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本編
51 惚れて通えば千里も一里、逢わで帰ればまた千里 ※R18
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唾液と先走りを舌先でこね混ぜながら、しばしエミリオのモノの先端をぐりぐりと刺激する。
「あぁあっ、う、んぐぅっ……あ、お、ぁあっ……!」
スイがエミリオの雄茎を口の中でぐっぽぐっぽと出し入れを繰り返し、風呂に響き渡るようなあられもない獣じみた喘ぎを漏らしてエミリオが仰け反る。
雁部分を口の中で舐めしゃぶりながら、竿部分を握った手を上下させて扱いていく。
睾丸もむにむにとほぐすように揉みながら先端に舌先でぐりぐりとほじくるみたいに刺激するとエミリオはが全力疾走した後みたいな荒々しい息遣いを繰り返した。
反応が良くて相変わらず可愛い。受け側に回るとエミリオは感度が良くなるのか、喘いで喘いで、泣きそうな顔になりながら快感をどんどん拾ってとろんとした表情になるから、スイはそれが可愛くてしょうがないのだ。
セックスのときとはまた違う反応が見れて嬉しくなったスイは、もっと気持ちよくさせたくて、舌先を尖らせて裏筋をぐりぐりと刺激したり先端の尿道口をじゅるっと吸うと、エミリオは膝頭をがくがくと震えさせて、低い声で歯を食いしばった唸りを上げてから、そっとスイの肩をぽんぽんと叩いて気づかせる。
「……?」
「スイ、も、もういい、出てしまう……!」
「出ひてもいいのに……ん、ちゅ」
「……い、嫌だ、スイの中で出したい……!」
洗ってかき出したばっかりなんだけどな。
そう思ったけれど、ベッドでの激しかった行為と快感を思い出して、また洗えばいいか、とあっと言う間に納得するあたり、スイももう完全に快楽堕ちしていると自分でも思って苦笑した。
「んあ……っ」
「スイ、おいで、こっち……」
エミリオは真っ赤なやや酩酊したような顔をしてスイを引き寄せると、浴槽の縁に手を突かせて尻を突き出させる。意図を読み取ってスイは自ら尻に手をやってエミリオを促した。
「あぁ……来て、エミさん……!」
「ん、スイ、……あぁ、スイ……!」
エミリオの痴態を見てあっと言う間に潤ってしまうそこに、エミリオの雄茎を自ら導いて、ぐぷりと一気に奥まで貫かれれば、それだけで一度びくびくと絶頂に達する。
スイの絶頂による締め付けによって、不意打ちのように射精してしまったエミリオは、「ああ、くそっ……」と吐き捨てたかと思うと、後ろからスイの胸を鷲掴むようにして揉み、スイに挿入したままの腰を小刻みに動かし始める。
スイの膣で勃たせているようだ。
「んぁっ……エミさん? あ、んぁあっ、お、おっきくなって……」
「うん……スイ、このまま……させて?」
「ん、いい、よ……いっぱいして……あ、あ、ああ……気持ちい……!」
すぐに復活してびきびきに固くなってきた物で前後に揺さぶられれば、奥の奥までガツンガツンと響くような衝撃を受けてスイはひっきりなしに喘いだ。
「あっ! あんっ! あ、はぁっ! いい、のぉっ……! おく、やば、すごいよぉ……!」
「奥……? ここ、かな……? ん、んんっ……!」
「ひあっ! ぐりぐり、あああすごっ、すぐいく、いくからぁっ……!」
「スイ、気持ちいい? ここ、いいの、か……?」
「いいっ! いいのぉっ! おく、いっぱい、ごりごりってぇ……! エ、エミさん、エミさん、気持ちい、気持ちいの、とまらなくて……あ、あああっ!」
振動に、浴槽の湯がびちばちと揺れて溢れるのも構わず、お互い腰をばっちんばっちんと打ち付け合っては昂りを共有しあう。
快感にがくがくと痙攣しだす身体に、スイはあらがうことができずにぞくぞくと背筋を通る絶頂感を受け入れて、ついにエミリオをぎゅぎゅっと締め付けた。
「う、ああぁ……っ、締まる、ん、くぅっ……あ、はっ……出すぞ、スイ……!」
「うん、いいよ、来て、いっぱい、熱いの、来て……エミさん、エミさんっ!」
スイの悩まし気な声に後押しされるように絶頂を迎えたエミリオは、スイの搾り取るような締め付けに屈して、彼女の子宮目掛けて射精した。ベッドで睦み合ったときはもう何も出ないと思っていたのに、少し時間を置いただけでこんなに出てくるのかというほどの量だった。
弛緩したモノを彼女から抜き去ると、浴槽の縁に突っ伏したスイの膣からどろりと白い物が溢れ出てきた。やたらと卑猥で、支配感にぞくぞくしてきそうな光景だった。
ちゃぷちゃぷと湯を弄びながら、エミリオの腕の中でスイが座って二人で温泉の素の入った浴槽に浸かっていた。
身体を洗うと称して一発かましてしまったので、少々ぬるくなってしまったのだが、朝の気怠い感じではちょうどいいし、温泉の素はぬるま湯でも後々まで身体が温まるのでこれはこれでいいかもしれない。
風呂場の防水仕様の時計は午前七時少し前を指している。
エミリオは魔力が完全回復したらすぐにでも王都へ立つと言っていたから、風呂からあがったらそろそろお別れなのかと思うと何だかとたんに寂しくなって、後ろのエミリオにもたれかかった。
「エミさんすぐ帰っちゃう?」
「そうだな……王都は魔法結界が張ってあるから正門からしか入れないんだ。その正門が開くのは朝八時だから、もう少しいられるかな」
そうなのか。彼は転移魔法で一瞬で帰る予定だから、あと一時間はまだ一緒にいられるのかと思った。あと一時間しかないととるか、まだ一時間あるととるか。
結局「もう一時間しかない」とネガティブに取ってしまったスイは、小さくはあとため息をついて、はたから見てもわかるほど肩を落としてしょんぼり落ち込んだ。
そんなスイにくすっと笑いかけてから、おもむろにその頬にキスをしてエミリオは優し気に言う。
「……寂しいか?」
「うん、そりゃあ……」
「でもすぐ戻るよ。俺の居場所はスイのところだ。王都で用を済ませたらすぐ戻る」
「戻るって、まさか」
「うん……俺、騎士団を辞めてくる。今回の任務失敗の責任取る名目だけど、本音はスイと一緒にいたいからな」
素直に喜んでいいのかわからない。シャガを離れられないスイのために、騎士団という花形職業を辞めてまでこちらに移住しようとしているエミリオ。
それはなんだかやたらと重い気がするし、何より、彼の立場上、そう簡単にことが進むとは思えないのだ。
彼は規格外の魔力持ちで、魔法師団第三師団長という地位の大魔術師だ。王都でも頼りにされているであろうし、何より今は騎士爵位とはいえもともと子爵家次男というお貴族様だ。
シャガ地方の、それも得体のしれない稀人のスイと、王都の騎士団の役割とか貴族のしがらみとかを秤にかけてどちらが重いか、エミリオは本当にスイを取れるのかと疑問に思う。
大体、ドラゴネッティ家のエミリオの家族は、王都から遠く離れた場所へ、役職も辞して移住するというとんでもない行動を果たして許してくれるかどうか。
それに職場のほうは? エミリオのようなエリート魔術師が居なくなってもちゃんと機能するんだろうか?
眉間にしわを寄せてううむ、と考え込むスイの眉間を「ブスになるぞ」とぐりぐりと押してから、エミリオはスイの気持ちを読み取ったように微笑んだ。
「まあ、いろいろ引き留められたりはすると思うが、俺には切り札があるからな」
「え、切り札?」
「うん。俺、昨日のうちにシュクラ様の洗礼を受けてきたんだ」
「えっ……」
「この地に留まる意思ありということを約束してきた。土地神シュクラ様に。だからいざとなったらシュクラ様の信徒になったからと言えば、上司も文句は言えないさ」
確かに、現存神といって生身のある神様だけれど、土地神は立派な神の一柱だ。その神が許したとあれば上司だって神の意思に背くことはできないと、反対はしないだろう。
「それでも渋るようなら、こう言う予定だ。『シュクラ様の愛し子に手を出してしまいましたから』って」
「ちょっ……、それって」
「責任とれとシュクラ様に言われてるって言えば、上司だって了承する」
「……シュクラ様は納得してんの、それ?」
「してるさ。こうこうこう言ってもいいですかと聞いたら何てお答えがあったと思う? 『良きにはからえ♪』って」
「あの人はホントにもう……」
シュクラにとってエミリオは、愛し子のスイが万一魔力枯渇に陥ったときの保険らしいから、最初からスイとエミリオとの仲に対しては「良きにはからえ♪」だった。
そこに最近信徒に加わったとなれば、そりゃあもう全面的に「良きにはからえ♪」だろう。土地神というのは自分の治める土地に人が増えるのをとても喜ぶからだ。
「……ちょっとは溜飲下がった?」
「うん……」
「すぐに帰るよ。なんなら毎日転移でこっちに戻ってきてもいい」
「そ、それは魔力の無駄遣い!」
「ははは。でもそれくらいの気持ちだってわかって、スイ」
「……わかった。待ってる」
「うん。……浮気するなよ?」
「エミさんこそ!」
小突き合ってから二人して吹き出して笑い合うと、ぬるま湯とはいえそろそろ逆上せそうな感じだったので上がることにした。
身体と髪を乾かして服に着替える。エミリオのローブはまたおしゃれ着洗い用の洗濯洗剤と柔軟剤で洗って綺麗にアイロンをかけておいたので、だらしなくないびしっとした魔術師スタイルがちゃんと完成した。男のエミリオのローブから柔軟剤のフローラルブーケの香りがするのはなんとも可笑しいけれども。
スイはスイで、いつものカジュアル的な服装に着替えてから、王都の開門の時間までまだ間があるので、簡単にエミリオと朝食をとってゆっくりと過ごした。
やがて開門時間になると、エミリオを外まで見送る。どちらからともなく抱き合ってから、軽いキスで唇をはむはむしてからふと離れ、
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
とお互いに手を振った。
エミリオはスイから離れて玄関先にあるシュクラ神殿の敷地内に出ると、スイにはよくわからない魔法文言を詠唱する。バチバチとエミリオの足元に光り輝く魔法陣が現れ、彼はスイに手を大きく振ると、次の瞬間に魔法陣もろともブインと消えてしまった。
濃厚な一週間を過ごしたエミリオはこうして王都へ戻っていった。しばし、エミリオの消えた何もない空間を眺めていたスイは、一つため息を……つくところを思い直して、スーハ―スーハ―と深呼吸をしてから家の中に戻る。
――ため息は幸せが逃げるとかいうジンクスがあったっけ。本当かどうかわかんないけども。
そう思いながら、朝食の後片付けを始める。汚れた皿を洗ってからテーブルを拭き、笛吹ケトルでお湯を沸かしなおしてから、改めてコーヒーでも飲もうと戸棚からカップを取り出そうとした。
不意にカップと一緒に白い手のひら大の紙袋が落ちてきそうになったのを慌てて受け止めると、よく見たら、シャガ中町の薬局の薬袋であった。中身はそう、避妊薬だ。
中に入っている説明書を改めて見直すと、事後二日以内に空腹時を避けて服用と書いてある。
そうだ、これをあとで飲まないとと思っていたんだっけ。
トイレに置いた卓上カレンダーに、他人にはわからないように記した月経周期的には、決して安全じゃない期間にあたっていた。そんなときに、エミリオとは魔力交換に必要とはいえ「生」で「膣内射精」だ。しかも一晩中、そして朝も風呂場で。
思い出すと急に寂しくなって、ぽろぽろと涙がこぼれる。
何で泣く必要があるんだとか、エミリオはすぐに戻ると言ってたじゃないかとか、いろいろ自分で自分に言い聞かせるものの、いったん堰を切った涙はあとからあとから流れてくる。
バカだなあ。ほんと、バカだなあ、あたし。
泣かなくてもいいのに。
「うっ……、ふぅっ……、はあ……」
声を押し殺して涙がおさまるまでひとしきり泣いた。泣き止むころには笛吹ケトルはヒューという音を立てて湯が沸いたことを知らせてきた。
湯を笛吹ケトルから保温ポットに入れなおして、コーヒーを落とし、カップに注ごうと思ったときに、再び薬袋を目にしてしまった。
「…………」
スイは薬袋を手に取って、キッチンの縁に寄りかかりながらしばし考えたのち……その薬袋を再び戸棚へとしまい込んだのだった。
「あぁあっ、う、んぐぅっ……あ、お、ぁあっ……!」
スイがエミリオの雄茎を口の中でぐっぽぐっぽと出し入れを繰り返し、風呂に響き渡るようなあられもない獣じみた喘ぎを漏らしてエミリオが仰け反る。
雁部分を口の中で舐めしゃぶりながら、竿部分を握った手を上下させて扱いていく。
睾丸もむにむにとほぐすように揉みながら先端に舌先でぐりぐりとほじくるみたいに刺激するとエミリオはが全力疾走した後みたいな荒々しい息遣いを繰り返した。
反応が良くて相変わらず可愛い。受け側に回るとエミリオは感度が良くなるのか、喘いで喘いで、泣きそうな顔になりながら快感をどんどん拾ってとろんとした表情になるから、スイはそれが可愛くてしょうがないのだ。
セックスのときとはまた違う反応が見れて嬉しくなったスイは、もっと気持ちよくさせたくて、舌先を尖らせて裏筋をぐりぐりと刺激したり先端の尿道口をじゅるっと吸うと、エミリオは膝頭をがくがくと震えさせて、低い声で歯を食いしばった唸りを上げてから、そっとスイの肩をぽんぽんと叩いて気づかせる。
「……?」
「スイ、も、もういい、出てしまう……!」
「出ひてもいいのに……ん、ちゅ」
「……い、嫌だ、スイの中で出したい……!」
洗ってかき出したばっかりなんだけどな。
そう思ったけれど、ベッドでの激しかった行為と快感を思い出して、また洗えばいいか、とあっと言う間に納得するあたり、スイももう完全に快楽堕ちしていると自分でも思って苦笑した。
「んあ……っ」
「スイ、おいで、こっち……」
エミリオは真っ赤なやや酩酊したような顔をしてスイを引き寄せると、浴槽の縁に手を突かせて尻を突き出させる。意図を読み取ってスイは自ら尻に手をやってエミリオを促した。
「あぁ……来て、エミさん……!」
「ん、スイ、……あぁ、スイ……!」
エミリオの痴態を見てあっと言う間に潤ってしまうそこに、エミリオの雄茎を自ら導いて、ぐぷりと一気に奥まで貫かれれば、それだけで一度びくびくと絶頂に達する。
スイの絶頂による締め付けによって、不意打ちのように射精してしまったエミリオは、「ああ、くそっ……」と吐き捨てたかと思うと、後ろからスイの胸を鷲掴むようにして揉み、スイに挿入したままの腰を小刻みに動かし始める。
スイの膣で勃たせているようだ。
「んぁっ……エミさん? あ、んぁあっ、お、おっきくなって……」
「うん……スイ、このまま……させて?」
「ん、いい、よ……いっぱいして……あ、あ、ああ……気持ちい……!」
すぐに復活してびきびきに固くなってきた物で前後に揺さぶられれば、奥の奥までガツンガツンと響くような衝撃を受けてスイはひっきりなしに喘いだ。
「あっ! あんっ! あ、はぁっ! いい、のぉっ……! おく、やば、すごいよぉ……!」
「奥……? ここ、かな……? ん、んんっ……!」
「ひあっ! ぐりぐり、あああすごっ、すぐいく、いくからぁっ……!」
「スイ、気持ちいい? ここ、いいの、か……?」
「いいっ! いいのぉっ! おく、いっぱい、ごりごりってぇ……! エ、エミさん、エミさん、気持ちい、気持ちいの、とまらなくて……あ、あああっ!」
振動に、浴槽の湯がびちばちと揺れて溢れるのも構わず、お互い腰をばっちんばっちんと打ち付け合っては昂りを共有しあう。
快感にがくがくと痙攣しだす身体に、スイはあらがうことができずにぞくぞくと背筋を通る絶頂感を受け入れて、ついにエミリオをぎゅぎゅっと締め付けた。
「う、ああぁ……っ、締まる、ん、くぅっ……あ、はっ……出すぞ、スイ……!」
「うん、いいよ、来て、いっぱい、熱いの、来て……エミさん、エミさんっ!」
スイの悩まし気な声に後押しされるように絶頂を迎えたエミリオは、スイの搾り取るような締め付けに屈して、彼女の子宮目掛けて射精した。ベッドで睦み合ったときはもう何も出ないと思っていたのに、少し時間を置いただけでこんなに出てくるのかというほどの量だった。
弛緩したモノを彼女から抜き去ると、浴槽の縁に突っ伏したスイの膣からどろりと白い物が溢れ出てきた。やたらと卑猥で、支配感にぞくぞくしてきそうな光景だった。
ちゃぷちゃぷと湯を弄びながら、エミリオの腕の中でスイが座って二人で温泉の素の入った浴槽に浸かっていた。
身体を洗うと称して一発かましてしまったので、少々ぬるくなってしまったのだが、朝の気怠い感じではちょうどいいし、温泉の素はぬるま湯でも後々まで身体が温まるのでこれはこれでいいかもしれない。
風呂場の防水仕様の時計は午前七時少し前を指している。
エミリオは魔力が完全回復したらすぐにでも王都へ立つと言っていたから、風呂からあがったらそろそろお別れなのかと思うと何だかとたんに寂しくなって、後ろのエミリオにもたれかかった。
「エミさんすぐ帰っちゃう?」
「そうだな……王都は魔法結界が張ってあるから正門からしか入れないんだ。その正門が開くのは朝八時だから、もう少しいられるかな」
そうなのか。彼は転移魔法で一瞬で帰る予定だから、あと一時間はまだ一緒にいられるのかと思った。あと一時間しかないととるか、まだ一時間あるととるか。
結局「もう一時間しかない」とネガティブに取ってしまったスイは、小さくはあとため息をついて、はたから見てもわかるほど肩を落としてしょんぼり落ち込んだ。
そんなスイにくすっと笑いかけてから、おもむろにその頬にキスをしてエミリオは優し気に言う。
「……寂しいか?」
「うん、そりゃあ……」
「でもすぐ戻るよ。俺の居場所はスイのところだ。王都で用を済ませたらすぐ戻る」
「戻るって、まさか」
「うん……俺、騎士団を辞めてくる。今回の任務失敗の責任取る名目だけど、本音はスイと一緒にいたいからな」
素直に喜んでいいのかわからない。シャガを離れられないスイのために、騎士団という花形職業を辞めてまでこちらに移住しようとしているエミリオ。
それはなんだかやたらと重い気がするし、何より、彼の立場上、そう簡単にことが進むとは思えないのだ。
彼は規格外の魔力持ちで、魔法師団第三師団長という地位の大魔術師だ。王都でも頼りにされているであろうし、何より今は騎士爵位とはいえもともと子爵家次男というお貴族様だ。
シャガ地方の、それも得体のしれない稀人のスイと、王都の騎士団の役割とか貴族のしがらみとかを秤にかけてどちらが重いか、エミリオは本当にスイを取れるのかと疑問に思う。
大体、ドラゴネッティ家のエミリオの家族は、王都から遠く離れた場所へ、役職も辞して移住するというとんでもない行動を果たして許してくれるかどうか。
それに職場のほうは? エミリオのようなエリート魔術師が居なくなってもちゃんと機能するんだろうか?
眉間にしわを寄せてううむ、と考え込むスイの眉間を「ブスになるぞ」とぐりぐりと押してから、エミリオはスイの気持ちを読み取ったように微笑んだ。
「まあ、いろいろ引き留められたりはすると思うが、俺には切り札があるからな」
「え、切り札?」
「うん。俺、昨日のうちにシュクラ様の洗礼を受けてきたんだ」
「えっ……」
「この地に留まる意思ありということを約束してきた。土地神シュクラ様に。だからいざとなったらシュクラ様の信徒になったからと言えば、上司も文句は言えないさ」
確かに、現存神といって生身のある神様だけれど、土地神は立派な神の一柱だ。その神が許したとあれば上司だって神の意思に背くことはできないと、反対はしないだろう。
「それでも渋るようなら、こう言う予定だ。『シュクラ様の愛し子に手を出してしまいましたから』って」
「ちょっ……、それって」
「責任とれとシュクラ様に言われてるって言えば、上司だって了承する」
「……シュクラ様は納得してんの、それ?」
「してるさ。こうこうこう言ってもいいですかと聞いたら何てお答えがあったと思う? 『良きにはからえ♪』って」
「あの人はホントにもう……」
シュクラにとってエミリオは、愛し子のスイが万一魔力枯渇に陥ったときの保険らしいから、最初からスイとエミリオとの仲に対しては「良きにはからえ♪」だった。
そこに最近信徒に加わったとなれば、そりゃあもう全面的に「良きにはからえ♪」だろう。土地神というのは自分の治める土地に人が増えるのをとても喜ぶからだ。
「……ちょっとは溜飲下がった?」
「うん……」
「すぐに帰るよ。なんなら毎日転移でこっちに戻ってきてもいい」
「そ、それは魔力の無駄遣い!」
「ははは。でもそれくらいの気持ちだってわかって、スイ」
「……わかった。待ってる」
「うん。……浮気するなよ?」
「エミさんこそ!」
小突き合ってから二人して吹き出して笑い合うと、ぬるま湯とはいえそろそろ逆上せそうな感じだったので上がることにした。
身体と髪を乾かして服に着替える。エミリオのローブはまたおしゃれ着洗い用の洗濯洗剤と柔軟剤で洗って綺麗にアイロンをかけておいたので、だらしなくないびしっとした魔術師スタイルがちゃんと完成した。男のエミリオのローブから柔軟剤のフローラルブーケの香りがするのはなんとも可笑しいけれども。
スイはスイで、いつものカジュアル的な服装に着替えてから、王都の開門の時間までまだ間があるので、簡単にエミリオと朝食をとってゆっくりと過ごした。
やがて開門時間になると、エミリオを外まで見送る。どちらからともなく抱き合ってから、軽いキスで唇をはむはむしてからふと離れ、
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
とお互いに手を振った。
エミリオはスイから離れて玄関先にあるシュクラ神殿の敷地内に出ると、スイにはよくわからない魔法文言を詠唱する。バチバチとエミリオの足元に光り輝く魔法陣が現れ、彼はスイに手を大きく振ると、次の瞬間に魔法陣もろともブインと消えてしまった。
濃厚な一週間を過ごしたエミリオはこうして王都へ戻っていった。しばし、エミリオの消えた何もない空間を眺めていたスイは、一つため息を……つくところを思い直して、スーハ―スーハ―と深呼吸をしてから家の中に戻る。
――ため息は幸せが逃げるとかいうジンクスがあったっけ。本当かどうかわかんないけども。
そう思いながら、朝食の後片付けを始める。汚れた皿を洗ってからテーブルを拭き、笛吹ケトルでお湯を沸かしなおしてから、改めてコーヒーでも飲もうと戸棚からカップを取り出そうとした。
不意にカップと一緒に白い手のひら大の紙袋が落ちてきそうになったのを慌てて受け止めると、よく見たら、シャガ中町の薬局の薬袋であった。中身はそう、避妊薬だ。
中に入っている説明書を改めて見直すと、事後二日以内に空腹時を避けて服用と書いてある。
そうだ、これをあとで飲まないとと思っていたんだっけ。
トイレに置いた卓上カレンダーに、他人にはわからないように記した月経周期的には、決して安全じゃない期間にあたっていた。そんなときに、エミリオとは魔力交換に必要とはいえ「生」で「膣内射精」だ。しかも一晩中、そして朝も風呂場で。
思い出すと急に寂しくなって、ぽろぽろと涙がこぼれる。
何で泣く必要があるんだとか、エミリオはすぐに戻ると言ってたじゃないかとか、いろいろ自分で自分に言い聞かせるものの、いったん堰を切った涙はあとからあとから流れてくる。
バカだなあ。ほんと、バカだなあ、あたし。
泣かなくてもいいのに。
「うっ……、ふぅっ……、はあ……」
声を押し殺して涙がおさまるまでひとしきり泣いた。泣き止むころには笛吹ケトルはヒューという音を立てて湯が沸いたことを知らせてきた。
湯を笛吹ケトルから保温ポットに入れなおして、コーヒーを落とし、カップに注ごうと思ったときに、再び薬袋を目にしてしまった。
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