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1巻
1-3
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「……っ」
改めて言われると恥ずかしくなって、ロミは両腕で隠してしまった。
「隠すことないだろ。俺も同じだから」
ロミのその姿にクスクス笑いながら自らもシャツをぐいっと上に脱いでいく。
「おわぁ……」
極上の筋肉を有したとんでもなく美しい裸の肉体が目の前に現れて、ロミは思わず口元を覆って感嘆の声を上げてしまった。ジュリアンはそんなロミに妖艶に微笑みながら改めて覆いかぶさってきた。
改めて肌同士をくっつけて抱き合うのは心地良い。ジュリアンの体温が直に感じられる。少し汗をかいているせいか、その汗の匂いにロミの脳はくらくらとしてきた。
――気持ちいい……。これから男女のことをするんだろうか。……って、本当に? この私がついに男女のことをする時が来たのか?
そこに気付いて、それまでの酩酊したような気分から一気に目が冴えてきた。
「あの、ジュリアン、私実は、男女のことの経験がなくて……」
「……え?」
「ほ、ほら、私はローゼンブルグで男性とは無縁で生きてきたから、出会いもそうそうなかったし。キス、したのもさっきのが初めてだったので……」
「……マジか」
「ごめん」
「いや、謝らなくても。そ、そうなのか。ていうかロミは初めてが俺なんかでいいのか?」
――いいのか? と言われてもそのいい悪いの基準って何なんだろう?
でもこの極上の美貌と肉体を前にしてここでやっぱりやめまーす、というのは、何か勝ち負けでいうところの負けのような気がする。
「……お、おねがい、します……」
「ぷっ……はは、分かった分かった。じゃあその、なるべく優しくする」
ジュリアンはふわりとはにかんだ笑みを浮かべて、ロミに口づけを落としていった。
唾液の糸を引く舌と唇を離したジュリアンが、ロミの息も整わぬ間にも首筋に吸い付いてきた。チュッ、チュッと啄むように吸い付いて、ロミの白い肌に赤い花びらを散らしていく。
「あっ、んうっ……!」
「悪い、痛かったか?」
「いや、あの、何だか、くすぐったいだけ……」
「少しでも嫌だと感じたら俺を殴っていい。アンタに殴られたら俺はすぐに我に返れる」
「な、殴るなんて! そんなことしないよ。確かに私はローゼンブルグの山育ちだけど、野蛮人じゃないから」
「野蛮人……いやそこまで言ってないけど。まあいい、気分が良くないならすぐに言ってくれ」
ジュリアンの言葉に、ロミは一度自分の頬を両手でパチンと叩いてから元気良く返事をした。
「はい! よろしくお願いします!」
「いや、それ何の気合いなんだよ」
苦笑しながらジュリアンは、ふにゃりと笑って見せたロミの形の良い乳房を両側から掬い上げて、ふにふにと揉み始めた。しっとりと汗をかいた乳房はジュリアンの手の中で形を変える。
主張するような乳首にそっと舌を這わせ、先端から根元にかけて、舌先を尖らせながらぐりぐりと刺激していった。
「ん、んんっ」
「感度の良い胸だな。すっげえ可愛い」
徐々に官能を拾ってピンと立ち上がってくる乳首に気付いて、そのまま貪るようにそれを口に含み、じゅるりと吸い上げて、もう片方は指先で根元をぐりぐりと刺激する。
ロミは感じたこともない刺激に小刻みに震えながら息を荒らげた。
「あぁあ……っ、ジュリアン……」
ロミは自分の胸元にある見事な金髪に思わず手を触れてさわさわと撫でさする。
それにジュリアンの肩口がピクリと反応した。少し汗が浮かんでいるのが、間接照明のセピア色に照らされて綺麗でたまらない。
ジュリアンの身体は固い筋肉で覆われて、しっかり鍛えられていて美しかった。
ジュリアンに愛撫され沸き上がる官能を拾い、ロミは目を潤ませてとろんと蕩けたみたいな顔をしていたらしく、上目遣いにこちらを見たジュリアンと目が合う。ジュリアンは顔を上げて一瞬固まり、次の瞬間に身を乗り出して顔を近づけた。
「ははっ……なんて顔してんだ」
「え、あっ、んむぅっ」
ジュリアンはロミの蕩けたような顔に満足そうに微笑むと、彼女の半開きの口に深く貪るようなキスをしてきた。
――気持ちいい。もう何度キスしたのかわからないけれど、こんな淫らなキスを何度してもいいくらい気持ちいいと思うなんて、私はもしかして淫乱なのかな?
そんなロミをよそに、じゅるじゅると唾液を啜るみたいに淫らすぎるキスを施しながら、ジュリアンの手はロミの下腹部に伸びていく。
剣ダコのついた節くれだった指が、ロミの湿り気を帯び始めた女性器にたどり着くと、そのぬるついた感触にジュリアンは鼻にかかった笑いを漏らした。
「気持ちいいか?」
「え、えっと、うん」
「ここ、ぐっちゅぐちゅに濡れてる」
「い、言うな……!」
「ははは」
ロミは言われて初めて愛液で濡れていることに気付いた。失禁じゃないけれどめちゃくちゃ恥ずかしい。カアッと熱くなる顔面を覆ってしまうロミ。
「顔隠すなって」
「だ、だって」
「ふふ、まあいい」
ジュリアンは指を滑らせて、愛液を馴染ませるみたいに擦り始めた。ちゅくちゅくと淫らな水音とともに、ロミにくすぐったいような気持ちいいような、不可思議な感触を与えてくる。
「ひ、あっ、ああっ」
「初めてだもんな。しっかり慣らしておかないと辛いよな」
そう言って、今度は愛液にまみれた長い指を膣の中にくぷりと挿入する。自分でもろくにしたことがないロミは、突然の異物感と刺すような痛みにビクリと震えた。
「まずは一本」
と、ジュリアンの指が根元まで埋まった。それをゆるゆると動かすと、ロミは鼻にかかったような声で小さく「ん、ん」と喘ぎだした。
「あうっ……あぁっ、そ、そんな、ところに……」
「指、増やすぞ」
「あ、だ、ダメ、あ、あああっ!」
水音が大きくなってきたところでジュリアンの指がもう一本侵入し、先ほどより強い圧迫感と異物感、そして痛痒いような感覚を伝えてきて、ロミはその刺激にはあはあと息を荒らげた。
ロミの反応に気を良くしたジュリアンは、膣に挿入した指をバラバラに動かして内壁をぐりぐりと擦り始める。
「んひっ……! や、何、何、これ……っ」
自分でも触ったことのない場所を擦られて、そこに感覚があったのかと驚くとともに、とんでもない刺激にロミはあられもない悲鳴じみた声を上げた。
「あぅっ、ん、あぁーっ!」
「ははっ! 腹側のこの部分、内側から擦られるとたまらないだろ?」
「ひっ、ああっ! ジュリアン、それやめ、何か、いや、何か来るぅっ……!」
「絶頂だ。素直にイッとけ。ほら、ほらイけ、イけよ!」
「いや、あ、あ、あぁああああっ……!」
ロミは顔を真っ赤にして、ぞくぞくと背筋を駆け上る快感にか細い悲鳴をあげながらビクビクと震えた。
――何だこれ。身体に力が入らない。それでいて張り詰めていたものが弾けて開放感が……
目の前に星が散ったみたいなチカチカとしたものを感じながら、ロミは酒を飲んだ時のような酩酊感を味わって、涙目でジュリアンをとろんと見つめた。
「だぁから、そんな目で見るなよ。エロすぎて勃っちまうだろ」
「たつ……? 一体何が」
「ナニがだよ」
言われてそちらを見ると、覆いかぶさっているジュリアンの股の間からそそり立つアレが見える。まるで蛇が鎌首をもたげたかのような、太くて長い雄の象徴。
――何、ナニ……ナニいいいいいい!
目が慣れたとはいえ部屋は薄暗いので詳しくはわからないけれど、ジュリアンの肌の色より赤黒くてビキビキと血管の浮いた、禍々しいものにも見えた。
絶頂の余韻から間もないくせに、初めて見る勃起した男性器を、ロミは息を飲んでまじまじと観察する。
内臓の色にも似た禍々しい突起物は、ロミの身体にはない代物で、血管が浮き出て先から唾液のような物を吐き出しているところを見ると、それはもう別の生き物に見えてしまう。
「ま、魔物……?」
「誰が魔物だ」
「えっと、じゃあ……武器?」
「……まあ、ある意味そうかもな。ってかすっげえ見るよな」
「は、初めて見たもので。こ、これをどうしたら……?」
「ん?」
「今言うのも何だけど私、閨の作法は殿方に任せなさいとしか言われてなくて」
「作法って……ロミは結構な箱入りお嬢なんだな」
「そ、そんなことはないけれど」
「まあいいか。……眺めてるだけじゃなくて、触ってみるか?」
「え……う、うん」
――それが作法だと言うのならジュリアンに従うのがいいだろう。
恐る恐るといった様子でジュリアンのそこに手を伸ばす。内臓のようなそれに直接触ってもいいものか迷ったが、躊躇しているロミの手をジュリアンが掴んで握らせた。
通常の体温よりかなり熱い。付け根部分は金色の体毛に覆われているが、そこから伸びた部分はすべすべとした皮膚で、血管がどくどくと波打っているようだった。先端からたらりと零れ落ちた生ぬるく透明な液体で手が少し濡れてしまう。
「あ、熱い……ジュリアン、熱でもあるのか」
「勃起してるからそういうもんなんだ。……あっ、んん……」
「ご、ごめん。どこか痛いとか」
「違う、そんなおどおど触らないでしっかり握ってくれないか」
「ど、どうやって」
「こう」
ロミの手の上からむぎゅっと力を入れて握らせる。本当に羽で触れる程度しか触っていなかったらしく、思った以上の強さで握らされて、ロミはギョッとしてジュリアンを見上げる。
ジュリアンは額に汗をかきつつ頬を紅潮させて妖艶に微笑んでいる。痛いわけではないらしく、快感に喘ぐその魔的な美しさと言ったら。完全に魅了さたロミの心臓がドクンとひと際波打った。
「ロミ、そのまま……上下に、扱いて……」
「うん、こう、かな……」
手を濡らす液体を擦りつけるように上下に手を動かす。擦るたびに熱を持って硬度を増していくようだった。
「その、くらいの、力で……手を動かして……あっ、は、そう、そう……」
「こう……これで、気持ちいい?」
「きもち、あぁっ……きもち、いい……!」
真っ赤な顔をして目を閉じ、荒い息を短く吐きながら、ジュリアンが喘ぎ始めた。絶世の美形男のあられもない喘ぎ顔、こっちまでおかしい気分になってしまう。
――私、変だ。こんな、こんないやらしいことをして……男性のこんなあられもない姿、決して見てはいけないものなのに。
しかしそう思っても目が離せない。今日は本当に背徳的なことばかりしている気がする。
「ああ……その、雁首の、あ、そこ、指で、ぐりぐりって……あっ、あぁっ」
雁首がどこかわからないけれど、言われた通りに爪を立てないように指先で雁首らしき部分の根本をくりくりと擦る。
ジュリアンは鼻にかかったように「ん、ん」と言葉にならない声を上げた。
「ん、あ、ああっ……ロミ、ああ、んぅ、はっ……それ、いい、気持ち、いい……!」
「ジュリアン……そんな顔して」
「ん、はあ……ロミ」
「ん? ……は、あむ……」
官能に浸かって感極まったらしいジュリアンに唇を塞がれた。片腕を回してロミを抱き寄せて頬に触れながら、最初から口を開けて無理矢理ロミの舌を求めて来るので、ロミの思考も手の動きも止まってしまった。
「ん、ちゅ、は、ん、んんっ、ああ、ロミ……」
「ん、ふぅっ……?」
「ロミ、ロミ、手、止めないで……っ、キスしたまま、してほしい」
「うん……っ」
「んあぁっ……! あむ、ん、んん……ちゅ、はあ、ロミ、ああいい……!」
ジュリアンの望むままに深く舌で交わりつつ、先走りでぐちゅりと濡れた音を響かせて雄茎を上下に扱いていく。上と下から淫らな水音が響いて耳から官能に支配されていく。
目の前のジュリアンが真っ赤な顔でロミの唇を貪っていて、鼻にかかった喘ぎを漏らしている。
――私の愛撫で気持ち良さげに喘いでいるなんて、こんなに官能を揺さぶるものがこの世にあったなんて知らなかった。
美しいだけでなく、なんて可愛らしいのか。胸の奥がきゅんきゅん締め付けられるみたいな感覚を覚えて、もっと気持ち良くさせてあげたくなるのはどうしてなんだろう。
少し強めに握った雄茎を扱くスピードを上げていくと、ジュリアンはビクビクと身体を震わせてついにロミとの舌の交わりを解いて仰け反る。
「あぁああっ! い、んああっ、イく、出る、出る、ロミ、ロミィっ!」
びくりと肩を震わせたジュリアンが大きく喘いで絶頂する。
勢いよく吹き出した精液がロミの手首までどろりと濡らした。
「ん……」
「んぅ……は、あ……」
肩で息をしたあと、何故か茫然とするロミの唇を奪うと、ジュリアンはちゅぱちゅぱと舌で交わりながら余韻にしばし浸る。一度軽くチュッとキスをしてようやく離れた。
「ははっ……」
「ジュリアン……」
「待ってろ、今……」
頬をバラ色に染めながらやや恥ずかし気にニカッと笑ったジュリアンは、むくりと起き上がってロミを隣に横たえた。そしてすぐにサイドボードに置いてあった布を取ってロミの手を拭い始めた。とても甲斐甲斐しくて何だか胸が温かくなる。
――この一連の行為。二人で愛撫し合って高め合うって、なんて背徳的で、恥ずかしくて、でも愛しい行為なんだろう。
「……知らなかった。これが閨のことだったんだね。すごく良かった」
「え?」
「え?」
「は?」
「は? ……って何?」
ジュリアンは目をぱちくりとさせて固まった。ロミの手を拭う動作もぴたりと止まって、信じられないと言った顔をしている。
――何か変なことを言っただろうか。それとも何か気に障ったのか。すごく良かったという気持ちは本当なのに。
ジュリアンは布を横に置いてからはああああと盛大なため息を吐いた。
「ロミ、これで終わりと思ってるんじゃないだろうな?」
「……え? 違うの?」
「……ローゼンブルグの性教育どうなってんだよ。普通十代半ばくらいでヤリ方くらい教えないのか?」
「とっ……とんでもない! 十代なんてまだ子供じゃないか。女神様が許さないよそんなこと」
「イーグルトンじゃ十代後半ぐらいになると覚えたての奴らが親に隠れて、ってことも多いけどな」
「な、なんて破廉恥な……!」
「破廉恥って、お前」
「ていうか、君もそうだったってこと?」
「俺はいたって普通の青少年だったからな」
ロミが信じられないといった顔をしたので、ジュリアンも信じられないという顔をしながら自国のことを教えてくれた。
イーグルトンでは貴族も平民もだいたい十代後半くらいで嫁いだり婚約したりするため、性教育はそれなりに早いうちに勉強させるらしい。
そんなこと、ローゼンブルグでは十代で得る知識じゃない。イーグルトンの青少年はなんて早熟なんだ。
お国柄の違いというのを実感した二人は一瞬沈黙した。
「……当然、今日はまだ始まったばかりだ。前戯だ、前戯」
「ぜんぎ……」
「あれだ。コース料理でいうところの」
「いうところの?」
「前菜」
「うそぉっ!」
閨のこととは、お互いを高め合って快感を得て、最終的に子供を得る行為。と、聞いている。それだけである。具体的なことは女子には教えてくれないのがローゼンブルグであった。
うちの教育係は何でそんな重要事項を「殿方におまかせ」と丸投げなんだとロミは頭を抱えた。
「……ジュリアン。私は無知すぎたみたいだ。今日は君の相手に相応しくないかもしれない」
「今更逃がさないけど?」
「ひ」
「ロミ、メインディッシュを食わせろ」
食わせろ、というのは言葉通りの意味ではなくて、ロミを性的に抱くという比喩表現だというのは何となく分かった。
「ど、どうやって」
「知らないならこれを機に俺が全部教えてやるから覚えろ。……これを」
ジュリアンは片手でロミの片足を抱え上げた。足を開いたことで空気に触れて、そこにひんやりと濡れた感覚を覚えたロミ。
先にジュリアンの指で絶頂を迎えて潤っていたロミのそこは、さらに彼の痴態を見たせいで零れ落ちるくらいに愛液を垂れ流していた。
彼はそこに先ほどロミが握って愛撫していた、いまだ雄々しく立ち上がっている雄茎の先をぴたりとあわせてきた。
「……さっきお前が握ってたこれを、お前がさっき指入れられてよがってたここに、挿れる」
まるで聞き分けのない子供をあやすように、ゆっくりとした口調でそう説明するジュリアン。
――コレを。ココに挿れる。え? 結構な太さと長さのコレを? 私のそんなところに。挿れる? 何を言ってるんだろう。そんなことしたら。
ロミは引きつりながらへらへら笑って首を横に振る。
「む、無理、無理。入らないよそんな大きい物は」
「褒めてくれるのか。大丈夫だ」
「だ、だいじょばないだいじょばない!」
慌てすぎて変な言葉になっているロミ。
そんなロミとは逆に落ち着いた様子で亀頭からの先走りを混ぜ合わせるみたいにぐりぐりと動かすジュリアン。くちゅくちゅと淫らな音が響いてきた。
「や、あ、む、無理だよ。裂けちゃう」
「裂けない」
あれが自分の身体に本当に入るのかと思うと先ほどまでの淫靡で悩ましいような感覚は消え去り、恐怖で顔がサーッと青ざめるのがわかる。両手で口元を押さえながらも、今しも結合しようとしている部分から、ロミは目が離せない。
心臓がバクバクと大音量を立てて波打っていて、まるで部屋中に響いているような幻聴が聞こえる。
「挿れるぞ」
ジュリアンの声とともにぴたりと定められた場所に、亀頭がグプリと沈んでいく。指などよりもっと質量のある物体がそこに侵入してきた。その際ロミの痛覚が身に覚えのない強烈な痛みを彼女に伝えた。
「痛っ……! い、痛いよ、ねえジュリアン、お、ねがい、やめて、痛いよ、痛いっ! おねがい抜いてぇ……! ジュリアン……!」
「……悪い」
入口を強引にこじ開けられて引き攣れる痛み、その圧迫感、膣壁をぐりぐりと擦り上げていく刺激、それと同時にめりめりと生体的な何かを裂いていくようなグロテスクな激痛がしてくる。
それから間もなく身体の奥に衝撃があり、ひと際大きな痛みが一瞬ガツンと脳内に響いてきた。
「いっ……あ、ああああああああっ!」
今まで訓練でもそんなところに痛みを感じたことなんてない。月経痛とも違うもっと物理的に傷つけられたような痛み。このまま串刺しにされて全身を貫いて左右に引き裂くのではと思わせる。
どうせなら失神してしまえたらいいのに、痛みが逆に覚醒を促して意識をはっきりさせてきた。
灼熱の痛みが襲い、寒くもないのにがちがちと歯が震えて鳴る。
「うっ……ぐすっ、は、あ、ああ……っ」
ロミは放心して虚ろになったその緑の双眸から生理的な涙をぼろぼろとこぼした。意図せず流れた涙を頬に感じて、だんだん惨めになって子供みたいに泣き出してしまい、どうにも止められなかった。
これを武器かと聞いてある意味そうかも、と言ったジュリアンの言葉の意味が良く分かった。
痛い。怖い。このまま身体を裂かれて死んでしまうんじゃないか。
子供のようにしゃくりあげてすすり泣くロミに、ジュリアンは覆いかぶさってギュッと彼女を抱きしめて来た。
「……痛いよな。ごめんな」
「うっ、ひっく、ひどいよ、ジュリアン」
「ん、悪かった。しばらくこうしていよう」
――抜いてはくれないんだ。
だが確かに、身じろぎひとつでまたあの激痛が襲ってきそうで怖くてたまらない。
ロミは縋りつくようにジュリアンに腕を絡めた。
「ジュリアン、どうしよう。怖い、怖いんだ」
「ああ、大丈夫だ。少しキスしていよう。力を抜いて、身を委ねてくれ」
「うん……」
ロミが慣れるまで繋がったまましばらく抱き合いながら触れるだけのキスをして落ち着かせようとしてくれていた。涙で濡れた瞼、頬、そして唇にふわふわとしたキスが下りて来る。
ジュリアンの裸の身体に抱きしめられながら優しくキスをされると、先ほどまでの未知なる行為に対する恐怖と痛みがだんだんと和らいできた。
「ふ、んぅ……」
「気持ちいい? ロミ」
「うん、うん……ああ、ジュリアン、これ、もっと」
「ああ、たくさんしような」
やがてそれが再び深く舌で交わるようになってくると、ロミが自分でも気付かないうちにジュリアンをキュッと締め付けていたようで、ジュリアンのほうが先に我慢の限界を迎えてぐいっと上半身起き上がる。
「クソッ……きっつ……。ロミ……そろそろ動くぞ」
「え、待って、待って、怖いよ」
今この状態で動いたらまたあの激痛が襲ってきそうで、とてつもなく怖い。騎士として身体の痛みには慣れたつもりだったけど、そういう痛みとは別次元の痛みだったので、まだ若いロミには恐ろしくてたまらなかった。
「い、痛くしないで……お願いだから」
また滲んできた涙目で切なげに訴えると、ジュリアンは一瞬ビシッと固まった。そのうち眉根を寄せているのに頬を染めた笑顔になって、まるで快感に打ち震えたような顔をした。
「ああ……ゆっくり、するから……優しくする。んっ……」
「あ、あ、あああっ……!」
ジュリアンはロミの腰を持ってゆるゆると腰を前後に動かし始めた。
「んっ……くぅっ」
先程よりはましだがまだビリビリする。唇を噛みしめて耐えるロミの表情を見て、ジュリアンは一旦動きを止めた。
「ロミ、唇が切れてしまう。噛みしめたらダメだ。キスしながらしよう」
「ん、うん……あ、んっ」
「鼻で呼吸して、そう、そう……ん、いい子だ」
ちゅ、ちゅ、と優しくキスを繰り返し、そのうちお互いに求めあって舌を絡める。しばらくそうしているうちに、ジュリアンが再びゆっくりと腰を動かしてきた。
痛みを覚悟して目をギュッと瞑ったロミだったが、ロミの懇願をジュリアンが聞いてくれたおかげなのか、ひりつく痛みも止んできて苦しくはなくなってきていた。
その間もずっとロミの手を握りながら「大丈夫、大丈夫」と繰り返すジュリアンの優し気な声にだんだんと心も委ね始めた自分がいた。
改めて言われると恥ずかしくなって、ロミは両腕で隠してしまった。
「隠すことないだろ。俺も同じだから」
ロミのその姿にクスクス笑いながら自らもシャツをぐいっと上に脱いでいく。
「おわぁ……」
極上の筋肉を有したとんでもなく美しい裸の肉体が目の前に現れて、ロミは思わず口元を覆って感嘆の声を上げてしまった。ジュリアンはそんなロミに妖艶に微笑みながら改めて覆いかぶさってきた。
改めて肌同士をくっつけて抱き合うのは心地良い。ジュリアンの体温が直に感じられる。少し汗をかいているせいか、その汗の匂いにロミの脳はくらくらとしてきた。
――気持ちいい……。これから男女のことをするんだろうか。……って、本当に? この私がついに男女のことをする時が来たのか?
そこに気付いて、それまでの酩酊したような気分から一気に目が冴えてきた。
「あの、ジュリアン、私実は、男女のことの経験がなくて……」
「……え?」
「ほ、ほら、私はローゼンブルグで男性とは無縁で生きてきたから、出会いもそうそうなかったし。キス、したのもさっきのが初めてだったので……」
「……マジか」
「ごめん」
「いや、謝らなくても。そ、そうなのか。ていうかロミは初めてが俺なんかでいいのか?」
――いいのか? と言われてもそのいい悪いの基準って何なんだろう?
でもこの極上の美貌と肉体を前にしてここでやっぱりやめまーす、というのは、何か勝ち負けでいうところの負けのような気がする。
「……お、おねがい、します……」
「ぷっ……はは、分かった分かった。じゃあその、なるべく優しくする」
ジュリアンはふわりとはにかんだ笑みを浮かべて、ロミに口づけを落としていった。
唾液の糸を引く舌と唇を離したジュリアンが、ロミの息も整わぬ間にも首筋に吸い付いてきた。チュッ、チュッと啄むように吸い付いて、ロミの白い肌に赤い花びらを散らしていく。
「あっ、んうっ……!」
「悪い、痛かったか?」
「いや、あの、何だか、くすぐったいだけ……」
「少しでも嫌だと感じたら俺を殴っていい。アンタに殴られたら俺はすぐに我に返れる」
「な、殴るなんて! そんなことしないよ。確かに私はローゼンブルグの山育ちだけど、野蛮人じゃないから」
「野蛮人……いやそこまで言ってないけど。まあいい、気分が良くないならすぐに言ってくれ」
ジュリアンの言葉に、ロミは一度自分の頬を両手でパチンと叩いてから元気良く返事をした。
「はい! よろしくお願いします!」
「いや、それ何の気合いなんだよ」
苦笑しながらジュリアンは、ふにゃりと笑って見せたロミの形の良い乳房を両側から掬い上げて、ふにふにと揉み始めた。しっとりと汗をかいた乳房はジュリアンの手の中で形を変える。
主張するような乳首にそっと舌を這わせ、先端から根元にかけて、舌先を尖らせながらぐりぐりと刺激していった。
「ん、んんっ」
「感度の良い胸だな。すっげえ可愛い」
徐々に官能を拾ってピンと立ち上がってくる乳首に気付いて、そのまま貪るようにそれを口に含み、じゅるりと吸い上げて、もう片方は指先で根元をぐりぐりと刺激する。
ロミは感じたこともない刺激に小刻みに震えながら息を荒らげた。
「あぁあ……っ、ジュリアン……」
ロミは自分の胸元にある見事な金髪に思わず手を触れてさわさわと撫でさする。
それにジュリアンの肩口がピクリと反応した。少し汗が浮かんでいるのが、間接照明のセピア色に照らされて綺麗でたまらない。
ジュリアンの身体は固い筋肉で覆われて、しっかり鍛えられていて美しかった。
ジュリアンに愛撫され沸き上がる官能を拾い、ロミは目を潤ませてとろんと蕩けたみたいな顔をしていたらしく、上目遣いにこちらを見たジュリアンと目が合う。ジュリアンは顔を上げて一瞬固まり、次の瞬間に身を乗り出して顔を近づけた。
「ははっ……なんて顔してんだ」
「え、あっ、んむぅっ」
ジュリアンはロミの蕩けたような顔に満足そうに微笑むと、彼女の半開きの口に深く貪るようなキスをしてきた。
――気持ちいい。もう何度キスしたのかわからないけれど、こんな淫らなキスを何度してもいいくらい気持ちいいと思うなんて、私はもしかして淫乱なのかな?
そんなロミをよそに、じゅるじゅると唾液を啜るみたいに淫らすぎるキスを施しながら、ジュリアンの手はロミの下腹部に伸びていく。
剣ダコのついた節くれだった指が、ロミの湿り気を帯び始めた女性器にたどり着くと、そのぬるついた感触にジュリアンは鼻にかかった笑いを漏らした。
「気持ちいいか?」
「え、えっと、うん」
「ここ、ぐっちゅぐちゅに濡れてる」
「い、言うな……!」
「ははは」
ロミは言われて初めて愛液で濡れていることに気付いた。失禁じゃないけれどめちゃくちゃ恥ずかしい。カアッと熱くなる顔面を覆ってしまうロミ。
「顔隠すなって」
「だ、だって」
「ふふ、まあいい」
ジュリアンは指を滑らせて、愛液を馴染ませるみたいに擦り始めた。ちゅくちゅくと淫らな水音とともに、ロミにくすぐったいような気持ちいいような、不可思議な感触を与えてくる。
「ひ、あっ、ああっ」
「初めてだもんな。しっかり慣らしておかないと辛いよな」
そう言って、今度は愛液にまみれた長い指を膣の中にくぷりと挿入する。自分でもろくにしたことがないロミは、突然の異物感と刺すような痛みにビクリと震えた。
「まずは一本」
と、ジュリアンの指が根元まで埋まった。それをゆるゆると動かすと、ロミは鼻にかかったような声で小さく「ん、ん」と喘ぎだした。
「あうっ……あぁっ、そ、そんな、ところに……」
「指、増やすぞ」
「あ、だ、ダメ、あ、あああっ!」
水音が大きくなってきたところでジュリアンの指がもう一本侵入し、先ほどより強い圧迫感と異物感、そして痛痒いような感覚を伝えてきて、ロミはその刺激にはあはあと息を荒らげた。
ロミの反応に気を良くしたジュリアンは、膣に挿入した指をバラバラに動かして内壁をぐりぐりと擦り始める。
「んひっ……! や、何、何、これ……っ」
自分でも触ったことのない場所を擦られて、そこに感覚があったのかと驚くとともに、とんでもない刺激にロミはあられもない悲鳴じみた声を上げた。
「あぅっ、ん、あぁーっ!」
「ははっ! 腹側のこの部分、内側から擦られるとたまらないだろ?」
「ひっ、ああっ! ジュリアン、それやめ、何か、いや、何か来るぅっ……!」
「絶頂だ。素直にイッとけ。ほら、ほらイけ、イけよ!」
「いや、あ、あ、あぁああああっ……!」
ロミは顔を真っ赤にして、ぞくぞくと背筋を駆け上る快感にか細い悲鳴をあげながらビクビクと震えた。
――何だこれ。身体に力が入らない。それでいて張り詰めていたものが弾けて開放感が……
目の前に星が散ったみたいなチカチカとしたものを感じながら、ロミは酒を飲んだ時のような酩酊感を味わって、涙目でジュリアンをとろんと見つめた。
「だぁから、そんな目で見るなよ。エロすぎて勃っちまうだろ」
「たつ……? 一体何が」
「ナニがだよ」
言われてそちらを見ると、覆いかぶさっているジュリアンの股の間からそそり立つアレが見える。まるで蛇が鎌首をもたげたかのような、太くて長い雄の象徴。
――何、ナニ……ナニいいいいいい!
目が慣れたとはいえ部屋は薄暗いので詳しくはわからないけれど、ジュリアンの肌の色より赤黒くてビキビキと血管の浮いた、禍々しいものにも見えた。
絶頂の余韻から間もないくせに、初めて見る勃起した男性器を、ロミは息を飲んでまじまじと観察する。
内臓の色にも似た禍々しい突起物は、ロミの身体にはない代物で、血管が浮き出て先から唾液のような物を吐き出しているところを見ると、それはもう別の生き物に見えてしまう。
「ま、魔物……?」
「誰が魔物だ」
「えっと、じゃあ……武器?」
「……まあ、ある意味そうかもな。ってかすっげえ見るよな」
「は、初めて見たもので。こ、これをどうしたら……?」
「ん?」
「今言うのも何だけど私、閨の作法は殿方に任せなさいとしか言われてなくて」
「作法って……ロミは結構な箱入りお嬢なんだな」
「そ、そんなことはないけれど」
「まあいいか。……眺めてるだけじゃなくて、触ってみるか?」
「え……う、うん」
――それが作法だと言うのならジュリアンに従うのがいいだろう。
恐る恐るといった様子でジュリアンのそこに手を伸ばす。内臓のようなそれに直接触ってもいいものか迷ったが、躊躇しているロミの手をジュリアンが掴んで握らせた。
通常の体温よりかなり熱い。付け根部分は金色の体毛に覆われているが、そこから伸びた部分はすべすべとした皮膚で、血管がどくどくと波打っているようだった。先端からたらりと零れ落ちた生ぬるく透明な液体で手が少し濡れてしまう。
「あ、熱い……ジュリアン、熱でもあるのか」
「勃起してるからそういうもんなんだ。……あっ、んん……」
「ご、ごめん。どこか痛いとか」
「違う、そんなおどおど触らないでしっかり握ってくれないか」
「ど、どうやって」
「こう」
ロミの手の上からむぎゅっと力を入れて握らせる。本当に羽で触れる程度しか触っていなかったらしく、思った以上の強さで握らされて、ロミはギョッとしてジュリアンを見上げる。
ジュリアンは額に汗をかきつつ頬を紅潮させて妖艶に微笑んでいる。痛いわけではないらしく、快感に喘ぐその魔的な美しさと言ったら。完全に魅了さたロミの心臓がドクンとひと際波打った。
「ロミ、そのまま……上下に、扱いて……」
「うん、こう、かな……」
手を濡らす液体を擦りつけるように上下に手を動かす。擦るたびに熱を持って硬度を増していくようだった。
「その、くらいの、力で……手を動かして……あっ、は、そう、そう……」
「こう……これで、気持ちいい?」
「きもち、あぁっ……きもち、いい……!」
真っ赤な顔をして目を閉じ、荒い息を短く吐きながら、ジュリアンが喘ぎ始めた。絶世の美形男のあられもない喘ぎ顔、こっちまでおかしい気分になってしまう。
――私、変だ。こんな、こんないやらしいことをして……男性のこんなあられもない姿、決して見てはいけないものなのに。
しかしそう思っても目が離せない。今日は本当に背徳的なことばかりしている気がする。
「ああ……その、雁首の、あ、そこ、指で、ぐりぐりって……あっ、あぁっ」
雁首がどこかわからないけれど、言われた通りに爪を立てないように指先で雁首らしき部分の根本をくりくりと擦る。
ジュリアンは鼻にかかったように「ん、ん」と言葉にならない声を上げた。
「ん、あ、ああっ……ロミ、ああ、んぅ、はっ……それ、いい、気持ち、いい……!」
「ジュリアン……そんな顔して」
「ん、はあ……ロミ」
「ん? ……は、あむ……」
官能に浸かって感極まったらしいジュリアンに唇を塞がれた。片腕を回してロミを抱き寄せて頬に触れながら、最初から口を開けて無理矢理ロミの舌を求めて来るので、ロミの思考も手の動きも止まってしまった。
「ん、ちゅ、は、ん、んんっ、ああ、ロミ……」
「ん、ふぅっ……?」
「ロミ、ロミ、手、止めないで……っ、キスしたまま、してほしい」
「うん……っ」
「んあぁっ……! あむ、ん、んん……ちゅ、はあ、ロミ、ああいい……!」
ジュリアンの望むままに深く舌で交わりつつ、先走りでぐちゅりと濡れた音を響かせて雄茎を上下に扱いていく。上と下から淫らな水音が響いて耳から官能に支配されていく。
目の前のジュリアンが真っ赤な顔でロミの唇を貪っていて、鼻にかかった喘ぎを漏らしている。
――私の愛撫で気持ち良さげに喘いでいるなんて、こんなに官能を揺さぶるものがこの世にあったなんて知らなかった。
美しいだけでなく、なんて可愛らしいのか。胸の奥がきゅんきゅん締め付けられるみたいな感覚を覚えて、もっと気持ち良くさせてあげたくなるのはどうしてなんだろう。
少し強めに握った雄茎を扱くスピードを上げていくと、ジュリアンはビクビクと身体を震わせてついにロミとの舌の交わりを解いて仰け反る。
「あぁああっ! い、んああっ、イく、出る、出る、ロミ、ロミィっ!」
びくりと肩を震わせたジュリアンが大きく喘いで絶頂する。
勢いよく吹き出した精液がロミの手首までどろりと濡らした。
「ん……」
「んぅ……は、あ……」
肩で息をしたあと、何故か茫然とするロミの唇を奪うと、ジュリアンはちゅぱちゅぱと舌で交わりながら余韻にしばし浸る。一度軽くチュッとキスをしてようやく離れた。
「ははっ……」
「ジュリアン……」
「待ってろ、今……」
頬をバラ色に染めながらやや恥ずかし気にニカッと笑ったジュリアンは、むくりと起き上がってロミを隣に横たえた。そしてすぐにサイドボードに置いてあった布を取ってロミの手を拭い始めた。とても甲斐甲斐しくて何だか胸が温かくなる。
――この一連の行為。二人で愛撫し合って高め合うって、なんて背徳的で、恥ずかしくて、でも愛しい行為なんだろう。
「……知らなかった。これが閨のことだったんだね。すごく良かった」
「え?」
「え?」
「は?」
「は? ……って何?」
ジュリアンは目をぱちくりとさせて固まった。ロミの手を拭う動作もぴたりと止まって、信じられないと言った顔をしている。
――何か変なことを言っただろうか。それとも何か気に障ったのか。すごく良かったという気持ちは本当なのに。
ジュリアンは布を横に置いてからはああああと盛大なため息を吐いた。
「ロミ、これで終わりと思ってるんじゃないだろうな?」
「……え? 違うの?」
「……ローゼンブルグの性教育どうなってんだよ。普通十代半ばくらいでヤリ方くらい教えないのか?」
「とっ……とんでもない! 十代なんてまだ子供じゃないか。女神様が許さないよそんなこと」
「イーグルトンじゃ十代後半ぐらいになると覚えたての奴らが親に隠れて、ってことも多いけどな」
「な、なんて破廉恥な……!」
「破廉恥って、お前」
「ていうか、君もそうだったってこと?」
「俺はいたって普通の青少年だったからな」
ロミが信じられないといった顔をしたので、ジュリアンも信じられないという顔をしながら自国のことを教えてくれた。
イーグルトンでは貴族も平民もだいたい十代後半くらいで嫁いだり婚約したりするため、性教育はそれなりに早いうちに勉強させるらしい。
そんなこと、ローゼンブルグでは十代で得る知識じゃない。イーグルトンの青少年はなんて早熟なんだ。
お国柄の違いというのを実感した二人は一瞬沈黙した。
「……当然、今日はまだ始まったばかりだ。前戯だ、前戯」
「ぜんぎ……」
「あれだ。コース料理でいうところの」
「いうところの?」
「前菜」
「うそぉっ!」
閨のこととは、お互いを高め合って快感を得て、最終的に子供を得る行為。と、聞いている。それだけである。具体的なことは女子には教えてくれないのがローゼンブルグであった。
うちの教育係は何でそんな重要事項を「殿方におまかせ」と丸投げなんだとロミは頭を抱えた。
「……ジュリアン。私は無知すぎたみたいだ。今日は君の相手に相応しくないかもしれない」
「今更逃がさないけど?」
「ひ」
「ロミ、メインディッシュを食わせろ」
食わせろ、というのは言葉通りの意味ではなくて、ロミを性的に抱くという比喩表現だというのは何となく分かった。
「ど、どうやって」
「知らないならこれを機に俺が全部教えてやるから覚えろ。……これを」
ジュリアンは片手でロミの片足を抱え上げた。足を開いたことで空気に触れて、そこにひんやりと濡れた感覚を覚えたロミ。
先にジュリアンの指で絶頂を迎えて潤っていたロミのそこは、さらに彼の痴態を見たせいで零れ落ちるくらいに愛液を垂れ流していた。
彼はそこに先ほどロミが握って愛撫していた、いまだ雄々しく立ち上がっている雄茎の先をぴたりとあわせてきた。
「……さっきお前が握ってたこれを、お前がさっき指入れられてよがってたここに、挿れる」
まるで聞き分けのない子供をあやすように、ゆっくりとした口調でそう説明するジュリアン。
――コレを。ココに挿れる。え? 結構な太さと長さのコレを? 私のそんなところに。挿れる? 何を言ってるんだろう。そんなことしたら。
ロミは引きつりながらへらへら笑って首を横に振る。
「む、無理、無理。入らないよそんな大きい物は」
「褒めてくれるのか。大丈夫だ」
「だ、だいじょばないだいじょばない!」
慌てすぎて変な言葉になっているロミ。
そんなロミとは逆に落ち着いた様子で亀頭からの先走りを混ぜ合わせるみたいにぐりぐりと動かすジュリアン。くちゅくちゅと淫らな音が響いてきた。
「や、あ、む、無理だよ。裂けちゃう」
「裂けない」
あれが自分の身体に本当に入るのかと思うと先ほどまでの淫靡で悩ましいような感覚は消え去り、恐怖で顔がサーッと青ざめるのがわかる。両手で口元を押さえながらも、今しも結合しようとしている部分から、ロミは目が離せない。
心臓がバクバクと大音量を立てて波打っていて、まるで部屋中に響いているような幻聴が聞こえる。
「挿れるぞ」
ジュリアンの声とともにぴたりと定められた場所に、亀頭がグプリと沈んでいく。指などよりもっと質量のある物体がそこに侵入してきた。その際ロミの痛覚が身に覚えのない強烈な痛みを彼女に伝えた。
「痛っ……! い、痛いよ、ねえジュリアン、お、ねがい、やめて、痛いよ、痛いっ! おねがい抜いてぇ……! ジュリアン……!」
「……悪い」
入口を強引にこじ開けられて引き攣れる痛み、その圧迫感、膣壁をぐりぐりと擦り上げていく刺激、それと同時にめりめりと生体的な何かを裂いていくようなグロテスクな激痛がしてくる。
それから間もなく身体の奥に衝撃があり、ひと際大きな痛みが一瞬ガツンと脳内に響いてきた。
「いっ……あ、ああああああああっ!」
今まで訓練でもそんなところに痛みを感じたことなんてない。月経痛とも違うもっと物理的に傷つけられたような痛み。このまま串刺しにされて全身を貫いて左右に引き裂くのではと思わせる。
どうせなら失神してしまえたらいいのに、痛みが逆に覚醒を促して意識をはっきりさせてきた。
灼熱の痛みが襲い、寒くもないのにがちがちと歯が震えて鳴る。
「うっ……ぐすっ、は、あ、ああ……っ」
ロミは放心して虚ろになったその緑の双眸から生理的な涙をぼろぼろとこぼした。意図せず流れた涙を頬に感じて、だんだん惨めになって子供みたいに泣き出してしまい、どうにも止められなかった。
これを武器かと聞いてある意味そうかも、と言ったジュリアンの言葉の意味が良く分かった。
痛い。怖い。このまま身体を裂かれて死んでしまうんじゃないか。
子供のようにしゃくりあげてすすり泣くロミに、ジュリアンは覆いかぶさってギュッと彼女を抱きしめて来た。
「……痛いよな。ごめんな」
「うっ、ひっく、ひどいよ、ジュリアン」
「ん、悪かった。しばらくこうしていよう」
――抜いてはくれないんだ。
だが確かに、身じろぎひとつでまたあの激痛が襲ってきそうで怖くてたまらない。
ロミは縋りつくようにジュリアンに腕を絡めた。
「ジュリアン、どうしよう。怖い、怖いんだ」
「ああ、大丈夫だ。少しキスしていよう。力を抜いて、身を委ねてくれ」
「うん……」
ロミが慣れるまで繋がったまましばらく抱き合いながら触れるだけのキスをして落ち着かせようとしてくれていた。涙で濡れた瞼、頬、そして唇にふわふわとしたキスが下りて来る。
ジュリアンの裸の身体に抱きしめられながら優しくキスをされると、先ほどまでの未知なる行為に対する恐怖と痛みがだんだんと和らいできた。
「ふ、んぅ……」
「気持ちいい? ロミ」
「うん、うん……ああ、ジュリアン、これ、もっと」
「ああ、たくさんしような」
やがてそれが再び深く舌で交わるようになってくると、ロミが自分でも気付かないうちにジュリアンをキュッと締め付けていたようで、ジュリアンのほうが先に我慢の限界を迎えてぐいっと上半身起き上がる。
「クソッ……きっつ……。ロミ……そろそろ動くぞ」
「え、待って、待って、怖いよ」
今この状態で動いたらまたあの激痛が襲ってきそうで、とてつもなく怖い。騎士として身体の痛みには慣れたつもりだったけど、そういう痛みとは別次元の痛みだったので、まだ若いロミには恐ろしくてたまらなかった。
「い、痛くしないで……お願いだから」
また滲んできた涙目で切なげに訴えると、ジュリアンは一瞬ビシッと固まった。そのうち眉根を寄せているのに頬を染めた笑顔になって、まるで快感に打ち震えたような顔をした。
「ああ……ゆっくり、するから……優しくする。んっ……」
「あ、あ、あああっ……!」
ジュリアンはロミの腰を持ってゆるゆると腰を前後に動かし始めた。
「んっ……くぅっ」
先程よりはましだがまだビリビリする。唇を噛みしめて耐えるロミの表情を見て、ジュリアンは一旦動きを止めた。
「ロミ、唇が切れてしまう。噛みしめたらダメだ。キスしながらしよう」
「ん、うん……あ、んっ」
「鼻で呼吸して、そう、そう……ん、いい子だ」
ちゅ、ちゅ、と優しくキスを繰り返し、そのうちお互いに求めあって舌を絡める。しばらくそうしているうちに、ジュリアンが再びゆっくりと腰を動かしてきた。
痛みを覚悟して目をギュッと瞑ったロミだったが、ロミの懇願をジュリアンが聞いてくれたおかげなのか、ひりつく痛みも止んできて苦しくはなくなってきていた。
その間もずっとロミの手を握りながら「大丈夫、大丈夫」と繰り返すジュリアンの優し気な声にだんだんと心も委ね始めた自分がいた。
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