心晴と手乗り陰陽師

乙原ゆん

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24.友達

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「もー、全部食べちゃうなんて」
「とても美味しかったのじゃ」
 満足げなハムアキラに、仕方ないと肩を落とした。
「お待たせ」
 土御門君は、お盆に色々乗せて戻ってきた。ハムアキラの分の麦茶と私達の分の麦茶のおかわり、そしてさっきとは違うお菓子がお皿に乗っている。
「ごめん、もうさっきのクッキーは残ってないって。代わりに別のを貰ってきた」
「颯真は気が利くのじゃ」
「あ、ありがとう」
 絹代さんに食い意地が張っているって思われちゃったかな。今更だけど、ちょっと恥ずかしくなる。
「どうぞ」
「あ、うん」
 今度のおやつは鳩の形をしたサブレだった。
「美味しい!」
「心晴、わしも食べたいのじゃ」
「えっまだ食べるの?」
「うむっ」
「もう、しょうがないなぁ」
 ハムアキラに一枚取ってあげる。
「ありがとうなのじゃ」
「二人は仲がいいんだね」
 今度は鳩サブレを食べ始めたハムアキラは聞いていないようだ。
「うん。友達だから」
 土御門君は、不思議そうに首を傾げる。
「こっちに来て知り合ったって言ってなかったっけ?」
「うん、そうだよ」
 不思議そうに首を傾げる土御門君に、私も首を傾ける。ハムアキラとは、自然にこんな感じになっていた。あ、やっぱり、呼び方を変えたのがいいのかな。
「そうだ。その藤崎さんじゃなくて、心晴って呼んでよ」
 土御門君とはクラスメイトだけど、きっと今何も言わなければ明日からまたもとの関係に戻ってしまう気がする。それはなんとなく嫌だった。遥か昔に血が繋がっていたと聞いて、なんだか親しみを感じるようになったかもしれない。
「その、僕の事、嫌いじゃないの? 知らなかったとはいえ、酷いことたくさん言ったと思うんだけど」
「確かに傷ついたけど、それはそれだけ土御門君がハムアキラや陰陽師のことを好きで大切にしているからでしょ。誤解は解決したし、折角だから友達になろうよ。それで、もしよかったら、陰陽師の事まだ私に教えて欲しいな」
 なんだか、つい一週間前に友達ってどう作るのか悩んでいたとは思えない位自然に言うことができた。
「……うん、ありがとう。あと、酷いこと、まだ謝ってなかった。ごめん。僕の方こそ、友達になってくれると嬉しい」
「もちろん、もう怒ってないよ。じゃ、私達、友達だね」
「うん」
 頷く土御門君に、ハムアキラが食べかけのサブレを持ったまま立ち上がった。
「ずるいのじゃ、心晴。わしも颯真と友達なのじゃ」
 驚いたようにハムアキラを見る土御門君に、私は言う。
「じゃ、三人で友達だね」
「うむなのじゃ!」
「颯真、このサブレも美味しいのじゃ。颯真も食べるのじゃ」
 三人でお菓子を食べていた所で、時計の音が聞こえてきた。
「あ、今何時?」
「もう五時みたいだ」
「帰らなきゃ!」
「途中まで送ってくよ」
「ありがとう」
 慌ただしく部屋を片付け、絹代さんにご挨拶をして、土御門家を後にしたのだった。
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