117 / 123
114 まもなく、まもなく
しおりを挟む
アビゲイルは、リサたち数名の侍女らに介助されつつゆっくりゆっくりと階段を上って、ようやく屋上にたどり着いた。
午前の日差しが今日も眩しくて若干目が眩むが、リサがすぐに日傘をさしかけてくれる。
岩石砂漠のあるヘーゼルダイン領は気温差が激しく、夜は冷え込むけれど昼間は非常に暑くなるので、外へ出歩くなら午前中のこのぐらいの時間が丁度良い。
「ふぅーっ、到着ね」
「お疲れ様でした、奥様」
姫様やおひい様、ではなく奥様と呼ばれ始めて九か月。
アビゲイルは臨月の大きなお腹を抱えて、最近では天気の悪い日以外は毎日ヘーゼルダイン邸の屋上まで階段で上るのが日課となっている。
お腹が目に見えて膨らんでくるまでは、領主夫人としてアレキサンダーに付き添って領地視察や孤児院訪問など、あちこち行って地域住民や子供たちと交流を深めたりもしていたのだけれど、さすがに臨月まで来るとそう遠くへは行けない。
だから運動不足になりがちな毎日を、邸中を歩き回ることでなんとか補おうと思ったわけだ。
悪阻が治まってからは、邸の料理長やメイドが滋養のある物をと、どんどん食べさせてくるので少々太ってしまって、あまり太ると出産時に難産になるから適度に体重を管理するように言われてしまったから、というのもある。
屋上までの階段を上り下りするなど危ないと夫のアレキサンダーに言われたこともあったけれど、侍女たち女性陣から「妊婦は大事にされ過ぎても良くない」と諭されてしぶしぶ許した。
アレキサンダーは身重な妻アビゲイルに対して過保護すぎて、二階にある夫婦の寝室まで、一階の居間等を改装してそこに移そうとしたが、それはアビゲイルの方から却下させてもらった。折角綺麗に整えられた邸内が結婚早々改装工事でがたつくのが嫌だったし、ゆるやかな二階までの階段の上り下りくらいならやってもいいと医者からも言われているから問題はない。無理は決してしないようにしているのだし。
それにアビゲイルは侍女たちを傍においているし、何よりヘーゼルダインの侍女たちは誰もが大柄で腕っ節に自信がある者ばかりで、細っこいアビゲイルがコロコロ転んだところで軽く支えることができる。
リサだって前世でいうところのファッションモデルみたいにすらっと背が高くて、柔軟でしなやかな筋肉の持ち主であるから、アビゲイルは安心してこうして出歩くことができるのだ。
屋上は見張り台もあって、斥候部隊の騎士らが交代で見張りをしているのだが、毎日午前中にこうして散歩がてらの運動にやってくるアビゲイルともすっかり打ち解けてくれている。
「奥様、おはようございます!」
「おはようございます、皆さん」
斥候部隊は影とも呼ばれる諜報部隊で、主人であるアレキサンダーの命により索敵、諜報、時に暗殺までも請け負う者だ。
その中、影の騎士の育成を図るガルドゥーン一族というエリート集団がいるのだが、驚いたことに、その筆頭はヘーゼルダイン家の家令であるジェフ・ガルドゥーンその人であるということを聞いて、アビゲイルは驚いた。
今は後続騎士育成のために一線を退いているらしいけれど、今でも主であるアレキサンダーの身の回りに侍って世話を焼きながら護衛の任にもついているのだそうだ。
アビゲイルにはアレキサンダーを子供のころから見てきたという好々爺にしか見えないので、そのような一面があることに驚きを隠せなかった。
何故教えてくれなかったのかと思ったが、もしかしたらヘーゼルダイン家に入らないと教えてもらえないものだったのかもしれないと、それとなく尋ねてみたが、単に聞かれなかったから、という答えだったのでずっこけるところだった。
屋上から見下ろすと、騎士団の訓練場が見えて、剣術の模擬試合が行われているのが見えた。木剣を打ち鳴らす音が響いていて、試合をしている一対の騎士の傍らに、ひときわ大きな背中が見えた。
周りの騎士らと同じように訓練用の革鎧を身に着けていて、腕組みをして試合を見守る熊のような大きなその背中。
「アレク様だわ……っと」
「奥様?」
「あはは、パパを見て嬉しかったみたい。今動いたわ」
「あらまあ、うふふ」
胎動を感じるようになったときは、内臓がうにゅるんと動くようで当初はうわあ……と思ったものの、今では慣れたものだ。
一緒に寝ているアレキサンダーがお腹を直に撫でてくれていたときに、丸いお腹がぼこぼことエイリアンみたいに蠢く瞬間があり、アビゲイルは「おー、元気だなあ」と思っただけだが、アレキサンダーのほうは若干引いていたので、思わず笑ってしまった。
「父親が我が子の動きに引くなんて母親として普通怒るところじゃないのか」
と、アレキサンダーに謝られがてら言われたけれど、どちらかというと、日々恐ろしい魔物を相手に土地を守っているアレキサンダーが、我が子の胎動くらいでビビッているのが可笑しくてたまらなかったのだ。
安定期に入ってからは、無理しない程度なら夫婦の営みをしても大丈夫と医者に言われたので、そのことを寝るときにアレキサンダーに言って、ちょっとだけアビゲイルのほうから誘ってみた。だが、アレキサンダーはキスと抱擁はしても本番までは決してしようとしなかった。
下世話な話だがアビゲイルを抱きしめながら彼のシンボルはしっかり勃ち上がっていたのだけれど、アレキサンダーは「いいから寝よう」と言ってそれ以上は進まなかったのだ。
そのことでマタニティーブルーになっていたのか、アレキサンダーが求めてこないのを気持ちが離れたと思い込んで、アビゲイルはボロボロ泣きながらアレキサンダーに問い詰めたことがあった。
するとアレキサンダーは真っ赤になって、
「こっ……子供にそんな行為見せられないだろう……!」
と、求めない理由を述べたわけだ。まだ生まれてもいない赤ん坊にしっかりと人権を見出して、お腹の中で子供が両親の「チョチョゲマチョゲ」なんかを見ては情操に悪いと思っていたことが分かって、安心したやら面白おかしいやらで気が抜けた笑いが漏れてしまった。
まあ確かに、家族に見られたら嫌だよねえ。
そう言われてしまってはアビゲイルも返す言葉がないので、ここ数か月は夫婦の営みは一切なしで、キスと抱擁だけで愛を確かめ合っている。毎晩一緒に寝ているので浮気の心配はなさそうだ。
そもそも、昼間はああやって男臭い騎士団の中心に居て浮気も何もありゃしない。
心配なのは男色だけだが、そのことを冗談交じりに言ったらアレキサンダーに吐き気を催されたので二度と言わないことにしているアビゲイルであった。
そんな物思いにふけっていると、訓練場のほうで模擬試合の優勝者がアレキサンダーと闘うことになったらしいのが見える。
木剣を正面に持ってきて試合前の一礼、すぐに間合いを取ってお互いに構え合う。
アレキサンダーの相手は、彼に勝るとも劣らないほどの大柄で厳つい騎士で、打ち合う剣の一撃一撃が、傍目で見ても重そうに感じる。
だがまだ若い騎士なのかもしれない、力のある重い攻撃ではあるものの、剣技としてはやや粗削りで、鍔迫り合ったところからすぐにアレキサンダーに剣を流されて弾かれてしまう。
剣を取り落としたら負けなので、騎士はかろうじて空中で木剣の柄を掴んで落とさなかったけれど、その間にアレキサンダーに間合いを詰められて一気に上段、下段に突きこまれる。
最初の二、三撃を交わしたり剣で受け止めたりもしたが、アレキサンダーが間をおかず返す剣に気付くのが遅れた騎士は、そのままがら空きの胴に一撃を決められて、前かがみになって膝をついた。
審判係の騎士がアレキサンダーのほうに旗を上げる。騎士らの怒号のような歓声が上がる中、アレキサンダーは膝をついた騎士の手をとって起き上がらせるところだった。
「……カ、カッコいい~……アレク様」
夫の雄姿に惚れ直す。
「はあ……シビれるわあ~……うちの旦那様ってどうしてあんなにカッコいいの。強くて逞しくて……ああ抱かれたい。なんならあたしがアレク様を抱きたいんだけどもね」
「それはまた豪気な」
アビゲイルのベタ惚れすぎる惚気発言にリサもすっかり慣れて「ああはいはい」とスルーしている。毎日毎日そんなことを言っているアビゲイルにいちいち反応していられない。
「アレク様ーっ!」
辛抱溜まらず訓練場のほうへ呼び掛けると、騎士らの雄叫びの中でもアレキサンダーはちゃんと聞き取ってこちらを見てくれた。ウルトラマリンブルーの瞳を細めて笑いかけてくれるその表情に毎回打ちのめされるのだが、アビゲイルは今日もエンジェルスマイル(アビゲイル談)に撃ち抜かれて悶絶した。
こんちくしょう。卑怯だ。あの不意打ちのエンジェルスマイルはない。あの人どれくらいあたしに対する隠し玉持ってやがるのよ。ああかわいい。好き、たまらん。
「アイタタタ自分がイタい」
「奥様、今更ですわ」
「うん、それはわかってるけども……ん、あれ、痛っ、イタタタタ」
「奥様? ……奥様、大変……!」
突如腹を押さえて脂汗を流し始めたアビゲイルにリサが血相を変えて、侍女たちやそこらに居た騎士にも声をかけた。
リサの言葉を聞いた斥候部隊の一人が、突如見張り台の淵から身を躍らせ、アビゲイルがそれを視界の片隅に移して驚愕したが、その斥候騎士は木の枝に着地してそのまま次の枝へ跳躍して降りていくという、猿みたいな動きで訓練場のアレキサンダーの元まで駆けていったらしい。
アビゲイルが産気づいたことをアレキサンダーに知らせに行ったと、リサから説明され、ほかの騎士に抱き上げられて、アビゲイルは自分の寝室まで連れて行かれた。
午前の日差しが今日も眩しくて若干目が眩むが、リサがすぐに日傘をさしかけてくれる。
岩石砂漠のあるヘーゼルダイン領は気温差が激しく、夜は冷え込むけれど昼間は非常に暑くなるので、外へ出歩くなら午前中のこのぐらいの時間が丁度良い。
「ふぅーっ、到着ね」
「お疲れ様でした、奥様」
姫様やおひい様、ではなく奥様と呼ばれ始めて九か月。
アビゲイルは臨月の大きなお腹を抱えて、最近では天気の悪い日以外は毎日ヘーゼルダイン邸の屋上まで階段で上るのが日課となっている。
お腹が目に見えて膨らんでくるまでは、領主夫人としてアレキサンダーに付き添って領地視察や孤児院訪問など、あちこち行って地域住民や子供たちと交流を深めたりもしていたのだけれど、さすがに臨月まで来るとそう遠くへは行けない。
だから運動不足になりがちな毎日を、邸中を歩き回ることでなんとか補おうと思ったわけだ。
悪阻が治まってからは、邸の料理長やメイドが滋養のある物をと、どんどん食べさせてくるので少々太ってしまって、あまり太ると出産時に難産になるから適度に体重を管理するように言われてしまったから、というのもある。
屋上までの階段を上り下りするなど危ないと夫のアレキサンダーに言われたこともあったけれど、侍女たち女性陣から「妊婦は大事にされ過ぎても良くない」と諭されてしぶしぶ許した。
アレキサンダーは身重な妻アビゲイルに対して過保護すぎて、二階にある夫婦の寝室まで、一階の居間等を改装してそこに移そうとしたが、それはアビゲイルの方から却下させてもらった。折角綺麗に整えられた邸内が結婚早々改装工事でがたつくのが嫌だったし、ゆるやかな二階までの階段の上り下りくらいならやってもいいと医者からも言われているから問題はない。無理は決してしないようにしているのだし。
それにアビゲイルは侍女たちを傍においているし、何よりヘーゼルダインの侍女たちは誰もが大柄で腕っ節に自信がある者ばかりで、細っこいアビゲイルがコロコロ転んだところで軽く支えることができる。
リサだって前世でいうところのファッションモデルみたいにすらっと背が高くて、柔軟でしなやかな筋肉の持ち主であるから、アビゲイルは安心してこうして出歩くことができるのだ。
屋上は見張り台もあって、斥候部隊の騎士らが交代で見張りをしているのだが、毎日午前中にこうして散歩がてらの運動にやってくるアビゲイルともすっかり打ち解けてくれている。
「奥様、おはようございます!」
「おはようございます、皆さん」
斥候部隊は影とも呼ばれる諜報部隊で、主人であるアレキサンダーの命により索敵、諜報、時に暗殺までも請け負う者だ。
その中、影の騎士の育成を図るガルドゥーン一族というエリート集団がいるのだが、驚いたことに、その筆頭はヘーゼルダイン家の家令であるジェフ・ガルドゥーンその人であるということを聞いて、アビゲイルは驚いた。
今は後続騎士育成のために一線を退いているらしいけれど、今でも主であるアレキサンダーの身の回りに侍って世話を焼きながら護衛の任にもついているのだそうだ。
アビゲイルにはアレキサンダーを子供のころから見てきたという好々爺にしか見えないので、そのような一面があることに驚きを隠せなかった。
何故教えてくれなかったのかと思ったが、もしかしたらヘーゼルダイン家に入らないと教えてもらえないものだったのかもしれないと、それとなく尋ねてみたが、単に聞かれなかったから、という答えだったのでずっこけるところだった。
屋上から見下ろすと、騎士団の訓練場が見えて、剣術の模擬試合が行われているのが見えた。木剣を打ち鳴らす音が響いていて、試合をしている一対の騎士の傍らに、ひときわ大きな背中が見えた。
周りの騎士らと同じように訓練用の革鎧を身に着けていて、腕組みをして試合を見守る熊のような大きなその背中。
「アレク様だわ……っと」
「奥様?」
「あはは、パパを見て嬉しかったみたい。今動いたわ」
「あらまあ、うふふ」
胎動を感じるようになったときは、内臓がうにゅるんと動くようで当初はうわあ……と思ったものの、今では慣れたものだ。
一緒に寝ているアレキサンダーがお腹を直に撫でてくれていたときに、丸いお腹がぼこぼことエイリアンみたいに蠢く瞬間があり、アビゲイルは「おー、元気だなあ」と思っただけだが、アレキサンダーのほうは若干引いていたので、思わず笑ってしまった。
「父親が我が子の動きに引くなんて母親として普通怒るところじゃないのか」
と、アレキサンダーに謝られがてら言われたけれど、どちらかというと、日々恐ろしい魔物を相手に土地を守っているアレキサンダーが、我が子の胎動くらいでビビッているのが可笑しくてたまらなかったのだ。
安定期に入ってからは、無理しない程度なら夫婦の営みをしても大丈夫と医者に言われたので、そのことを寝るときにアレキサンダーに言って、ちょっとだけアビゲイルのほうから誘ってみた。だが、アレキサンダーはキスと抱擁はしても本番までは決してしようとしなかった。
下世話な話だがアビゲイルを抱きしめながら彼のシンボルはしっかり勃ち上がっていたのだけれど、アレキサンダーは「いいから寝よう」と言ってそれ以上は進まなかったのだ。
そのことでマタニティーブルーになっていたのか、アレキサンダーが求めてこないのを気持ちが離れたと思い込んで、アビゲイルはボロボロ泣きながらアレキサンダーに問い詰めたことがあった。
するとアレキサンダーは真っ赤になって、
「こっ……子供にそんな行為見せられないだろう……!」
と、求めない理由を述べたわけだ。まだ生まれてもいない赤ん坊にしっかりと人権を見出して、お腹の中で子供が両親の「チョチョゲマチョゲ」なんかを見ては情操に悪いと思っていたことが分かって、安心したやら面白おかしいやらで気が抜けた笑いが漏れてしまった。
まあ確かに、家族に見られたら嫌だよねえ。
そう言われてしまってはアビゲイルも返す言葉がないので、ここ数か月は夫婦の営みは一切なしで、キスと抱擁だけで愛を確かめ合っている。毎晩一緒に寝ているので浮気の心配はなさそうだ。
そもそも、昼間はああやって男臭い騎士団の中心に居て浮気も何もありゃしない。
心配なのは男色だけだが、そのことを冗談交じりに言ったらアレキサンダーに吐き気を催されたので二度と言わないことにしているアビゲイルであった。
そんな物思いにふけっていると、訓練場のほうで模擬試合の優勝者がアレキサンダーと闘うことになったらしいのが見える。
木剣を正面に持ってきて試合前の一礼、すぐに間合いを取ってお互いに構え合う。
アレキサンダーの相手は、彼に勝るとも劣らないほどの大柄で厳つい騎士で、打ち合う剣の一撃一撃が、傍目で見ても重そうに感じる。
だがまだ若い騎士なのかもしれない、力のある重い攻撃ではあるものの、剣技としてはやや粗削りで、鍔迫り合ったところからすぐにアレキサンダーに剣を流されて弾かれてしまう。
剣を取り落としたら負けなので、騎士はかろうじて空中で木剣の柄を掴んで落とさなかったけれど、その間にアレキサンダーに間合いを詰められて一気に上段、下段に突きこまれる。
最初の二、三撃を交わしたり剣で受け止めたりもしたが、アレキサンダーが間をおかず返す剣に気付くのが遅れた騎士は、そのままがら空きの胴に一撃を決められて、前かがみになって膝をついた。
審判係の騎士がアレキサンダーのほうに旗を上げる。騎士らの怒号のような歓声が上がる中、アレキサンダーは膝をついた騎士の手をとって起き上がらせるところだった。
「……カ、カッコいい~……アレク様」
夫の雄姿に惚れ直す。
「はあ……シビれるわあ~……うちの旦那様ってどうしてあんなにカッコいいの。強くて逞しくて……ああ抱かれたい。なんならあたしがアレク様を抱きたいんだけどもね」
「それはまた豪気な」
アビゲイルのベタ惚れすぎる惚気発言にリサもすっかり慣れて「ああはいはい」とスルーしている。毎日毎日そんなことを言っているアビゲイルにいちいち反応していられない。
「アレク様ーっ!」
辛抱溜まらず訓練場のほうへ呼び掛けると、騎士らの雄叫びの中でもアレキサンダーはちゃんと聞き取ってこちらを見てくれた。ウルトラマリンブルーの瞳を細めて笑いかけてくれるその表情に毎回打ちのめされるのだが、アビゲイルは今日もエンジェルスマイル(アビゲイル談)に撃ち抜かれて悶絶した。
こんちくしょう。卑怯だ。あの不意打ちのエンジェルスマイルはない。あの人どれくらいあたしに対する隠し玉持ってやがるのよ。ああかわいい。好き、たまらん。
「アイタタタ自分がイタい」
「奥様、今更ですわ」
「うん、それはわかってるけども……ん、あれ、痛っ、イタタタタ」
「奥様? ……奥様、大変……!」
突如腹を押さえて脂汗を流し始めたアビゲイルにリサが血相を変えて、侍女たちやそこらに居た騎士にも声をかけた。
リサの言葉を聞いた斥候部隊の一人が、突如見張り台の淵から身を躍らせ、アビゲイルがそれを視界の片隅に移して驚愕したが、その斥候騎士は木の枝に着地してそのまま次の枝へ跳躍して降りていくという、猿みたいな動きで訓練場のアレキサンダーの元まで駆けていったらしい。
アビゲイルが産気づいたことをアレキサンダーに知らせに行ったと、リサから説明され、ほかの騎士に抱き上げられて、アビゲイルは自分の寝室まで連れて行かれた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,593
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる