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50 母娘
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フォックス家には現当主ローマンとその妻ニーナが結婚した当時に設置した、「愛の庭」と称した庭園がある。一年を通して様々な花が咲いていて、季節ごとにそれぞれの旬の花が眺められるようになっている。
薔薇の蔓が絡まった二本のリンゴの木の間に、背もたれがハートを模した形の二人掛けのベンチが置かれていた。
「新婚当時は旦那様と一緒にここで愛を語らったものよ」
「……そうなんですか」
そんな両親の愛の庭に、今母ニーナとともにアビゲイルは散歩に出て来ていた。
両親が大切にしている思い出の庭であるので、アビゲイルとヴィクターはやんちゃな子供時代は立ち入らせてもらえなかった秘密の花園。
入りたい、見てみたいと我儘を言ってもなかなか聞いてもらえなくて、母のドレスの裾を握りしめながら、疲れ切ってしまうまで泣いたのを覚えている。
そういえばいつの間にか涙が伝染して隣で弟のヴィクターまでわんわん泣いていたっけ。
前を歩く母の後ろ姿を眺めながら、アビゲイルは何から話していいやら考えあぐねていた。
まずはアレキサンダーと恋仲になったことを話さないといけない。
家族の誰にも話していないから、これは同性である母から話したほうがいいと思うのだが、どこから話せば……。
そう堂々巡りな頭の中に混乱しながら、何とか声をかけようとしたとき、ふいに母のほうから声をかけてきた。
「アビー」
「はい」
母はリンゴの木にからまった蔓薔薇のつぼみを眺めながら、少し寂し気な表情でぽつりぽつりと話し始める。
「ラリマール殿下と、西辺境伯閣下とは、親しくさせて頂いているのよね」
「あ、はい」
「ご友人になってくださったのね」
友人というか、ラリマールは友人というに近いけれども、そうじゃないような知り合い。前世との関連で近しい人と言えばそうだ。
そして西辺境伯アレキサンダーとは先日ヘーゼルダインに家出した際に、気持ちを伝えて恋仲となった。只の友人でなく、もっと親しい間柄になったのだ。
「あ、あの、お母様……」
「……はあ」
溜息をつかれてしまった。やはり母のアレキサンダーとラリマールへの不信感は消えていないのだろうか。
母はおもむろにベンチに腰掛けて、アビゲイルに隣に座るように促した。おずおずと母の隣に腰掛けて、何を話そうかと言葉を選んでいると、母が遠くを眺めながらまるで独り言でも言うかのように話し始める。
「お母様の子供のころはね、二人の兄と一緒に走り回ったり木登りをしたりして、かなりお転婆だったの」
「え、お母様が?」
可憐で淑やかな今の母からは想像もつかない。
けれど今はやんちゃするほど若くはないけれど、ダンスや手芸、料理、孤児院への訪問などのボランティアと行動的であるから、それを考えると子供のころのお転婆も役に立つものだと思う。
母ニーナは帝都出身のオリバー伯爵家の娘で、二人の兄がいて、上の兄は後継ぎで下の兄は近衛騎士団で身を立てていた。
それぞれに立派な奥方と男の子である子供たちに恵まれていたから、末妹であったニーナはある程度彼女の気持ちを取り入れた婚姻でもかまわなかったそうだ。
そんなときに、フォックス侯爵の跡取りであるローマン・アイン・フォックス侯爵令息との縁談が持ち上がった。
目上の侯爵家であり、しかも帝都で歴史のある大貴族フォックス侯爵家からの縁談であったが、甘やかしてお転婆に育ってしまった末娘がそんな立派な家で侯爵夫人など務まるかどうかと、ニーナの両親と兄二人は困惑していたそうだ。
「フォックス侯爵家から婚姻の打診が来たときは本当に驚いたけれど、それでもローマン様とお見合いして、すごく好きになったわ。でも家族は『お転婆のお前なんかに侯爵夫人など務まらない』とか言われて大反対だったの」
「まあ……」
「お父様、貴方のお爺様がね、恐れ多いとは思うけれども不束すぎる娘に侯爵夫人など務まらないのでどなたか別の立派な姫君をと辞退を申し出たんだけれど、その後、ローマン様が直接お出でになってね。お爺様を説得してくださったのよ」
父ローマンは、お見合いの席でニーナと会話し、その人となりでぜひこの方をと申し出てくれたらしかった。
由緒正しい大貴族の中に放り込まれて、不束な娘が痛い目に遭うのではないかと心配し、土下座のような気持ちでどうぞお許しくださいと言った祖父に、ローマンは悲痛な顔をしながらも、
「けれど、ニーナ姫をどうしても愛しているんです。この先どんな女性に会ったとしても、ニーナ姫を忘れることなんてできない。……本当に、身を切られるほどに彼女を愛しているんです」
と何度も何度も説得してくれたのだそうだ。
母はそれでようやくフォックス家へと嫁いできた。
大貴族の仕来りに慣れるかどうか心配をしていた家族であったが、ニーナは色々と失敗をしながらも、持ち前のお転婆からくる負けん気の強さでなんとかフォックス家の仕来りに慣れることができたそうだ。
それには夫となったローマンが全力で彼女をサポートしてくれたおかげでもあり、相思相愛の仲である彼ら夫婦にはほどなくして一女一男、アビゲイルとヴィクターの姉弟を設けることができた。
「ローマン様の、あのお言葉があったからこそ、私は侯爵家でやってこれたの。だからローマン様がどんなに浮名を流したとしても平気と思っているの」
「お父様はそんなことしませんわ。誠実が服を着て歩いているような方ですもの」
「そうね。私も驚いたわ。貴族の男性なら、浮名の一つでも流れて当然だと思っていたから。でもそんなのは杞憂ね」
父ローマンはニーナとの結婚後、一つとして女性関係の浮名を流したことがない。今ではロズ・フォギアリア帝国の社交界でおしどり夫婦と言えばフォックス侯爵夫妻だと言われるほどになっている。
まあ、それでそんなおしどり夫婦からどうしてあのような放蕩娘が生まれたんだとずっと言われてきたアビゲイルであるのだが。
「アビー」
「はい……」
「今、ご友人だと言ったけれども、ラリマール殿下と西辺境伯閣下、アビーはそのどちらかに恋をしているのよね?」
「えっ……」
「ふふ、どうしてわかるの、という顔ね」
「……はい」
「女親ですもの。娘のことはなんとなくわかるわ。それで、アビーがお慕いしているのは、どちらの方なの?」
「……アレキサンダー・ヴィンス・ヘーゼルダイン西辺境伯閣下、です……」
「あの大きな方ね。そう……私は娘に、ローマン様とのことを大反対した親兄弟と同じことをしていたのね。まあ……意図は、単なる私の寂しい気持ちからなのだけれど」
アビゲイルは、少し苦笑しながら優し気にこちらを伺っている母に、赤面しながらも、ぽつりぽつりと話し始める。
「あたしは、アレキサンダー閣下……アレク様のことが好きなのです。心の底から愛しているのです。こうして離れているのが本当はすごく苦しい……」
まず最初は彼の美しいウルトラマリンブルーの瞳に惹かれた。
そしてその大柄で厳つい見た目だけれど、どこまでも真っ直ぐで律儀な部分に好感を持った。
彼の話してくれる西辺境のことに興味をもった。土地柄のこと、魔物が多い土地だけれど、それから国を守るロズ・フォギアリア帝国最強の戦士たち、ヘーゼルダイン辺境騎士団のこと、危険な土地だけれど、それに対応して子供たちの未来を守るような政策をしていること。
部下に信頼されて、慕われていて、騎士を目指す若い者たちにあの人が目標だと憧れているアレキサンダー。
そして、別れの日にアビゲイルは想いを告げて、アレキサンダーもまた、アビゲイルのことを受け入れてくれたこと。
放蕩令嬢であった過去も問わないと言って、恥ずかしがって直接の言葉を口にはしてくれないけれども、優しく抱きしめて「離れるのが寂しい」と言ってくれたこと。
ことのほか、ヘーゼルダインでの孤児院の子供たちに対する、子供たちが望むのであればどのような勉強でもさせてあげるという、政策があるということに、ニーナは関心を寄せてくれた。
「……お優しい、お方なのね」
「そう、アレク様はとても優しいの。顔は恐ろし気に見えるかもしれないけれど、本当はとても優しくて愛情の深い方なの。だからヘーゼルダイン領はあんなにも栄えて、隣国の王弟ラリマール殿下もアレク様と親友で、それに、オーガスタ陛下に一目置かれているのは、国境を守る騎士団を持つからだけじゃない、全部彼の人となりをご存じだからだと思うの」
「……そうなの。何も知らないくせに、遠いだとか危険だとか、色々と偏見の目で見てしまっていたのね、私は……。そうよね、神隠しとやらで一度ヘーゼルダイン領へ行ったアビーが、恐ろしい目にあってもなお、ヘーゼルダイン領を好きで、西辺境伯が好きで……そんなアビーの気持ちを否定するようなことを言ってしまって、本当にごめんなさいね」
「お、お母様……」
「ふふ……。そうよね、もう十七歳ですもの。アビーだって本当の恋くらいするわよね」
「…………はい」
本当の恋。そう優し気に言われると、アビゲイルは急に心の奥底に押し込めていた気持ちが徐々に昂るのを感じた。片鱗だけでも母に理解してもらえたことと、こうして改めてアレキサンダーのことを考えると、遠距離のためなかなか直接会えないのを寂しいと思う気持ちが溢れてきてしまい、涙が急にぼろぼろと溢れだしてきた。
「ふ……っ、えっ……ぐす、う、うぅっ……」
「アビー、つらいのを我慢していたのね。本当にごめんなさい。お母様が悪かったわ」
声を押し殺して泣くアビゲイルを、母はそっと肩を抱いて撫でさすりながら、アビゲイルが泣き止むまで、ごめんね、ごめんね、と繰り返していた。
薔薇の蔓が絡まった二本のリンゴの木の間に、背もたれがハートを模した形の二人掛けのベンチが置かれていた。
「新婚当時は旦那様と一緒にここで愛を語らったものよ」
「……そうなんですか」
そんな両親の愛の庭に、今母ニーナとともにアビゲイルは散歩に出て来ていた。
両親が大切にしている思い出の庭であるので、アビゲイルとヴィクターはやんちゃな子供時代は立ち入らせてもらえなかった秘密の花園。
入りたい、見てみたいと我儘を言ってもなかなか聞いてもらえなくて、母のドレスの裾を握りしめながら、疲れ切ってしまうまで泣いたのを覚えている。
そういえばいつの間にか涙が伝染して隣で弟のヴィクターまでわんわん泣いていたっけ。
前を歩く母の後ろ姿を眺めながら、アビゲイルは何から話していいやら考えあぐねていた。
まずはアレキサンダーと恋仲になったことを話さないといけない。
家族の誰にも話していないから、これは同性である母から話したほうがいいと思うのだが、どこから話せば……。
そう堂々巡りな頭の中に混乱しながら、何とか声をかけようとしたとき、ふいに母のほうから声をかけてきた。
「アビー」
「はい」
母はリンゴの木にからまった蔓薔薇のつぼみを眺めながら、少し寂し気な表情でぽつりぽつりと話し始める。
「ラリマール殿下と、西辺境伯閣下とは、親しくさせて頂いているのよね」
「あ、はい」
「ご友人になってくださったのね」
友人というか、ラリマールは友人というに近いけれども、そうじゃないような知り合い。前世との関連で近しい人と言えばそうだ。
そして西辺境伯アレキサンダーとは先日ヘーゼルダインに家出した際に、気持ちを伝えて恋仲となった。只の友人でなく、もっと親しい間柄になったのだ。
「あ、あの、お母様……」
「……はあ」
溜息をつかれてしまった。やはり母のアレキサンダーとラリマールへの不信感は消えていないのだろうか。
母はおもむろにベンチに腰掛けて、アビゲイルに隣に座るように促した。おずおずと母の隣に腰掛けて、何を話そうかと言葉を選んでいると、母が遠くを眺めながらまるで独り言でも言うかのように話し始める。
「お母様の子供のころはね、二人の兄と一緒に走り回ったり木登りをしたりして、かなりお転婆だったの」
「え、お母様が?」
可憐で淑やかな今の母からは想像もつかない。
けれど今はやんちゃするほど若くはないけれど、ダンスや手芸、料理、孤児院への訪問などのボランティアと行動的であるから、それを考えると子供のころのお転婆も役に立つものだと思う。
母ニーナは帝都出身のオリバー伯爵家の娘で、二人の兄がいて、上の兄は後継ぎで下の兄は近衛騎士団で身を立てていた。
それぞれに立派な奥方と男の子である子供たちに恵まれていたから、末妹であったニーナはある程度彼女の気持ちを取り入れた婚姻でもかまわなかったそうだ。
そんなときに、フォックス侯爵の跡取りであるローマン・アイン・フォックス侯爵令息との縁談が持ち上がった。
目上の侯爵家であり、しかも帝都で歴史のある大貴族フォックス侯爵家からの縁談であったが、甘やかしてお転婆に育ってしまった末娘がそんな立派な家で侯爵夫人など務まるかどうかと、ニーナの両親と兄二人は困惑していたそうだ。
「フォックス侯爵家から婚姻の打診が来たときは本当に驚いたけれど、それでもローマン様とお見合いして、すごく好きになったわ。でも家族は『お転婆のお前なんかに侯爵夫人など務まらない』とか言われて大反対だったの」
「まあ……」
「お父様、貴方のお爺様がね、恐れ多いとは思うけれども不束すぎる娘に侯爵夫人など務まらないのでどなたか別の立派な姫君をと辞退を申し出たんだけれど、その後、ローマン様が直接お出でになってね。お爺様を説得してくださったのよ」
父ローマンは、お見合いの席でニーナと会話し、その人となりでぜひこの方をと申し出てくれたらしかった。
由緒正しい大貴族の中に放り込まれて、不束な娘が痛い目に遭うのではないかと心配し、土下座のような気持ちでどうぞお許しくださいと言った祖父に、ローマンは悲痛な顔をしながらも、
「けれど、ニーナ姫をどうしても愛しているんです。この先どんな女性に会ったとしても、ニーナ姫を忘れることなんてできない。……本当に、身を切られるほどに彼女を愛しているんです」
と何度も何度も説得してくれたのだそうだ。
母はそれでようやくフォックス家へと嫁いできた。
大貴族の仕来りに慣れるかどうか心配をしていた家族であったが、ニーナは色々と失敗をしながらも、持ち前のお転婆からくる負けん気の強さでなんとかフォックス家の仕来りに慣れることができたそうだ。
それには夫となったローマンが全力で彼女をサポートしてくれたおかげでもあり、相思相愛の仲である彼ら夫婦にはほどなくして一女一男、アビゲイルとヴィクターの姉弟を設けることができた。
「ローマン様の、あのお言葉があったからこそ、私は侯爵家でやってこれたの。だからローマン様がどんなに浮名を流したとしても平気と思っているの」
「お父様はそんなことしませんわ。誠実が服を着て歩いているような方ですもの」
「そうね。私も驚いたわ。貴族の男性なら、浮名の一つでも流れて当然だと思っていたから。でもそんなのは杞憂ね」
父ローマンはニーナとの結婚後、一つとして女性関係の浮名を流したことがない。今ではロズ・フォギアリア帝国の社交界でおしどり夫婦と言えばフォックス侯爵夫妻だと言われるほどになっている。
まあ、それでそんなおしどり夫婦からどうしてあのような放蕩娘が生まれたんだとずっと言われてきたアビゲイルであるのだが。
「アビー」
「はい……」
「今、ご友人だと言ったけれども、ラリマール殿下と西辺境伯閣下、アビーはそのどちらかに恋をしているのよね?」
「えっ……」
「ふふ、どうしてわかるの、という顔ね」
「……はい」
「女親ですもの。娘のことはなんとなくわかるわ。それで、アビーがお慕いしているのは、どちらの方なの?」
「……アレキサンダー・ヴィンス・ヘーゼルダイン西辺境伯閣下、です……」
「あの大きな方ね。そう……私は娘に、ローマン様とのことを大反対した親兄弟と同じことをしていたのね。まあ……意図は、単なる私の寂しい気持ちからなのだけれど」
アビゲイルは、少し苦笑しながら優し気にこちらを伺っている母に、赤面しながらも、ぽつりぽつりと話し始める。
「あたしは、アレキサンダー閣下……アレク様のことが好きなのです。心の底から愛しているのです。こうして離れているのが本当はすごく苦しい……」
まず最初は彼の美しいウルトラマリンブルーの瞳に惹かれた。
そしてその大柄で厳つい見た目だけれど、どこまでも真っ直ぐで律儀な部分に好感を持った。
彼の話してくれる西辺境のことに興味をもった。土地柄のこと、魔物が多い土地だけれど、それから国を守るロズ・フォギアリア帝国最強の戦士たち、ヘーゼルダイン辺境騎士団のこと、危険な土地だけれど、それに対応して子供たちの未来を守るような政策をしていること。
部下に信頼されて、慕われていて、騎士を目指す若い者たちにあの人が目標だと憧れているアレキサンダー。
そして、別れの日にアビゲイルは想いを告げて、アレキサンダーもまた、アビゲイルのことを受け入れてくれたこと。
放蕩令嬢であった過去も問わないと言って、恥ずかしがって直接の言葉を口にはしてくれないけれども、優しく抱きしめて「離れるのが寂しい」と言ってくれたこと。
ことのほか、ヘーゼルダインでの孤児院の子供たちに対する、子供たちが望むのであればどのような勉強でもさせてあげるという、政策があるということに、ニーナは関心を寄せてくれた。
「……お優しい、お方なのね」
「そう、アレク様はとても優しいの。顔は恐ろし気に見えるかもしれないけれど、本当はとても優しくて愛情の深い方なの。だからヘーゼルダイン領はあんなにも栄えて、隣国の王弟ラリマール殿下もアレク様と親友で、それに、オーガスタ陛下に一目置かれているのは、国境を守る騎士団を持つからだけじゃない、全部彼の人となりをご存じだからだと思うの」
「……そうなの。何も知らないくせに、遠いだとか危険だとか、色々と偏見の目で見てしまっていたのね、私は……。そうよね、神隠しとやらで一度ヘーゼルダイン領へ行ったアビーが、恐ろしい目にあってもなお、ヘーゼルダイン領を好きで、西辺境伯が好きで……そんなアビーの気持ちを否定するようなことを言ってしまって、本当にごめんなさいね」
「お、お母様……」
「ふふ……。そうよね、もう十七歳ですもの。アビーだって本当の恋くらいするわよね」
「…………はい」
本当の恋。そう優し気に言われると、アビゲイルは急に心の奥底に押し込めていた気持ちが徐々に昂るのを感じた。片鱗だけでも母に理解してもらえたことと、こうして改めてアレキサンダーのことを考えると、遠距離のためなかなか直接会えないのを寂しいと思う気持ちが溢れてきてしまい、涙が急にぼろぼろと溢れだしてきた。
「ふ……っ、えっ……ぐす、う、うぅっ……」
「アビー、つらいのを我慢していたのね。本当にごめんなさい。お母様が悪かったわ」
声を押し殺して泣くアビゲイルを、母はそっと肩を抱いて撫でさすりながら、アビゲイルが泣き止むまで、ごめんね、ごめんね、と繰り返していた。
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