【完結】転生したら王子だったんですけどこれって百合ですか?

美兎

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ep:8 ヒロインの目線では(ヒロイン視点有)

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私には前世の記憶がある。

と言ったところで、誰も信じてはくれないだろうから言わなかった。ああ、でも、暇潰しに、私が小さい頃からお世話をしてくれているメイドにだけは、一度話した事がある。

「…なるほど。だからお嬢様は聡明なのですね」

あら、と驚いた表情を見せるも、彼女はすぐいつもの笑顔に戻ったから、きっと半信半疑なのね。
仕方ないことだけど。

聡明…なのかしら。確かに、この世界の勉強は欠かさず寧ろ進んで学びにいった。
それは病室で眠る事しか出来なかった、私のしたかった事だから。
それに今の私は物凄く充実している!走っても発作が起きない体。突然昏倒する事もなく、すぐに風邪で寝込んだりしない。なんて丈夫な体!私がずっと欲しかったもの!
しかも、しかもあのゲームの中に転生出来るなんて!
夢にまで見た生活。令嬢生活は規則でガチガチだったから、お母様とお父様に隠れて外に出ては、芝生の上を走ったり、寝転んだり木に登ってみたり、なんでも出来たわ!

でも私は令嬢として学ぶべきものはちゃんと学んだ。
勉強を進んでしていたのも目標があった為
全てはあの学園に入学する為。
私の…運命の人に出会う為。

ああ、早く逢いたいわ。

「待っててね、ケイトさま。私があの悪女から助けてあげますからね」





─────────────



偶然にも出会ってしまった。…この作品の、ヒロインと。
しかもこれ、よく考えたら王子との出会いイベントじゃないの!

いつも通る廊下を通ろうとすると、新たに選択肢が現れて、廊下を曲がるを選択すれば発生するイベント。

でも…おかしい。確かケイトが15歳の、生徒会長になってから発生するイベントな筈だ。しかもイベント出現条件は、他の攻略対象の男子生徒達を全員クリアしてからしか発生しない。
それなのに何故…?
今まで出会ったことも、そんな生徒がいるって噂もなかったから、確実に今年入学して来た生徒だ。…というか、まだ学園内も把握し切れてない生徒に書類持たすな先生!

 ぶっちゃけ彼女の事を置いて去りたかった。けれどぶつかったのは確かに自分で、書類をばら撒かせてしまったのも自分で…。つまり、見て見ぬふりは出来ないと…。そうと決まれば、私は散りばめられた書類をさっさと片付け整えて、彼女に渡した。…確か此処で、王子が半分持つよ、と手伝うシーン…よし、回避決定!私は一刻も早くリリィに会いたいんだ!

「じ、じゃあ私はこれで…。君も気を付けてね」
「あ、……」

彼女が何か言い掛ける前に何としてでもこの場から去りたかった。というか、展開が読めた。
あのまま彼女の声で留まったら、絶対時間を食われる。リリィと一緒に居る時間は少しでも多くしたいんだよ!
私は王子スマイルを向け、さっさとその場から離れた。

足早にあの東屋に向かった。早く会いたい、早くと急く気持ちを隠しきれないまま庭園の奥へと進むと、いつもの東屋にバーガンディ色の髪を軽くまとめたリリィが、本を読みながら待っていてくれた!
というか待って。なにその髪型、可愛すぎない!?
普段おろしているだけの髪は誰が弄ったのか分からないが、ハーフアップに近い髪型になっていて、黄色の薔薇が付いたバレッタが付けられていた。それがもし自分の髪色だから…だったらどうしよう、可愛くて心臓が持たない。もう一回止まってるんだった。

「リリィ!」

私は堪え切れず、少し大きめの声で彼女を呼んだ。
彼女が私を見た瞬間、その笑顔にまた胸がときめいた。貼り付けられた笑顔ではなく、心の底から喜んでいる、まるで天使のような、そんな笑顔。

「よかった…、今日はもう、お逢い出来ないかと思っていましたの。ケイト様…っ、え、え?」

私は思わずリリィを抱き締めた。慌てふためく彼女も可愛らしいと思いながらも、この腕を解放してあげる気はさらさら無い。耳まで赤くなったリリィは、未だ戸惑ったままだけれども少し落ち着いたのか、そっと私の背に手を回してきた。嬉しすぎて死にそう。

「私もだよ、ずっと待っていてくれてありがとう、リリィ」

可愛い、可愛い私のリリィ。
なんと表現していいのか、私の語彙力では足りない程幸せそうな笑顔を向けるものだから、少しだけ体を離して彼女の頬にキスをした。
途端、リリィは更に顔も耳も赤くするものだから、可愛くてつい笑ってしまった。


本当は、ヒロインに出会ってしまって、少し怖かったのだ。
この世界が本当にあの、『その掌の約束を』の世界であるなら、その話の通りに事が進んでいくんじゃないかと不安だった。ゲームの強制力。それが働けばリリィは悪役令嬢と変貌し、ヒロインを虐げてしまう。

でもそれは、ケイトの愛があれば別だ。私はリリィ以外に興味がない。
最初こそ、女の私が同じ女の子であるリリィを好きになれるか不安だった。
もしあの時リリィに心動かされていなければ、私はあのゲームの様に行動していたかもしれない。そう考えるとゾッとする。

でも今は違う。私は確かにリリィを…、…愛しているし、リリィも私を同じくらい愛してくれていると思っている。
驕りかもしれないと思いもしたけれど、そんな不安も、私の背に回された小さな手が違うと証明してくれている。
ああこんなに幸せでいいんだろうか。

今日はずっとリリィに触れていたくて、お姫様抱っこをする様に膝にリリィを乗せた。

「け、!ケイト様…!あの、重いでしょう?足に負担が掛かってしまいますわ!」
「ん?全然。寧ろこのままだと、君の顔もよく見れて嬉しいんだけど…?」

嫌?と聞くと彼女はふるふると首を横に振る。

「あの…、ケイト様」
「なに?リリィ」
「…わたくし、幸せ者です」

そう言って、寄り添ってくれるリリィの笑顔に、私はまたリリィに惚れてしまう。
毎日、毎日その笑顔を、朝から晩まで見れる日を夢見つつ、いつもの様に談笑をするのであった。






「…許せない」

「あの女、王子にわがまま言ってあんな体勢にさせたんだわ。王子が可哀想!」

「漸く出会いイベントをクリア出来たんだもの」

「待ってて私の王子様、政略結婚なんて嫌だったって言っていたもんね」

「私が救ってあげるから、……ね?『私の』ケイトさま…」
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