心晴と手乗り陰陽師

乙原ゆん

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32.林間学校(4) 二日目 ハイキング

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 翌日。ハムアキラには昨日のうちに理恵ちゃんからもらったポッキーを渡している。昼間は誰もいないから、その間に食べると言っていた。朝ごはんもわけてあげたから、大丈夫そうだ。
 林間学校二日目は、朝食の後は活動班で分かれてハイキングだ。用意されたお弁当を持って山の頂上まで散策する。お昼ご飯は頂上で景色を見ながらってことらしい。山道はあるけど舗装された道ではないから、危険な場所には立ち入らないよう注意があって、警告の目印の説明があった。
「よっし、俺達が頂上に一番乗りしようぜ」
「隼人、張り切りすぎ。私は普通でいいけど」
「土御門はどう?」
 理恵ちゃんと川口君が話を颯真君に振ると、颯真君は首を傾げる。
「人と競争より自分達のペースで歩いていいんじゃないかな」
「ちぇ、つまんねぇ」
「まぁまぁ」
 理恵ちゃんが川口君をなだめて、川口君も落ち着いた。私は三人のやり取りを見てほっとした。水を差すようで言えないけど、山登りなんてやったことないし、体力も自信がない。
 話をしているうちに出発の号令がかかり、ハイキングコースへと踏み出した。

 最初は舗装された道だったけれど、途中から細い山道に入った。道は狭く、一列になって進む。私は最後尾だ。山道は丸太で土留めがあったり、石積みの階段だったり、人の手が入っているけど、結構歩きにくい。斜面もきつくて段々息が上がってくる。私以外の三人は運動が得意みたいでペースが速い。
 最初は付いていっていたものの、途中から遅れ気味だったこともあり、先を行く三人が角を曲がると完全に姿が見えなくなってしまった。
 急ごうとしたところで、後ろから声を掛けられた。
「待って」
 か細い声に気のせいかもと思いながら振り向くと、女の子が一人で歩いていた。あまりにも息が苦しそうで思わず声を掛けると、すっごく驚いた様子で顔を上げた。
「大丈夫?」
「えっ」
 この子が声を掛けてきたんじゃないのかな。
 そう思うけど、もう声を掛けてしまったし、話をすることにする。といっても、顔を知らないからクラスを聞くところからだ。
「何組?」
「一組」
「そうなんだ。私、四組の藤崎心晴。心晴でいいよ」
「一組の瀬川亜由美。私も亜由美って呼んで」
「うん。わかった。亜由美ちゃん、班の人は?」
「わからない。でも、気がついたら皆いなくて、心晴ちゃんの後を歩いてたの」
「そうなんだ。私も皆のペースについていけなくて、遅れちゃったんだ。頂上でお昼ご飯だし、そこまで登ったらみんなと合流できるから、そこまで一緒に行こう」
「うん」
 嬉しそうに頷く亜由美ちゃんに、誘ってよかったと思う。
 学校のことや、この間のゴールデンウィークに星座を見るワークショップに行ったことなどを話していると、亜由美ちゃんは俯いた。
「いいなぁ」
「どうして?」
「私、体が弱くて、あんまり学校行事も参加できたことないし、友達も作れなかったんだ」
「そうだったんだ」
 病気か。でも、こうして野外活動に来れてるってことは、亜由美ちゃんも元気になったんだよね。私は思いつきを口にした。
「あっ、そうだ。なら学校に戻ってもまた話そうよ」
「え……?」
「私達、もう友達じゃない? これから、学校で一緒に思い出作れたらいいなって」
「……うん! 心晴ちゃん、ありがとう」

 頂上に着く少し前に、引き返して来た川口君達に合流した。
「心晴ちゃん、置いて行っちゃってごめん」
「藤崎さん、まじごめん」
「ごめん」
 三人の必死な様子に、心配してくれたんだと伝わってくる。
「怒ってないし、亜由美ちゃんも一緒だったから、大丈夫だよ」
 紹介しようと後ろを振り返ると、亜由美ちゃんの姿はなかった。話している間に先に行っちゃったのかな。同じ班の人に合流できてるといいんだけど。ここまで来て引き返すわけもないし、きっと頂上にいるよね。
「亜由美ちゃんって?」
 理恵ちゃんが言う。
「さっきまで一緒に歩いてたんだけど、一組の人なんだって」
「そんな人いたっけ……?」
 川口君も知らないみたいだ。
「病気であんまり学校来れなかったって言ってた」
「へぇ」
 川口君がいまいち納得いかないように首を傾げている。
「帰りはこんなことないように気を付けるから」
「うん。僕が最後尾になるよ」
 理恵ちゃんと颯真君が言う。
「じゃ、頂上に行って昼飯食おうぜ」
「すっごく見晴らしがよくて綺麗なんだよ」
「早く行こう」
 そうして、亜由美ちゃんのことは気になりつつも、三人と一緒に頂上に行き、お昼ご飯を食べたのだった。
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