぇさまぁあ!怖かったよぉっ!」
「はいはい、泣かないの。折角綺麗にしたお化粧が台無しよ?」
「うう、だってぇ……」
「え?メイレッタはメイユイに虐められてるんじゃ…」
わたくしの腕の中に飛び込んできたレッタを見て、呆然とした状態からようやく復活したらしいルーカス様は、状況を整理しようと懸命に頭を動かしてるみたいですが…。
殴られた衝撃のせいでしょうか?わたくし達を見て尚もその噂を信じているとでも?
「ルーカス様。貴方は何故、レッタが我が家に来たのかご存知なのですか?」
「勿論知っている。早くに両親を亡くし、君の家で引き取ったがメイレッタの方が溺愛されるのをメイユイが妬んで………」
「全っっ然違いますわ」
「……え?」
「レッタは…、レッタは、実の父に虐待されて育ったのです。そのせいで男性の怒声を聞くと、委縮してしまうようになってしまいました。わたくし達はその事実を知り、急いで保護に踏み入ったのです。…先程、貴方はレッタが怯えている事に気付いていましたよね。怯えていたのはわたくしに対してではなく、貴方の怒鳴り声に、です!仮にもレッタの事を慕っていると仰るなら、彼女の事情くらい把握していてください!」
わたくしはレッタを強く抱き締めた。震えるその背を撫でながらも強く。
今更だが、わたくしは義妹の事が大好きだ。
目に入れても…なんてどこかの国にあるような言葉を使えてしまう程可愛がっている。
保護した当初はよそよそしかったレッタも、今はこうしてわたくしの腕に飛び込んでくる程までになった。こんなの、誰だって甘やかしてしまいますわ。
「ルーカス様、婚約破棄の件はお父様にご報告の後シャルトルーズ侯爵にもお伝えします。妹が手を上げてしまった件はこの場にて謝罪させて頂きます。申し訳ございませんでした」
謝罪の意を示す行動を取るも、彼はまだ現実を受け止めきれていない状態だ。
しかし…不思議な事もある。
「メイユイは……虐めてなどいない……?」
「ルーカス様!何故その女なんです!あなたの婚約者になるのはわたしなんですよ!?」
「さっきから君はなんなんだ!私はメイユイと…。…そうだ。あの話は君から持ちかけたんじゃないか。君は私を騙したな!」
おっと。出た新たな証言。どうやら出処はあの令嬢のようです。
これはクラレット男爵にも一報を入れなければいけませんね。
一体何を企んでいるのやら。レッタに危害を加える様な事なら即刻処罰をお願いしなければ。
それは出来れば避けたいし、これではもう楽しめませんね。今日のパーティーはもういいでしょう。
気付けば此方を何度も見てくる方もいらっしゃいますし、その視線が煩わしい。さっさと帰ってレッタとお茶でもしていた方が有意義です。
「レッタ。もう帰ろうと思うのですがどうですか?温かいお茶でも飲んでゆっくりしようと思ってるのですが」
「はい!おねえさまに着いていきます!」
「分かりましたわ。…それでは皆様、ご機嫌よう」
ぽかんとしている大衆。わたくし達を引き留めようとするルーカス様を更に引き留めるクラレット嬢。
なんとも言えないこの空間にいる方が辛い。
わたくしとレッタは会場の戸まで歩き、振り返れば淑女の礼をする。
「わたくし達はこれにて失礼させて頂きます。皆様良い時間をお過ごしください」
そう言って開かれる扉から出ようとすると、まだ諦めていないルーカス様とクラレット嬢の声が響き渡りました。
いい加減にしてくれませんかね。
「ま、待ってくれメイユイ!メイレッタ!」
「ルーカス様!どうしてわたしの話を聞いてくれないんですか!?」
「君はさっきから何なんだ!鬱陶しいにも程があるぞ!」
鬱陶しいのは貴方もです。…とは言わず、わたくしはにこりと笑顔を向け去れば、レッタと手を繋ぎながらエジップシャン家の馬車に乗り込む。
「おねえさま!途中でお茶に合うお菓子でも買って行きません?」
「あら、流石レッタ。いいですね、そうしましょうか」
会場はきっと、まだ混乱の渦で騒がしいことでしょう。
でもそんな事、わたくし達には関係ありませんわ。
「おねえさま、大好きです!」
「わたくしもよ、レッタ」
噂というのは恐ろしいもの。
あのパーティーでの話は貴族間で広まり、クラレット嬢は変わらずも、ルーカス様…シャルトルーズ侯爵令息は肩身の狭い思いをしているのだそうで。
いい気味ですわ。
わたくしは今日も庭園で好きなお茶を嗜んでおります。
勿論、わたくしに満面の笑顔を向けてくれるメイレッタと一緒に。
「メイユイ・エジップシャン、私と君との婚約を破棄したい」
「……え?」
本当に、それは突然だった。
賑わう学園主催のパーティー会場で、その言葉を発したのは間違いなく、自分の婚約者であるルーカス・シャルトルーズ侯爵令息。
そして婚約破棄を言い渡されたわたくしは、メイユイ・エジップシャン。伯爵家の長子である。
婚約者の傍らには何故か、わたくしの義妹のメイレッタが居ります。
その表情は何かに怯えるように強張っていて、わたくしと同じチョークブルーの瞳に水膜を張らせています。
んー…。この状況、予想が付いた気がしますわ。
「ルーカス様。婚約破棄の理由をお伺いしてもよろしくて?」
「勿論だ。メイユイ、君は義妹であるメイレッタに毎日のように虐めをしていたと聞いた。聞くに耐えない醜聞なものばかり。そんな女性と誰が結婚したいと思うんだ」
「まあ。……因みに、そのお噂は何方からお聞きしたのでしょうか。メイレッタがその話をしたのですか?」
「彼女は何も言っていない!だが分かるだろう、君は周りは義妹を貶めようとする女だと知れ渡っているぞ」
全っ然知らないお話、ありがとうございます。
どうやらどこかで噂を流している者が居るらしいですね。
本来ならこんな状況を作った義妹を疑うべきですが…。
「お、おねえさ…っ」
「見ろ!君を目の前にしてこんなに怯えているではないか!可哀想なメイレッタ…、これからは私が支えてあげるからもう恐ろしい目には合わせないよ」
いや話最後まで聞けよ。
震えるメイレッタの瞳がじっとわたくしを見る。
そこには憎しみやそれらの負の感情はありません。
いえ、ある筈が無いのです。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」
会場全体に響いたと言っても過言ではない程、声を張り上げた令嬢が一人。周りは巻き込まれたくないのか、引き潮のように彼女とわたくし達への道を切り開いている。
「どうしてメイレッタなのよ!!ルーカス様の恋人になるのはわたしでしょう!!?」
此処でまた新たな頭痛の種がやってきました。
わたくしは扇で口元を隠し、はぁ、と長めの溜息を吐いた。
肩程の長さのあるコスモス色の髪を緩く巻いて、片方だけリボン型のバレッタを付けている令嬢。
ルーカス様と同じ金色…黄色と表現した方が正しいそれを身に着けているのは、リーファ・クラレット男爵令嬢。それこそ最近巷で噂の絶えないご令嬢です。
寧ろ賑わせてくれているレベルです。
彼女の噂ですが、なんでも高爵位の殿方ばかりに擦り寄り、ことごとく撃沈している鋼の精神の持ち主だとか。
噂は噂ですが、実際学園内で婚約者を探す方は少なくありません。
それに漏れず、リーファ嬢も絶賛婚約者探し中のようです。
しかし何故、ルーカス様のお相手がご自分だと思われたのでしょうか?あの二人に接点はなかった筈ですが…。
「…また君か。私を軽々しく呼ばないでくれと言っただろう」
「でもでも!学園内では、身分は関係ないって…」
「君の解釈などどうでもいいが、仮にその解釈でも何度もやめてくれと言ってる事をしてくる女を好きになると思うかい?」
「う…、でも…」
「はぁ…、話にならない。それに私は今取り込み中なんだ。君の出る幕じゃない」
例の令嬢は唇を強く噛み締め、ルーカス様の隣にいるメイレッタに向けられるのを見ました。
これでは妹に危害が及ぶかもしれない。
……いや、逆かも?
「なんでよ、なんで…っ。あんな女ゲームには出なかった…。わたしはヒロインなのよ…っ」
鬼の形相とはよく言ったものです。
爪を噛むガリ、という音が響いた気がしました。
この状況は芳しくない。
「ルーカス様、一度妹をお返し頂けませんか。このままでは…!」
「何を焦っている?嗚呼、早々に婚約を破棄できない状況を作るつもりだな。そしてまた毎日メイレッタを虐げるのだろう!この悪女……」
パァンッ!!
止める間もなかった。気付いたらそうなっていた。
歯を食い縛り、ルーカスを睨み付けるメイレッタ。そしてその頬を叩いたであろう右手。
ああ…もう。…仮にもわたくし達より上の爵位の方の頬を叩くとは…。
仕方ありませんけどね。
だって。
「おねえさまを悪女呼ばわりするなカスが!!変な噂まで勝手に信じて、私を被害者だって決め付けて私の話を聞かない男なんて嫌いよ!!おねえさまに謝って!」
「え…?か、カス……?メイレ…」
「謝れ!!」
「ぁ、え、…。…す、すまなかった…メイユイ…」
この子、わたくしの事大好きですもの。
怒りで我を忘れてますわね、言葉遣いが普段と違うせいで…ルーカス様のお顔がぽかんとしております。
「レッタ、手を上げては駄目よ。ほら、おいで」
「…!……はい。ルーカス様ごめんなさい。でも二度とおねえさまに近付かないで。言う通り婚約は破棄させるから」
呆然とするルーカス様。
ドレスの裾を踏まないように持ち上げ、わたくしの元に駆け寄って来るメイレッタが、…可愛い!!
「おねーさま!おねぇさまぁあ!怖かったよぉっ!」
「はいはい、泣かないの。折角綺麗にしたお化粧が台無しよ?」
「うう、だってぇ……」
「え?メイレッタはメイユイに虐められてるんじゃ…」
わたくしの腕の中に飛び込んできたレッタを見て、呆然とした状態からようやく復活したらしいルーカス様は、状況を整理しようと懸命に頭を動かしてるみたいですが…。
殴られた衝撃のせいでしょうか?わたくし達を見て尚もその噂を信じているとでも?
「ルーカス様。貴方は何故、レッタが我が家に来たのかご存知なのですか?」
「勿論知っている。早くに両親を亡くし、君の家で引き取ったがメイレッタの方が溺愛されるのをメイユイが妬んで………」
「全っっ然違いますわ」
「……え?」
「レッタは…、レッタは、実の父に虐待されて育ったのです。そのせいで男性の怒声を聞くと、委縮してしまうようになってしまいました。わたくし達はその事実を知り、急いで保護に踏み入ったのです。…先程、貴方はレッタが怯えている事に気付いていましたよね。怯えていたのはわたくしに対してではなく、貴方の怒鳴り声に、です!仮にもレッタの事を慕っていると仰るなら、彼女の事情くらい把握していてください!」
わたくしはレッタを強く抱き締めた。震えるその背を撫でながらも強く。
今更だが、わたくしは義妹の事が大好きだ。
目に入れても…なんてどこかの国にあるような言葉を使えてしまう程可愛がっている。
保護した当初はよそよそしかったレッタも、今はこうしてわたくしの腕に飛び込んでくる程までになった。こんなの、誰だって甘やかしてしまいますわ。
「ルーカス様、婚約破棄の件はお父様にご報告の後シャルトルーズ侯爵にもお伝えします。妹が手を上げてしまった件はこの場にて謝罪させて頂きます。申し訳ございませんでした」
謝罪の意を示す行動を取るも、彼はまだ現実を受け止めきれていない状態だ。
しかし…不思議な事もある。
「メイユイは……虐めてなどいない……?」
「ルーカス様!何故その女なんです!あなたの婚約者になるのはわたしなんですよ!?」
「さっきから君はなんなんだ!私はメイユイと…。…そうだ。あの話は君から持ちかけたんじゃないか。君は私を騙したな!」
おっと。出た新たな証言。どうやら出処はあの令嬢のようです。
これはクラレット男爵にも一報を入れなければいけませんね。
一体何を企んでいるのやら。レッタに危害を加える様な事なら即刻処罰をお願いしなければ。
それは出来れば避けたいし、これではもう楽しめませんね。今日のパーティーはもういいでしょう。
気付けば此方を何度も見てくる方もいらっしゃいますし、その視線が煩わしい。さっさと帰ってレッタとお茶でもしていた方が有意義です。
「レッタ。もう帰ろうと思うのですがどうですか?温かいお茶でも飲んでゆっくりしようと思ってるのですが」
「はい!おねえさまに着いていきます!」
「分かりましたわ。…それでは皆様、ご機嫌よう」
ぽかんとしている大衆。わたくし達を引き留めようとするルーカス様を更に引き留めるクラレット嬢。
なんとも言えないこの空間にいる方が辛い。
わたくしとレッタは会場の戸まで歩き、振り返れば淑女の礼をする。
「わたくし達はこれにて失礼させて頂きます。皆様良い時間をお過ごしください」
そう言って開かれる扉から出ようとすると、まだ諦めていないルーカス様とクラレット嬢の声が響き渡りました。
いい加減にしてくれませんかね。
「ま、待ってくれメイユイ!メイレッタ!」
「ルーカス様!どうしてわたしの話を聞いてくれないんですか!?」
「君はさっきから何なんだ!鬱陶しいにも程があるぞ!」
鬱陶しいのは貴方もです。…とは言わず、わたくしはにこりと笑顔を向け去れば、レッタと手を繋ぎながらエジップシャン家の馬車に乗り込む。
「おねえさま!途中でお茶に合うお菓子でも買って行きません?」
「あら、流石レッタ。いいですね、そうしましょうか」
会場はきっと、まだ混乱の渦で騒がしいことでしょう。
でもそんな事、わたくし達には関係ありませんわ。
「おねえさま、大好きです!」
「わたくしもよ、レッタ」
噂というのは恐ろしいもの。
あのパーティーでの話は貴族間で広まり、クラレット嬢は変わらずも、ルーカス様…シャルトルーズ侯爵令息は肩身の狭い思いをしているのだそうで。
いい気味ですわ。
わたくしは今日も庭園で好きなお茶を嗜んでおります。
勿論、わたくしに満面の笑顔を向けてくれるメイレッタと一緒に。
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