スイさんの恋人~本番ありの割りきった関係は無理と言ったら恋人になろうと言われました~

樹 史桜(いつき・ふみお)

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本編

17 助兵衛でなければこの世は栄えないといいます ※R18注意

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 その非常に整った、男にしては美しすぎるその顔がどんどん近づいてくる。
 某宇宙戦争映画のオープニングで流れてくる文字のようだと思いながら、ああやっぱり綺麗な顔だなあイケメンだなあなどと感想を述べて見とれている場合ではなくて。

 あと数センチで唇が触れるといった距離でようやく我に返ったスイは、自分とエミリオの唇の間数センチの部分に右手を差し込んでキスを未然に防いだ。すぐに手のひらと指にエミリオの少し薄めの唇が当たる。

「ぶっ……」
「ダメ。させてやんない」
「スイ……」
「……って、ちょ、エミさん!」

 スイの手首をそっと取ってそのまま口に当たった指をチロチロと舐め始めるエミリオ。そのまま口に含んで口の中でスイの指をしゃぶったり、ネイル用に少し長い爪と皮膚の間に舌を這わせたり。そして口を離すと今度はスイの指の股に舌を這わせてきた。

 意外にも指の股、退化した水かきのような皮膚の薄い部分は、人間の性感帯の一つである。ぬらぬらと熱を持った分厚い男の舌がそこを這う感覚に、スイの背筋がぞくぞくと毛羽立つ。

「んっ……」
「は……スイ、ん、ちゅ、はぁ……」

 スイの手をべろりべろりと舐めしゃぶりながら、息を荒げてこちらに流し目を送るエミリオは確実に発情していた。

 ――なんでだよ。さっき二秒くらいで爆睡してたじゃないか。何だ、何がそんなにアナタのスイッチを押したっていうんだこのやろう。

 さっきおかしなことを言ってなかったか。俺を呼びながらとかなんとか……。それで今度は俺が手伝うとか、何だ一体。

 ――呼んだって何だ。まさか風呂でエミさんをおかずにオナってた声が聞こえたっての? え、嘘だ嘘だ。風呂とエミさんの部屋結構離れてるし、脱衣所の扉だって挟んでるってのに。

「のわっ!」

 指を舐めていたエミリオが、混乱しきりのスイの腰を引き寄せてきた。思わずのけ反ってからつんのめってエミリオの胸に押し付けられてしまう。全然色っぽくない声が出た。
 バスタオルの上から腰をさわさわと撫で始めるエミリオの手に、そういえば今バスタオル一枚で下着もつけてない状態だということを思い出す。

 そして下腹の部分をぐいぐい押し付けてくる何奴かの存在の大きさ。

「な、なんで興奮してんのよぉ~!」
「しょうが、ないだろ……、スイが、あんな、声で……俺のこと……」
「う、嘘、なんで、そんなの聞こえるわけない」
「自分の魔力が部屋中に漂っているのがわからないのか。この家全体、スイの魔力に満ちていて、その流れを読もうと思えば、魔力に乗ってスイの声も聞こえてくるんだ」
「なっ、よ、読まないでよ、聞かないでよそんなの!」
「駄々洩れだ。スイは少し自分の魔力の制御を覚えたほうがいい。あんな声、ほかの男が聞いたら……!」
「ちょっ……! や、あ、バカバカ、そんなとこダメ、ダメ……!」

 腰を撫でまわしていたエミリオの手がずりずりと下降して、バスタオルの裾をたくし上げて後ろから太ももの間に侵入してきた。彼の手首を咄嗟に掴んだけれど、満身創痍とはいえ男の力に女が敵うわけもなく。

「あっ、ひっ……!」

 襞の割れ目にそっと触れられた瞬間に、ゾクゾクと背筋にゾウリムシでも這ったような感覚になって思わずのけ反るスイ。
 その反応に気を良くして、エミリオは口元に笑みを浮かべながら、スイのむき出しの肩口に顔を埋めた。じわりと浮いてきた玉の汗をエミリオはぺろりと舐め、そのまま彼女の首筋まで唇と舌で愛撫していく。フローラルの香りのボディーソープの残り香と、彼女自身の汗の匂いが混ざって、エミリオの中の雄を酩酊させていく。

「この……、むっつりスケベめぇ……!」
「なんとでも」
「人畜無害な顔してすっかり騙されたぁ! エミさんのバカ、ドスケベ、変態、あと、無駄に巨根……!」
「それは、悪口、なのかな?」

 スイの手を握っていた手を離してやり、バスタオルの上から彼女の胸の膨らみに触れてふにふにと揉み始めた。

「はあ……柔らかい。スイのは結構大きいな……」
「ん、は、……って、『スイのは』って、誰と比べた今ぁ……!」
「誰とも比べたりしてないよ、一般論だ。……ヤキモチ?」
「アホかー! ドスケベ、ドスケベ、ドスケベ!」
「酷い言われようだなあ……」

 ムニュムニュと乳房の形を変えるように揉みしだいて、徐々に固くなって立ち上がってきた乳首を見つけてバスタオルの上からぐりぐりと押したりして刺激してくる。

 ――こんにゃろ、風呂での仕返しかドスケベ魔術師めぇ~!(もう語彙がない)

 その間に尻側から太ももの間に侵入した手がさらに奥をまさぐり、とうとう主張を始めたクリトリスにたどり着いた。
 やばい、そこ弱いのに。

「あぁんっ! そこダメ、ばかぁっ……!」

 スイは思わずエミリオの首に腕を回してぎゅうと抱き着いてしまった。胸を這いまわっていたほうの手がスイの背中にまわって肩甲骨のあたりを宥めるように撫でる。

 ――優しくすんな、ばかぁ。

 エミリオの手つきにことごとく翻弄されて悔しくて、じわりと悔し涙が浮かんでくるのを止められない。
 スイがせっかく深入りしないようにとバリアを張っているというのに、エミリオはいとも簡単にそれを乗り越えてくる。
 これが魔力回復のためにスイを利用しているだけなのか、それともただの性欲で行動しているのか、スイに少なからず愛しい気持ちがあるのか、さっぱりわからなくて混乱する。
 何でこんなことするの、こんなことされたら。

「あ……!」

 ――勘違い、してしまう。

 湯上りで湿った感じではなくて、本当に愛液を滴らせ始めたスイの秘部から、ピチャピチャと淫猥な水音がし始めた。それを合図にずぶり、という擬音がふさわしいかのように、エミリオの節くれだった太くて長い指が膣穴に侵入してきて、スイは思わずビクリと震えた。

「……痛くないか」
「……痛いっていったら、やめてくれんの?」
「それは、まあ……やぶさかではないけれど。……まあやめないかもな」
「どっちなんだよ……あ、あ、ん、くぅ……!」
「痛いわけじゃなさそうだな」
「あ、あぁあっ!」

 ぢゅく、ぢゅく、と淫猥な水音したたる出し入れを繰り返されて、中をわざと擦るように指を動かしてくるものだから、スイはエミリオの首にしがみつきながら唇をかみしめてその襲い来る快楽に必死で耐えた。

「指、増やすぞ」
「まじか……ぁ、あぅっ……!」

 二倍になった質量に、先ほどの自分の指三本より強い圧迫感があって、より一層ぞくぞくと背筋にゾウリムシが這う。
 先ほどよりゆっくり出し入れしているのが気になる。何かを……何かを探しているように。
 そのうち腹側の膣壁にエミリオの爪の先がくりっと引っかかったときに、スイは脳天を突き抜けるような快感にびくびくと震え始めた。

「ひ、あぁんっ!」
「……ああ、見つけた」

 嬉しそうに言うな、バカ。
 見つけた、といった場所を念入りに愛液をまぶして指の爪側で緩急をつけながら擦り始めるエミリオの指に、スイはふり絞るような声を出してひっきりなしに喘いだ。

「……気持ちいい? スイ……」
『翡翠、気持ちいい?』

 エミリオの声に別の声がスイの脳内で重なる。エミリオより少し高めの男の声。

『お前、ここ、ほんと弱いよなあ……』

 まだ身体の付き合いがあったころの、元恋人の悟の声が、リフレインするようにスイの脳内で木霊した。すっかり忘れていたあの声。
 何で今頃。何で今になってここで思い出すのか。
 セックスレスになって久しいうえに、ほかの女との現場を見てしまったスイであるから、あの男のこんな声とセリフなんて今になって思い出したくもなかったのに。
 悟なぞに比べたらエミリオは格段に上の存在だとスイは思う。そんな彼にこうして愛撫されているというのに、今頃になってお前がしゃしゃり出てくるなんて。

 ――ちくしょう。出てくるな、今頃。今エミさんといいとこなんだよ!

「………っ、(消え失せろ)悟っ……!」
「……!?」

 脳内で悟を罵倒したつもりが、声に出してしまったスイに、エミリオはフリーズし、思わずスイの締め付けの強くなった中から指をじゅぼっと出してしまった。

「ぁんっ……!」
「……ス、スイ」
「……?」

 ああくそ、もう少しでイケたのに悟の糞野郎のせいで、などと思いながら、自分で何を言い出したのかわかっていないスイの声を聴いて、身体をそっと離したエミリオが信じられないといった絶望した表情をさせている。

 動きが止まったエミリオが目をそらした瞬間、今まで翻弄させられた恨みとばかりに、スイは彼の「あまおう」Tシャツの下、ちょっとだけ突き出ていた二つのポッチを両手の人差し指と親指で正面からぎゅっとつまみ上げた。

「ん、ぐっ……あぁっ!」
「あ、あわわ、エミさん!」

 不意を突かれたエミリオはフローリングの床をつるりと滑って背後に倒れかけたのを、スイがあわてて手を離して彼の両腕を掴んだ。しかし彼の体重をスイごときが支えられるはずもなく、彼が尻もちをついたところに覆いかぶさるように倒れ込んでしまった。
 その瞬間に、スイのバスタオルがはらりとはだけたのにも、スイ本人は気づくはずもなく。
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