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シャロンの実家、王宮にて4

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「わぁ…!すごい賑わってる!」

目を爛々と輝かせた私の目の前には、たくさんの屋台とたくさんの人。国外からも人が来ているらしく、元々の人口より多くなった広場は人で溢れ返っていた。

「ミア、はしゃぐのもいいけど逸れちゃ駄目よ」

そう言って今にも走り出してしまいそうな私の手を掴み、シャロンの方へと引き寄せられる。
はーいなんて返事はしたけれど、もう頭は屋台の事でいっぱいだ。うちの国では見た事のない物もあって、見ていて飽きない。
あ、こっちの国にはリンゴ飴がある!ドゥンケールには無いから、ちょっと残念だったんだよね。
懐かしいなぁ…。前世の子供の頃、よく買って貰ったんだけど、大きい方を欲しがるから食べきれなくて怒られていたっけ。

「シャロン!リンゴ飴が食べたい!」
「はいはい。ミアってば、そんなにお祭りが楽しいの?」
「うーん…。…シャロンと一緒だからかな」

シャロンは不意打ちに弱い事を知っている。
公爵という肩書きをぱらったその人は、今はただの女性として、恋人として、私の隣で頬を染めていた。
私を掴んだ彼女の手を今度は私が引く番。
屋台へと迎えば、二人分買ったリンゴ飴はもう残してしまう程の歳じゃない。
昔と一緒に、大きなリンゴ飴を二人で齧りながら赤く色付く舌もそのままに、屋台を練り歩いた。



+++++++++++++++++++


広場の中央にある噴水広場。賑わせていたパフォーマーはいつの間にか居なくなっていて、晴天だった青空は夕暮れのオレンジ色に変わる様に、グラデーションが綺麗な姿へと変えていた。…通りで隣の金色が眩しい訳だ。
屋台の方から賑やかな声が届くから、静けさという程ではないけれど、この空間には心地良い空気が漂ってた。

「楽しかった?」
「うん!楽しかった!たくさん屋台回れたし、ここでやってたパフォーマンスも凄かった!まるで雑技団みたいだったし…」
「ざつぎだん……?」

咄嗟に出てきた前世での言葉に、少しばかり慌ててなんでもないと訂正する。でも中華風の服装だったし、こっちにも日本やその他の国に近い国があるのかも。
何にせよ、楽しかった事に変わりはない。

「シャロンの領地も、見たいな…」
「大丈夫よ。これから毎日嫌って程見る事になるんだから。…嫌なんて言わせないけどね」

噴水を囲むようにして階段状になっている中央辺りに座る中、シャロンが突然隣から立ち上がり一段下がった場所へ行く。

「…シャロン?」

私は分からず首を傾げ、シャロンを見つめていると彼女はバッグから小さな箱を取り出した。

噴水が、水を吹いて夕陽を揺らす。


「ミア。わたくしは貴女に出会って、変わったの。人を愛する事を教えてもらった。生きる道はひとつではない事も教えてくれた。…貴女には、教えてもらってばかりだわ」

シャロンの言葉を、一言一句逃さず聞きたくて、息をするのも忘れてただシャロンの声に耳を傾ける。
私はそんな大それたことはしてない。
ああ、でも未来は少し変えちゃったかな。

…本当は、あの一回目の卒業パーティーで、シャロンは断罪されるシナリオだったから。

「わたくしに無いものを沢山くれてありがとう、ミア。これから先、何があってもわたくしは貴女と共に生きたいの。 わたくしと共に、生きて欲しいの。……なんて。こんな使い古された言葉じゃ駄目かしら」


「……わたくしと結婚してください。ミアルワ」


シャロンが開けた箱の中に入っていたのは、銀色に輝く指輪だった。
…もう、シャロンってば。いつ私の指のサイズなんて測ったの?

なんて思いながら、言葉にならない感情が、愛してるだけじゃ表せない感情が涙となって溢れても、私はそのままに首を縦に振った。

「…っはい!貴女と生きれるなら、喜んで!」

噴水の音に負けないくらいの声でそう伝えると、シャロンが溢れんばかりの笑顔を向け私の指にそっと指輪を嵌めた。勿論、左手の薬指に。
夕陽を反射する指輪があまりにも綺麗だったからか、分からないけれど、私はシャロンに抱き着かずにはいられなかった。

「シャロン!だいすき!愛してる!」
「…っ、わたくしもよミア。世界中の何より、愛してるわ」

抱き合ったままの私達を照らす夕陽が顔を隠し始めた頃、ようやく私とシャロンは王宮に戻ったのだった。








「陛下、王妃様。お世話になりました。短い時間でしたがとても楽しい時間を過ごせました」

御二方の前でカーテシーをすれば、名残惜しそうにしてくださるお顔が見えて、私まで同じような気持ちになってしまった。
今日は王宮を去る日。
そして一度国に戻り荷物をまとめ、そのままウィスタリア領に行くつもりだ。

「もう少し居てもいいのよ?まだ時間はあるのでしょう?」
「お気遣い痛み入ります。ですが…、その余った時間を、ウィスタリア領の為に使いたいのです。シャーロット様もそれでいいと言ってくれましたので」
「そう?折角また賑やかになったのに…寂しくなるわね」
「大丈夫ですよ王妃様。何かあればシャーロット様が飛んで来ます!」
「…、まあ、何かあったらすぐ戻るつもりではいるけれど…。なんかお母様とミア、二人仲良くなってない?」

あ。案外早くバレたみたい。

実はシャロンが寝た頃、王妃様がわざわざ部屋を訪ねてくれて、シャロンがドゥンケールに居た頃の話をたくさんしていたのだ。王妃様はとても嬉しそうに聞いてくれて、思わず話が止まらなくなってしまったから…なんて。言ったら怒られるかな?

「王妃様とお茶会をたくさんさせて頂いただけだよ」
「ふぅん…?」

シャロンがじとりとした疑いの眼差しをこちらを向けてくるけれど、私は何も答えないし、王妃様もにこにこと笑顔を浮かべるだけ。根負けしたシャロンが大袈裟に肩を竦ませ諦めた。

「ミアルワちゃん。また来てね?今度はミアルワちゃんの好きなケーキを作って待ってるわ」
「王妃様……、ありがとうございます!また来ますね、勿論シャーロット様と一緒に!」

そっと王妃様が手を握ってくれるのが擽ったくて、でも短い時間の中で少しでも王妃様が私に心を許してくれたのが嬉しかった。王様とはまだちょっと距離があるけど…そんなのすぐ埋めてみせるぞ、と意気込んでみる。

私は幸せ者だ。

こんなにも優しい人達に囲まれて暮らしている。なんて贅沢なのだろう。

「一度ミアは先にご実家に戻っていてください。わたくしの荷物が多いので、ミアの荷物まで入るか怪しいの」
「うん、分かった。…あ、馬車どうしよう。シャロンが送ってくれてここまで来たから…」
「そこは安心して?王宮のを借りてけばいいのよ」

そんなタクシー拾うみたいなノリで言わないで欲しい。
こんなところで前世の例えが出来るなんてすごーい…じゃなくて。じゃなくて!

「大丈夫よ。紋章の着いていない馬車だから狙われたりしないわ」
「そ、それは助かる…んだけれど、流石に馬車を借りるのは……」
「あら、構わないわよ?寧ろ安全にミアルワちゃんをお家に送り届けなくてはいけないのだから、それくらいはさせて欲しいの」
「王妃様……」
「だめよお母様!ミアはわたくしのなんですから!」

シャロンは言ったあとに、は、と気付いた様に口を押さえた姿を見て、王妃様と顔を見合わせて笑ってしまう。

「ふふ、シャロンてばやきもち妬いた」
「ミア……」
「ごめんっ、ごめんって。ふふっ」

そんなやり取りをしていると、馬車が見計らった様にやって来た。やっぱり王家の紋章がないだけで、十分上等な馬車だよ…。
気が引けるけどこれしか帰る手段がないし、意を決してその馬車に乗る事にした。

「さあ、参りましょうか」
「え!?シャロンも!?だって荷物とかあっちにある馬車に…」
「嗚呼、あれは御者に領にある家まで運んでもらう予定なの。わたくしは最初からミアと一度ドゥンケールに戻るつもりだったわよ?」

予想外過ぎて一瞬固まってしまった。だってシャロンは先にウィスタリア領に行ってるものだと思ったから…。

「ミアのお父様とお母様に、ちゃんとご挨拶しなきゃね」
「はは…、…きっと二人とも喜ぶわ…」

こんな事なら手紙でも出しておくんだったわ。突然ウィスタリア公爵が来たら、家中大騒ぎよ…。
今更だから仕方ないと思うしかないけど。

そうして二人乗り込んだ馬車は、王様と王妃様に見守られながら、王宮からドゥンケールに向けて出発するのであった。
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