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不破泉と木下美風の場合
勿忘草と銀木犀の夢 3
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偽りがいつか真実になったら、私はどうするのだろうか。
「美風、帰りましょう」
今日も放課後にあの人が迎えに来た。
そう、この間屋上でふざけた事を抜かした、スパティフィラム様が。
最初のうちは周りのクラスメイトに何やかんやと聞かれたが、のらりくらり躱していくうちに、今や日常茶飯事となっていた。
「す…、…泉様、毎日来られなくても…」
「あら、可愛い美風を迎えに来ないなんて。わたくしの楽しみを奪うの?」
その言い方は狡い。どうせ私は流されやすい女ですよ。
私は鞄を持って扉に近付くと、泉様に手を引かれた。それだけで周りの子達は、きゃあと悲鳴にも似た黄色い声を私に浴びせてくる。これが未だに慣れないんだよな…。
そんな事は慣れているのか気にしていないのか。泉様は素知らぬ顔で私を教室から連れ出していく。
学校の外へ出てしまえば、周りはもう気にならなくなっていた。
「…驚きました」
「何が?」
「泉様は…その、寮生ではないんだなと」
「確かに、よく寮生と間違えられるわ。でも実際わたくしは電車も使うし、何なら徒歩だって此処に来れるのよ」
「…ふ、それは遠くないですか?」
思わず笑ってしまう。そんな私の頬を撫で、「やっと笑った」と一言呟かれる。
そんな仕草、勘違いしそうになる。
これは恋人ごっこで、本当の恋人じゃない。私達の間に、恋も愛もない。
何故泉様が私を選んだのか。ただ珍しかっただけだろう、と自己完結する。
誰もいない屋上。ただ一人、そこで泣いてる女の子。それだけ揃えば、あの人にはそれで良かったのだ。
だから私達には、運命的なものは存在しない。
きっと私も、誰でも良かったのだろう。
この穴を埋めてくれるなら。
「それじゃあ此処で」
「はい。今日もありがとうございました」
「ふふ。なあに、それ」
また泉様に笑われてしまった。流石に事務的すぎたか。
私と泉様の改札は反対方向。此処で別れて、また明日が始まる。そして明日もスパティフィラム様の恋人を演じる。ただそれだけ。
目の前で無邪気に笑う彼女は、明日も私の恋人になる。
少しだけ優越感。それくらいは許してほしい。
誰のものにもならなかったスパティフィラム様の恋人が自分だなんて、まだ信じられないもの。
……とは言っても、これは恋人ごっこ。
それ以上にはならない。実際のところ、私はあの人の中で多少は気を許せる程度の相手だと思ってる。…本物の恋人なら、もっと気を許せたのだろうか。
見えない壁が、私と彼女を隔てる。
それは私の壁なのか、それとも彼女のなのか…。
私自身があの人をもっと信じられたら、その壁は無くなるの?
…何を考えてるんだ私は。
ただの恋人ごっこの相手に何を求めてるつもりだ。
縋れれば誰でもよかった。それはあの人も同じ。
ただそれだけ。
乗り過ごした電車が通り過ぎる風の勢いで、髪が崩れる。
「……ばからしい」
電車の音で掻き消された言葉は、誰に拾われることなく消えていった。
「美風、帰りましょう」
今日も放課後にあの人が迎えに来た。
そう、この間屋上でふざけた事を抜かした、スパティフィラム様が。
最初のうちは周りのクラスメイトに何やかんやと聞かれたが、のらりくらり躱していくうちに、今や日常茶飯事となっていた。
「す…、…泉様、毎日来られなくても…」
「あら、可愛い美風を迎えに来ないなんて。わたくしの楽しみを奪うの?」
その言い方は狡い。どうせ私は流されやすい女ですよ。
私は鞄を持って扉に近付くと、泉様に手を引かれた。それだけで周りの子達は、きゃあと悲鳴にも似た黄色い声を私に浴びせてくる。これが未だに慣れないんだよな…。
そんな事は慣れているのか気にしていないのか。泉様は素知らぬ顔で私を教室から連れ出していく。
学校の外へ出てしまえば、周りはもう気にならなくなっていた。
「…驚きました」
「何が?」
「泉様は…その、寮生ではないんだなと」
「確かに、よく寮生と間違えられるわ。でも実際わたくしは電車も使うし、何なら徒歩だって此処に来れるのよ」
「…ふ、それは遠くないですか?」
思わず笑ってしまう。そんな私の頬を撫で、「やっと笑った」と一言呟かれる。
そんな仕草、勘違いしそうになる。
これは恋人ごっこで、本当の恋人じゃない。私達の間に、恋も愛もない。
何故泉様が私を選んだのか。ただ珍しかっただけだろう、と自己完結する。
誰もいない屋上。ただ一人、そこで泣いてる女の子。それだけ揃えば、あの人にはそれで良かったのだ。
だから私達には、運命的なものは存在しない。
きっと私も、誰でも良かったのだろう。
この穴を埋めてくれるなら。
「それじゃあ此処で」
「はい。今日もありがとうございました」
「ふふ。なあに、それ」
また泉様に笑われてしまった。流石に事務的すぎたか。
私と泉様の改札は反対方向。此処で別れて、また明日が始まる。そして明日もスパティフィラム様の恋人を演じる。ただそれだけ。
目の前で無邪気に笑う彼女は、明日も私の恋人になる。
少しだけ優越感。それくらいは許してほしい。
誰のものにもならなかったスパティフィラム様の恋人が自分だなんて、まだ信じられないもの。
……とは言っても、これは恋人ごっこ。
それ以上にはならない。実際のところ、私はあの人の中で多少は気を許せる程度の相手だと思ってる。…本物の恋人なら、もっと気を許せたのだろうか。
見えない壁が、私と彼女を隔てる。
それは私の壁なのか、それとも彼女のなのか…。
私自身があの人をもっと信じられたら、その壁は無くなるの?
…何を考えてるんだ私は。
ただの恋人ごっこの相手に何を求めてるつもりだ。
縋れれば誰でもよかった。それはあの人も同じ。
ただそれだけ。
乗り過ごした電車が通り過ぎる風の勢いで、髪が崩れる。
「……ばからしい」
電車の音で掻き消された言葉は、誰に拾われることなく消えていった。
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