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ep:5 私の気持ち
しおりを挟む「ケイト様、お招き頂きありがとうございます」
「ケイト様!今度薔薇園に行ってみませんか?ケイト様の髪色の様に美しい黄色の薔薇が…、あ、いえ!あの、あ、余りにも綺麗な薔薇がありまして!…い、一緒に行ってくれませんか?」
「ケイト様、わたくし今日サンドイッチ作ってみたんです。お口に合うか分かりませんが…」
「ケイト様!もっと先まで行ってみましょう!」
「ケイト様」
今日も俺の嫁が可愛い。じゃなくて。
あの日以来、リリーナは頻繁に王城に足を運んで来ては私とお茶を嗜みつつゲームをしたり、本を読んだり、庭を散歩したりと充実した?日々を過ごしてる。私は充実してる…けど。少し不安になって盗み見た彼女の表情は綻ばせていて、ああ、彼女も自分と同じなのだと気付き嬉しくなった。
でもそれは、この時間がもうすぐ終わってしまう事に気付いているからかもしれない。
私がここに来て、あれからもう一年が経った。
訪ねて来る度、彼女の体罰という呪縛を解く様に何度も話した。あれはいけない事なのだと。他人に手を上げる事は良くないのだと。
勿論例外もあるけど、今はこれだけ教えておこうと、何度も伝えた。
その甲斐あってか、彼女は周りの下女や従者に体罰を与える事は無くなったのだそうだ。私の説得のお陰だと、彼女の従者に感謝されてしまった。
元凶も自分なんだけどね…はは…。まあ私はケイトじゃないし、彼女が…リリーナが笑ってくれる様になったのが嬉しかった。
庭園の一角にあるガーデンテーブルとチェアに座りながら彼女を見つめる。私は今彼女の隣に座っていた。本に夢中な彼女を見つめながら、少しばかり湧いた悪戯心を隠せず、口を開いた。
「ねえリリィ」
「?なんですか?ケイトさ、ま……、…っ!!」
ふと、愛称でリリーナを呼んでみると、彼女のまろい頬が段々と赤く染まっていく。んんんやっぱり可愛い…!!
…やっぱり、分からない。
どうしてケイトは、この子と向き合って来なかったのだろう。こんなにも話すと優しい声色を奏で、愛らしい仕草をしてくれる。
今だって、きっと熱を持った頬を隠そうとしてか、両手で頬を包んでいる。それだけでも十分に可愛い。
ああ、こんなに女の子に惹かれたのは初めてだ。こんなに幸せなのに。…来年には、私は学園に通わなければいけなくなる。
全寮制は平民貴族王族等しく、優遇される事はない。つまり私は、来年になったらリリーナと離れ離れになってしまう。そしてリリーナの居ない、面白味のない学園生活を送る事になるのだろう…。勿論、友と呼べる人物が出来れば別だが、実際のところ王族だと知られていると、どうしても壁を作られる。そうならないようにしないとな。
あと、リリーナの愛称呼びは、リリーナ自身を安心させる為。…まあ学園生活が寂しくないように、もう少し深い繋がりが欲しかった私の為でもあるんだけどね。
あのゲームでリリーナが暴走したのは、ケイト…婚約者からの愛情不足が原因だったのだと、私は思う。リリーナを不安にさせ、あまつさえ浮気するなんて…。許すまじケイト。
私は隣に座り、未だに頬を染めているリリーナの顔を覗き込んだ。
「リリィって呼ばれるの、嫌だった?」
「い、いえ!そんな事ないです!…ないですけど…」
恥ずかしいと、嬉しいって気持ちが混ざって、どうしていいか分からないんです。
そう言われた時の破壊力や否や。もう一度死ぬかと思った。いや本当に。
「…嫌じゃないなら、これからはリリィって呼ばせて貰うね?」
「…っ、…はい…!」
未だに戸惑いながらも頷きはにかんだリリィの、そわそわと落ち着かない様子に悶絶寸前である。
“ヒロインとか悪役令嬢側の方が良かった“?
前言撤回。寧ろ役得です。王子で良かったー!!
正直リリーナ…もとい、リリィと逢えるからこそ、この一年頑張ってこれたのだ。
勉強も、剣術も、魔法だって必死だけどこなせてみせた。全ては彼女の為。こんなに何かに必死で食らいついた事、初めてかもしれない。
ヒロインの存在がどうなるかは分からないけれど、この子のバッドエンドだけは回避したい。
緑魔法…、今回は花の精霊に力を借りて、小さな花のリングを作る。それをそっとリリィの手を取って薬指に嵌めれば、少し恥ずかしいけれど。
「リリィ、離れていても僕と君は一緒だからね。…僕の、未来のお嫁さん」
自分でも小っ恥ずかしいと思う台詞も、王子だと思えば自然と言葉に出てきてしまう。私はもう、それを抑えるのをやめた。
拙い子供の約束。王族なのに、ダイヤや豪奢な指輪でなく、花の指輪なんておかしいだろうか。
薬指に付いてる花に口付け彼女を見上げれば、これ以上にないくらいの笑顔を向けられた。
「はい…!……本当は、寂しくなるの、嫌だったんです。来年貴方は学園に行ってしまわれる…。勿論、翌年にはわたくしも入学いたします!…でも、寂しくなった時、貴方がくださったこの指輪を見て、貴方がくれた幸せな時を、思い出します。それにわたくし、王太子妃教育もありますから、頑張りますわ!」
夏に咲く向日葵も、色とりどりの薔薇も、嫉妬するくらい綺麗な笑顔に、私は堪えきれず抱き締めた。
「ありがとう、リリィ…」
日を増す事に強くなっていくこの感覚。
彼女が笑ってくれると嬉しい。喜んでくれると嬉しい。もっと笑顔をあげたい。もっと優しくして、この笑みを誰かに自慢したいのに、隠して、私だけの秘密にしたい。
本当は学園なんかに行かずに、ずっと彼女とこのまま…。そう考えたところで、必死に思考を止めようとするも、一度気付いてしまったこれは、駄目だと押さえ込もうとする度溢れてくる。
もしかして、私───。
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