心晴と手乗り陰陽師

乙原ゆん

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28.星空ワークショップ・後

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 外に出ると、少し肌寒かった。福岡ってもっと暖かいと思ってたけど、そうでもないのが意外だ。
 公民館の外に出て、裏の広場にまわる。学校の運動場よりは狭いけど、街灯の光が遠いから、結構暗い。期待して空を見上げると、一つ、二つ位しか星が見えなかった。
「あれ、意外と見えないね」
「さっきまで明るいところにいたから、暗いところで目を慣らした方がいいよ。十秒から三十秒位、目を閉じるといい」
 そうなんだ。さすが詳しい。颯真君に言われて、他の人の邪魔にならない所で目を閉じる。
 心の中で三十数えて目を開け、空を見上げる。
「あ! 見える!」
 さっき見つけた星以外の、もっと光が弱い星が空に沢山輝いていた。
「こんなに星って見えるんだ……」
 思わず呟くと、颯真君が頷く。
「昔の人は、もっとたくさんの星が見えてたんだろうけど、場所を選べば僕達も同じ光景を見られるって考えるとすごいことだよね」
 頷いてから、ふと気になったことを聞いてみる。
「颯真君は、何歳頃から星の見方を教えてもらったの?」
「結構小さい頃から山に星を見に連れていかれてたんだけど、初めて星座を見つけられたのは、五歳だったと思う」
「え、そんなに小さくてもわかるの?」
「父さんにプラネタリウムとか良く連れてってもらったし」
「何の星座を見つけたの?」
「オリオン座」
「今日は見える?」
「今の季節だともう沈む時間だから、まだ沈んでなければ西の空に見えるかも」
 颯真君の言葉に、西の空を見てみようと思うんだけど、えっと、西ってどっちだったっけ。
「太陽が沈む方であってる?」
「そうだけど、そっちは東だから、反対だよ」
「あっ」
 言われて向きを変える。オリオン座はもう理科で習ったけど、確か真ん中に三つ星が並んでるんだよね。探していたら、颯真君のお父さんの声が聞こえた。残念。見つけられなかった。
「はーい、皆さん、揃ってますね。もう既に星座を探している人が結構いますが、これからワークショップの後半となります」
 周りを見渡すと、空を見上げてる人は結構いる。
「では、まずは北斗七星を探してみましょう。既に見つけている人は、自分でどんどん星座を見つけていってくださいね。わからない人は、声を掛けてもらうと、お手伝いします」
 そういって、颯真君のお父さんが促すと、みんな空を見上げた。
 こんな人数で空を見上げるって、なかなか無い。
 そうしているうちに、もう見つけた人がいるみたいだ。
「あった!」
「え、どこどこ」
 そんな声が後ろから聞こえる。焦っていると、颯真君が声をかけてくれる。
「見つかった?」
「あれだと思うけど……」
 自信がなくて、声が小さくなってしまう。
「あの明るい星がそうかなって思って」
「うん、あってると思うよ」
「よかった。えっと、北斗七星の一部がおおぐま座になってるんだよね。てことは、あれ?」
「そうそう」
 今日のワークショップで聞いた話を思い出しながら言うと、颯真君は同意してくれる。あってるみたいだ。
「おおぐま座が見つかったら、次はこぐま座だね。北斗七星のひしゃくの桶の外側から線を伸ばすと、北極星が見つかるんだけど」
「……思ったより小さくて暗いけど、あれがそうかな?」
「それだと思う」
「へぇ、北極星ってもっと明るいと思ってた」
「順調かい?」
 話しているところで、突然、後ろから声がかかってびっくりした。
「あ、先生!」
 颯真君のお父さんだ。
「颯真君に教えてもらって、おおぐま座を見つけて、今、こぐま座を探しているところです」
「そうか。颯真は上手に教えられてるかい?」
「はい!」
「颯真、手伝ってくれてありがとうな」
 頷く颯真君はちょっと嬉しそうだ。話をしていると「先生わからないんですけど……!」という声が届いた。
「それじゃ、他の人の所もまわるけど、颯真でもわからなかったら遠慮なく声をかけてね」
「わかりました」
 颯真君のお父さんは行ってしまったけど、残りの時間も颯真君に手伝ってもらってうしかい座まで見つけることができた。

 あっという間に九時半になっていた。外で星空観察をしていたから、このまま解散となる。
「では、皆さん今日はありがとうございました。これで時間となりましたので、ワークショップは終わりとなりますが、お帰りの際は暗いですので気を付けて帰ってください」
 ちらほらと迎えの人の姿が見える中、私もお父さんの姿を見つけた。
「あ、お父さん!」
 手を振ると、お父さんがやってくる。
「君が颯真君か。今日は心晴を誘ってくれてありがとう」
「僕の方こそ、仲良くしてもらっています」
「話に聞いていたよりしっかりしているね。これからも仲良くしてやってほしい」
 そうして、お父さんは颯真君のお父さんにも挨拶してくると行ってしまった。
「そういえば、晴明様、静かだったね」
「確かに」
 ポシェットの中を見ると、ハムアキラは眠ってしまっていた。
「退屈させちゃったかな」
「ハムアキラが知っている星を教えてくれるって話だったのにね」
 颯真君は、仕方ないといいながらも残念そうな顔のままだ。私は思いきって、声をかける。
「また、こういうワークショップあったら教えてよ。一緒に参加したいから」
「いいの?」
「うん、楽しかったし」
「そっか」
 颯真君が少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
「もう食べられないのじゃ……」
 タイミングよくむにゃむにゃと寝言を呟くハムアキラに、二人で顔を見合わせて笑ってしまった。お父さん達の方を見ると、話が終わりそうだ。
「颯真君ももう帰るの?」
「父さんの片づけを手伝ってから一緒に帰るよ」
「そっか。じゃ、また今度学校でね」
「うん、また」
 お父さんが来ると、颯真君は一礼して颯真君のお父さんの所にお手伝いに向かった。私は一足先にお父さんと家に帰った。
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