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33.林間学校(5) 二日目 肝試し
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ハイキングが終わると自由時間の後に早めの夕食だ。今日が最後だから、この後肝試しとキャンプファイアーがある。
肝試しはくじびきでペアを作って、遊歩道の指定されたルートを通って目的地にある紙を一人一枚取ってくるというものだ。途中とお札が置いてある所には先生も立っているそうで、特にお化けの仮装をするわけでもない。話を聞くだけだとそれって肝試し?という感じだったけど、実際に夜になると、森が近くて周囲も暗いから、結構怖い。
点呼が終わると順番にくじ引きが始まって、早くにペアがわかった人達の声で盛り上がっている。私は瑠奈ちゃんか理恵ちゃんと一緒がいいな。
周りの騒ぎ声にポケットの中がもぞっと動いたのを感じて、私は周りを見てから囁いた。
「ハムアキラ、静かにしてるんだよ」
「うむなのじゃ」
どうしても肝試しに付いてくると言い張ったハムアキラを仕方がないからポケットに入れて連れて来ていた。
「次、藤崎さんだよ」
後ろの人に言われて、はっとする。いつの間にかくじを引く順番が回って来ていたようだ。
「あ、うん!」
急いでくじを引きに行って紙を開くと『9』と数字が書いてある。
「九番を引いた人、いますか?」
先生の声掛けに、颯真君が進み出る。
「あ、颯真君」
ペアが仲が良い人でほっとする。
「心晴ちゃん、いいなー!」
そう言うのは、ペアを川口君と組みたいって言ってた理恵ちゃんだ。
「まぁまぁ、キャンプファイアーもあるから」
「そうだけどさぁ」
瑠奈ちゃんがなだめている。
理恵ちゃん達と話している間にくじ引きが終わって、くじの番号順に出発していく。
「じゃ、またキャンプファイアーで会おうね」
二人共がそれぞれのペアと出発してしまうと、颯真君がやって来た。
「そろそろ僕達の番だね」
「……うん」
「さっさと行って、早く終わらせよう」
颯真君ってあんまりこういうの好きじゃないのかな。私達もスタートした。
懐中電灯を持って、二人で遊歩道を歩いて行く。
スタート地点を離れると一層暗くなって、怖さが増していく気がする。
「この辺りは暗いから星がよく見えるね」
「本当だ!」
颯真君に言われて顔を上げると、森の木の間から見える空に星空が広がっていた。
ゴールデンウィークのワークショップでは明るい星しか見えなかったけど、星ってこんなに空にあるんだ。
「たくさん星があるけど、この間習った星座見つけられるかな」
「明るさが強い星や、大きく見える星を探せば意外と簡単だよ」
「へぇ」
「ふむ、ひしゃく星が良く見えるのじゃ」
「ひしゃく星って?」
「北斗七星のことだね」
颯真君が答える。
「って、ハムアキラ。隠れてるって約束してたのに」
「ここには心晴と颯真しかおらぬようじゃから、いいかと思ったのじゃ」
星空に気を取られていたから、ハムアキラのことをすっかり忘れていた。
「晴明様、いらしていたんですね」
「来た方がいいという卦が出たのでな」
そう言ってるけど、カバンの中で待ってるのに飽きただけじゃないのかな。
「あれ?」
そうして歩いていると、颯真君が持つ懐中電灯が白い影を照らし出した。
「あ、亜由美ちゃん!」
「待って!」
私が駆け寄る方が、颯真君が静止の声を上げるのよりも早かった。
なんだろうと思って振り返ると、颯真君が怖い顔をしている。
「一組の瀬川亜由美ちゃんだよ。今日のハイキングの時、仲良くなったんだ」
ねっと隣を見ると、亜由美ちゃんは頷いた。
「どうしたの? 怖い顔して」
颯真君は、緊張した顔で話し出す。
「ここに来てから、悪霊ではないみたいだけど、何かがいる気配がして様子を見てたんだ。でも、その理由がわかったみたいだ」
「え?」
颯真君が、一歩私達に向かって足を踏み出す。
「ちょっと、何をしようとしているの?」
「除霊だよ。今は悪さをしていなくても、現世に理由無く留まり続けると、悪霊になってしまう。そうなる前に、あちらに送ってあげるんだ」
「待って、だめ! 亜由美ちゃんは幽霊じゃない。友達になったんだもん」
私は亜由美ちゃんの手を取って、一歩下がった。でも、亜由美ちゃんの手はすごく冷たくて、私も颯真君が言っていることが真実だと気がついてしまう。
「亜由美ちゃん……」
思わず泣きそうになって隣を見ると、亜由美ちゃんは泣きながら笑っていた。
「……そっか、私、幽霊になっちゃってたんだ」
「でも、除霊って。亜由美ちゃんは何も悪いことしてないのに」
「引き伸ばしても、悲しい結果になるだけだよ」
颯真君は悲しげに首を振る。
「だって、友達になったばっかりで、学校に戻ったら、一緒に思い出作ろうって」
「心晴ちゃん、ありがとう。でも、いいよ。ずっと、疑問だった。なんで、みんな私のこと見えないのか、私は一人ぼっちなのか。私、本当はここにいちゃいけなかったんだね。でも、最後に心晴ちゃんが友達になってくれて嬉しかった。私、もっと元気だったら、心晴ちゃんと出会って一緒に学校に通えたのかな――――」
亜由美ちゃんの言葉に、我慢できずに涙が溢れてくる。
「あれ、体が……」
ぼんやりと光りながら亜由美ちゃんの体が消えていく。涙目で颯真君を見ると、颯真君は首を振る。
「待って、僕はまだ何もしていない」
「これは、もしや……!」
事態を静観していたハムアキラが顔を出す。
「なに、ハムアキラがしたの⁉」
「ち、違うのじゃ。もしかしたら、あの少女は生きているのかもしれないのじゃ」
「えっ!」
言われた言葉が理解できない。
「生き霊、といってわかるか?」
「聞いたことしかありません」
私はわからなかったけど、颯真君は知ってるんだ。
「わしの生きていた時代には、よく見たのじゃが。簡単に言うと、魂だけが体を離れて生きているように振る舞うのじゃ」
「てことは、亜由美ちゃん、生きてるの?」
「おそらくは」
頷くハムアキラに、颯真君は納得できない顔だ。
「でも、なんで突然消えたんでしょうか」
「あの少女は『友達が欲しい』と言っていたのじゃろう? じゃが、心晴と友達になって、その思いが満たされた。そして自分がここに居てはいけない存在じゃと気づいたから、きっと自分の体に戻ったんじゃと思う」
「……探せないかな」
「名前はわかるのじゃろう? なら、少し時間はかかるが、わしがなんとかしてやろう」
「……うん、お願い」
頑張って泣き止もうとしている間に、ハムアキラと颯真君は何か話していたけど、内容を聞くどころではなかった。
肝試しはくじびきでペアを作って、遊歩道の指定されたルートを通って目的地にある紙を一人一枚取ってくるというものだ。途中とお札が置いてある所には先生も立っているそうで、特にお化けの仮装をするわけでもない。話を聞くだけだとそれって肝試し?という感じだったけど、実際に夜になると、森が近くて周囲も暗いから、結構怖い。
点呼が終わると順番にくじ引きが始まって、早くにペアがわかった人達の声で盛り上がっている。私は瑠奈ちゃんか理恵ちゃんと一緒がいいな。
周りの騒ぎ声にポケットの中がもぞっと動いたのを感じて、私は周りを見てから囁いた。
「ハムアキラ、静かにしてるんだよ」
「うむなのじゃ」
どうしても肝試しに付いてくると言い張ったハムアキラを仕方がないからポケットに入れて連れて来ていた。
「次、藤崎さんだよ」
後ろの人に言われて、はっとする。いつの間にかくじを引く順番が回って来ていたようだ。
「あ、うん!」
急いでくじを引きに行って紙を開くと『9』と数字が書いてある。
「九番を引いた人、いますか?」
先生の声掛けに、颯真君が進み出る。
「あ、颯真君」
ペアが仲が良い人でほっとする。
「心晴ちゃん、いいなー!」
そう言うのは、ペアを川口君と組みたいって言ってた理恵ちゃんだ。
「まぁまぁ、キャンプファイアーもあるから」
「そうだけどさぁ」
瑠奈ちゃんがなだめている。
理恵ちゃん達と話している間にくじ引きが終わって、くじの番号順に出発していく。
「じゃ、またキャンプファイアーで会おうね」
二人共がそれぞれのペアと出発してしまうと、颯真君がやって来た。
「そろそろ僕達の番だね」
「……うん」
「さっさと行って、早く終わらせよう」
颯真君ってあんまりこういうの好きじゃないのかな。私達もスタートした。
懐中電灯を持って、二人で遊歩道を歩いて行く。
スタート地点を離れると一層暗くなって、怖さが増していく気がする。
「この辺りは暗いから星がよく見えるね」
「本当だ!」
颯真君に言われて顔を上げると、森の木の間から見える空に星空が広がっていた。
ゴールデンウィークのワークショップでは明るい星しか見えなかったけど、星ってこんなに空にあるんだ。
「たくさん星があるけど、この間習った星座見つけられるかな」
「明るさが強い星や、大きく見える星を探せば意外と簡単だよ」
「へぇ」
「ふむ、ひしゃく星が良く見えるのじゃ」
「ひしゃく星って?」
「北斗七星のことだね」
颯真君が答える。
「って、ハムアキラ。隠れてるって約束してたのに」
「ここには心晴と颯真しかおらぬようじゃから、いいかと思ったのじゃ」
星空に気を取られていたから、ハムアキラのことをすっかり忘れていた。
「晴明様、いらしていたんですね」
「来た方がいいという卦が出たのでな」
そう言ってるけど、カバンの中で待ってるのに飽きただけじゃないのかな。
「あれ?」
そうして歩いていると、颯真君が持つ懐中電灯が白い影を照らし出した。
「あ、亜由美ちゃん!」
「待って!」
私が駆け寄る方が、颯真君が静止の声を上げるのよりも早かった。
なんだろうと思って振り返ると、颯真君が怖い顔をしている。
「一組の瀬川亜由美ちゃんだよ。今日のハイキングの時、仲良くなったんだ」
ねっと隣を見ると、亜由美ちゃんは頷いた。
「どうしたの? 怖い顔して」
颯真君は、緊張した顔で話し出す。
「ここに来てから、悪霊ではないみたいだけど、何かがいる気配がして様子を見てたんだ。でも、その理由がわかったみたいだ」
「え?」
颯真君が、一歩私達に向かって足を踏み出す。
「ちょっと、何をしようとしているの?」
「除霊だよ。今は悪さをしていなくても、現世に理由無く留まり続けると、悪霊になってしまう。そうなる前に、あちらに送ってあげるんだ」
「待って、だめ! 亜由美ちゃんは幽霊じゃない。友達になったんだもん」
私は亜由美ちゃんの手を取って、一歩下がった。でも、亜由美ちゃんの手はすごく冷たくて、私も颯真君が言っていることが真実だと気がついてしまう。
「亜由美ちゃん……」
思わず泣きそうになって隣を見ると、亜由美ちゃんは泣きながら笑っていた。
「……そっか、私、幽霊になっちゃってたんだ」
「でも、除霊って。亜由美ちゃんは何も悪いことしてないのに」
「引き伸ばしても、悲しい結果になるだけだよ」
颯真君は悲しげに首を振る。
「だって、友達になったばっかりで、学校に戻ったら、一緒に思い出作ろうって」
「心晴ちゃん、ありがとう。でも、いいよ。ずっと、疑問だった。なんで、みんな私のこと見えないのか、私は一人ぼっちなのか。私、本当はここにいちゃいけなかったんだね。でも、最後に心晴ちゃんが友達になってくれて嬉しかった。私、もっと元気だったら、心晴ちゃんと出会って一緒に学校に通えたのかな――――」
亜由美ちゃんの言葉に、我慢できずに涙が溢れてくる。
「あれ、体が……」
ぼんやりと光りながら亜由美ちゃんの体が消えていく。涙目で颯真君を見ると、颯真君は首を振る。
「待って、僕はまだ何もしていない」
「これは、もしや……!」
事態を静観していたハムアキラが顔を出す。
「なに、ハムアキラがしたの⁉」
「ち、違うのじゃ。もしかしたら、あの少女は生きているのかもしれないのじゃ」
「えっ!」
言われた言葉が理解できない。
「生き霊、といってわかるか?」
「聞いたことしかありません」
私はわからなかったけど、颯真君は知ってるんだ。
「わしの生きていた時代には、よく見たのじゃが。簡単に言うと、魂だけが体を離れて生きているように振る舞うのじゃ」
「てことは、亜由美ちゃん、生きてるの?」
「おそらくは」
頷くハムアキラに、颯真君は納得できない顔だ。
「でも、なんで突然消えたんでしょうか」
「あの少女は『友達が欲しい』と言っていたのじゃろう? じゃが、心晴と友達になって、その思いが満たされた。そして自分がここに居てはいけない存在じゃと気づいたから、きっと自分の体に戻ったんじゃと思う」
「……探せないかな」
「名前はわかるのじゃろう? なら、少し時間はかかるが、わしがなんとかしてやろう」
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