118 / 123
115 おめでとう
しおりを挟む
アレキサンダーのことも取り上げたという、ヘーゼルダイン家御用達の壮年の老女医に、夫婦そろって叱咤激励をされながら、アビゲイルとアレキサンダーが立ち合い出産で挑んだ分娩は、次の日の未明までかかった。
陣痛の感覚が早くなってずっとずっと苦しいのに、なかなか子宮口が開いて来なくて、普段のへらへらした明るい彼女はどこへやら、パニックを起こして、
「もう嫌! 逃げたい、助けて! 死にたい、死なせてェッ!」
と号泣しながら、そこらにあったタオルやら編みぐるみ、クッションやら何やらを投げつけて暴れるアビゲイルに、夫であるアレキサンダーが羽交い絞めするようにして抱きしめてやり、彼自身も涙を流しながら、妻を宥めるようにずっと謝っていた。
「すまない、すまない、アビー……!」
「アレクさま、ごめん、なさ、もう嫌なの、こわい、耐えられないよぉっ……!」
「甘ったれてんじゃないよ!」
別に悪くないのに謝り続ける夫と激痛に泣き言を言い出す妻に、女医が一喝を入れる。その年齢に見合わないような甲高い声に、夫婦そろってビクリと硬直してしまった。アビゲイルもその一喝で驚愕し、一時痛みを忘れる。
「いいかい、奥様。親になるってのは痛みを伴うのが当たり前なんだ! そんな覚悟も無しでアクセサリー感覚で子供を産もうってんなら、初めから子供なんて作るんじゃないよ!」
「……!」
「子供は必死に生きようとして、生まれてアンタらに会いに来ようとしてるってのに、その子供の努力を痛いからって突き放すようなこと言うなら、もう勝手にしな!」
「ドクター、も、申し訳ない」
「殿様もさ、アンタまでめそめそしててどうすんだい」
「し、しかし」
「そんなことより気が弱くなってる奥様をしっかり支えてやんな。腰をさすってやるとか色々できることがあるんだからさ」
「は、はい」
まだまだ未熟な二人に一喝を入れてやった女医は、アビゲイルが八つ当たりでぶん投げたタオルやら小さな編みぐるみを拾って、
「こんだけ暴れられるなら、大丈夫だよ、奥様」
とフォローを一応入れてくれた。
叱られたこともショックだったけれど、女医の言うとおり、痛くて苦しいからといって「死にたい」などと言ったことをアビゲイルは恥じた。自分が死ねば、お腹の子はどうなる。
アレキサンダーと結ばれる前は、アレキサンダーの子を何人でも産むと宣言したくせに、今一人目を産むときになって弱気になって挫折してどうする。
あれだけ十カ月強も大事に大事に愛でてきたお腹の子を、どうして今突き放してしまうようなことを口にしたのだろうと、そう考えると後悔で別の涙が浮かんできた。
お腹の子はもうちゃんと外での声が聞こえる。母にこんなことを言われているなんて思ったら傷つくに決まっている。
「うぅ……っ、ごめんね、ごめんねぇ、クラリス……! ママが、ママが悪かったわ……!」
未だ続く波がある激痛もそう考えると愛おしく思えて、ぜえぜえはあはあと呼吸を荒げながらも、お腹を撫でさする。
「うあああ……っ、おバカ発言したママをどうか、どうか許してね……!」
「アビー……。クラリス、パパも悪かった。ママのことはしっかり支えるから、安心して元気で生まれて来なさい……!」
ごめんねごめんねと我が子に謝りながらも、波のある陣痛に耐えて、ようやく子宮口が開いて分娩の時間がやってきた。
これまでと比べ物にならないくらいの激痛だが、もう泣き言は出てこなかった。絶対に死んでたまるか。絶対に無事に産み落としてやる。
やけくそ気味だったが弱気よりはましと考えるようになる。もう情けないことは絶対に言わない。親になるんだ。そう考えると悲しい涙なんか引っ込んだ。
ベッドでアレキサンダーに支えられて、彼の手がうっ血するまで強く握りしめては、邸中に響くような、女性らしからぬ獣じみた悲鳴を上げながら、いきんで、いきんで数時間……頭が出てきたとの女医の言葉を聞いたあたりからは、もう時間の感覚は既に無くあっという間に感じた。
大きく息を吸い込んでから今まで以上にいきんだ瞬間、ずるりという感覚、そして響き渡るけたたましい赤ん坊の泣き声……。
「はい、おひい様の誕生だよ!」
やや疲れたような、それでも晴れやかには変わりない声で女医が言った。
その言葉で、背後で支えていたアレキサンダーがはあー、と大きく息を吐きだした。アビゲイルと一緒になって息を止めたりしていたらしい。彼も少々息を荒げている。
アレキサンダーは握っていたアビゲイルの手をそっと放して、彼女の前髪を掻き上げてその額にちゅっとキスを落とした。
「……ありがとうアビー。頑張ってくれたな。お疲れ様」
「うん……」
一仕事終えた倦怠感から、大した返事もできずにぼけーっとしていたところに、へその緒を処理してざっと清拭された我が子を看護師が連れてくる。
真っ赤でしわくちゃでギャン泣きしている娘がそこに居た。
「わあ……アレク様、子供だよぉ……」
「ああ……」
感想が夫婦そろってそれしかないのもどうしたものかと思うが、こっちも疲れきってそれどころじゃなかった。
とりあえずは顔見せのみで、そのまま娘はちゃんと湯あみに連れて行かれたので、こちらは後産の処理が終わると、アビゲイルは気絶したように眠りに落ちる。
アレキサンダーは今一度アビゲイルの顔じゅうにキスを浴びせてから、あとは侍女らに任せて部屋を出ることにした。
ぱちりと目が覚めると、そこは夫婦の寝室ではなくて、その隣にあるアビゲイルの寝室のベッドの上で、手が何かに触れている感覚にそちらに目をやると、夫のアレキサンダーが居た。ベッド脇に椅子を置いて、大きな体を縮みこませるようにして座っていた。ずっとアビゲイルの手を握って看ていてくれたらしい。
ぴくりと動いた手に気付いてこちらを見て、アレキサンダーは顔を上げる。
「アビー、目が覚めたか?」
「うん……おはようございます、アレク様」
喋ると唇が乾燥しているのに気付いた。そんなことはないのに久しぶりに喋った気がする。
アレキサンダーが傍に用意していた水差しからグラスに水を注いで手渡そうとしてくれたが、アビゲイルが起き上がる元気がないと察して、その水を自身の口に含んでからアビゲイルに口移しで飲ませてくれた。
食道を冷たい水が通っていくのがよくわかる。自分でも気づかないくらいに喉が渇いていたらしい。もう少し欲しくてアレキサンダーにねだると、彼はすぐに次の水をまた飲ませてくれた。
「……今何時ですか? っていうか、あたしどれくらい寝てました? 寝落ちしたの何時でしたっけ」
「明け方の四時ぐらいから、今九時だから五時間くらいだな」
「うわあ、結構寝たんですね。まだ怠いけど眠気はちょっとすっきり」
「そうか、良かった。……目覚めてくれてありがとう」
「なあに、目覚めますよちゃんと」
「目覚めないかと思ったんだ。何度も寝息を確かめた」
「うそ、いびきとかかいてませんでした?」
「かいてない。だから心配したんだよ」
「良かった~……って、ちっとも良くないですよ!」
寝ながら元気に文句を言うアビゲイルに安心しきった表情で笑うアレキサンダーの目尻はやや涙焼けしていた。
皆に知らせてくると言って、一度部屋から出て行ったアレキサンダーは、白いレースの産着に包まれた娘を抱いて、侍女らとともに部屋に戻ってきた。
「アビー、クラリスだ」
「わあ……! だ、抱っこしたい!」
「起き上がれるか?」
「はい、あいたたた……」
「無理するな」
「大丈夫、これしき……!」
「奥様ったら」
侍女のリサが慌てて駆け寄って、アビゲイルが起き上がるのを手伝い、背中にクッションを入れてくれた。
起き上がったアビゲイルに、アレキサンダーが娘、クラリスを手渡してくれた。
白いレースのお包みの中、真っ赤でしわくちゃな顔をした我が子。ちょっとだけ産毛のように生えている髪はアビゲイルと同じプラチナブロンドだ。
母の胸に抱かれて、ふわりと目を開けたクラリスは、口をむにゅむにゅと動かしてこちらを見る。
まだ見えもしないその瞳の色は父親のアレキサンダーから受け継いだ、アビゲイルの大好きなウルトラマリンブルーだった。
アレキサンダーと自分のミックスジュースみたいな娘を見て、次の瞬間にアビゲイルは嗚咽する。
おっ、おっ、おっ、と婆さんみたいなしわがれた声が出てしまった。
ぼろぼろと次から次へと出てくる涙の一滴がクラリスの顔に落ちて、それが不愉快だったのか、娘はほわほわと泣き出してしまった。
「あわわ、どうしよう。ママだよ、怖くないよクラリス」
「お腹が空いたのかもしれませんわ、奥様」
「あ、そっか、おっぱい」
「殿様は少々お部屋を出てくださいまし」
「あ、そ、そうだな」
「ああ、いや、アレク様もいていいですよ。パパですもん」
「いいのか……?」
「全然いいですよ~。今更アレク様におっぱい見られたところで痛くも痒くもないですもん」
「そういう問題ではない気が……まあいいか」
何だかよくわからない納得をしてアレキサンダーはベッド脇の椅子に座りなおした。
アビゲイルが前をはだけると、抱いていたクラリスは勢いよく乳首に吸い付いてきた。一心不乱に母の乳房に吸い付いて母乳を飲む娘の様子を見ていると、元気でちゃんと生きているということを実感してまた涙が出てきた。
なんて幸せな光景なんだろう。
「……幸せだな」
優し気に見守るアレキサンダーが、アビゲイルの心を読んだかのように同じことを口にした。
夫婦は似てくるというのはよく言われるけれど、本当にそうなのかもしれないと思ってなんだか面白可笑しかった。
おっぱいを飲みながらまだ見えもしない目をうっすら開けているクラリスと、そばで見守るアレキサンダーの同じウルトラマリンブルーの瞳が並ぶのを見て、愛おしい色に囲まれていると感じて、アビゲイルは心の底から幸せを感じていた。
陣痛の感覚が早くなってずっとずっと苦しいのに、なかなか子宮口が開いて来なくて、普段のへらへらした明るい彼女はどこへやら、パニックを起こして、
「もう嫌! 逃げたい、助けて! 死にたい、死なせてェッ!」
と号泣しながら、そこらにあったタオルやら編みぐるみ、クッションやら何やらを投げつけて暴れるアビゲイルに、夫であるアレキサンダーが羽交い絞めするようにして抱きしめてやり、彼自身も涙を流しながら、妻を宥めるようにずっと謝っていた。
「すまない、すまない、アビー……!」
「アレクさま、ごめん、なさ、もう嫌なの、こわい、耐えられないよぉっ……!」
「甘ったれてんじゃないよ!」
別に悪くないのに謝り続ける夫と激痛に泣き言を言い出す妻に、女医が一喝を入れる。その年齢に見合わないような甲高い声に、夫婦そろってビクリと硬直してしまった。アビゲイルもその一喝で驚愕し、一時痛みを忘れる。
「いいかい、奥様。親になるってのは痛みを伴うのが当たり前なんだ! そんな覚悟も無しでアクセサリー感覚で子供を産もうってんなら、初めから子供なんて作るんじゃないよ!」
「……!」
「子供は必死に生きようとして、生まれてアンタらに会いに来ようとしてるってのに、その子供の努力を痛いからって突き放すようなこと言うなら、もう勝手にしな!」
「ドクター、も、申し訳ない」
「殿様もさ、アンタまでめそめそしててどうすんだい」
「し、しかし」
「そんなことより気が弱くなってる奥様をしっかり支えてやんな。腰をさすってやるとか色々できることがあるんだからさ」
「は、はい」
まだまだ未熟な二人に一喝を入れてやった女医は、アビゲイルが八つ当たりでぶん投げたタオルやら小さな編みぐるみを拾って、
「こんだけ暴れられるなら、大丈夫だよ、奥様」
とフォローを一応入れてくれた。
叱られたこともショックだったけれど、女医の言うとおり、痛くて苦しいからといって「死にたい」などと言ったことをアビゲイルは恥じた。自分が死ねば、お腹の子はどうなる。
アレキサンダーと結ばれる前は、アレキサンダーの子を何人でも産むと宣言したくせに、今一人目を産むときになって弱気になって挫折してどうする。
あれだけ十カ月強も大事に大事に愛でてきたお腹の子を、どうして今突き放してしまうようなことを口にしたのだろうと、そう考えると後悔で別の涙が浮かんできた。
お腹の子はもうちゃんと外での声が聞こえる。母にこんなことを言われているなんて思ったら傷つくに決まっている。
「うぅ……っ、ごめんね、ごめんねぇ、クラリス……! ママが、ママが悪かったわ……!」
未だ続く波がある激痛もそう考えると愛おしく思えて、ぜえぜえはあはあと呼吸を荒げながらも、お腹を撫でさする。
「うあああ……っ、おバカ発言したママをどうか、どうか許してね……!」
「アビー……。クラリス、パパも悪かった。ママのことはしっかり支えるから、安心して元気で生まれて来なさい……!」
ごめんねごめんねと我が子に謝りながらも、波のある陣痛に耐えて、ようやく子宮口が開いて分娩の時間がやってきた。
これまでと比べ物にならないくらいの激痛だが、もう泣き言は出てこなかった。絶対に死んでたまるか。絶対に無事に産み落としてやる。
やけくそ気味だったが弱気よりはましと考えるようになる。もう情けないことは絶対に言わない。親になるんだ。そう考えると悲しい涙なんか引っ込んだ。
ベッドでアレキサンダーに支えられて、彼の手がうっ血するまで強く握りしめては、邸中に響くような、女性らしからぬ獣じみた悲鳴を上げながら、いきんで、いきんで数時間……頭が出てきたとの女医の言葉を聞いたあたりからは、もう時間の感覚は既に無くあっという間に感じた。
大きく息を吸い込んでから今まで以上にいきんだ瞬間、ずるりという感覚、そして響き渡るけたたましい赤ん坊の泣き声……。
「はい、おひい様の誕生だよ!」
やや疲れたような、それでも晴れやかには変わりない声で女医が言った。
その言葉で、背後で支えていたアレキサンダーがはあー、と大きく息を吐きだした。アビゲイルと一緒になって息を止めたりしていたらしい。彼も少々息を荒げている。
アレキサンダーは握っていたアビゲイルの手をそっと放して、彼女の前髪を掻き上げてその額にちゅっとキスを落とした。
「……ありがとうアビー。頑張ってくれたな。お疲れ様」
「うん……」
一仕事終えた倦怠感から、大した返事もできずにぼけーっとしていたところに、へその緒を処理してざっと清拭された我が子を看護師が連れてくる。
真っ赤でしわくちゃでギャン泣きしている娘がそこに居た。
「わあ……アレク様、子供だよぉ……」
「ああ……」
感想が夫婦そろってそれしかないのもどうしたものかと思うが、こっちも疲れきってそれどころじゃなかった。
とりあえずは顔見せのみで、そのまま娘はちゃんと湯あみに連れて行かれたので、こちらは後産の処理が終わると、アビゲイルは気絶したように眠りに落ちる。
アレキサンダーは今一度アビゲイルの顔じゅうにキスを浴びせてから、あとは侍女らに任せて部屋を出ることにした。
ぱちりと目が覚めると、そこは夫婦の寝室ではなくて、その隣にあるアビゲイルの寝室のベッドの上で、手が何かに触れている感覚にそちらに目をやると、夫のアレキサンダーが居た。ベッド脇に椅子を置いて、大きな体を縮みこませるようにして座っていた。ずっとアビゲイルの手を握って看ていてくれたらしい。
ぴくりと動いた手に気付いてこちらを見て、アレキサンダーは顔を上げる。
「アビー、目が覚めたか?」
「うん……おはようございます、アレク様」
喋ると唇が乾燥しているのに気付いた。そんなことはないのに久しぶりに喋った気がする。
アレキサンダーが傍に用意していた水差しからグラスに水を注いで手渡そうとしてくれたが、アビゲイルが起き上がる元気がないと察して、その水を自身の口に含んでからアビゲイルに口移しで飲ませてくれた。
食道を冷たい水が通っていくのがよくわかる。自分でも気づかないくらいに喉が渇いていたらしい。もう少し欲しくてアレキサンダーにねだると、彼はすぐに次の水をまた飲ませてくれた。
「……今何時ですか? っていうか、あたしどれくらい寝てました? 寝落ちしたの何時でしたっけ」
「明け方の四時ぐらいから、今九時だから五時間くらいだな」
「うわあ、結構寝たんですね。まだ怠いけど眠気はちょっとすっきり」
「そうか、良かった。……目覚めてくれてありがとう」
「なあに、目覚めますよちゃんと」
「目覚めないかと思ったんだ。何度も寝息を確かめた」
「うそ、いびきとかかいてませんでした?」
「かいてない。だから心配したんだよ」
「良かった~……って、ちっとも良くないですよ!」
寝ながら元気に文句を言うアビゲイルに安心しきった表情で笑うアレキサンダーの目尻はやや涙焼けしていた。
皆に知らせてくると言って、一度部屋から出て行ったアレキサンダーは、白いレースの産着に包まれた娘を抱いて、侍女らとともに部屋に戻ってきた。
「アビー、クラリスだ」
「わあ……! だ、抱っこしたい!」
「起き上がれるか?」
「はい、あいたたた……」
「無理するな」
「大丈夫、これしき……!」
「奥様ったら」
侍女のリサが慌てて駆け寄って、アビゲイルが起き上がるのを手伝い、背中にクッションを入れてくれた。
起き上がったアビゲイルに、アレキサンダーが娘、クラリスを手渡してくれた。
白いレースのお包みの中、真っ赤でしわくちゃな顔をした我が子。ちょっとだけ産毛のように生えている髪はアビゲイルと同じプラチナブロンドだ。
母の胸に抱かれて、ふわりと目を開けたクラリスは、口をむにゅむにゅと動かしてこちらを見る。
まだ見えもしないその瞳の色は父親のアレキサンダーから受け継いだ、アビゲイルの大好きなウルトラマリンブルーだった。
アレキサンダーと自分のミックスジュースみたいな娘を見て、次の瞬間にアビゲイルは嗚咽する。
おっ、おっ、おっ、と婆さんみたいなしわがれた声が出てしまった。
ぼろぼろと次から次へと出てくる涙の一滴がクラリスの顔に落ちて、それが不愉快だったのか、娘はほわほわと泣き出してしまった。
「あわわ、どうしよう。ママだよ、怖くないよクラリス」
「お腹が空いたのかもしれませんわ、奥様」
「あ、そっか、おっぱい」
「殿様は少々お部屋を出てくださいまし」
「あ、そ、そうだな」
「ああ、いや、アレク様もいていいですよ。パパですもん」
「いいのか……?」
「全然いいですよ~。今更アレク様におっぱい見られたところで痛くも痒くもないですもん」
「そういう問題ではない気が……まあいいか」
何だかよくわからない納得をしてアレキサンダーはベッド脇の椅子に座りなおした。
アビゲイルが前をはだけると、抱いていたクラリスは勢いよく乳首に吸い付いてきた。一心不乱に母の乳房に吸い付いて母乳を飲む娘の様子を見ていると、元気でちゃんと生きているということを実感してまた涙が出てきた。
なんて幸せな光景なんだろう。
「……幸せだな」
優し気に見守るアレキサンダーが、アビゲイルの心を読んだかのように同じことを口にした。
夫婦は似てくるというのはよく言われるけれど、本当にそうなのかもしれないと思ってなんだか面白可笑しかった。
おっぱいを飲みながらまだ見えもしない目をうっすら開けているクラリスと、そばで見守るアレキサンダーの同じウルトラマリンブルーの瞳が並ぶのを見て、愛おしい色に囲まれていると感じて、アビゲイルは心の底から幸せを感じていた。
0
お気に入りに追加
2,594
あなたにおすすめの小説

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

あなた方には後悔してもらいます!
風見ゆうみ
恋愛
私、リサ・ミノワーズは小国ではありますが、ミドノワール国の第2王女です。
私の国では代々、王の子供であれば、性別や生まれの早い遅いは関係なく、成人近くになると王となるべき人の胸元に国花が浮き出ると言われていました。
国花は今まで、長男や長女にしか現れなかったそうですので、次女である私は、姉に比べて母からはとても冷遇されておりました。
それは私が17歳の誕生日を迎えた日の事、パーティー会場の外で姉の婚約者と私の婚約者が姉を取り合い、喧嘩をしていたのです。
婚約破棄を受け入れ、部屋に戻り1人で泣いていると、私の胸元に国花が浮き出てしまったじゃないですか!
お父様にその事を知らせに行くと、そこには隣国の国王陛下もいらっしゃいました。
事情を知った陛下が息子である第2王子を婚約者兼協力者として私に紹介して下さる事に!
彼と一緒に元婚約者達を後悔させてやろうと思います!
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、話の中での色々な設定は話の都合、展開の為のご都合主義、ゆるい設定ですので、そんな世界なのだとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
※話が合わない場合は閉じていただきますよう、お願い致します。

いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。

皆さん、覚悟してくださいね?
柚木ゆず
恋愛
わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。
さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。
……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。
※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる