ツバメに乗った妖精さんのお話

乙原ゆん

文字の大きさ
上 下
3 / 3

3.ある晴れた春の夕暮れに

しおりを挟む
 あれから一年が経ちました。
 ツーツとシーラと共に戻ってきたイブキとハルトは、夕焼け空の下、去年お友達になったルルの家を探しています。
「着くの、思ってたより遅くなっちゃったね」
「イブキが川に落ちなきゃもうちょっと早く着いたかもしれないけど」
「しかたないだろ、メダカさんが呼んでたんだから」
「でも落ちる必要はなかったんじゃない?」
「ハルトだってメダカさんたちと水遊びして楽しんでたじゃん」
「ボクもメダカさんと仲良くなりたかったんだよ」
「ならしかたないね」
「うん」
 そんな会話をしながら、ルルの家を探しますがなかなか見つかりません。
「あれー、この辺だったよね?」
「うん。そうだね。たしかこの辺だったと思う」
 ツーツとシーラには、イブキとハルトを乗せて大きく円を描くように飛んでもらっています。
「あ、ほら、あの家じゃない?」
「ほんとだ!」
 ハルトが、ある家の屋根を指さしました。イブキにも見覚えがあります。
「いってみよう」
「うん!」
 そうして、ツーツとシーラには低く飛んでもらい、イブキとハルトはツバメたちの背から飛びおりて、その家の庭に飛びおりました。ツーツとシーラには、そのまま電線の上で待っていてもらいます。

 その庭は、丸い飛び石がいくつか置かれ、小道のようになっていました。そのふちを濃い緑の草がいろどり、窓の下のカベ際には、ツボミの縁を赤く染めたチューリップが伸びています。
 二人は、窓の縁まで登ると中を覗き込みました。
「あっ」
 そこには、二匹のネコがいました。一匹はルルです。そして、もう一匹は、体は大きくなっていますが、灰色に、尾の先に黒いシマ模様がありました。去年、女神様のお力を配っていた時にイブキが助けたネコに似ています。
「あの時の、子猫かな」
「どうだろう。でも、似てるね」
 中をのぞいている二人に気がついていないのか、二匹はソファに座っている男性に猫じゃらしで遊んでもらっています。
「ルルちゃん、レイくん、ごはんよー」
 やさしい女の人の声に、ルルたちは別の部屋に走っていってしまいました。男の人も立ち上がると行ってしまい、部屋の中には誰もいなくなってしまいました。隣の部屋から楽しげな声は聞こえますが、誰も戻ってくる様子はありません。あきらめてハルトが言います。
「明日また来よう」
「うん。明日は、ルルたちと遊べるといいな」
 イブキが答えました。そして不安そうに続けます。
「ルル、オレのこと覚えてるかな?」
「忘れられてても、イブキはすぐに仲良くなれるだろ」
「それもそっか」
 当たり前のように言うハルトに、イブキは笑います。ハルトの言うように、ルルがもしイブキのことを覚えていなくても、また、一から仲良くなればいいのです。レイくんと呼ばれていたあの灰色のネコとも友達になれるでしょうか。二人は窓からおりて庭に出ました。ツーツとシーラが、伝えていたよりも早くに戻ってきた二人を見て、不思議そうにしながらも迎えに来てくれました。ツーツとシーラの背に乗って、二人は空へと飛び立ちます。
「今日はどこで寝ようか」
 イブキが言います。
「あのサクラの木のところにいってみようか」
「そうだね」
 ハルトが答えると、イブキがいいます。
「あの鳥さんたち、どうしてるかな」
「会えるといいね」
 ハルトの言葉にイブキがうなずきました。
 去年、サクラの木に巣をつくっていた鳥たちには、女神さまの力を残してきています。イブキの治療に使った分、最初に残しておこうと考えていた量より少なくなりましたが、それでも、女神さまのお力が側にあるだけで、助けになったはずです。イブキもハルトも、あの鳥たちが元気にしているといいなと思っています。二人はツーツとシーラにサクラの木に向かって飛んでもらうようお願いしました。
 二人が飛び去った庭で、そのすべてをチューリップだけが見ていました。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

雪吹つかさ
2025.01.24 雪吹つかさ

絵本としての描写も入れながらも、非常に読みやすい文体ですね。読んでいて、入ってきやすく、またファンタジー要素が入っていながらも頭の中にイメージがスッと浮かんでくるバランスの良い地の文でした。日常の裏にあるようで、日常にあるような、そんな印象も受けました。
お話としては、小さくも大きな繋がりをゆるく紡いでいて、全体的に優しさを感じられる素敵なお話でした。

2025.01.24 乙原ゆん

読んでいただき、ご感想までありがとうございます!
日常の裏にこんな世界があったらいいなと思っています。
これは、友人にこういうの書いてみて!と言われたのをキッカケに書いたお話で、思い入れも強いので優しさを感じられたと言って頂けて嬉しいです。
ありがとうございました。

解除

あなたにおすすめの小説

シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。 以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。 不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。

月からの招待状

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
児童書・童話
小学生の宙(そら)とルナのほっこりとしたお話。 🔴YouTubeや音声アプリなどに投稿する際には、次の点を守ってください。 ●ルナの正体が分かるような画像や説明はNG ●オチが分かってしまうような画像や説明はNG ●リスナーにも上記2点がNGだということを載せてください。 声劇用台本も別にございます。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

おねしょゆうれい

ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。 ※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。

マッチ箱のウンチ

はまだかよこ
児童書・童話
尾籠な話で申し訳ありません。昭和の中頃。小学生の大半に寄生虫がいた頃の話です。美弥子の検便の顛末、読んでください。

ねむたくてねむたくて

しましまにゃんこ
児童書・童話
りすくんはねむたくてねむたくてしかたがないのにねることができません。それはきっとなにかがたりないせい。なにがたりないのかな? 寝かしつけのためのお話です。

シンクの卵

名前も知らない兵士
児童書・童話
小学五年生で文房具好きの桜井春は、小学生ながら秘密組織を結成している。  メンバーは四人。秘密のアダ名を使うことを義務とする。六年生の閣下、同級生のアンテナ、下級生のキキ、そして桜井春ことパルコだ。  ある日、パルコは死んだ父親から手紙をもらう。  手紙の中には、銀貨一枚と黒いカードが入れられており、カードには暗号が書かれていた。  その暗号は市境にある廃工場の場所を示していた。  とある夜、忍び込むことを計画した四人は、集合場所で出くわしたファーブルもメンバーに入れて、五人で廃工場に侵入する。  廃工場の一番奥の一室に、誰もいないはずなのにランプが灯る「世界を変えるための不必要の部屋」を発見する五人。  そこには古い机と椅子、それに大きな本とインクが入った卵型の瓶があった。  エポックメイキング。  その本に万年筆で署名して、正式な秘密組織を発足させることを思いつくパルコ。  その本は「シンクの卵」と呼ばれ、書いたことが現実になる本だった。

すぐケガしちゃう校長先生を止める話

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 この小学校の生徒会長には大切な仕事があった。  それは校長先生を守ること。  校長先生は少し特殊な個性や能力を持っていて、さらにそれを使ってすぐケガしちゃうし、大声で泣いてしまうのだ。  だから生徒会長は校長先生のお守りをしないといけないのだ。  それを補助してくれるはずの生徒副会長の桜さんも天然ボケがすごい人で、今日も今日とてハチャメチャだ。  これは僕と校長先生と桜さんの話。

テレポートブロック ―終着地点―

はじめアキラ@テンセイゲーム発売中
児童書・童話
「一見すると地味だもんね。西校舎の一階の階段下、色の変わっているタイルを踏むと、異世界に行くことができるってヤツ~!」  異世界に行くことのできる、テレポートブロック。それは、唯奈と真紀が通う小学校の七不思議として語られているものの一つだった。  逢魔が時と呼ばれる時間帯に、そのブロックに足を乗せて呪文を唱えると、異世界転移を体験できるのだという。  平凡な日常に飽き飽きしていた二人は、面白半分で実行に移してしまう。――それが、想像を絶する旅の始まりとは知らず。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。