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第1章 異世界へ、そしてダンジョンへ

8.二日目のダンジョン

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 8時間程俺たちは睡眠を取っていた。
 最後は俺が見張りの番だった。

 夜のうちに魔物が何回も結界に触れてはいたが入れなかったようだ。
 結界を壊そうとして壊れず諦めたもの、何かよくわからず近寄らないもの、突然出現した結界にぶつかるもの等々いろいろいたが問題は発生しなかった。

 が、この結界もどこまで通用するかは分からないため過信はよくないため、常に当たり前だからという考えを棄て疑念の心を持つことが重要だ。

 これはゲームで痛いほどこの身で経験したからこそ言えることだ。

 そんなことを考えながら時間は過ぎていった。

「カリス、砂時計の砂全部落ちたぞ、起きろ」

 俺はカリスに普段しゃべる声より一回り大きな声を掛ける。

「まだ、早いよ……。」

 俺の反対の方向にゆっくり寝返りながらカリスは言った。

 交代のときはすぐに起きたが、その最後の見張りも終えて緊張が解けたのだろうか。
 ここで無理矢理起こすのもよくないかと思いカリス自身で起きてくるのをそこらの岩に腰を掛けながら静かに待った。


 暫くしてカリスが起きてきた。

「セシリアちゃんおはよう……。待った?」

「気にしなくても大丈夫だ。昨日見張りをしっかりやってくれたお陰で、安心して眠れたからね。ご飯を出すからちょっと待っていてくれ」

 見張りの件は結界も張っていたものの魔物が入ってくる可能性は十分にあり得た。だから、これは嘘というわけではない。

「カリスの分だ」

「うん、ありがとう」

 カリスは長い髪が所々遊んでおり、起きてすぐで目が醒めておらず、時々虚ろな眼を擦りながら食べている様子は、警戒の雰囲気は無く、ダンジョンにいることを忘れて心がどこか落ち着く。

 普通はこんなことは出来ないだろうが、俺にとって脈を打つくらいの当たり前に無意識で張っている、大抵の魔物から守る結界が張られているからだ。

 和やかな食事も終わり俺たちは気持ちを切り替えて、魔物を狩りに行く。

 ◇

「|火球__ファイアーボール__#は、初心者の魔法でそれをマスターしたカリスはもうワンランクではなくツーランク上のの魔法をやってもらおう」

 近くの魔物に|火球__ファイアーボール__の上位互換である、|大火球ビッグファイアーボールの更に上の火球の何十倍もの威力がある|黒炎球__ブラックフレア__#を放った。

 攻撃を受けた魔物は、|火球__ファイアーボール__では、焦げた魔物が転がっているのだが、|黒炎球ブラックフレアを受けた魔物は、焼けた跡のみで魔物が居たという証拠まで消し炭と化した。

「……………。じ、地面に、跡しか。残っ、てないじゃない……」

 カリスは俺の放った魔法により、消えた魔物の跡を只呆然と理解が追い付かず懸命に考えていた。

「これを毎回放つわけではなく、決め手。或いは、どうしても此れ以外で倒せないときに使え。大抵の魔物は倒せるだろう」

「私に、こんなもの使えるの………?」

「1日1回くらいならな。感覚は今のままだから、落ち着いて使えばカリスの才能なら打てるはずだ」

「そうなのね……」

 イマイチ解せない様子だったがもう1つ魔法を教える。

「他のさっきのみたいに、魔力を消費しない魔法を教えよう」

 再び俺は、魔物に魔法を放った。

 今度のは|氷の矢__アイスアーロ__#で魔物に向かって飛ばす魔法だ。

 矢の精製に関してだけでも、上手く出来ないと丸かったり、魔物に当たったら砕け散ったりと魔力は使わないものの精密な操作が求められる。

「これはどうだ?弓で射る矢を氷に変えて倒すという魔法だが大丈夫そうか?」

「さっきのよりもいいよ」

「矢を作るときは、氷の塊を引き伸ばすイメージで、魔物の頭を狙って殺る。此れについては弓と同じと思うが」

「つまり、矢を自分で作り弓と同じ要領で考えことね」

 カリスは、遠くにいる魔物に向かって何度も飛ばしていた。
 当たっても砕けたり、打撲の傷を負わせるような氷の塊が当たったり、鋭い矢が出来ても外れてしまうなどで倒すのに|火球__ファイアーボール__#よりも大分時間が掛かってしまっていた。

 普通の基準で言えばこれに関しては文句はないが、カリスにしては他のものよりも扱いが難しいようで上手くできてなかったようだ。
                                 
 この世界では人為的に氷を精製する技術がなく、北の方の国に行かなければ見れない。ここから行くには、大体片道で半年くらいかかるだろう。

 わざわざ北の国行く人は極少数の人のみだった。
 そんなわけでカリスは氷を見たことが無く、氷の魔法が苦手な要因となっていた。

「やはり、難しいか……。他のも教えようか」

 周辺には、滅せられた魔物と魔法によって荒れた地面のみなのでここから移動をすることにした。


 こんなに地面が荒れていたら不審に思う奴もいるだろう。しかし、俺たちの見た目といい自分の目で確かめない限り犯人は分からないだろう。
 更に、こんな荒れ方は魔法という存在を知らない彼らにとってはこの状況は人がやったという説明はできず、魔物がやったと考えることぐらいしかできないと思う。
 魔物の仕業ではここまで荒らすことはできないと俺的には思うが、だからと言ってわざわざここを直す気もしない。いや、これから先、何があるかも分からないのに不用意に使うのはあまりいい作とは考えられない。ということで、そのままこの状態で放置する。
 別に人が通れない訳でも無いし、困るとしたら景色が変わって地図でどこか再確認をする必要があるくらいだと思う。

 ほんとに申し訳ないが、このままにさせてもらい、カリスと共に移動をする。

 ◇

「あの魔物に新しいのを放つからな」

「分かったよ」

 数百メートル離れたところにいる魔物を目視で確認出来たら、俺は棘の岩イバラロックで地面から、魔法の効果により1本の鋭い岩が地中から魔物目掛けて飛び出て串刺しにして、滅した。

「よく見えない、でもあの魔物警戒してるのかな?」

「もう、死んでいる。近くまで寄るか」

 歩きながら徐々にその魔物の様子が見えてくる。

「どうだ?これが、魔法によるものだ」

「あんなに遠くからよく倒せるね」

「そこまでの技術はまだ無理かもしれないが、魔法の発動自体はできると思うぞ。どこでもいいから地面で魔法を試して」

 カリスは自分の前方の地面に向かい魔法を使う。

 地面から波のように一点を中心にして、外に向かい地面が揺れ数秒後には、1、2メートル台の岩が1秒程掛け、出てきた。

「こっちもまだ攻撃には向かないかもしれないが、何も攻撃だけとはいっていない。使い方次第で、魔法はより使えるものとなるからな」

「例えば、壁とか?」

「足止めくらいにはなるだろうな。威嚇にも使えるかもしれんな」

「セシリアちゃん、ちょっといい?」

「どうした?」

「そろそろお腹が空いてきたから、お昼ご飯を食べたいんだけど……いいかな?」

「忘れていたな。悪い、今準備するから待っていてくれ」

 俺は、急ぎ目でご飯を出すとカリスに渡す。

「ありがとう。……あの、セシリアちゃん。 答えなくてもいいんだけれど、何で魔法を知ったの?」

 気になるよな……。俺もカリスの立場だったら訊いていただろう。

 何と答えようか。まさか転生か転移?どちらかよく分からないが、異なる世界から来たということは言うわけにもいかない。
 いろいろとややこしくなるからだ。

 古い書物に……。それとも、もともとの知識で…………。
 悩むな、考えておくべきだった。
[昔から、本が好きで先祖代々伝わってきた書物等に書いてあったことを何度か読んでいるうちに理解できた]っという設定にでもしておくか。  

「俺の家の書斎に昔から代々伝わってきた本があったんだがな、それは空想のこととして扱われていたのだが、本当にできるのではないかと思った。魔法を唯の夢物語として紹介をせずに、歴史の一部を飾ったもの として書いてあった。歴史は伝わるにつれて美化されたり、大袈裟なっていたりするが、魔法が無かったら、成り立たなくなる ことが多すぎて本当に使えないなら過去の大半は偽りだったとい うことになる。そんなことは無いだろうと思い、書いてあること を模倣してみた。すると……。何も起きなかった。何度やっても出来なかった」

「じゃあ、何で使えたの?」

 よし、俺の世界に入ってきてるぞ。
 嘘だとバレていないようだな。 

「ボクは考えたんだ。そもそも魔法に於いて大切なことは何か?何度も本を読み返した。同じ時代と呼ばれる書物にも沢山、目を通した……」   

「それで?」

「魔法に於いて大切なことは、前にも言ったかもしれないが想像力、イメージだ。この様なものを使いたい、こんな風にしたい。それだけでは永久に魔法は使えない。だから、これを発動させるという風に自分に有った知識で理解できる範囲にあった魔法を使った」

「それで使えたというわけ?」

「そうだ。他の魔法も頑張って使えるようにしたがな。カリスは感覚を共有しているからイメージがイマイチ沸かなくても、魔力の使い方とそのもともとあった才能で使える」

「でも、剣を出すやつはどうやったの?あれ、普通に生活していてあんな知識身に付く?」

 矛盾に気づかれたか。ここで諦めはしないが、ここを乗り越えたらもう心配は要らないだろう。

「それは、本の知識さえもが恰もこの目で見た知識の様に定着が出来たからだ。本も文として理解しようとせずに分かるところから、徐々に理解していく。すると、その本は常識……とまでは成らないが、もうその知識は完全に自分のものとなる」

「言ってたものね、本を沢山読み返したって」

「だからボクは昔の知識を身に付けたからこそ、昔の魔法が使えたという訳だ」

「そんな苦労して得た魔法を、私がこんなに気安く使ってもいいものなのかな……?」

「人の役に立って何ぼだから、いいんだぞ。それどころか初めて魔法を教えて、使ってもらって今こうやって2人で一緒に居られていること。同じことができること。これがボクにとって他の何も代わりに為り得ない掛け換えの無いことであり、カリスは今何よりも失いたくない存在になっている」

「え……?」

「そんなカリスにとって魔法が邪魔ならもう勧めない。役に立つのなら一緒に教える。それがボクの日常であり、楽しみでもあるんだ」

 俺は敢えて勿体振って

「だから、そんなに思い詰めないで欲しい」


「セ、セシリアちゃん!何か泣けてくる……ありがとう。そんな風に思ってくれてたんだね」

「これからも、よろしくな」

「セシリアちゃん、大好きだよ」

 本当に感動して泣いてしまっているようだ。
 出来ればだが、前世で言われたかったというのは我が儘か。
 性別も違うしな。

「ボクも、好きだぞ」

 ………?!何故ちょっと感動的になっている?
 俺が魔法をどうやって覚えたかから始まり、御互いに友情が深まった。
 結果は完璧かもしれないが、嘘から始まったというのは少し不覚だが、最後のところは本音で言った。

 もしかして、コミュ障ではなくなったということか?!

 まあ、食事どころでは無くなっていたが、終わり良ければ全て良しということであの嘘は帳消しにしてもらおう。
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