心晴と手乗り陰陽師

乙原ゆん

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31.林間学校(3) 一日目 夜

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 それから、肉を先に炒めるか、タマネギを先に炒めるかで理恵ちゃんと川口君が言い合ったりと途中もめたりしたけれど、カレーは無事完成した。お皿に盛った完成品を先生が写真に収めて実食だ。
「うっまー!」
「やっばいこれ!」
「おっいしー!」
「うん、美味しいね!」
 川口君、理恵ちゃん、私、颯真君、それぞれに感想を口にする。結構どころかかなり美味しい。お米は鍋底が少し焦げたけどそこがまた美味しくて、いつもよりも沢山食べてしまった。
 作るのはあんなに大変だったのに、食べてしまうのはあっという間だった。
 片付けは水仕事出来なかったからと川口君と理恵ちゃんが洗って、私と颯真君で拭き上げていく。
「もっと食べたかったなぁ」
 食器を洗いながら言う川口君に、理恵ちゃんが言う。
「夜はバイキングらしいよ」
「え、まじかよ。なら、あれくらいでちょうどいいな」
 夕ご飯は楽しみだけど、私はちょっと動かないときつそうだ。そういえば、颯真君はここの噂を知ってるんだろうか。聞いてみたいけど、ここでは聞きにくい。この後は片づけが終わったグループから、アスレチックでの活動になっている。その時に聞けたらいいなと考えていたんだけれど、野外活動中にそんな時間が取れるわけもなく、結局話ができないまま、夕ご飯の時間となった。

 夕食を終えるとお風呂の時間だ。生活班ごとに時間が割り振ってあるから、時間が来るまでは宿泊室で好きに過ごしていいことになっている。
 ひとまずどこで寝るのかを話し合う。多数決を取ると上の段の希望が一人多い。じゃんけんで下の段に移る人を決めて、自分のベッドにカバンを置く。私は運良くじゃんけんに勝って一番入り口に近い上段に決まった。
「先にお風呂の準備してからおしゃべりしよう」
 誰からともなく言い出して、自分のベッドで用意を始める。
 お風呂セットを出すためにカバンを開けたところで思わぬものを見つけてしまい、慌てて周りを確認した。
「……遅かったのじゃ。……わしはお腹が減ったのじゃ」
「ハムアキラ……どうして居るの⁉」
 声を押し殺しながら聞くと、ハムアキラは項垂れながら言う。
「姿隠しの術を使ってカバンに入ったのじゃが、なかなか心晴が戻ってこぬから眠っておった」
「お留守番って言ったのに!」
「そうするつもりじゃったが、わしも着いて行った方が良いと占いに出たのじゃ」
「私のこと勝手に占ったの?」
「安心せい。わしが着いていくべきかを占ったのじゃ」
 どや顔で言うことじゃないけどね。
「それで勝手なことするなら、一言教えて欲しかったよ」
「言ってもダメって言うじゃろう」
 すねたように言うハムアキラにその通りだと思うもけど。
「ハムアキラが来るって知らなかったから、夕ご飯はないよ」
「ガーーン……なのじゃ……。お菓子は……?」
「ちょっとならあるけど、三百円以内で買わないといけなかったからちょっとしかないよ」
「なんでもいいから分けてほしいのじゃ……」
「しょうがないなぁ、もう」
 飴玉を渡すと、ハムアキラは嬉し気に口に入れた。頬袋がぷっくり飴の形に膨らんで不本意ながらも可愛いと思ってしまう。
 そうしてハムアキラと話をしているうちに、お風呂の順番が回ってきた。
「皆、早く行くよー!」
 鍵係の声に、慌てて準備をする。
「心晴ちゃん、どうしたの? 忘れ物でもした? シャンプーとかなら貸すよ」
「あ、大丈夫。ちょっと探しものしてたけど、あったからすぐ行く!」
 心配してくれた理恵ちゃんに返事をして、小声でハムアキラにも言っておく。
「じゃ、また後で戻ってくるから、それまで大人しくしてるんだよ」
 急いでベッドの階段を下り、お風呂に向かった。

 急いでお風呂から戻ると、ハムアキラは飴の包み紙を巣のようにして眠っていた。
「あれだけで足りたのかな?」
 飴玉の袋を振るとまだ残っていたから、全部食べたわけではないようだ。いつも食べている量より少ないから、明日朝ごはんをわけてあげた方がいいかもしれない。眠るハムアキラをそのままに、私はベッドの端に寄って皆のおしゃべりに加わった。
 もうすぐ消灯の時間という時、理恵ちゃんが声を潜めて話しかける。
「心晴ちゃん、お手洗いいかない?」
「いいよ」
 出発前に約束したし、私はベッドを下りた。
 廊下は明るいけど、窓の外は真っ暗だ。山の中だから当然だけど、この暗さなら、この間教えて貰った星が良く見えるんじゃないかな。
 窓の外を覗くと、ガラスに廊下の電灯が反射してよく見えなかった。勝手に外に出るのは禁止されているから、星を見るのは無理か……。
 ふと、窓に映った廊下の端にチラリと白い影が映って息を飲んだ。
 出発前に聞いた、幽霊の噂に出てきた白い服を着た女の子を連想してしまう。
 咄嗟に目を逸らしたけど、ぼんやりと白い影が見えただけだから、本当に白い服の女の子かわからない。もう一度見てみようと思ったタイミングで、理恵ちゃんに話しかけられてしまった。
「あのさ、この間の連休に隼人と遊びに行って、告白したんだ」
「えぇ⁉」
 驚くと、理恵ちゃんは照れくさそうに頬を染めた。
「それで、オッケーもらって付き合うことになった」
「そうなんだ、おめでとう!」
 今日の活動でも仲がいいと思っていたけど、そんなに進展してたんだ。
 ちらりと窓を見ると、さっき見かけた白い影はどこにも映っておらず、気のせいかもしれないと思い直す。それに今は、居るかどうかもわからない幽霊より、理恵ちゃんの話の方が気になる。
「隼人とは同じクラスになったことはあるんだけど、なかなか親しくなるきっかけがつかめなくって、ずっと友達未満だったんだ。もう諦めた方がいいかもって思ってたんだけど、心晴ちゃんの知り合いがくれた占いで勇気を貰えたんだ。ありがとう!」
「二人って、前から仲がいいんだと思ってた」
 今日の活動中は、すごく息が合ってたし、今まで友達未満だったなんて信じられないけど、本人が言うならそうなんだろう。
「私は占いを伝えただけだから、占い師さんに伝えとくね」
「うん、お願い。その人にお礼とかした方がいい?」
「気にしなくていいけど……」
 そこまで口にして、ハッと気が付く。
「お菓子が好きだから、お菓子をあげたら喜ぶかも」
「お菓子?」
「うん。ポテチとか、ポッキーとかそういうの」
「そういうのでいいの? なら、丁度ポッキー持ってきてるし、まだ開けてないからそれを渡してもいい?」
「えっ、でも、そしたら理恵ちゃんのおやつがなくなっちゃわない?」
「ご飯も沢山出るし、あんまり食べる時間もないし、いいよ。むしろ、お菓子渡せる機会の方がそうないし」
 確かに学校にはお菓子を持って行っちゃ行けないうえ、理恵ちゃんとは帰る方向が違うし、休みの日にわざわざ都合をつけないと会えないかも。
「じゃ、理恵ちゃんのお菓子を預かる分、私のお菓子をちょっと分けるよ」
「ありがと」
 お手洗いに行って帰るときにはすっかり行く時に見た影のことは忘れていた。
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