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本編
57 エミリオ限定の媚薬 ※R18 男の自慰あり注意
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泊まっていけとは言われたけれど、とりあえず明日から部下たちの引継ぎの件で魔法師団研究棟に出突っ張りなので、今夜は騎士団寮に戻ることにしたエミリオ。
辻馬車を拾って乗り込み、多少うつらうつらしながら騎士団寮の自分の部屋に戻ってきた。
外套をポールハンガーに引っ掛けて、ソファーにボスっと腰掛けてから、今日あったことを思い出す。
気まぐれに実家に戻ってシャンテルの誕生日プレゼントを兄の代わりにシャンテルと受け取りに行った先で、スイに再会した。
非常に光沢のある長い黒髪に黒い瞳、まるで一匹の美しい黒猫のような、瞼の愛しい人。
……に、非常によく似た女児向けの着せ替え人形だったのだが。
つい二日前の情事を思い出して、正直場所も弁えず発情しかけた。姪のシャンテルやバビちゃんハウスのマダムの前だと理性を総動員してなんとか抑えた。気づかれていなければいいのだが、この一週間魔力枯渇による発情状態が続いたから、理性が戻りづらい感じになっているのかもしれない。
ジェイディ人形などを見てしまっては、それまで我慢して、頑張って押さえつけていたスイへの望郷の思いや恋慕などの焼けつくような気持ちを思い出してしまって切なくてたまらない。
シャンテルの誕生会の晩餐のあと、父と兄に明かしたこれからのことを話した時も、ますますその思いが強くなった。
――逢いたい、愛しいスイ。今何をしているだろう?
いかん。常に冷静であらねばならない魔術師がこんなんでどうするというのか。
膝に肘をついて両手で顔面を覆い、エミリオはふーーーーーと大きなため息をついた。
エミリオは本当の意味で女性を心底愛したのはこれが初めてだった。
学生時代に思春期を迎えてそこそこ平凡な年齢で異性と交際したこともあったけれど、そのどれもが今のように、相手に会いたくて常に彼女を考えたり、そわそわと落ち着きなく、何も手に付かない、ふとしたことで思い出しては切なく胸が痛くなるほどの、そんな気持ちなど経験したことがなかったのだ。
本当の意味で、エミリオはスイに人生初めての恋心というものを胸に抱いたわけだ。
こんな感情は知らない。今まで自分が経験してきた男女の交際など、ただ相手の行動に付き添っているだけだった。それが恋愛だと勘違いしていたことは、今となっては否めない。
当時は相手が触れたいと言えば触れたし、抱いたこともあったけれど、結局は相手のほうがエミリオの気持ちがはっきり自分に向いていないことに気づいて去っていった。
こんなに相手を欲してやまない気持ちを、今思えば当時の交際相手はエミリオに持ってほしかったのだろう。自分が今、スイに思う気持ちがまさにそれなのだということを、今更ながら知った。
今一つ大きくため息をついて、エミリオはやおら立ち上がると、一度ぶるると頭を振ってから、明日の仕事用のシャツをクローゼットから出してハンガーにかけ、ポールハンガーに吊るす。
いい加減、切り替えねば。もちろんこうして気持ちを切り替えるのもスイと二人で暮らしていくため、今やらなければならない仕事のほうに専念しないといけない。
手続きや引継ぎが色々、面倒は面倒だけれど、スイと一緒に居たいから、という気持ちで向かい合うとそれなりにワクワクしてくる。
――今だけの辛抱だ。
そう明日からまた様々な事務手続きや引継ぎ、事前準備などのことを頑張らねばと決意し、何気なくアイロンを綺麗にかけられた白いシャツにさらりと触れた瞬間、ふわっと香ってくる懐かしい香りがした。
フローラルブーケ、という香りだと、スイは言っていた。このシャツはそういえばシャガでスイが洗濯をしたものを亜空間収納袋に入れていて、この部屋に戻って来てからクローゼットに戻したものだった。
柔軟剤、という異世界の代物の香り。洗濯時に使用すると、乾いてから普段香らずに、触れたり風に揺れたりするとふわっと香る不思議な代物。初めて会ったときから香っていた、スイの香り。
どくん、と鼓動が大きく跳ねた。
今さっき理性を総動員したはずだというのに、香りの効果というものは恐ろしい。エミリオにとってこの香りはそのままスイを連想するものだ。
スイとは物理的な距離が離れてしまったけれど、彼女の香りがそこにあった。そう感じた瞬間、エミリオはシャツを鷲掴んでハンガーから引っ剥がしてしまった。
両手で白いシャツを皺になるほど掴んで顔面に押し当てる。スーハーと深呼吸をして、胸いっぱいにその香りを吸い込むと、現実的にはそのような効果はないというのに、エミリオは心まで酩酊した。
「スイ……!」
どくん。また一つ、鼓動が大きくなる。スイの香りがエミリオを酩酊させていく。この香りはエミリオ限定のいわば媚薬だ。
そのまま部屋のソファーに再びどかっと座り込む。真夏でもあるまいし、なぜか身体が火照り始める。血流が身体の一点に集中していく。もう止まらなかった。
自分は猿かと。猿人に退化でもしたのかというほど、これほど単純に理性をかなぐり捨てられるものかと思うほどに、エミリオはすっかり発情していた。
官能揺さぶるスイの甘い香りに、エミリオは勃ちあがる下半身に屈するしかなかった。
手汗が滲んですっかり皺くちゃのシャツを歯でぎりりと咥えてスーハースーハーと鼻と口と両方でその香りを胸いっぱい吸い込みながら、もたつくベルトをかちゃかちゃと外し、もどかし気に下着をおろして己を扱いていく。
香りに酩酊した脳裏に浮かぶのは、つい二日前のスイのあられもない痴態だ。
白いシーツに長い黒髪が溶けだしたインクのように流れていて、灯りを消した室内でも浮かび上がる白い肌は情欲に紅潮していた。
――エミさん
幻聴まで聞こえてきた気がした。それにまた興奮して、擦り剥けるのではないかと思うほど扱いて、エミリオは歯の隙間から息を吐き出した。
スイのしなやかな、それでいて悪戯な指が、赤くて小さな舌がぬめぬめと雄茎と乳首に這いまわる。豊かな乳房が包み込む。
――可愛いね、エミさん
意地悪なしたり顔で言うその言葉にも興奮した。的確にエミリオのいい場所を、身体だけでなく脳にも刺激を与えてきた。
――エッチな魔術師様ね
恥ずかしくないの? とでも笑うみたいに、蔑むみたいに言われて、羞恥心よりも官能が打ち勝ってどんどん溺れていく。もっと、もっと言ってほしい。
エミリオはシャツの匂いを吸い込み、片手で乳首を弄って、片手で雄茎を扱きながら、脳内ではこの一週間ほどで得た、スイの身体のありとあらゆる感触を思い出していた。
彼女の手指、舌と口内、しなやかな身体、エミリオを包み込んだ、彼女の中の熱い締め付け。
「はっ……はぁっ……スイ、スイ……っ!」
――可愛いね。気持ちいい?
「き、もち、いい……! あ、あああっ……スイ、好き、だ……愛してる……!」
声を押し殺しつつも泣き叫ぶみたいにそう口に出し、はらりと落ちたしわくちゃのシャツが膝に落ちる。その瞬間にまたあの香りがふわりと鼻孔をくすぐり、エミリオは脳天に最後の一撃を食らわされて、扱く手に力が入った。
「おっ……ぁ、ああっ……!」
獣じみた呻き声とともに、エミリオは膝の上に落ちて腰を覆ったシャツの中に射精した。たった二日弱でどれほど溜めまくったんだと思うほど吐き出された精液に、自分大丈夫かとビビる。
せっかく洗い立てだったスイの香りがするシャツは、もう握りしめて歯で咥えて皺くちゃ状態な上に男の生々しい精の匂いで完全に穢れた。スイを穢したみたいな罪悪感が押し寄せる。
射精した脱力感と、スイをオカズにした罪悪感、そして心を吹き抜ける虚しさに、ソファーの背もたれにぼすっと頭をやって、エミリオは瞑目した。
「………なんで」
萎えない。
未だひきつれるような雄茎の張り詰め具合を感じる。
西シャガ村でスイがいない間に同じようにローブについたスイの香りを嗅ぎながら自慰したときと同じようなやるせなさを感じる。
あの時と違って、今たしかに絶頂したというのに、この物足りなさは一体何だろう。
「…………スイ、スイが、足りない」
首を回して置時計のほうに目をやる。夜十時十五分。
「……まだ、起きてるだろうか? 今、行ったら……」
遠い、シャガ地方のシュクラ神殿、その敷地内にあるあの四角い不思議な家。そこに居るだろう愛しい女に焦がれる。焼けつくような胸の痛みを、癒してくれる彼女が足りなすぎる。
たった二日だ。その程度でこんなになってしまうなんて。
帰ろうと思えば、帰れるのだ。あの場所に。今すぐに。
「…………スイ、今……何してる?」
辻馬車を拾って乗り込み、多少うつらうつらしながら騎士団寮の自分の部屋に戻ってきた。
外套をポールハンガーに引っ掛けて、ソファーにボスっと腰掛けてから、今日あったことを思い出す。
気まぐれに実家に戻ってシャンテルの誕生日プレゼントを兄の代わりにシャンテルと受け取りに行った先で、スイに再会した。
非常に光沢のある長い黒髪に黒い瞳、まるで一匹の美しい黒猫のような、瞼の愛しい人。
……に、非常によく似た女児向けの着せ替え人形だったのだが。
つい二日前の情事を思い出して、正直場所も弁えず発情しかけた。姪のシャンテルやバビちゃんハウスのマダムの前だと理性を総動員してなんとか抑えた。気づかれていなければいいのだが、この一週間魔力枯渇による発情状態が続いたから、理性が戻りづらい感じになっているのかもしれない。
ジェイディ人形などを見てしまっては、それまで我慢して、頑張って押さえつけていたスイへの望郷の思いや恋慕などの焼けつくような気持ちを思い出してしまって切なくてたまらない。
シャンテルの誕生会の晩餐のあと、父と兄に明かしたこれからのことを話した時も、ますますその思いが強くなった。
――逢いたい、愛しいスイ。今何をしているだろう?
いかん。常に冷静であらねばならない魔術師がこんなんでどうするというのか。
膝に肘をついて両手で顔面を覆い、エミリオはふーーーーーと大きなため息をついた。
エミリオは本当の意味で女性を心底愛したのはこれが初めてだった。
学生時代に思春期を迎えてそこそこ平凡な年齢で異性と交際したこともあったけれど、そのどれもが今のように、相手に会いたくて常に彼女を考えたり、そわそわと落ち着きなく、何も手に付かない、ふとしたことで思い出しては切なく胸が痛くなるほどの、そんな気持ちなど経験したことがなかったのだ。
本当の意味で、エミリオはスイに人生初めての恋心というものを胸に抱いたわけだ。
こんな感情は知らない。今まで自分が経験してきた男女の交際など、ただ相手の行動に付き添っているだけだった。それが恋愛だと勘違いしていたことは、今となっては否めない。
当時は相手が触れたいと言えば触れたし、抱いたこともあったけれど、結局は相手のほうがエミリオの気持ちがはっきり自分に向いていないことに気づいて去っていった。
こんなに相手を欲してやまない気持ちを、今思えば当時の交際相手はエミリオに持ってほしかったのだろう。自分が今、スイに思う気持ちがまさにそれなのだということを、今更ながら知った。
今一つ大きくため息をついて、エミリオはやおら立ち上がると、一度ぶるると頭を振ってから、明日の仕事用のシャツをクローゼットから出してハンガーにかけ、ポールハンガーに吊るす。
いい加減、切り替えねば。もちろんこうして気持ちを切り替えるのもスイと二人で暮らしていくため、今やらなければならない仕事のほうに専念しないといけない。
手続きや引継ぎが色々、面倒は面倒だけれど、スイと一緒に居たいから、という気持ちで向かい合うとそれなりにワクワクしてくる。
――今だけの辛抱だ。
そう明日からまた様々な事務手続きや引継ぎ、事前準備などのことを頑張らねばと決意し、何気なくアイロンを綺麗にかけられた白いシャツにさらりと触れた瞬間、ふわっと香ってくる懐かしい香りがした。
フローラルブーケ、という香りだと、スイは言っていた。このシャツはそういえばシャガでスイが洗濯をしたものを亜空間収納袋に入れていて、この部屋に戻って来てからクローゼットに戻したものだった。
柔軟剤、という異世界の代物の香り。洗濯時に使用すると、乾いてから普段香らずに、触れたり風に揺れたりするとふわっと香る不思議な代物。初めて会ったときから香っていた、スイの香り。
どくん、と鼓動が大きく跳ねた。
今さっき理性を総動員したはずだというのに、香りの効果というものは恐ろしい。エミリオにとってこの香りはそのままスイを連想するものだ。
スイとは物理的な距離が離れてしまったけれど、彼女の香りがそこにあった。そう感じた瞬間、エミリオはシャツを鷲掴んでハンガーから引っ剥がしてしまった。
両手で白いシャツを皺になるほど掴んで顔面に押し当てる。スーハーと深呼吸をして、胸いっぱいにその香りを吸い込むと、現実的にはそのような効果はないというのに、エミリオは心まで酩酊した。
「スイ……!」
どくん。また一つ、鼓動が大きくなる。スイの香りがエミリオを酩酊させていく。この香りはエミリオ限定のいわば媚薬だ。
そのまま部屋のソファーに再びどかっと座り込む。真夏でもあるまいし、なぜか身体が火照り始める。血流が身体の一点に集中していく。もう止まらなかった。
自分は猿かと。猿人に退化でもしたのかというほど、これほど単純に理性をかなぐり捨てられるものかと思うほどに、エミリオはすっかり発情していた。
官能揺さぶるスイの甘い香りに、エミリオは勃ちあがる下半身に屈するしかなかった。
手汗が滲んですっかり皺くちゃのシャツを歯でぎりりと咥えてスーハースーハーと鼻と口と両方でその香りを胸いっぱい吸い込みながら、もたつくベルトをかちゃかちゃと外し、もどかし気に下着をおろして己を扱いていく。
香りに酩酊した脳裏に浮かぶのは、つい二日前のスイのあられもない痴態だ。
白いシーツに長い黒髪が溶けだしたインクのように流れていて、灯りを消した室内でも浮かび上がる白い肌は情欲に紅潮していた。
――エミさん
幻聴まで聞こえてきた気がした。それにまた興奮して、擦り剥けるのではないかと思うほど扱いて、エミリオは歯の隙間から息を吐き出した。
スイのしなやかな、それでいて悪戯な指が、赤くて小さな舌がぬめぬめと雄茎と乳首に這いまわる。豊かな乳房が包み込む。
――可愛いね、エミさん
意地悪なしたり顔で言うその言葉にも興奮した。的確にエミリオのいい場所を、身体だけでなく脳にも刺激を与えてきた。
――エッチな魔術師様ね
恥ずかしくないの? とでも笑うみたいに、蔑むみたいに言われて、羞恥心よりも官能が打ち勝ってどんどん溺れていく。もっと、もっと言ってほしい。
エミリオはシャツの匂いを吸い込み、片手で乳首を弄って、片手で雄茎を扱きながら、脳内ではこの一週間ほどで得た、スイの身体のありとあらゆる感触を思い出していた。
彼女の手指、舌と口内、しなやかな身体、エミリオを包み込んだ、彼女の中の熱い締め付け。
「はっ……はぁっ……スイ、スイ……っ!」
――可愛いね。気持ちいい?
「き、もち、いい……! あ、あああっ……スイ、好き、だ……愛してる……!」
声を押し殺しつつも泣き叫ぶみたいにそう口に出し、はらりと落ちたしわくちゃのシャツが膝に落ちる。その瞬間にまたあの香りがふわりと鼻孔をくすぐり、エミリオは脳天に最後の一撃を食らわされて、扱く手に力が入った。
「おっ……ぁ、ああっ……!」
獣じみた呻き声とともに、エミリオは膝の上に落ちて腰を覆ったシャツの中に射精した。たった二日弱でどれほど溜めまくったんだと思うほど吐き出された精液に、自分大丈夫かとビビる。
せっかく洗い立てだったスイの香りがするシャツは、もう握りしめて歯で咥えて皺くちゃ状態な上に男の生々しい精の匂いで完全に穢れた。スイを穢したみたいな罪悪感が押し寄せる。
射精した脱力感と、スイをオカズにした罪悪感、そして心を吹き抜ける虚しさに、ソファーの背もたれにぼすっと頭をやって、エミリオは瞑目した。
「………なんで」
萎えない。
未だひきつれるような雄茎の張り詰め具合を感じる。
西シャガ村でスイがいない間に同じようにローブについたスイの香りを嗅ぎながら自慰したときと同じようなやるせなさを感じる。
あの時と違って、今たしかに絶頂したというのに、この物足りなさは一体何だろう。
「…………スイ、スイが、足りない」
首を回して置時計のほうに目をやる。夜十時十五分。
「……まだ、起きてるだろうか? 今、行ったら……」
遠い、シャガ地方のシュクラ神殿、その敷地内にあるあの四角い不思議な家。そこに居るだろう愛しい女に焦がれる。焼けつくような胸の痛みを、癒してくれる彼女が足りなすぎる。
たった二日だ。その程度でこんなになってしまうなんて。
帰ろうと思えば、帰れるのだ。あの場所に。今すぐに。
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