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ローレス領ダンジョン攻略

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 俺が独り言のように呟いてから少しの間、沈黙が流れた。

(前々からフィリフェルノからアンフェルディスの人となりは聞いているし、悪い奴ではなさそうなんだよな。冒険者たちからも慕われている。それにここに来るまで思ったけど、頭の回転が早い。冒険者として経験豊富だから対応力が半端ないし、思考力の柔軟性もある)

  なにより即席の6人をしっかりまとめるだけのリーダーシップ力は大したものだと思う。これだけのリーダーシップ力があれば、荒くれ者や性格に癖のある者が多い冒険者ギルドの支部長になっても、十分やっていけるだろう。

 これがフィリフェルノの評価と、実際にローレス領に来るまでに俺がアンフェルディスを見た総合評価だ。

 ギルド支部の建物の中にいるだけでは、同じ建物の中にいても受付と支部長では接点はほとんどない。またアンフェルディスがラドバニアに配属された背景や、なぜ俺が疑われたのか理由が分からず、ゆえに、判断を保留にしていたという背景があった。

 しかし、それらの不安要素と道中のアンフェルディスを見てきた評価を天秤にかけて、俺の中でアンフェルディスが信頼に足るという判断に至る。

「………気づかれていたか。なんだ、お互いタイミングを測っていただけか?なら変に探りを入れないほうがよかったな」

 意外にもアンフェルディスはすんなり認めた。
 そして、これまでの他人行儀な丁寧語から、砕けた口調になる。

「お前は俺の敵か?」

「直球過ぎませんか?それで元SSランク相手にハイって答える奴がいたら、ただの馬鹿ですよ」

「元々俺は回りくどいことは嫌いなんだ。腹を割って本音で話してさっさと終わらせられるならそっちの方が早くすんでいい」

「それについては俺も同感です」

 この状況で、俺を疑った理由は問わない。お互い相手を不信に思っているのは、今さらどうしようもないからだ。しかも、この会話は2人とも顔を合わせようとせず、そっぽを向いて話しているのだから笑える。

「話せないなら、無理に話すことはない。だが、代わりにダンジョンに入る前に調査PTから離脱となるし、ギルドも辞めてもらうことになる。敵か味方かも分からないやつを俺は面倒みたくない。しばらく食べていくだけの金はやるよ」

 いきなり俺を重要なダンジョン調査に加えると言い出して、何が目的だろうとは考えていたが、アンフェルディスは皇都から俺を連れ出し、冒険者ギルドからも穏便に追い出すつもりでいたらしい。

(しかし、敵かもしれない相手を誰も見ていないところで消すどころか、放り出しても、しばらく食っていけるように金まで渡すなんて、コイツどこまでお人好しなんだ?)

 よくこれで今までやってこれたものだと思う。

 新しいダンジョンに俺が入らないのは別に構わない。ディルグラートはもちろん、フィリフェルノも上手くギィリとレースウィックをサポートするだろう。

 しかし、俺が冒険者ギルドを辞めるというのは内心惜しく感じていた。

(冒険者ギルドの受付って、やってみたらけっこう俺の性に合ってるみたいだし、できればもう少し続けていたいんだよなぁ。なにより、地味に情報入るし)

 まだまだ慣れない初心者の冒険者たちに、補助アドバイスしたりサポートするのは決して苦ではない。そして世界中に赴き、モンスターと戦ったり、辺境の土地を調査採取をしているからこそ、世界で起こっている些細な生の声を聞くことができる。

 ギルド受付は情報入手に最も適している。けれど、そのギルド支部長に不信を抱かれている。

(思い切って元帥だってバラしても、なんで元帥のくせに冒険者ギルドで受付なんてしてるんだ?って追及されるだろ?それに俺が成り行きでって正直に答えたところで、信じてもらえるわけねぇし?)

 そもそも帝国元帥だということすら信じてもらえるか怪しい。だったら普段元帥として仮面をつけて素顔を隠しているのに、アンフェルディスには顔を見られ損になる。

「ダンジョンはこの際どうでもいいですが、ギルド受付は未練があります」

「裏ダンジョンがあるかもしれない情報より、ギルド受付の方が大事なのか?余計に疑わしいな」

「興味が全くないわけじゃないですよ。ただ、俺にとってそこまで重要ではないだけで」

「確かに今回ダンジョンに入らなくても、いずれ冒険者たちの誰かがダンジョン攻略して、中がどうなっているのか分かるから急ぐ必要はないな」

「そんなところです。しかし俺の正体を話せないのは、今言ったところで信じてもらえないと思うからです」

「俺が信用できないか?」

 快活だったアンフェルディスの声のトーンが下がった。
 あちらは腹を割って話そうと言っているのに、こちらは正体を話せないとハッキリ断言ことが、気に障ったらしい。

「信用していないわけではありません。そうですね……例えば、俺が支部長より強いと言って信じますか?」

「否定はしない。強さなど直接手合わせしてみなければ分からない」

「でも支部長の解析スキルには、俺の数値が普通の人種と同程度のものが表示されているんじゃないですか?」

 確信したように俺が言うと、アンフェルディスがぴくりと反応して、こちらを振り返った。口元が斜めに吊り上がり、にんまりと笑みを作る。笑ってはいたが、目の奥に剣呑さが宿っていた。

 さっきまでの朗らかで面倒見のいいギルド支部長はどこに消えた?

「俺が解析スキル持ちだといつ気づいた?」

「勘です。支部長はやけに人を見る目があるなぁって日頃から思ってたんですけど、ちょっ、そんな怖い顔で睨まないでくださいよ。誰かに見られちゃったらどうするんです?」

 勘といったのは本当だ。モンスターや人物の強さを数値化して見破ることが出来る解析スキルは世界中でも極めてレアなスキルだ。戦う敵の強さや弱点を見破ることが出来るのだから、戦闘では圧倒的有利になる。

 冒険者なら喉から手が出るほど、欲しいスキルの一つだろう。

(軽はずみに動いて、俺の正体を看破されたらたまったものじゃないからな)

 アンフェルディスは解析スキルを持っている。

 これが理由で、俺から動くのを躊躇った。逆にアンフェルディスは解析スキルで俺になんらかの異変に気づいたと考えれば納得がいく。

 道中にアンフェルディスの方から動きをみせたのも解析スキルの根拠があったから、動いても問題ないと踏んだのだろう。

「悪い。まさか見抜かれているとは思わなかった。警戒されて当然だ。だが俺にレイのステータスが見破られていると分かっていて、なお俺より強いと言い張る気か?」

「言い張りますよ。でも厄介ですね、解析スキルって。もしかしたら俺が一番知られたくないことまでバレちゃいそうだ。解析スキルって一括りに言っても、スキルを使う人物の力量でどれくらい見抜けるか差があるんでしょう?」

「確かに人に左右されるスキルだな。ということは俺が見ているこの解析結果はダミーということか。解析スキルを欺く能力が存在するとは思わなかった」

「いえ、その解析は正しいですよ。俺がちょっと特殊なだけで」

「……もし俺が全部見抜いたらどうする?」

「簡単に見抜かせる気はないから、気にしなくて大丈夫ですよ。はははは」

「ぬけぬけと言いやがる」

「俺は敵ではないですよ。ご縁があれば互いにいい関係が築けると思ってます。ギルド受付をしているのは……、前話した通り成り行きと、俺個人の趣味です」

 そしてその時、俺が冒険者ギルドの受付をしていることを黙認してくれれば最高だ。
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