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六十五.生贄娘、祝言を挙げる
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白麗と香世の祝言は、満開に桜が咲き揃った頃に行われた。
冬の間に白麗が準備してくれた白無垢を着て、白麗は黒五つ紋付き羽織袴を着ている。
紫水と砥青も祝いに駆けつけてくれていた。
「白麗、香世殿、おめでとう」
「おめでとうございます」
二人からの祝福を受け取り、香世は礼を言う。
ちなみに、楓と桜からは、一番に寿ぎを受けていた。
「ありがとうございます」
「香世殿、白麗が嫌になったら、我が家を実家だと思っていつでも逃げてきていいからな。もちろん、喧嘩に限らず困ったことがあったら頼ってくれ」
「紫水、何を縁起でもないことを言うのだ」
「何を言っている。これから長い時を過ごすのだ。夫婦喧嘩の一度や二度はあるだろう」
「我らはまだ新婚だ。蜜月に喧嘩などしてたまるか」
「砥青、聞いたか。あの白麗が、香世殿に骨抜きにされておるぞ」
「紫水様、少々お酒をお過ごしでは?」
砥青がなだめるが、香世は紫水の言葉に聞き捨てならない物を感じて尋ねる。
「紫水様、あの、とは、どういうことでしょうか」
「香世殿は知らぬのか。白麗は凜々しく、それはもう美しい白狼だろう。だから我が屋敷の眷属にも昔から人気があった。だが、誰ともいい仲になったなどという話は聞いたことがないから、こうして香世殿にデレデレしている姿を見ると何か不思議な感じがする」
「紫水様!」
「砥青。慌てずとも、こういう話はいずれ耳に入るものだ」
「ですが、わざわざこんなめでたい日に……! もう、ひとまず水を呑んでください」
無理矢理、砥青に水を飲ませられている紫水を横に、香世は白麗を見上げる。
「鈍くはないつもりであったが、そうか。あれは、秋波を送られておったのか」
今更納得している白麗に、香世はほっとするものの、胸の奥にもやもやとした感情がわだかまるのを感じる。一方、白麗はそんな香世に気が付いていないようだ。
「そういえば、楓と桜にも、きちんと好意は口に出せと何度も言われたな」
うんうんと頷くと、白麗は真っ直ぐに香世を見る。
「香世」
「何でしょう」
「先程、我らは夫婦の誓いを立てたばかりだ。だから、言わずとも良いかもしれんが、言わせてくれ」
頷く香世の手を取って、白麗は言う。
「これから先、私の幸せは香世と共にあることだ。何があっても、どんな喜びが訪れ、どんな困難が立ち塞がろうと、我が愛は、香世に捧げる」
「……私も、この先何があろうと、白麗様を愛すると誓います」
「……うん。なるほど。わかっていたことだが、直接言われると、また格別だな。香世、これからは、私も、もっときちんと言葉にして伝えていこう」
「いえ、その、私はほどほどで構いませんが……」
「照れておるのか? そういうところも愛らしい」
「白麗様……!」
うっとりと香世を見る白麗は、早速新たな発見を行動に移すことにしたらしい。
照れる香世はひたすらに可愛いと囁かれ、身の置き所が無い。
けれど、やめて欲しいと言わないのは、つまりは、嫌では無いからだ。
「良い、祝言だな……」
「本当に、そうですね」
そんな二人を見て、しみじみと紫水が言い、砥青が頷く。
それは麗らかな、ある春の日のことだった。
冬の間に白麗が準備してくれた白無垢を着て、白麗は黒五つ紋付き羽織袴を着ている。
紫水と砥青も祝いに駆けつけてくれていた。
「白麗、香世殿、おめでとう」
「おめでとうございます」
二人からの祝福を受け取り、香世は礼を言う。
ちなみに、楓と桜からは、一番に寿ぎを受けていた。
「ありがとうございます」
「香世殿、白麗が嫌になったら、我が家を実家だと思っていつでも逃げてきていいからな。もちろん、喧嘩に限らず困ったことがあったら頼ってくれ」
「紫水、何を縁起でもないことを言うのだ」
「何を言っている。これから長い時を過ごすのだ。夫婦喧嘩の一度や二度はあるだろう」
「我らはまだ新婚だ。蜜月に喧嘩などしてたまるか」
「砥青、聞いたか。あの白麗が、香世殿に骨抜きにされておるぞ」
「紫水様、少々お酒をお過ごしでは?」
砥青がなだめるが、香世は紫水の言葉に聞き捨てならない物を感じて尋ねる。
「紫水様、あの、とは、どういうことでしょうか」
「香世殿は知らぬのか。白麗は凜々しく、それはもう美しい白狼だろう。だから我が屋敷の眷属にも昔から人気があった。だが、誰ともいい仲になったなどという話は聞いたことがないから、こうして香世殿にデレデレしている姿を見ると何か不思議な感じがする」
「紫水様!」
「砥青。慌てずとも、こういう話はいずれ耳に入るものだ」
「ですが、わざわざこんなめでたい日に……! もう、ひとまず水を呑んでください」
無理矢理、砥青に水を飲ませられている紫水を横に、香世は白麗を見上げる。
「鈍くはないつもりであったが、そうか。あれは、秋波を送られておったのか」
今更納得している白麗に、香世はほっとするものの、胸の奥にもやもやとした感情がわだかまるのを感じる。一方、白麗はそんな香世に気が付いていないようだ。
「そういえば、楓と桜にも、きちんと好意は口に出せと何度も言われたな」
うんうんと頷くと、白麗は真っ直ぐに香世を見る。
「香世」
「何でしょう」
「先程、我らは夫婦の誓いを立てたばかりだ。だから、言わずとも良いかもしれんが、言わせてくれ」
頷く香世の手を取って、白麗は言う。
「これから先、私の幸せは香世と共にあることだ。何があっても、どんな喜びが訪れ、どんな困難が立ち塞がろうと、我が愛は、香世に捧げる」
「……私も、この先何があろうと、白麗様を愛すると誓います」
「……うん。なるほど。わかっていたことだが、直接言われると、また格別だな。香世、これからは、私も、もっときちんと言葉にして伝えていこう」
「いえ、その、私はほどほどで構いませんが……」
「照れておるのか? そういうところも愛らしい」
「白麗様……!」
うっとりと香世を見る白麗は、早速新たな発見を行動に移すことにしたらしい。
照れる香世はひたすらに可愛いと囁かれ、身の置き所が無い。
けれど、やめて欲しいと言わないのは、つまりは、嫌では無いからだ。
「良い、祝言だな……」
「本当に、そうですね」
そんな二人を見て、しみじみと紫水が言い、砥青が頷く。
それは麗らかな、ある春の日のことだった。
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