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ローレス領ダンジョン攻略

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 目の前には裏ダンジョンに入る扉が三つ。前にフィリフェルノがこのダンジョンに一人で調査に来て見つけたときは一つだったという。
 確認するように皆の視線がフィリフェルノに集まると、フィリフェルノはハッキリと一つ頷いた。前は確かに扉はひとつだったようだ。

 裏ダンジョンに入らなければ、ギミックはない、という思い込みをしょっぱなから挫かれる。
 
(入口からギミックとは驚いたな。だが、入口も確かに裏ダンジョンの一部だ。時間の経過と共に扉が増えているのか?いや、それともここにいる人数が関係しているのか?)

 1-2人なら扉一つ、3-4人なら扉2つ、5-6人なら扉3つといううに変化している可能性もある。

「さて、どうしようか。扉一つを選んで全員ではいるか、それとも2人づつに分かれて入るか」

「まだ誰も入ったことのない裏ダンジョンだわ。数少ない戦力を最初の入口から分けるのは得策とは言えないんじゃないかしら?」

 腕を組んで意見を求めてきたアンフェルディスに、ギィリは顔をしかめて自らの意見を述べる。ギィリの言うように、一人一人の戦力は高くても、数は圧倒的に少ない。

「私はギィリ様に賛成かな~。中がどうなっているか分からないのに仲間を分けるなんて危険過ぎるもの」

 しゃがみこんだレースウィックがギィリに賛同する。
 2人は共に魔導士であり、戦力を分けるというリスクを十分に理解しているからだろう。魔導士は遠隔からの魔法攻撃に優れているが、剣や斧などの近接戦闘に弱い。

 基礎防御力が低いためだ。味方の数が少なくなったとき、不利になりやすい。
しかし、ここでフィリフェルノが反論をあげた。

「私は2人づつの3つにPTを分けてそれぞれの扉に入るほうを推します。前に来た時1つだった扉が3つに増えたにしても、一つの扉に皆で入り間違っていたとして、ここに戻ってきた時さらに扉が増えていたら?正解の扉にたどり着く可能性はずっと1/3です」

「扉がまた増えていることも考えられるか、ありえる話だ。俺もそれを考えるならPTを2人づつにわけて3つの扉それぞれに入ることを推す。持ってきたアイテムボックスの中の食料も限りがある。扉一つ一つをつぶしていく時間はないだろう」

 アンフェルディスがフィリフェルノの案に賛成する。意見がまっぷたつに別れてしまう。

 こういう時、冒険者パーティーであれば最終的にどちらの意見を優先するか決断するリーダーがいるが、この調査パーティーにはリーダーはいない。さて、どちらの意見を上手く折り合わせるか?と傍観していると、ディルグラートが妥協案を提示してきた。

「でしたら、一回目は一つの扉に皆で入り、ダメだったら戻ってきて今度は2人づつの3PTに分かれて裏ダンジョンに入るというのはどうでしょう?いきなり数少ないPTを分けるというのは危険ですが、調査する日数に限りがあるのも事実です」

 ギィリの案とフィリフェルノの案の両方の意見を汲み取ったいい妥協案だろう。その案に皆が納得したように頷く。黙って皆が話し合っている様子を眺めていた俺を、ギィリは振り返った。

 一応6人PTのうち5人の意見はまとまっているが、全員の意見を聞くつもりらしい。

(俺はどっちの案でもついてくだけだからいいんだが)

 一人だけ意見を聞かず、後になって「実はあのときこう思っていた」という後だしを防ぐ意味でも、全員外見を述べておく意義はある。

「レイはどう思うかしら?」

「まず、確認したいことがあるのですが、いいでしょうか?」

「もちろんよ」

「そもそもこの3つの扉って、1つだけで開くのでしょうか?3つ同時に開けないと、扉が開かないなんてことはないですか?」

「なんだと?」

 声を上げたのは目を見開いたアンフェルディスだ。だが、他のメンバーも目を見張ってこちらを注視している。

「一つだった扉が3つに増えた。これはギミックの一種です。その増えるギミックの意味を考えたら、このギミックは攻略しようと来た者たちを分けることが目的ではないかなって思ったんです」

 複数扉があってもどれか一つの扉にPTを分けず全員で入れて、外れだったら戻ってきて別の扉に入る。それならほとんど一本道のダンジョンと大差ない。

 扉が増える程度ならギミックとは呼べないだろう。ギミックとは、強制的に裏ダンジョンに入ってきた者たちに<ルール>を敷くのだから。

「扉はあっても単純に開くとは限らないかもしれません。扉のノブに触れただけで中に吸い込まれたら申し訳ないのですが、ノブが一つだけでも引けるか試したいです。いいですか?」

 確認を取ると、全員が小さく頷く。
 ここで試しに扉を開くのは言い出しっぺの俺自身だ。

 扉はどれでもいいので適当に真ん中の扉前までくる。みんなの注目を浴びながら、まずは人差し指でドアのノブに軽く触れた。
 ちょんと触れた指先にノブの金属質な冷たさが伝わってくる。が、ギミックが発動したような気配はない。

 では、本番とノブを掴み、力を込めて引っ張った。
 
 ドアノブは固くピクリとも動かなかった。

「引っ張ってみましたが、ピクリとも動きません」

 この真ん中の扉だけが開かないのかもしれないので、左右の扉も同様に開くかどうか試す。俺の考えが当たっていたかもしれないと、この時点ですでに確信に近いものがあった。

「だめです。この扉は3つとも開きません」

案の定だった。振り返った俺以外の5人の表情が険しい。

「では3人同時に開けてみましょう」

 言いながらギィリが真ん中、アンフェルディスが右、そして俺が左の扉のドアノブを手にする。

「合図で同時に開けて頂戴。3、2、1」



「「「ガチャッ」」」


 扉は先ほど俺がどんなに力を込めても動かなかったのに、嘘のように簡単に開いた。
 感嘆の溜息を漏らしたのは誰だっただろう。一人、レースウィックだけは、クイズか謎解きが解けたときのように、「おー!」と声をあげ、ぱちぱちと手を叩いている。

「レイの予想が正解かぁ~。残念!でもさぁ、扉が開いたなら、一つの扉を開いたままにしておいて、残り二つの扉を離して、みんなで一つの扉に入れるんじゃない?」

「ではそれも試してみましょう。アンフェルディス殿、レイ、扉のノブから手を放してもらえるかしら」

 ギィリの指示に従い、アンフェルディスと俺はドアノブから手を放すと、キィと軋み音を立てて左右の扉がしまった。と、同時にギィリが声を上げた。

「えっ!?ドアが勝手に!」

 ギギと音を立て、真ん中の扉も閉じてしまった。真ん中の扉のドアノブを掴んだままだったギィリが力いっぱい抵抗しても全く無力だったようだ。掴んでいた手に視線を落とし、軽く閉じたり開いたりしから、苦笑を浮かべた。

「……私は何もしてないわ。扉がすごい力で勝手に閉じた。これはもう一つの扉にみんなで入るというのは無理みたいね」

「裏ダンジョンに入ろうとする者たちを分けるギミックというわけか。入口からこれでは中のギミックがどんなものか心躍るな」

 アンフェルディスは茶化して言うが、戦力を分けるというのはPT攻略にとって痛手であることに代わりわないのだ。
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