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番外編「ぬしと私は卵の仲よ私ゃ白身できみを抱く」
16 静かなる退団
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シャガから王都に戻ったクアスは、騎士団長に退団する意向を申し出た。
王都騎士団長は、あのシャガの惨劇による不祥事からようやく立ち直ってきて、以前にもまして真面目に騎士の仕事に意欲を燃やしていたクアスを見てきたので、一体どういう心境の変化だと詰め寄り、考え直せを説得してきた。
カイラード家はクアスを覗いた全員鬼籍に入っているが、彼の父と兄も生涯立派な騎士だったため、クアスの代で騎士を辞めるなどどういうことだと騎士団長は言ってきたけれど、クアスは騎士を辞めるつもりはないと答えた。
「私は僧兵になるつもりです。先日シャガのシュクラ神殿で洗礼を受けて参りました」
クアスは騎士服の胸元から銀のチェーンにぶら下がったメダイユを騎士団長に見せる。そこには水と豊穣を司るシュクラ神の眷属である白蛇の文様が彫られていた。
「そ、僧兵だと? 聖人になって神に仕えるというのか?」
「はい」
「う~~~~む……」
騎士団長はクアスが平穏を取り戻してきたとしても、まだあのシャガの惨劇の悔恨や罪悪感が心の底に澱となって残っているのだろうと何となく思っていたので、そのうち精神的に無理が祟って自害でもするのではないかと心配していた。
戦場というのはどのような屈強な心技体を持つ強者であろうと大きなトラウマを残すものだ。クアスのような真面目一辺倒な性格の者なら猶更である。
それなら神に仕える道というのもある意味ひとつの道なのかもしれない。しかしその場所に何故クアスの因縁の場所であるシャガを選んだのかという疑問が沸いた。
「カイラード」
「はい」
「何故シャガなのだ? 同じく神に仕えるというならば、この王都ブラウワーでメノルカ様に仕えるほうが、君にあっているのではないかと私は思うのだが」
確かに、あのメノルカ神殿の聖人たちは男性ばかりで、一部を除いてみな神殿騎士ともいえるほどの腕を持つ屈強な僧兵たちだ。主人であるメノルカ神が大柄で力強い屈強な男神であることから彼に憧れてそうなる聖人たちも多いらしく、中には王都騎士団出身の者で、年老いて退団後そちらに入る者もいるのだとか。騎士の退団後の身の振り方について、これほどふさわしい場所もないかと思われた。
だがクアスはそんなメノルカ神殿ではなくシュクラ神殿を仕える先に選んだのだ。王都騎士団の地位と騎士爵位まで捨ててまで。
クアスは理由について尋ねられて少し躊躇ったが、今まで世話になった騎士団長に隠すわけにはいかないと、静かに話し出した。
縁あってシュクラに慈悲を賜ったこと。シュクラのおかげで、あのシャガの惨劇によるトラウマを克服できたこと。そしてそのシュクラが密かにクアスの子を産んだこと。
あまりにぶっ飛んだ話に最初は怪訝そうだった騎士団長だが、顔を真っ赤にしながら言いにくそうに話すクアスの様子で本当の話だと信憑性を感じてきてしまった。
ここ王都でも、シャガの新たな双子神の誕生という情報は入ってきた。シュクラ神の友人であるメノルカ神が先日、友を祝ってシャガの方向に百発の花火を打ち上げたことも記憶に新しい。
情報の早い宗教画家が、双子神インとヤンの肖像画を描いて新聞に載せられたこともあり、双子神の容姿は王都にも知れ渡っている。
その肖像画とクアスの容姿は、考えてみればかなり酷似していた。騎士団長はあまりのことに絶句しながらも、確かめるようにクアスに尋ねる。
「……確認、するが……気を悪くするなよ? 君の妄想、とかではないのだよな? 例えばほら、シュクラ様は男神とはいえ見目麗しい土地神だと有名ではないか。それに惚れ込んだ気持ちが暴走して、イン様とヤン様が自分の子だと思い込んでいたりしないか?」
「そう仰る方もいるだろうと、シャガ神殿の聖人様とシュクラ様ご自身からの証明の手紙を預かっております。こちらをどうぞ」
クアスが差し出したのはシュクラ神殿の紋章の入った封筒。神の紋章には魔法がかかっているために偽造することはできないとされているものだ。これを出されては、さすがに妄想の疑いは晴れた。にわかに信じられない話ではあったが、そもそも嘘や妄想などクアスが口にしないのは、騎士団長は長い付き合いなのでよくわかっている。
だが、このことは王都騎士団に混乱をもたらす為、騎士団長の胸だけに秘めていてもらいたいとクアスは頼み込んだ。中には今でもシャガの惨劇においてのクアスの対応に対して刑罰がぬるかったと言っている者もいるし、そんなクアスが神の父親に選ばれたと知れたら、妬み嫉みでシャガにいるシュクラやインとヤンにも迷惑がかかることになるかもしれない。
よって、クアスの王都騎士団退団について本当の理由は伏せられた。表向きはあの惨劇の件で、一度は許されたが、自分自身の意思で責任を取り、シャガでシュクラ神殿に仕えて亡き仲間の騎士たちを弔いたいという理由で受理されることとなった。
もちろんそれは嘘ではない。あの惨劇で失った仲間たちのことはいつまでもクアスの心に残っているので、シュクラとインとヤンのもとで、彼らを弔っていきたいのは本当の気持ちであった。
それから半月後、第二師団の部下の一人に師団長の任を譲り、全ての任務を終えたクアスは、静かに王都騎士団を退団した。
それは、あの元・魔法師団第三師団長で、大魔術師にして英雄となったエミリオ・ドラゴネッティの勇退のときに比べて、騎士団長と第二師団の部下たちだけに見送られての質素な退団であった。
寮暮らしだったクアスは王都郊外に立つカイラード家の邸にはほとんど帰っていなかった。
管理人は置いていたが、そもそもカイラード家は貴族ではないため、邸といっても今は鬼籍となった家族の思い出の品がわずかにあるだけなので、それだけ持ち出してあとは全て売ることにした。人の住まない家をいつまでも持っていると、余計な税金がかかるのはどこの国でも同じだろう。
その数週間後、既に人手に渡った邸に別れを告げ、少ない荷物でシャガ行きの魔法馬車の乗り場に向かおうとしたクアス。
そんな彼を迎えに来たのはメノルカ神殿の聖人たちであった。
一体何事かと思ったが、例によって屈強なメノルカ神殿の聖人たちは、まるで上官に話しかけるような規律さで告げる。
「お迎えに上がりました、クアス・カイラード神婿閣下!」
「シュクラ神殿より、神馬の馬車がわがメノルカ神殿に到着しております!」
「こ、声が大きいです聖人様!」
クアスは思いきり面食らった。
そして声ばかり大きい聖人に、あまり大きな声で「閣下」などと言わないで欲しいと思ってなんとか彼らを抑えた。
郊外であったのでほぼ人通りはないのだが、軍人みたいに張り上げる聖人の声が遠くまで響いて木霊するので、どこで誰が聞いているかとヒヤヒヤしてしまった。
一応この数週間、王都とシャガを行き来して引っ越しの準備をしていたので、本日王都を発つことはシュクラ神殿の皆とシュクラにも話していたから知っていただろうが、あくまでもひっそりと魔法馬車で向かうつもりだったのに、まさか向こうからこのような迎えがくるとは聞いていなかった。
しかもまさかの、神馬の馬車。シュクラとその愛し子であるスイ以外は乗ることは許されなかった、次元の狭間を走る天馬が駆る神の馬車だ。メノルカ神殿に発着場があるため、使いとしてメノルカ神殿の聖人たちがやってきたのだろう。
まさか、迎えをよこすとはいえ神が乗る馬車を、クアスの為に出してくるとは思わなかったのである。
「シュクラ様からのサプライズだそうです!」
「いやいやいやいや! 私はただの人間です! これから僧兵になる身とはいえ、聖人様らにも許されていないシュクラ様の乗り物に私などが乗るわけには参りません!」
「何を仰います。貴方様は既に神婿様じゃございませんか!」
「そもそもその神婿という認識がおかしいわけで……!」
「まあまあ、シュクラ様がお認めになったお方には違いないのですから、かのお方の好意を無にしてはいけませぬよ、閣下」
「いや、待ってください! お、恐れ多い!」
「なんのなんの。さあさあ、遠慮なさらず!」
固辞しているにも拘らず、クアスの言い分は全く聞いてもらえず、数少ない荷物も取り上げられて、半ば連行される犯罪者のようにメノルカ神殿行きの馬車に乗せられた。
神殿前にメノルカの神鳥であるエピオルニスの馬車に乗り換えさせられると、あっという間にメノルカ神殿の天馬発着場まで連れてこられてしまった。
ぞろぞろと屈強な聖人たちが恭しく旅装束のクアスに敬意を払いながら案内する様子に、参拝客らが「あの貴人は一体何者なのか」とざわざわ話すのが聞こえて、クアスは身の置き場がなくて挙動不審になりそうだった。
発着場には恐れ多くもメノルカ神本人が見送りに来てくれていたことに、クアスはさらに恐縮してしまう。
王都に生まれた身としては、王都の土地神であるメノルカではなく、西辺境のシャガの土地神シュクラの洗礼を受けたことに多少の後ろめたさがあって、一度神殿に行って報告したのだが、そんな小さなことなど神は気にしないらしい。
むしろ自分の守護する土地の者を親友であるシュクラの元に送るなら何の心配もないと考えていると、彼は豪快に笑っていたのを覚えている。
「シュクラによろしくな、婿どの!」
「メ、メノルカ様! 違います、私はっ」
「さあさあ閣下、こちらでございますよ」
否定する間も与えられず、引きつった表情のまま天馬の馬車に押し込められた。
こうしてクアスは、本来なら魔法馬車で三日の距離である西辺境シャガに、片道たったの二時間で到着する天馬の馬車に揺られて、全く訳が分からないままに王都ブラウワーを後にした。
「……………………クアス」
その時の天馬発着場に連行されるクアスを、メノルカ神殿に参拝していた客らに交じって見つめていた一人の人物がいたことに、彼が気づくことは一切なかった。
王都騎士団長は、あのシャガの惨劇による不祥事からようやく立ち直ってきて、以前にもまして真面目に騎士の仕事に意欲を燃やしていたクアスを見てきたので、一体どういう心境の変化だと詰め寄り、考え直せを説得してきた。
カイラード家はクアスを覗いた全員鬼籍に入っているが、彼の父と兄も生涯立派な騎士だったため、クアスの代で騎士を辞めるなどどういうことだと騎士団長は言ってきたけれど、クアスは騎士を辞めるつもりはないと答えた。
「私は僧兵になるつもりです。先日シャガのシュクラ神殿で洗礼を受けて参りました」
クアスは騎士服の胸元から銀のチェーンにぶら下がったメダイユを騎士団長に見せる。そこには水と豊穣を司るシュクラ神の眷属である白蛇の文様が彫られていた。
「そ、僧兵だと? 聖人になって神に仕えるというのか?」
「はい」
「う~~~~む……」
騎士団長はクアスが平穏を取り戻してきたとしても、まだあのシャガの惨劇の悔恨や罪悪感が心の底に澱となって残っているのだろうと何となく思っていたので、そのうち精神的に無理が祟って自害でもするのではないかと心配していた。
戦場というのはどのような屈強な心技体を持つ強者であろうと大きなトラウマを残すものだ。クアスのような真面目一辺倒な性格の者なら猶更である。
それなら神に仕える道というのもある意味ひとつの道なのかもしれない。しかしその場所に何故クアスの因縁の場所であるシャガを選んだのかという疑問が沸いた。
「カイラード」
「はい」
「何故シャガなのだ? 同じく神に仕えるというならば、この王都ブラウワーでメノルカ様に仕えるほうが、君にあっているのではないかと私は思うのだが」
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だがクアスはそんなメノルカ神殿ではなくシュクラ神殿を仕える先に選んだのだ。王都騎士団の地位と騎士爵位まで捨ててまで。
クアスは理由について尋ねられて少し躊躇ったが、今まで世話になった騎士団長に隠すわけにはいかないと、静かに話し出した。
縁あってシュクラに慈悲を賜ったこと。シュクラのおかげで、あのシャガの惨劇によるトラウマを克服できたこと。そしてそのシュクラが密かにクアスの子を産んだこと。
あまりにぶっ飛んだ話に最初は怪訝そうだった騎士団長だが、顔を真っ赤にしながら言いにくそうに話すクアスの様子で本当の話だと信憑性を感じてきてしまった。
ここ王都でも、シャガの新たな双子神の誕生という情報は入ってきた。シュクラ神の友人であるメノルカ神が先日、友を祝ってシャガの方向に百発の花火を打ち上げたことも記憶に新しい。
情報の早い宗教画家が、双子神インとヤンの肖像画を描いて新聞に載せられたこともあり、双子神の容姿は王都にも知れ渡っている。
その肖像画とクアスの容姿は、考えてみればかなり酷似していた。騎士団長はあまりのことに絶句しながらも、確かめるようにクアスに尋ねる。
「……確認、するが……気を悪くするなよ? 君の妄想、とかではないのだよな? 例えばほら、シュクラ様は男神とはいえ見目麗しい土地神だと有名ではないか。それに惚れ込んだ気持ちが暴走して、イン様とヤン様が自分の子だと思い込んでいたりしないか?」
「そう仰る方もいるだろうと、シャガ神殿の聖人様とシュクラ様ご自身からの証明の手紙を預かっております。こちらをどうぞ」
クアスが差し出したのはシュクラ神殿の紋章の入った封筒。神の紋章には魔法がかかっているために偽造することはできないとされているものだ。これを出されては、さすがに妄想の疑いは晴れた。にわかに信じられない話ではあったが、そもそも嘘や妄想などクアスが口にしないのは、騎士団長は長い付き合いなのでよくわかっている。
だが、このことは王都騎士団に混乱をもたらす為、騎士団長の胸だけに秘めていてもらいたいとクアスは頼み込んだ。中には今でもシャガの惨劇においてのクアスの対応に対して刑罰がぬるかったと言っている者もいるし、そんなクアスが神の父親に選ばれたと知れたら、妬み嫉みでシャガにいるシュクラやインとヤンにも迷惑がかかることになるかもしれない。
よって、クアスの王都騎士団退団について本当の理由は伏せられた。表向きはあの惨劇の件で、一度は許されたが、自分自身の意思で責任を取り、シャガでシュクラ神殿に仕えて亡き仲間の騎士たちを弔いたいという理由で受理されることとなった。
もちろんそれは嘘ではない。あの惨劇で失った仲間たちのことはいつまでもクアスの心に残っているので、シュクラとインとヤンのもとで、彼らを弔っていきたいのは本当の気持ちであった。
それから半月後、第二師団の部下の一人に師団長の任を譲り、全ての任務を終えたクアスは、静かに王都騎士団を退団した。
それは、あの元・魔法師団第三師団長で、大魔術師にして英雄となったエミリオ・ドラゴネッティの勇退のときに比べて、騎士団長と第二師団の部下たちだけに見送られての質素な退団であった。
寮暮らしだったクアスは王都郊外に立つカイラード家の邸にはほとんど帰っていなかった。
管理人は置いていたが、そもそもカイラード家は貴族ではないため、邸といっても今は鬼籍となった家族の思い出の品がわずかにあるだけなので、それだけ持ち出してあとは全て売ることにした。人の住まない家をいつまでも持っていると、余計な税金がかかるのはどこの国でも同じだろう。
その数週間後、既に人手に渡った邸に別れを告げ、少ない荷物でシャガ行きの魔法馬車の乗り場に向かおうとしたクアス。
そんな彼を迎えに来たのはメノルカ神殿の聖人たちであった。
一体何事かと思ったが、例によって屈強なメノルカ神殿の聖人たちは、まるで上官に話しかけるような規律さで告げる。
「お迎えに上がりました、クアス・カイラード神婿閣下!」
「シュクラ神殿より、神馬の馬車がわがメノルカ神殿に到着しております!」
「こ、声が大きいです聖人様!」
クアスは思いきり面食らった。
そして声ばかり大きい聖人に、あまり大きな声で「閣下」などと言わないで欲しいと思ってなんとか彼らを抑えた。
郊外であったのでほぼ人通りはないのだが、軍人みたいに張り上げる聖人の声が遠くまで響いて木霊するので、どこで誰が聞いているかとヒヤヒヤしてしまった。
一応この数週間、王都とシャガを行き来して引っ越しの準備をしていたので、本日王都を発つことはシュクラ神殿の皆とシュクラにも話していたから知っていただろうが、あくまでもひっそりと魔法馬車で向かうつもりだったのに、まさか向こうからこのような迎えがくるとは聞いていなかった。
しかもまさかの、神馬の馬車。シュクラとその愛し子であるスイ以外は乗ることは許されなかった、次元の狭間を走る天馬が駆る神の馬車だ。メノルカ神殿に発着場があるため、使いとしてメノルカ神殿の聖人たちがやってきたのだろう。
まさか、迎えをよこすとはいえ神が乗る馬車を、クアスの為に出してくるとは思わなかったのである。
「シュクラ様からのサプライズだそうです!」
「いやいやいやいや! 私はただの人間です! これから僧兵になる身とはいえ、聖人様らにも許されていないシュクラ様の乗り物に私などが乗るわけには参りません!」
「何を仰います。貴方様は既に神婿様じゃございませんか!」
「そもそもその神婿という認識がおかしいわけで……!」
「まあまあ、シュクラ様がお認めになったお方には違いないのですから、かのお方の好意を無にしてはいけませぬよ、閣下」
「いや、待ってください! お、恐れ多い!」
「なんのなんの。さあさあ、遠慮なさらず!」
固辞しているにも拘らず、クアスの言い分は全く聞いてもらえず、数少ない荷物も取り上げられて、半ば連行される犯罪者のようにメノルカ神殿行きの馬車に乗せられた。
神殿前にメノルカの神鳥であるエピオルニスの馬車に乗り換えさせられると、あっという間にメノルカ神殿の天馬発着場まで連れてこられてしまった。
ぞろぞろと屈強な聖人たちが恭しく旅装束のクアスに敬意を払いながら案内する様子に、参拝客らが「あの貴人は一体何者なのか」とざわざわ話すのが聞こえて、クアスは身の置き場がなくて挙動不審になりそうだった。
発着場には恐れ多くもメノルカ神本人が見送りに来てくれていたことに、クアスはさらに恐縮してしまう。
王都に生まれた身としては、王都の土地神であるメノルカではなく、西辺境のシャガの土地神シュクラの洗礼を受けたことに多少の後ろめたさがあって、一度神殿に行って報告したのだが、そんな小さなことなど神は気にしないらしい。
むしろ自分の守護する土地の者を親友であるシュクラの元に送るなら何の心配もないと考えていると、彼は豪快に笑っていたのを覚えている。
「シュクラによろしくな、婿どの!」
「メ、メノルカ様! 違います、私はっ」
「さあさあ閣下、こちらでございますよ」
否定する間も与えられず、引きつった表情のまま天馬の馬車に押し込められた。
こうしてクアスは、本来なら魔法馬車で三日の距離である西辺境シャガに、片道たったの二時間で到着する天馬の馬車に揺られて、全く訳が分からないままに王都ブラウワーを後にした。
「……………………クアス」
その時の天馬発着場に連行されるクアスを、メノルカ神殿に参拝していた客らに交じって見つめていた一人の人物がいたことに、彼が気づくことは一切なかった。
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