6 / 19
006 脱衣所における嫌悪と葛藤からのキスの快楽
しおりを挟む
目の前でするすると何の躊躇もなく脱いでいくキリアンという男を前にして、メルティーナは広い脱衣所の隅で所在なさげに立ち尽くすしかなかった。
――ちょっと。え? どうするの? 私も脱がないといけないのよね。だってお風呂に服着て入るわけにいかないもの。……いや、でもでも、一人ならまだしも、男の人とそんな……そんなの恥ずかしすぎる!
頭の中で大葛藤しているメルティーナをよそに、一枚、また一枚と脱いでいくキリアン。
その姿に、メルティーナは思わず両手で顔を覆いながら目を逸らすも、無意識に指の間からしっかりその姿を見てしまっていた。まあ彼が下半身までさらりと脱いだときにはさすがに目を逸らしたけれども。
キリアンは騎士のようにガッチムチに鍛えた大柄な体型ではないけれど、すらりとした長身に、筋肉以外余計な脂肪をそぎ落としたかのような鍛えられた身体付きをしている。
あの賞金首をのしたくらい腕っぷしは強かったキリアンであるから、ひょろっとした体型ではないのは何となくわかっていた。
それでも彼は武術のプロである騎士らに比べたらそこまで膨らんだ筋肉はしていない。
敵に真っ向から勝負を挑むスタンダードな戦闘タイプというより、軽業や諜報、奇襲などが得意な盗賊やアサシンタイプの身体付きに見えた。
そして左胸の上には棘の蔓に咲いた真っ赤な薔薇の刺青が彫られていて、キリアンの美しい見た目によく映えている。自分を飾るのに長けているのはやはり元・男娼というわけだろうか。
――まるで「ここが心臓だからよく狙え」とでも言わんばかりの不遜な自己主張をしているように見えるわ……。って、私は何を分析しているのかしら……!
そんな感想を頭の中で述べながら、気が付くと彼の見事な身体を指の間からしげしげと眺めていたことに気が付いて、メルティーナは真っ赤になりながら恥じた。
そして自分の未成熟な年齢で成長の止まった貧相な身体つきと比べてさらに落ち込む悪循環。
――きっと成熟して豊満な体型の美女が隣に立ち並ぶと、長身で華かやな見た目の彼にはよく似合うでしょうね。ちんちくりんの私はきっと妹か娘くらいにしか見えないし。
初対面時に彼が持ったメルティーナへの第一印象は、多分彼の本心だ。人間の気持ちなんてたった数時間で変わるわけがない。
今回こんな状況に陥ったのも、きっとメルティーナに対しての罪悪感とプロとしての意地みたいなものだろう。
そう思うとメルティーナは惨めな気持ちになってため息を禁じ得ない。
だが目の前で行われるなんとも悩ましい脱衣に意識するなというのが無理であった。
全身すっかり脱ぎ去って腰に浴布を巻いたキリアンがこっちを振り向いて、未だドレスのまま脱衣所の隅で顔を逸らして立ち尽くしているメルティーナを見て溜息を吐いた。
不意に目の前に影が落ちて思わず仰ぐと、腰に浴布一枚のキリアンが迫っていた。メルティーナは思わず後ずさるも、すぐに背後の壁に背が当たってしまった。
横にずれようとしたが、キリアンの腕がメルティーナの背後の壁に充てられて逃げ場を塞がれる。
「いつまでそうしてんの」
「……っ!」
これはいわゆる壁ドンとやらである。恋愛の萌えポイントだと、恋多き師匠が言っていたアレだ。
ヒールを履いていても小柄なメルティーナに対し長身のキリアンであるため、上から巨人に覗き込まれているようである。
しかも前を見ればキリアンの真っ赤な薔薇が咲いた裸の胸元が目の前数センチのところにあるわけで。
――きゃあああああ! 近い近い……! こんなの見ちゃいけないのに!
俯いてちらと下を見れば腰骨のあたりで結んだ浴布が見え、この一枚の下は全裸なのだと考えて慌てて目を逸らした。
そんな間近であられもない恰好の男性のパーツがあるなんて、一体どこに目をやったらいいのかわからず混乱して結局上を向いてキリアンを見返す他なかった。キリアンの細められた青い目と視線が合って思わず赤面する。
「あ、あの……私、やっぱり」
「先に風呂入るほうだって言ったのアンタでしょうが」
「そっ……それは、そうなんだけど! で、でも」
「ほら、いいからさっさと脱ぐ」
「きゃっ!」
キリアンの両手がメルティーナの背に回り、彼女の黒ドレスの背中のボタンをぷちぷちと外し始めた。
女性のドレスは複雑にできている。貴族令嬢の物とは違い豪華なものではないにしろ、メルティーナのこの黒ドレスだって、男性にとっては割と複雑な構造をしているというのに、キリアンは器用にそれを暴いていく。
――女性のドレスを脱がすことに慣れてるんだわ。あ、当たり前か……そういう職業なんだろうし。……って、そんなことに関心している場合じゃない!
「や、やめて!」
「服着たまま風呂入るのかアンタ」
「ちがっ……じ、自分で脱ぐから!」
「そんなこと言っていつまで経っても脱がないだろうが」
「いや、触らないで!」
「はあ? 男買う気満々で妓楼に来といて今更何言ってんだ」
メルティーナはキリアンの腕を振りほどこうともがいて暴れ出したが、最後のボタンを外されて、ドレスはパサリと足元に落ちた。下着のみのあられもない恰好にされてしまってさらに暴れる。見栄えのしない少女のような体型だとしても、男性に見られるのは恥ずかしくて嫌すぎる。
「いやあああっ!」
「おいおい、一人で妓楼にやってきたクソ度胸はどこに行ったんだ?」
「だって、だって、もうやだあああ」
「ガキかよ。いい加減覚悟決めろ! 魔力回復したいんだろうが」
「やだやだやだ、やめて、やめ……うっ」
「……っ、ほら見ろ! ふらふらなのに暴れるからだ!」
興奮して頭に血が上ったメルティーナは目が回って平衡感覚が崩れた。くらりとふらついて倒れこみそうになったところをキリアンが慌てて支える。
魔力がすでに底を付いている状態、それに伴う頭痛に目眩、そんな今にも気絶しそうなところを、わずかに残っている理性で意識を繋ぎとめていたのだ。
半開きの唇ではくはくと荒い息を吐いているメルティーナを見て、キリアンはぐぬぬとしばし悩んだのちに何かを決意する。
「……恨むなよ。これは人命救助みたいなもんだ」
「……え? あ、むっ……」
歪む視界の中、不意に降りてきたのはキリアンの唇であった。噛みつくように唇を奪われ、性急に歯列をこじ開けて分厚い舌がメルティーナの小さな口の中に侵入してきた。
「んっ……! あ、んむぅ……っ」
「ん、ちゅ、ふふ……ほら、同じように舌絡めてみな?」
「は、ん、ふうっ……ちゅ、はあっ……」
ちゅばちゅばと悩ましい音を立てながら激しく蹂躙してくるキリアンの舌技に、メルティーナは一瞬何事かと思ってパニックを起こしたものの、彼の激しく深いキスに翻弄されてどんどん彼の言いなりになっていく自分がいた。
――こんなの、嫌なのに。こんな同意のない行為、絶対嫌なのに……。
唇を奪われたなんて初めてだった。四十路を超えてこの見た目のせいで男性と接してこなかったのもあり、メルティーナは性行為どころかキスもしたことが無かったのだ。
最初こそ驚きと嫌悪感があったのだが、キリアンが攻めるように口内を蹂躙していくと、抵抗する腕に力が失くなっていく。
「嫌……嫌よ、こんなの、ずるい」
「ずるくねーの。はあ、ちゅ、ん、んん……」
「ん、あ、ふ、んんっ……、馬鹿にして、ひどい」
「別に馬鹿になんてしてないだろ、どんだけ被害妄想してんだ」
お互いの唾液を絡めるように舌同士でぬちゅぬちゅとしゃぶり合ううちに、メルティーナの身体の奥がぽわっと温かくなっていくのを感じた。それはとても心地よく、満たされていく感覚だ。
これは、空っぽだった魔力の器に、少しだけ魔力が戻ってきた感覚であった。
魔力は昂る快楽によって回復するのだ。魔力回復には疑似恋愛が一番の薬だと、メルティーナは師の言葉を思い出す。本来なら恋人や夫婦でするようなこの深いキスが、メルティーナに快楽を与えたらしい。
甘い、甘酸っぱい、苺味。先ほどのおいしい苺の味が残っているのかもしれないが、初めてのキスの味は苺味なんて、そういえば恋多き師がそんなことをふざけて言っていた気がする。話半分に聞いていたからよくわからないが。
――ああ。魔力が……あたたかい。気持ちいい……でも……。
あれほど欲した魔力がようやく少し回復してきたあまりの心地よさに、なんだか酩酊したような感覚を覚える。その快感がもっと欲しくて、でも相手がいけすかないキリアンだということで強烈な葛藤をしていた。
悔しいけれど、今のメルティーナを救えるのはこの男しかいないのだ。
悔し涙を流しながら彼の背に両腕を回した。そこしかしがみつくところが無かっただけだと自分に言い訳しながら。
「ん、ちゅ、……はあ、メルさん?」
「う、ぐすっ……」
「……あー、そんな、泣かなくても……そんな反応されたら流石に俺でも傷つくぜ? はは」
「私、だって、貴方なんかの前でっ……泣きたくなんて、なかった、し……ぐすっ」
悪態をつきながらしゃくりあげる姿は本当に少女のようだとキリアンは思う。中身が大人の女性であっても、身体は少女なせいで、感情が身体に引っ張られることもあるのかもしれない。
そもそも、彼女のキリアンに対するこの反応、嫌悪感を抱かせた原因は自分にあると、改めてキリアンは反省した。
だが、ここで別の店子に代わるというのも元プラチナナンバーワンの男娼として、プライドが許さないキリアンである。
――女一人満足させられねえなんて、何が元プラチナナンバーワンだ。俺はそこまで堕ちちゃいねえはずだぞ。
自分に対してこの嫌悪感丸出しのツンギレ美少女の攻略法を頭の中で瞬時に様々なパターンを考える。
そうしてまだべそっかき状態のメルティーナの腰を抱き寄せて背を撫ではじめる。
しばらくそうしていると、メルティーナの涙もだんだんおさまってきて、そこでキリアンは漸くホッとする。
だがそれもつかの間、またメルティーナの息が荒くなってきた。
「……っ、メルさん、大丈夫か? ……っ、ん、んぅっ!」
泣き腫らした目で悔しそうな顔をしながらも、メルティーナはキリアンの頬に両手を添えると、今度は自分から口づけてきた。
先ほどキリアンがやって見せたように、たどたどしくも小さな口を開けてちろちろと舌先をキリアンのそれと絡めてくる。
そんな姿に一瞬驚くものの、キリアンはそんな彼女に劣情を催した。ニヤリと笑いながらメルティーナの消極的な舌の動きに焦れを感じて、わざと大きな音を立たせながら深く深く口づけた。
「ふあっ……んんっ、あ、んぅうっ……」
「んちゅ、はあ、ん、ふう、ふふ、気持ちいい? 気に入ったみたいだな」
「ん……はあ、腹立つわ、そのどや顔」
「真っ赤な顔して悪態ついてんのもまたゾクゾク来るもんだな」
「……っ、ムカつく!」
「で、どう? 俺のキス気に入った?」
「な、なんでそんなこと……いちいち言わなくたってわかるでしょ」
「俺たち今日が初対面じゃん。長年連れ添った老夫婦じゃあるまいし、言わなきゃ伝わらねえだろ。あー、じゃあ、もうやめるか?」
「え……あっ……」
「メルさん、やめられたら困るんじゃねーの? だったら素直にならねえとさあ」
「~~~~っ! ……わ、わかったわよ」
悔し涙をにじませながら、それでも一度ギンッとキリアンを睨みつけたメルティーナだったが、色々と葛藤の末に弱弱しくも口を開いた。
「……もっと、し、して、欲しい……」
「ん~? 何をして欲しいんだ? 言ったろ、言わなきゃ伝わらないって」
「……っ! ……キ、キス……もっと、して、欲しい……」
「ん、ちゃんと言えたな。いいよ。メルさんの気のすむまで、な!」
「は、ん、んううっ!」
キリアンはしたり顔で笑うと、メルティーナに覆いかぶさるように再び噛みつくみたいな激しいキスをしてきた。
ジュプジュプと唾液を絡めた激しくていやらしい水音に、頭の中が沸騰しそうな羞恥心を覚えるも、だんだんと快楽を感じてメルティーナは彼に身を委ねる。
彼も腰に浴布だけの半裸、メルティーナもドレスを脱がされて下着だけの半裸、ほぼ素肌だけで抱き合っている状態で、触れ合った部分が熱を帯びてくるのを感じる。
恥ずかしいことこの上ないのに、二人を隔てる薄い布でさえもわずらわしくなってしまう。
「あ、んんっ……ちゅ、はあ、あんっ、うむぅっ……」
「はあ、メルさん気持ちいいか?」
「気持ちいい……」
「ん、そっか。もうちょいこれやったら、ちゃんと風呂入ろうな」
「ええ……」
先ほどまでの暴れが嘘のように、快楽に酩酊しもっともっととキリアンの舌を求めるメルティーナに、ようやく自分のターンが来たとばかりに、キリアンはニヤリと笑いを浮かべて、彼は再び彼女の唇と舌、口の中を蹂躙していった。
そして彼女がキリアンのキスに夢中になっているうちに、キリアンの手はメルティーナを覆う最後の砦となった下着のリボンを解いてしまった。あっという間に全裸にされてしまったメルティーナだが、本人さえいつの間にか下着も脱がされてしまったことに気づかないほどの早業であった。
――ちょっと。え? どうするの? 私も脱がないといけないのよね。だってお風呂に服着て入るわけにいかないもの。……いや、でもでも、一人ならまだしも、男の人とそんな……そんなの恥ずかしすぎる!
頭の中で大葛藤しているメルティーナをよそに、一枚、また一枚と脱いでいくキリアン。
その姿に、メルティーナは思わず両手で顔を覆いながら目を逸らすも、無意識に指の間からしっかりその姿を見てしまっていた。まあ彼が下半身までさらりと脱いだときにはさすがに目を逸らしたけれども。
キリアンは騎士のようにガッチムチに鍛えた大柄な体型ではないけれど、すらりとした長身に、筋肉以外余計な脂肪をそぎ落としたかのような鍛えられた身体付きをしている。
あの賞金首をのしたくらい腕っぷしは強かったキリアンであるから、ひょろっとした体型ではないのは何となくわかっていた。
それでも彼は武術のプロである騎士らに比べたらそこまで膨らんだ筋肉はしていない。
敵に真っ向から勝負を挑むスタンダードな戦闘タイプというより、軽業や諜報、奇襲などが得意な盗賊やアサシンタイプの身体付きに見えた。
そして左胸の上には棘の蔓に咲いた真っ赤な薔薇の刺青が彫られていて、キリアンの美しい見た目によく映えている。自分を飾るのに長けているのはやはり元・男娼というわけだろうか。
――まるで「ここが心臓だからよく狙え」とでも言わんばかりの不遜な自己主張をしているように見えるわ……。って、私は何を分析しているのかしら……!
そんな感想を頭の中で述べながら、気が付くと彼の見事な身体を指の間からしげしげと眺めていたことに気が付いて、メルティーナは真っ赤になりながら恥じた。
そして自分の未成熟な年齢で成長の止まった貧相な身体つきと比べてさらに落ち込む悪循環。
――きっと成熟して豊満な体型の美女が隣に立ち並ぶと、長身で華かやな見た目の彼にはよく似合うでしょうね。ちんちくりんの私はきっと妹か娘くらいにしか見えないし。
初対面時に彼が持ったメルティーナへの第一印象は、多分彼の本心だ。人間の気持ちなんてたった数時間で変わるわけがない。
今回こんな状況に陥ったのも、きっとメルティーナに対しての罪悪感とプロとしての意地みたいなものだろう。
そう思うとメルティーナは惨めな気持ちになってため息を禁じ得ない。
だが目の前で行われるなんとも悩ましい脱衣に意識するなというのが無理であった。
全身すっかり脱ぎ去って腰に浴布を巻いたキリアンがこっちを振り向いて、未だドレスのまま脱衣所の隅で顔を逸らして立ち尽くしているメルティーナを見て溜息を吐いた。
不意に目の前に影が落ちて思わず仰ぐと、腰に浴布一枚のキリアンが迫っていた。メルティーナは思わず後ずさるも、すぐに背後の壁に背が当たってしまった。
横にずれようとしたが、キリアンの腕がメルティーナの背後の壁に充てられて逃げ場を塞がれる。
「いつまでそうしてんの」
「……っ!」
これはいわゆる壁ドンとやらである。恋愛の萌えポイントだと、恋多き師匠が言っていたアレだ。
ヒールを履いていても小柄なメルティーナに対し長身のキリアンであるため、上から巨人に覗き込まれているようである。
しかも前を見ればキリアンの真っ赤な薔薇が咲いた裸の胸元が目の前数センチのところにあるわけで。
――きゃあああああ! 近い近い……! こんなの見ちゃいけないのに!
俯いてちらと下を見れば腰骨のあたりで結んだ浴布が見え、この一枚の下は全裸なのだと考えて慌てて目を逸らした。
そんな間近であられもない恰好の男性のパーツがあるなんて、一体どこに目をやったらいいのかわからず混乱して結局上を向いてキリアンを見返す他なかった。キリアンの細められた青い目と視線が合って思わず赤面する。
「あ、あの……私、やっぱり」
「先に風呂入るほうだって言ったのアンタでしょうが」
「そっ……それは、そうなんだけど! で、でも」
「ほら、いいからさっさと脱ぐ」
「きゃっ!」
キリアンの両手がメルティーナの背に回り、彼女の黒ドレスの背中のボタンをぷちぷちと外し始めた。
女性のドレスは複雑にできている。貴族令嬢の物とは違い豪華なものではないにしろ、メルティーナのこの黒ドレスだって、男性にとっては割と複雑な構造をしているというのに、キリアンは器用にそれを暴いていく。
――女性のドレスを脱がすことに慣れてるんだわ。あ、当たり前か……そういう職業なんだろうし。……って、そんなことに関心している場合じゃない!
「や、やめて!」
「服着たまま風呂入るのかアンタ」
「ちがっ……じ、自分で脱ぐから!」
「そんなこと言っていつまで経っても脱がないだろうが」
「いや、触らないで!」
「はあ? 男買う気満々で妓楼に来といて今更何言ってんだ」
メルティーナはキリアンの腕を振りほどこうともがいて暴れ出したが、最後のボタンを外されて、ドレスはパサリと足元に落ちた。下着のみのあられもない恰好にされてしまってさらに暴れる。見栄えのしない少女のような体型だとしても、男性に見られるのは恥ずかしくて嫌すぎる。
「いやあああっ!」
「おいおい、一人で妓楼にやってきたクソ度胸はどこに行ったんだ?」
「だって、だって、もうやだあああ」
「ガキかよ。いい加減覚悟決めろ! 魔力回復したいんだろうが」
「やだやだやだ、やめて、やめ……うっ」
「……っ、ほら見ろ! ふらふらなのに暴れるからだ!」
興奮して頭に血が上ったメルティーナは目が回って平衡感覚が崩れた。くらりとふらついて倒れこみそうになったところをキリアンが慌てて支える。
魔力がすでに底を付いている状態、それに伴う頭痛に目眩、そんな今にも気絶しそうなところを、わずかに残っている理性で意識を繋ぎとめていたのだ。
半開きの唇ではくはくと荒い息を吐いているメルティーナを見て、キリアンはぐぬぬとしばし悩んだのちに何かを決意する。
「……恨むなよ。これは人命救助みたいなもんだ」
「……え? あ、むっ……」
歪む視界の中、不意に降りてきたのはキリアンの唇であった。噛みつくように唇を奪われ、性急に歯列をこじ開けて分厚い舌がメルティーナの小さな口の中に侵入してきた。
「んっ……! あ、んむぅ……っ」
「ん、ちゅ、ふふ……ほら、同じように舌絡めてみな?」
「は、ん、ふうっ……ちゅ、はあっ……」
ちゅばちゅばと悩ましい音を立てながら激しく蹂躙してくるキリアンの舌技に、メルティーナは一瞬何事かと思ってパニックを起こしたものの、彼の激しく深いキスに翻弄されてどんどん彼の言いなりになっていく自分がいた。
――こんなの、嫌なのに。こんな同意のない行為、絶対嫌なのに……。
唇を奪われたなんて初めてだった。四十路を超えてこの見た目のせいで男性と接してこなかったのもあり、メルティーナは性行為どころかキスもしたことが無かったのだ。
最初こそ驚きと嫌悪感があったのだが、キリアンが攻めるように口内を蹂躙していくと、抵抗する腕に力が失くなっていく。
「嫌……嫌よ、こんなの、ずるい」
「ずるくねーの。はあ、ちゅ、ん、んん……」
「ん、あ、ふ、んんっ……、馬鹿にして、ひどい」
「別に馬鹿になんてしてないだろ、どんだけ被害妄想してんだ」
お互いの唾液を絡めるように舌同士でぬちゅぬちゅとしゃぶり合ううちに、メルティーナの身体の奥がぽわっと温かくなっていくのを感じた。それはとても心地よく、満たされていく感覚だ。
これは、空っぽだった魔力の器に、少しだけ魔力が戻ってきた感覚であった。
魔力は昂る快楽によって回復するのだ。魔力回復には疑似恋愛が一番の薬だと、メルティーナは師の言葉を思い出す。本来なら恋人や夫婦でするようなこの深いキスが、メルティーナに快楽を与えたらしい。
甘い、甘酸っぱい、苺味。先ほどのおいしい苺の味が残っているのかもしれないが、初めてのキスの味は苺味なんて、そういえば恋多き師がそんなことをふざけて言っていた気がする。話半分に聞いていたからよくわからないが。
――ああ。魔力が……あたたかい。気持ちいい……でも……。
あれほど欲した魔力がようやく少し回復してきたあまりの心地よさに、なんだか酩酊したような感覚を覚える。その快感がもっと欲しくて、でも相手がいけすかないキリアンだということで強烈な葛藤をしていた。
悔しいけれど、今のメルティーナを救えるのはこの男しかいないのだ。
悔し涙を流しながら彼の背に両腕を回した。そこしかしがみつくところが無かっただけだと自分に言い訳しながら。
「ん、ちゅ、……はあ、メルさん?」
「う、ぐすっ……」
「……あー、そんな、泣かなくても……そんな反応されたら流石に俺でも傷つくぜ? はは」
「私、だって、貴方なんかの前でっ……泣きたくなんて、なかった、し……ぐすっ」
悪態をつきながらしゃくりあげる姿は本当に少女のようだとキリアンは思う。中身が大人の女性であっても、身体は少女なせいで、感情が身体に引っ張られることもあるのかもしれない。
そもそも、彼女のキリアンに対するこの反応、嫌悪感を抱かせた原因は自分にあると、改めてキリアンは反省した。
だが、ここで別の店子に代わるというのも元プラチナナンバーワンの男娼として、プライドが許さないキリアンである。
――女一人満足させられねえなんて、何が元プラチナナンバーワンだ。俺はそこまで堕ちちゃいねえはずだぞ。
自分に対してこの嫌悪感丸出しのツンギレ美少女の攻略法を頭の中で瞬時に様々なパターンを考える。
そうしてまだべそっかき状態のメルティーナの腰を抱き寄せて背を撫ではじめる。
しばらくそうしていると、メルティーナの涙もだんだんおさまってきて、そこでキリアンは漸くホッとする。
だがそれもつかの間、またメルティーナの息が荒くなってきた。
「……っ、メルさん、大丈夫か? ……っ、ん、んぅっ!」
泣き腫らした目で悔しそうな顔をしながらも、メルティーナはキリアンの頬に両手を添えると、今度は自分から口づけてきた。
先ほどキリアンがやって見せたように、たどたどしくも小さな口を開けてちろちろと舌先をキリアンのそれと絡めてくる。
そんな姿に一瞬驚くものの、キリアンはそんな彼女に劣情を催した。ニヤリと笑いながらメルティーナの消極的な舌の動きに焦れを感じて、わざと大きな音を立たせながら深く深く口づけた。
「ふあっ……んんっ、あ、んぅうっ……」
「んちゅ、はあ、ん、ふう、ふふ、気持ちいい? 気に入ったみたいだな」
「ん……はあ、腹立つわ、そのどや顔」
「真っ赤な顔して悪態ついてんのもまたゾクゾク来るもんだな」
「……っ、ムカつく!」
「で、どう? 俺のキス気に入った?」
「な、なんでそんなこと……いちいち言わなくたってわかるでしょ」
「俺たち今日が初対面じゃん。長年連れ添った老夫婦じゃあるまいし、言わなきゃ伝わらねえだろ。あー、じゃあ、もうやめるか?」
「え……あっ……」
「メルさん、やめられたら困るんじゃねーの? だったら素直にならねえとさあ」
「~~~~っ! ……わ、わかったわよ」
悔し涙をにじませながら、それでも一度ギンッとキリアンを睨みつけたメルティーナだったが、色々と葛藤の末に弱弱しくも口を開いた。
「……もっと、し、して、欲しい……」
「ん~? 何をして欲しいんだ? 言ったろ、言わなきゃ伝わらないって」
「……っ! ……キ、キス……もっと、して、欲しい……」
「ん、ちゃんと言えたな。いいよ。メルさんの気のすむまで、な!」
「は、ん、んううっ!」
キリアンはしたり顔で笑うと、メルティーナに覆いかぶさるように再び噛みつくみたいな激しいキスをしてきた。
ジュプジュプと唾液を絡めた激しくていやらしい水音に、頭の中が沸騰しそうな羞恥心を覚えるも、だんだんと快楽を感じてメルティーナは彼に身を委ねる。
彼も腰に浴布だけの半裸、メルティーナもドレスを脱がされて下着だけの半裸、ほぼ素肌だけで抱き合っている状態で、触れ合った部分が熱を帯びてくるのを感じる。
恥ずかしいことこの上ないのに、二人を隔てる薄い布でさえもわずらわしくなってしまう。
「あ、んんっ……ちゅ、はあ、あんっ、うむぅっ……」
「はあ、メルさん気持ちいいか?」
「気持ちいい……」
「ん、そっか。もうちょいこれやったら、ちゃんと風呂入ろうな」
「ええ……」
先ほどまでの暴れが嘘のように、快楽に酩酊しもっともっととキリアンの舌を求めるメルティーナに、ようやく自分のターンが来たとばかりに、キリアンはニヤリと笑いを浮かべて、彼は再び彼女の唇と舌、口の中を蹂躙していった。
そして彼女がキリアンのキスに夢中になっているうちに、キリアンの手はメルティーナを覆う最後の砦となった下着のリボンを解いてしまった。あっという間に全裸にされてしまったメルティーナだが、本人さえいつの間にか下着も脱がされてしまったことに気づかないほどの早業であった。
61
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい
青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。
ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。
嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。
王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる